魔人さんと無欲少女   作:ほやしろ

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#8-2 メムメムちゃんVS無欲少女

「大変、早く見てもらわないと……」

 

 学校からまっすぐ五木荘へ帰って来た(さき)が自室へ入るなりそうつぶやいた。

 

 今日の気温は朝から氷点下に達しており、夕方になってからさらに冷え込んだ。しかし咲の部屋は真夏かというぐらいに熱気を帯びている。窓ガラスは結露でびしょびしょだ。

 昨日から空調の調子が悪いので咲は大家に頼み、今日は業者にみてもらう予定だったのだ。

 

 額にじわりと汗がにじむのを感じ、咲はコートとブレザーを脱ぎガラスを拭きに向かった。換気しようと窓に手をかけたところで、部屋のドアをひかえめにノックする音があった。

 

 ——業者の人、もう来たのかな……。

 

 予定の時間より大分早いと咲は不思議に思った。だがむしろありがたいので、今行きますと声をかけながらドアを開けた。が、そこにいたのは業者ではなかった。

 

「メムメムちゃん、」

 

 咲が驚いて声を上げると、メムメムは「ちゃっす」と小さく挨拶してぺこりと頭を下げた。だがその後が続かず、メムメムはもじもじと指を動かし小さい羽を動かし宙に浮かびつづけている。ひょう太も魔人もおらず、一人で来たようだ。

 

「どうしたの? 部屋に入る?」

 

 メムメムはぶんぶんと首をふり、羽織っていたポンチョの下から何かを取り出しておずおずと口を開いた。

 

「あ、あの……これ……昨日のそのあの……」

 

 メムメムの手のひらには一口大に個包装されたお菓子がいくつかのっている。咲が目を丸くするとメムメムはずいっと両手を突き出した。

 

「ん、」

「あ……」

「ん!」

「でも……あっ」

 

 勢いでメムメムの手のひらからお菓子がこぼれそうになり咲は寸前ですべてキャッチした。

 メムメムはすぐさま背中のささやかな羽をばたつかせて廊下を少し進んだが、ふいにチラと後ろを振り返った。やや上から咲を見下ろすと気まずそうに言った。

 

「おまえも一応マスターなので……あたしは別に全然気にしてないですけど……借りは返したってことで……」

「ありがとう。またお菓子作るから、いつでも遊びに来てね」

「なにを作るんですか?」

「次はシュークリームかな」

 

 昨日ひょう太から聞いた話を思い出し、咲がにっこり微笑みかけると、メムメムも安心したのか同じように笑顔を見せた。

 

 そうして「ありゃますっよろしゃっす!」と、独特の略し方で挨拶したあとふよふよと機嫌良さそうに飛んでいくメムメムを、咲は手を振って見送った。

 

 

 自室へ戻ると熱気はいくらかドアから逃げていた。業者が来る時間までまだ余裕がある。

 咲は何か口に入れておこうとテーブルにビスケットなどを用意し、メムメムからもらったお菓子の包みをさっそくあけた。つやつやと緑色に輝くグミ。咲はためらいなく口に入れた。

 

「! おいしい……!」

 

 食感は普通のグミとなんら変わらず程よい弾力があるが、熟れた果実のようにみずみずしくとても甘い。だが何の果物かと聞かれると思い当たるものがない。包装紙には蔓のような模様が描かれているだけだ。咲はふと口にした。

 

「魔界のお菓子だったりして……まさかね」

 

 そのまさかだった。咲が一瞬目を離した隙に、持っていた包装紙から描かれた模様と同じ蔓がにゅるにゅると生えてきていた。

 

「⁉︎」

 

 咲はぎょっとして包装紙を手放そうとしたが、手は何かに取り憑かれたように言うことを聞かない。蔓はどんどんと手を生やし細く長く伸びていく。

 

「……っひ、」

 

 蔓がひたりと手に触れる。生き物のようにうごめくそれに咲は怯えたがしかしやはり手は動かない。恐怖でよろめきベッドに倒れ込んだ咲に構わず、蔓はするすると咲の手に絡んでいく。あっという間に咲の両腕は後ろ手に縛られていた。

 

 ——動けない……!

