サイレンススズカに憑依した話   作:ネマ

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お知らせと謝罪

えー。4話まで消し、そして新しい4話を書いたことを不思議に思われるかもしれません。ですが作者自身。これここから面白いか…?私が書きたかったスズカはこんなんだったか…?というスランプに直面しまして一度はウマ娘から逃げて他の書き始めたり、色んな創作を読んだり、シングレ読んだり、お迎えしたキャラ育成してたりと、ようやく自分の書きたいスズカが書けそうになったので新規一転。0からではなく1からですがここからまた紡いでいけたらなと思っています。

それでも良い方は是非楽しんでいただけると幸いです。




サイレンススズカに憑依した話④

 

 

「さあ。まずは計測からだな」

 

先程唯一のチームメンバー。ゴールドシップとの初会合を終わらせた直後、真新しい体操服を慣れなさそうにスズカはそれでもとグラウンドに出てきた。

きっと、見られて走ることは慣れているとは思うが他のチーム、ひいてはおハナさん以外のトレーナーに見られるのは今の時点ではマズイ。それぐらいの“ハンデ”はくれてやっても良いが、こういうのは……隠していた方が良いだろう。そっちの方が面白い。

 

「……あの……沖野さん……」

 

「ん?どうした?スズカ」

 

「半袖半ズボン……タイツ履いているとはいえ……」

 

流石に軽装過ぎませんか………??!

そういえば…と沖野は思い出す。普段、街中で会う走り屋スズカの服装は黒で統一された男モノの姿見しかしらない。その走る速さとウマミミが無ければ、男と間違われてもおかしくない。ともいえそうだった。

 

そう考えれば、今のスズカにとってトレセンの体操服はどちらかといえば“考えもしない服装”ともいえるのだろうと納得した。それはそれとてG1以外はこの体操服で出バする事になるから急いで慣れてもらわなくては困るが。

 

「これが普通だ諦めてくれ。スズカ」

 

「………………ウソでしょ……」

 

そういえば、と沖野はいつかスズカの服装の理由を聞いた覚えがあった。

黒色を着ているのは、夜の闇に紛れる為。補導されかねない時間に走る彼女たちにとって、見つかりにくい服装というのは基本中の基本であると教えられた。

男物の服を着る理由は“走るのに適している服”だからである。ウマ娘用のランニングウェアは少々値段が張るモノが多い。芝、ダート、コンクリ、果てには山道、獣道まで走るスズカにとって余計な邪魔になる切り傷や擦り傷など付けたく無い。

だからこそと辿り着いたのが男物の服だったと言う事だ。ちなみにスズカのその格好はよく似合っている。

 

「……まあだがスズカ。」

 

だけどこれはあくまでスズカの“フィールド”の話。

ここはトレセン学園のトラックだ。スズカが想定しているような凹凸や速度に比例するかのような鋭さの葉っぱは無い。整備されている…スズカ風に言うならば“お上品なステージ”だ。

 

「分かるだろう?」

 

「……まあ分かりますけど…」

 

分かると、納得するのは違う。と。

まあそりゃそうだと沖野も苦笑する。今までと全く違う仕様なのだ。慣れるまで十分に走らせる必要がある。

 

「………じゃまあ。ゲートに入ってみてくれ。」

 

ここは、本格的にレースに使われるようなターフ。

芝。1600m。右回りを意識して作られたここは基本的にウマ娘にとって一番馴染みが深いトラック。…そこをスズカは今回を走る。

 

「…………はい。」

 

瞬間。スズカの意識が切り替わる。

今までの羞恥やらの感情は全て“不要な”モノだと言わんばかりに削ぎ落とされ、凪ぐ様な雰囲気と共にスズカの内側から熱が。エンジンが掛かり始める。

 

(…………おいおい。)

 

沖野も多くは語らない。だが今のスズカの状態には見覚えがある。

“入り込んでいる状態”。一度そこに至ったのなら今のスズカには全ての動作がシャットアウトされている。全ては、ゲートが開くその時まで。

 

「………よーい。」

 

どん。その沖野の声と同時にゲートが開く。

その刹那にスズカは飛び出す。…今回は逃げの一人旅。それがどうスズカに影響するのか。沖野は静かにスズカの走法と、ラップを正確に刻む手と音だけが周囲に満ちる。

 

 

(……………………………)

 

時間は少し戻り、スズカがゲート入りした直後。

スズカは無心でその時を待つ。その心に魂に。無用な揺れは存在しない。

色即是空。それ即ち解脱の様に。今のスズカは“無色”そのもの。

死を一度は“識っている”スズカにとってこれは昔から出来る当たり前の様なモノだ。

息を吸う。走る。その全ての動作にスズカの“無色”は入っているのだから。

 

(……………二。………一………)

 

全ての揺らぎは消え、今のスズカにとっての最高潮に至る。

ぼんやりと眺めていたゲート先の景色が、スズカの動きを先に想像し半透明の自分が映し出される。全く問題なし。ただ前に進むだけ。

スズカの身体。二つの魂。二つの精神。二つの意思。その全てが一ミクロンのズレも無く重なり合った時─────スズカはゲートを飛び出していた。

 

(……………………ぁ……あぁぁ!!)

