とあるトレーナーの願い   作:屋守 竜

3 / 22
しばらく見ないうちにたくさんの人に見てもらえているようで…本当にありがとうございます


希望の閃光

0500。今日も普段と全く同じ時間に目が覚める。同室のスマートファルコンさんはまだ涎を垂らして気持ちよさそうに寝ている、そんな時間。

朝起きてやることは決まっている。顔を洗い歯を磨き、髪を整えてジャージに着替え、少し走る。戻ったらシャワーを浴びて食事を取り、制服のアイロンがけをし、学園へと赴く。

ただ、最近は朝走るコースが少し変わった。デビュー戦が近いからだ。トレーナーから朝のランニングの強度を少しあげたらどうかと提案されたのだ。全体的に坂路を多く含んだルート。少しずつではあるが、体力だけでなく坂を登るコツもわかってきた。今のトレーナーについて1年と2ヶ月12日。今週末土曜のデビュー戦で、この日々の意味を証明する。そんな秘めたる思いを胸に、今日も坂を登る。

 

_______________________

 

6月半ば。チームデネブの面々はこれから行われるふたつの行事に浮き足立っていた。ひとつは夏合宿。夏休みの頭2週間に行われる、集中練習。灼熱の太陽の下、砂浜を駆けるその姿はまさに青春。普段無愛想で厳しいトレーナーもこの期間はうんと優しさを見せる。それを知るマヤノトップガン以外の面々は期待に胸をふくらませた。

もうひとつはエイシンフラッシュのデビュー戦。トレーナーの元で鍛え上げられたドイツからの留学生がついにそのベールを脱ぐことになったのだ。これはチーム内のみならず学園での大きな話題となった。

 

「いいなー、マヤも早くデビューしたいなー」

 

「私もかなり時間がかかりましたからね……でもマヤノトップガンさんは現時点でも1800メートルで私と2バ身差、ゴールドシチーさんとも3バ身差ですから……トレーナーさんが求める水準ならあと10ヶ月程で達成できるでしょう。」

 

「それでも長いなー。でもでも、早くデビューしたらみんなと一緒に走れるかな!」

 

「そうですね……私はマヤノトップガンさんのレース勘にはいつも驚かされています。もうこのチームの中でも駆け引きなら並ぶものはいないかもしれません。案外早くその機会が来るかもしれませんね。」

 

____________________

 

「フラッシュ、君なら自分でわかっているだろうが、君の武器はその爆発的な末脚だ。前半は後方に待機して欲しい。ペース配分も中団に残れるペースでやって欲しい。」

 

デビュー戦は全てのウマ娘に平等に一回しかない。その1回で今後の行く末が大きく変わる。それだけにこの一戦は絶対万全の状態で望まなければならない。距離、競馬場、コース、その全てをアドバンテージに変えられるように、理想と少しの違いもなくレースが運べるように。その全てを整えた。

 

控え室へと1歩目を踏み出した、その時だった。

 

「フラッシュ」

 

聞きなれた彼の声に思わず振り返る。

 

「君がどれだけ入念に準備して、考えて、気合を入れていたか承知の上で言わせてもらう……確かに計算は必要だ。レースプランは大切だ。だけどそれだけじゃ最後まで勝ち切ることは出来ない。最後に道を拓くのはその場その場の判断なんだ。平たくいえば勘、だな。自分がこうしたいってことを信じてやってきてくれ。」

 

これまで私のやり方を一切否定しなかった彼の言葉とは思えなかった。彼自身も入念に計画をねり、準備をして物事をする人間だと理解していた。それとは逆の……それこそウイニングチケットのような言葉に少し吹き出しそうになる。

 

「ふふっ、ありがとうございます。必ず勝ってきますから。」

 

___________________

 

阪神 芝 1800メートル 新バ戦。12人の希望と野望を抱いたウマ娘たちの一生に1度の舞台。次の時代のスターの誕生を見届けるべく、正面スタンドには多くの客が詰めかけた。

1番人気はチームデネブ所属のエイシンフラッシュ。同チームは新興ながらゴールドシチー、ナリタタイシンと人気のあるウマ娘を育てている。エイシンフラッシュはそのチームの秘蔵っ娘ということもあり、圧倒的な人気を得ていた。割れんばかりの歓声の中、エイシンフラッシュはゆっくりと1枠1番のゲートへと歩みを進める。それに続き他のウマ娘たちもゲートへと入った。阪神が僅かな静寂に包まれたその時

ゲートが開いた。

1人の逃げるウマ娘を筆頭に2バ身開いて先頭集団、そこから1バ身に中団、そのすぐ後方に殿がつく。殿までは約8バ身。集団内での小競り合いはあるものの、集団から大きく抜け出ることは無い展開が続く。しかし第3コーナー、彼女が仕掛けた。コーナーで中団から外側へと抜けると、徐々に進出していく。第4コーナーにさしかかる頃には5番手まで上がっていたが、行き脚は少し納まったかに見えた。まもなく最後の直線。ここからは他のウマ娘もスパートをかけてくる。誰もがエイシンフラッシュの仕掛けは早すぎたかのように感じた。しかし、11人の安堵は音も残さず閃光のように走り去った彼女の背中に打ち消された。

 

___________________

 

「上がり3ハロン33.6。とてもデビュー戦の数字とは思えないな。流石だ。」

 

「いえ、トレーナーの言葉に従っただけです。その場で判断して道を拓く。私の計画にはない動きでしたが、スタミナは十分でしたので、早めに外に抜けさせてもらいました。」

 

やっぱり、トレーナーちゃんがずっとニヤニヤしてたのって、フラッシュさんに作戦を伝えてたからなんだ。ほとんどのデビュー戦は最初から前にいた娘がそのまま前を走り続けて勝っちゃう。何とかして前に行こうと思っても、他の娘が壁みたいに立ちはだかって前に行けない。だからフラッシュさんは壁のない所まで出て、そこで勝負したんだね。でもそれって、1人で外を走るし、集団の時も少し外にいないと出来ないよね……

 

マヤノトップガンは気づいていた。この作戦が12人だてで、適正距離より短いデビュー戦だからこそのものだと。

 




誤字や感想、希望等ありましたらよろしくお願いします

UA10000を記念して、簡単なssを書きたいと思います。どの子の話がいいか選んで欲しいです。締切は10月10日までです

  • マヤノトップガン
  • ゴールドシチー
  • ナリタタイシン
  • トーセンジョーダン
  • ファインモーション
  • エイシンフラッシュ
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。