 

 蔓はうねうねと咲の制服にまとわりついた。ワイシャツの上を這って胸を縛り、スカートをまくし上げあらわになった太ももにも容赦なく巻き付いていく。

 ぎちぎちに身体を固定され、身動きどころか呼吸もままならない。咲はグミを食べたことはもちろん、部屋の窓を最初に開けなかったことを心底後悔した。

 

「うっ……んん……」

 

 咲は息苦しさにうめいた。胸と両脚の間には特に蔓が密集していて言いようのない気持ち悪さがある。咲はなんとか解けないか身体をくねらせたが、蔓はさらに奥へと食い込んでしまった。

 

 壊れた空調は閉め切った部屋を温め続け、咲の身体が汗ばむ。白いワイシャツが汗ではりつく。中に着ていたインナーがシャツから透けるほどだった。

 

 どれくらい時間が経ったのだろうか。咲は朦朧とした意識の中、身体をしめつける蔓と部屋にこもる熱にひたすら耐えていた。その時。

 コンコン。ふすまの中からノックの音が聞こえた。

 

 ——魔人さん……!

 

 咲はすがる思いでふすまに目をやった。大分汗をかいたらしく、喉は張りつきなそうなほどカラカラだ。咲は声を振り絞ろうとしたがすぐにためらった。

 

 ——魔猫に変身した時より(格好が)ひどい……。

 

 他の誰かであってももちろんだが、魔人には特に見られたくないという漠然とした思いが咲の中にあった。同時にこのままでは良くないだろうということも薄々勘付いている。

 しかし……。咲が迷っているあいだにも、蔓はじわじわと咲の身体をしめあげていた。

 

 

「……留守か?」

 

 一方、閉め切った押し入れの中でそう呟いた者があった。もちろん魔人である。片手には昨日咲と一緒に調理したプリンのカップを抱えている。

 

 今日も大家の手伝いをしていた魔人は、咲が部屋にいることを彼女から聞いていたため、違和感を顔に表した。もう一度ノックしようとして、すぐさまスパンとふすまを開けた。

 魔力を感じ取ったからである。

 

「咲⁉︎」

 

 魔人は手元からカップが滑り落ちたのも構わずベッドに駆け寄った。

 薄い服に無数の蔓がいやらしく絡んだ、明らかに性を強調したみだらな姿。普段なら"品がない"と嫌悪感に近付きもしないはずだったが、魔人はぐったりと横たわる咲を抱き起こした。

 

「何があったんです」

 

 咲は涙に濡れたうつろな瞳を魔人に向けようとした。だが焦点が合わず、紅潮した顔が申し訳なさそうにゆがんでいく。咲は吐息で湿り赤くなった唇を震わせ、小さく鳴いた。

 

「……メム、ちゃんに……グミを…………それで……」

「グミ? しかしこの蔓もしや——すぐにマスターを連れてきます」

「まじ、さ……の?」

「!」咲の言葉に魔人は目を見開いた。

 

『魔人さんじゃ、ダメなの?』

 

 咲が願いを叶えたがっている。蔓につぼみが芽吹く。

 あるはずのない、魔人の胸がさわいだ。

 

 魔人にとって仕事をすませる絶好の機会のはずであり、実際彼の魔術や腕力でもって咲から蔓を引き剥がすことなどたやすい。

 

 ちなみに咲が口にしたのはもちろん普通のグミではない。生き物の水分を糧に生きる、菓子を真似た実が特徴のれっきとした魔界の植物だ。悪魔が改良を加え、人間に渡すことで発動する魔道具の一種である。自縛(じばく)キャンディの派生版ともいえる。

 

 全てのつぼみが花開けば悪魔(メムメム)に完全服従した証だ。

 メムメムが咲の魂を要求し魔力に換算されれば、魔人のランプもすぐに修復可能だろう。

 主人の消えた魔人は願いを叶える必要がない。

 