 

風を身に受ける。荒れ狂う暴風を身に受ける。

何時かのヘルメット越しの冷風も、山のあの澄んだ空気を掻き分けて進む風も、海沿いの塩混じりの風も、夜の霧雨を裂いて走るあの水気抜群の風も。

このターフを掛けた時に走る暴風ほど私を“サイレンススズカ”を刺激するモノは、ない。

やはり私はどれほど取り繕うても“獣”だ。速度に狂い、速さに狂い。自分の命でさえ簡単に天秤に掛けられる獣。それでも良いじゃないか。……私が私である限りこれは私の“光”なのだから。

 

(こーなー…………)

 

実はスズカはそこまでコーナーが得意なわけじゃない。

峠を攻めたり、タイムアタックのためにコーナーギリギリを攻める事はあるが。あくまで“ギリギリ”だ。記憶の中にある自分はもっと、もっと迫っていた。もっと“美しかった”。

 

(……………見える)

 

コマ写りのように“今の”スズカの出来るコーナー運びが脳裏に映し出される。

そしてそれをスズカは逆らわない。何故ならそれが一番速いことをスズカ自身が知っているからこそ。

 

 

スズカのコーナーリンクは実は沖野は見たことない。今までに見てきたモノは、ウマ娘としての身体能力を活かしたターンやハイジャンプ……スズカが言うには見よう見まねの無様なパルクールと言っていたが注目すべきはその脚のバネ。そしてけして速度に振り回されない重心。その全てが生かされるのなら。

 

 

「……………おいおいおいおい…っっ!!」

 

確かにスズカの今の速さなら十分G1は取れる。その速さだ。

だけど正直スズカはそこまで行くだろうとは思っていた。目測でさえ、速いのだからそこの通過点は超えていくだろうと。後はコーナーだとかレースの運び方。それらを入れ込んでし合えば後はスズカの思う“一番気持ちが良いレース”が出来るだろうと思っていた。……今この瞬間までは。

 

「ヤベェな。あれ。」

 

「ああ。ヤベェってレベルじゃねぇ。」

 

沖野とゴルシの脳内に浮かぶ単語は一つ“無茶”だ。

確かに理論上。“最もコーナーに近い所で曲がれば”一番早くコーナーを越えられる。

だけどそれはあまりにリスキー。少しでも理性があるならばわかるはずだ。

何十km/hで走る生身がヨレる危険性を。一歩間違えれば首だ。それぐらいスズカも分かっていない訳がない。筈である。

 

「…………どうすっかなぁ……」

 

確かに、アレは整ったターフでないと出来ない。流石にスズカも自重するだろう。

ほぼほぼ死にに行っている様なモノだ。自殺行為と何ら違いはない。

だと言うのに、それでもアレを行ったスズカは────

 

(分ってたけどよぉ……とんだ癖ウマだぜ)

 

認めたくないが、断じて認めたくないが“最も”速くコーナーを抜ける方法を挙げるならアレだ。そしてそれを行う技能も、度胸も、イカれ具合もスズカは揃っている。

確かにあの走りに惚れたのは沖野自身の何者でもないが、こればっかりは初耳だ。

まあそれもまた一興だ。ここからどうするかそれを考えるだけで顔がにやける。

ゴルシも実は無茶振りが出来そうな仲間ができてにやける。…君一体何処からいたの?

 

「さあ。まずは〜からだぜ?」

 

……………………さもありなん。

 

そしてスズカは想定よりも速く、1600mを駆け抜けたのだった。

 

 

 

 

皇帝はかく語りき

 

 

「ふむ。……やはり末恐ろしいな。」

 

皇帝シンボリルドルフは一人、生徒会室の会長席でとても荒い動画を真剣に眺めていた。片手に紅茶を嗜みながら。……ちなみにこうやってとても威厳のある格好で紅茶を嗜むと良いと雨の中の放浪者と、激マブに唆された。

 

それはそれとして、ルドルフが滅多にしない様な鋭い眼差しで何度も何度も再生するは…とある一つの動画。“あまり人には言えないツテ”を使って入手した“サイレンススズカの計測”記録。

 

「速さはすでにG1並みか」

 

末恐ろしいなと思う反面。まだまだだなとルドルフの中の獣が失望のため息をこぼす。正直なところを話すのならば、“もう少し出来るだろう”、とも。

これは間違いなき事実だ。なんせあのシービーが雨天だったとは言え、スズカに先を行かれてしまった。まあその時はまだ冠も今ほど被っていなかったとは言うが、それも些細な問題だ……だからこそスズカには期待している。悪いが誰よりも。