 ——しかし……。

 魔人はあらためて咲を見下ろした。

 そこには主人の願いを叶えることも主人の魂を悪魔に売ることのどちらも拒もうとする彼がいた。

 

 返事をじっと待つ咲は、今にも天に昇りそうなのを必死にこらえている様子だった。

 やむを得ん、と小さく呟き魔人はうなずいた。

 

「承知しました」

「……やっぱり、大丈夫」咲がぽつりと言った。

「魔力が、足りないんだね」

「いや、そういうわけでは——」

 

 言葉を濁した魔人を見て、咲は弱々しくも首を振り魔人の動きを制した。

 

「ダメだよ。私は……大丈夫だから」

 

 咲はぐっと顔に力を入れて笑った。力なく引きつった笑顔だった。

 弱っていく咲とは正反対に、生き生きとその根を伸ばしていく蔓。血のように色付いたつぼみがほころび始めている。

 

 魔人は何と返そうかどうするべきか瞳に迷いを表しながら咲の額に手をかざした。魔人のはめた白い手袋の内側にあわく光が宿ると、蔓の動きは鈍くなりつぼみの成長が止まった。

 

「ひとまず進行を遅らせました。やはりマスターを呼びますので少々お待ちを」

「ありがとう……そのあと魔人さんに()()()していいかな」

「今回の件はマスターに非があります。願いを叶えるまでもありません」

「お願いします」

 

 咲の意志は強いようだったが、魔人も食い下がった。

 

「急かすつもりはないと昨日も言ったはずです」

「うん。ありがとう」咲は口角を無理やりに上げた。

「私ね……ここに来るまでは、家ではほとんど一人で……ごはんもずっと一人で食べてたんだ——」

 

 魔人はいよいよ蔓に意識をのっとられたのかと訝しんだが、咲は遠い目で振り絞るようにして言葉を続けた。

 

「五木荘の人たちはみんな優しい……でも、メムメムちゃんと魔人さんに出会うまで、あまり話したことなかったの」

「みんなと色々話すようになって、魔人さんと一緒にお菓子を作ったり、お茶を飲んだりするの……楽しいんだ」

「……願いを叶えてくれたあとも、また遊びに来てくれたら、うれしいな」

 

 魔人はじわりと温かさを覚えた。

 咲の体温や部屋の熱のせいではない。

 衝動的に出かかった言葉を飲み込んで魔人は人差し指を立てた。彼の指の動きに合わせ、窓が大きく開いた。冬の冷えた空気が一気に部屋に流れ込む。

 

「……それは別に、私が願いを叶えずともできることです」

「それじゃあ私はマスターのままでしょう……? だからこれは、お願いじゃなくて、お誘いです。お友達として」

 

 咲の言葉はそこで途切れた。汗で頬に張り付いた髪が風に揺られ出した。咲は微笑んだまま、しかし辛そうだった表情から愁眉(しゅうび)を開きかけている。

 

 私も……と魔人はささやきかけて、

「咲が、そう言うのでしたら」と言い直した。が、咲はやわらかな表情を浮かべたままだ。

 

「気を失ったか——」魔人はどこか安堵しながらベッドに咲を横たえると、迫るような低い声を発した。

「で、マスターはそこで何を?」

 

 ヒッとか細い悲鳴が上がった。いつからそこにいたのか、部屋の端にうずくまるメムメムの姿があった。黒く小さなポンチョに身体のほとんどを隠し、頭にちょこんと生やした両の角が何かを発動させる前触れのようにビカビカと発光している(しかし なにもおこらない)。

 メムメムは涙目で魔人と咲をチラ見し素早くポンチョに隠れた。くぐもった悲痛な声が漏れ出る。

 

「じっ地獄絵図じゃないかー‼︎」

「誰のせいだと思ってるんですか」

 

 魔人は物を掴むようにポンチョごと片手で持ち上げると、メムメムがポンチョに身を隠したまま小ビンをこわごわ取り出した。

 

「あ、あのこれ……今週の分です……」

「それは——」

 

 魔人は礼を言ってビンを受け取った。一見空のようだが傾ければ極々少量の液体が入っているのが分かる。週に一度魔人に供給される、メムメムのなけなしの魔力であった。

 

「マスターはいつから、というかなぜここに?」魔力を吸収しながら魔人がたずねた。

「なんか魔人が来たときから……」

「……ほぼずっとですね」

「こいつがお菓子いつでも食べていいって言ってたし……」

 

 メムメムの言葉を聞き流しながら、魔人は咲の身体に手を伸ばした。白いワイシャツの胸元が黒薔薇のような花で飾られている。魔人は花冠(かかん)を摘み手のひらにのせると、たちまち風がさらっていった。花びらは踊るうち小さくなり、窓の外へたどり着くことなく粉々になって消えた。

 

「マスターはよろしいのですか?」

「え?」

「魂をとるなら今のうちですよ」

 

 メムメムはハッとしてポンチョの中から魔人と咲(がいる方向)を見比べた。やがて身体をもぞもぞ動かしながらごにょごにょ言い出した。

 

「えと……こいつから()()必要は特にないというか……あたしは別にとってもいいんですけど……」

「なんです?」

「その、えーと……つ、次はシュークリームつくるって言ってたから、だから……!」

「シュークリーム——」

 

 魔人は思わず繰り返した。記憶を思い返すように遠くを見つめたあと、長い睫毛をふせた。

 

「マスターならそう言うと思っていました」

「なんで聞いたの……?」

「ところでマスターに少々頼みごとが」

「え、無視……?」

 

 

 

 悪夢から解き放たれたような、身体が軽くなった感覚を覚え、咲はパチリと目を覚ました。急いでベッドから上体を起こすと、全身がわずかにピリピリと痺れた。咲はうっ、と小さくうめいた。

 

「回復したばかりですし、あまり動かない方がいいですよ」

「! 魔人さん……」

 

 魔人は一人机に向かい、ティーカップを手にしていた。優雅にソーサーへ置くと、別のカップに紅茶をそそいでいく。立ちのぼる湯気と共に、茶葉の香りがかすかに咲の鼻まで届いた。

 

 ふいに背すじに悪寒が走り、咲は身震いした。制服が湿っている。ワイシャツはしわだらけで、縛られていた跡がくっきりと残っている。

 ——夢じゃなかったんだ……。

 肩を落としたあと、咲はハッと顔を上げた。

 

「業者さん!」

「業者? ああ、その人間でしたら先ほど帰ったところです」

「えっ!」

 

 魔人はその業者が大家と共にやって来て、空調を修理していったことを話した。たしかに窓は閉め切られた状態だが温度は快適だ。空調は無事治ったらしい。

 ということは。咲はスマホを確認した。帰宅してから3時間は経っている。

 

「ごめんね……魔人さん、ずっといてくれたんだよね」

「咲のせいではないのでお気になさらず」

「ううん、ありがとう。それじゃあこれで、私はもうマスターじゃなくなったんだよね?」

 

 魔人はそのことなのですが、と紅茶の入ったマグカップを咲に渡しながら続けた。

 

「咲を治したのは、私ではなくマスターでしてね」

「メムメムちゃんが? 私は魔人さんにお願いしたと思うんだけど……」

 

 自身のあられもない姿を魔人にさらしたことまで思い出してしまい、咲は恥ずかしさに両手でマグを握りしめた。

 

「しかし、あれは咲の本当の願いではありませんよね?」

「それは……そうかもしれないけど……」咲がマグで暖をとっていると、魔人が出し抜けに答えた。

 

「私が叶えられる願いは当人の地頭や能力にも寄りまして。おそらく咲の場合——」魔人の紅い瞳が一層濃く咲を見据え、

「その気になれば、世界を動かすことも可能でしょうね」とこともなげに言った。

 

「せ、世界っていくら何でも大げさだよ」

「まあ、選択肢の一つとして、そういう規模の願いもありということです」

「……よけい決められなくなっちゃうよ……」

 

 口をついて出た不満に魔人をまっすぐ見れず、咲はマグで顔をおおった。だが魔人はこれっぽっちも気にしていないようだった。

 