 

「…………………………」

 

ちょうど良いぬるさになった紅茶を口に含みながら、ルドルフは考える。

明らかにスズカは“領域”を開ける。“世界”はまだだろうけど、そこが見えているのなら領域は開ける筈。だと言うのに今回領域を使った試しさえ無かった。

それはどう言うことか。…手加減?……違う。ああいう輩がそう器用な事など出来ようとするはずが無い。

 

「………条件…か?」

 

“領域”というモノは、ウマ娘の誰もが持ちうるウマソウルに刻まれた“渇望”の具現。

というのが今の定説だ。事実、それは間違ってはいないとルドルフは断言する。

基本的に、G1まで勝ち上がってくるウマ娘はこの“領域”と言うものを必ず一種類は持っていると言われている。……事実、G1のその上では常に領域のぶつかり合いだ。一度レースを走れば超常現象が普通に発生する。急募:常識とはよく言ったものだ。

勿論その領域には常識はずれの効果を齎すと同時に、領域を使うまでの条件がある物が多い。……これは一般論だが、基本的に条件が緩いモノは領域の効果はそこそこになるし、逆に条件が厳しい物だとそのレースの勝敗を大きく分けるモノだって存在する。

 

勿論、領域の中ではレースでしか使えない領域だって多数存在する。というよりそっちが大多数だ。領域の大原則故に、そうなのだろうか。

……いや。断じて違うとルドルフの経験則と勘が訴える。

“世界”まで見えているはずのウマ娘がそんな大多数の原理に縛られると言うのか?

 

「まて……服、か?」

 

G1。その特徴の一つとしてウマ娘の憧れ。“勝負服”の着用が義務付けられている。

勝負服が領域を開くのを手伝っているとは考えにくいが、領域を開く要として勝負服を拠り所にしているウマ娘も多い。

 

そう考えれば、合致する様な気もしなくはない。

シービーが言うにはスズカの姿はいつも黒ずくめの服装。そして慣れていなさそうな体操服の着心地。そう考えれば分かる様なモノだ。

 

「………ああ。惜しい。本当に惜しい。」

 

そしてそれ以上によくもやってくれたなと憤る。

もし、スズカを最初からある程度察するトレーナーが居たのならもっと早くに体操服に慣れ、速さのさらに最果てを見せてくれただろうに。

 

「先輩として……くっ!!」

 

ルドルフの脳内では今頃、ルドルフ・マルゼンスキー・シービーのジェットストリームアタックでサイレンススズカを育てていた筈なのに。

勿論そんなことが起きれば、ルドルフの脳内で描いている様なキャッキャウフフではない。…普通に“ガチ”レースになっていた事は想像に難しくない。

とんだドリームマッチだ。普通に考えれば、真っ青になりながら首を全力で横に振るが、残念ながらここのスズカは少々、頭のネジが飛んでいる。……実は意外とキャッキャウフフになる、かも、しれない?まあ側から見ればとんだ地獄の形相だが。そんな事には気がつかない。だってルナちゃんだもん。

 

「…………まあそれはそれとして」

 

私たちがラスボスとして張るのも良いかもしれないことに気が付いた。

スズカが同じ領域に立って、“世界”も完全に開ける様になった時。きっとそれはそれは心が躍り、一生…いや来世さえも忘れられない様な決戦になるだろう。

思うがままにぶつかり合い、思うがままに競い合う。

………ああ。なんて素晴らしい未来だろうか。微睡みに入ろうとしていた私の“獣”が途端に疼き出したじゃないか。

 

「少々……走るか。」

 

この疼きを放置するのはウマ娘としてあり得ないだろう。

例え一人のルーティンの確認だとしても、そこにスズカを映し出せば多少は慰めにもなる。

 

今は例え蕾のままだとしてもこのままレース経験を積み、多くの技能を身につけそして冠を抱くウマ娘として相応しい様になったのなら……きっと私たちに手が届く。私たちを超えるかもしれない。

 

 

「ルドルフは期待しときたい……なんてな?」

 

今めっちゃ良いギャグができた気がする……!

これは真っ先にエアグルーヴに聞いてほしい。

 

 

エや下

エや下

 

 






前回のゴルシの続き。計測編。そしてその次はトレーナー達の会話でしょうかね。
そしてルドルフ…と更新しなかった間のシービー実装で急遽入れ込み。
雨の中の散歩だったりとここのスズカさんとはマブタチやってそうってことで(憑依)スズシビ……キテる……?!(尚、スペちゃんの脳破壊度)

ちなみにルドルフの描いてた師弟ルートだとスズカさんがヤベー事になる。
ルドルフと全力全開の競い合いデートをして、マルゼンと車デートしたり、シービーと雨の中デートしたりする。
まあ全部夢物語なんですけどね。


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