「シュークリーム、」

「え?」

「次はシュークリームを作るそうですね」

「うん……?」

 

 咲はのぞき見する風にゆっくりと顔を上げた。どこから取り出したのか、魔人が咲のプリンカップを贈り物かのように丁寧にテーブルに置いていたところだった。

 よく見ると側にある皿が空である。帰宅した時に軽食をとろうと用意していたはずだ、と咲は思った。

 魔人がその目線に気付いたらしい。

 

「マスターが全て食べてしまいましてね。お詫びと言ってはなんですが、シュークリームを作るのを手伝います」

「ええと、気にしなくていいよ? メムメムちゃんにいつでも食べていいって言ったの私だし。それに、魔人さんも……無理しなくていいからね」

「……どういう意味ですか?」

 

 魔人は相変わらず真面目な顔だ。表情はピクリとも変わらない。部屋はとても暖かい。手元のマグも温かい。だがなぜだか寒気がする。

 ——もしかして、怒ってる…………?

 咲がどう説明しようか考えていると魔人がさらに質問を重ねた。

 

「先ほど私を誘ったのは嘘ということですか?」

「そんなこと……!」咲は素早く首をふった。

「ではその時にまたお呼びください」

 

 魔人は紅茶を飲み干すとテーブルの上を片付け始めた。おそらくそのままひょう太の部屋に帰るのだろう。

 なんだか腑に落ちず、咲は立ち上がった。身体が温まったおかげか痺れはほとんど残っていない。魔人の元へ向かい、咲は片付けを一緒にし始めた。

 

「あの……いいの?」

「何がですか?」

「……あの時言ったことは、私が願いを叶えてもらったあとの話だから……」

 

 皿を重ねたあと、咲は再び恥ずかしさを覚えた。意識が朦朧としていたせいとはいえ、昔の自分のことや今の気持ちを出会ってほんの数ヶ月の魔人に話してしまうなんて。

 魔人の返事がないのに気まずさを感じた咲は、つまりね、とあわてて言葉を付け加えた。

 

「手伝ってくれるのはうれしいんだけど、魔人さん、大家さんのお手伝いもしてるし毎日忙しいでしょう? 願い事が決まったら魔人さんにまた伝えに行くよ」

 

 咲が言い終えた途端、魔人が短いため息を吐いた。

 

「今さらですね」魔人の太い眉が片方だけ吊り上がる。

「それに、今後咲が願い事を思い付いたとして、そこまでにかなり時間がかかるのではないかと」

「……どうしてさっきの願いを叶えてくれなかったの?」

 

 魔人は一瞬だけ言い淀んだように見えた。が、両目を閉じるときっぱり言い放った。

 

「私は、咲が本当に望むことが何なのか少々興味があります」眉尻を下げ困った表情の咲が見えているかのように、魔人はすかさず続けた。

「もちろんそのための助言はいたしましょう——"友人"として」

「!」

 

 魔人は粛々とした様子で咲を見やった。

 あの時と同じだ。

『さぁマスター、望みをどうぞ』

 凛々しい顔が、高貴で深みのある紅色の瞳が、咲を真っ直ぐに見つめた。

 

「それなら構いませんね?」

「魔人さんがいいなら……」

 

 雰囲気に圧倒された咲は、紅い瞳から目をそらせないままうなずいた。

 気恥ずかしい。けれど嬉しさも同時にこみ上げる。噛みしめるように、しかし遠慮がちに、咲は魔人の口から初めて聞いた言葉を繰り返した。

 

「……友人……」

「そもそも最初に"友達"と言ったのは咲ですがね。悪魔狩りの娘に出会った時——」咲の顔が段々と赤くなる。

「魔人さんって、時々意地悪……」

「何か言いましたか?」

「な、なんでもないよ!」

 

 咲は無意識に口にしてしまったことを後悔しながら、プリンカップを手に逃げるようにキッチンへ向かった。だがその表情は外の暗さに反した晴れやかなものだった。

 

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