「魔王様ぁ!あぁ、なんて強烈な魔力圧!ここ最近忙しくて魔王様に会えなかったからぁ!あぁ、あぁ!今アタシは間違いなく生きてますわぁ!」
魔王城生活6日目。
今日も今日とて魔王様の講義を受けようと執務室を訪れると、魔王様に何か変なのがくっ付いていた。
褐色の肌に赤い瞳と長い金髪。背中には悪魔みたいな黒い翼が生えていて、これまた悪魔みたいな尻尾がゆらゆらくっ付いている。
そして…何とは言わないけど、でっけぇ。やっば、ミリアさんより大きいよ、アレ。
全体的に包容力のあるお姉さんって感じが溢れる見た目だ。ただ、その顔はだらしなく歪んでおり、非常に残念な印象を受ける。
そういや、こんな感じの四天王がゲームでもいた気がするな。
「魔王様。どうしたんです、それ?」
「聞くな…余が一番不思議なのだから。何なのだろうな、コヤツ」
引っ付かれている魔王様は非常に疲れた表情をしている。なんだろう、普通ならじゃれ合っている姉妹とかに見えるかもしれないんだけど…お姉さん側の表情が完全に不審者のそれになっているせいで危ない感じにしか見えない。
「んん~?あらぁ、貴方が魔王様にぃ認められた人間ねぇ…?ふ~ん、随分冴えない顔だけどぉ、こんなのが好みなのぉ魔王様ぁ?」
うっせえ。冴えない顔なのは俺が一番知っているわ。
あと、この関係は恋愛とかそういうんじゃない。そりゃ魔王様は魅力的な女の子だけど、俺なんかに恋してくれるわけないだろ。
一人の優しい女の子が男を一人助けた。男はただ、優しい女の子を助けたくなった。…それだけの話なんだ。
「えぇい、離れんか、鬱陶しい!」
「あぁん、いけずぅ」
遂に魔王様が女性を引きはがした。ただ、そんなに力を込めていないあたり、あんな変態っぽいのでも魔王様にとっては大切な1人なんだろうな。
これが、俺と「魔」の四天王ヒルダさんの出会いだった。
◆
「改めてぇ、アタシは「魔」の四天王のヒルダですぅ。以後お見知りおきをぉ」
「魔王様の客人ということになっています、ただの人間リベタスです」
この矢鱈と語尾を伸ばした話し方をする女性こそが、魔王軍にて「魔」を司る四天王。
ようするに、武技のトップがドラゴネスさんなら、この人は魔法や魔術のトップということになる。
「ふぅん?礼儀はあるのねぇ、関心関心。そういうの、お姉さん的にぃポイント高いゾ☆」
うわぁ、テンション高いなぁ。
「ヒルダは魔工学の専門家でな。魔導具を造らせたら右に出る者はいない天才だ。お主も何かあれば頼ると言い」
ふーん、じゃあ、後で時間があれば「アレ」について聞いてみようかな。
ただ、それ以前に気になるのは、あんな風に表情を崩して引っ付いていたのは何故かってことだ。さっきの表情的にロクな理由じゃないとは思うけど、一応ね。相手の事を知らないままに決めつけるのって良くないし。
「さっきのあれはどういうことだったんです?」
「ん~?アタシはぁ、生きてる実感が欲しいのよぉ。死が間近にある時ってぇ、生きてるってことを実感するでしょぉ?ならぁ魔王様のお傍にいればぁ、最高よねぇ?」
「ん…?それってどういうわけです?」
魔王様の傍にいるのが、どうしてそういうことになる?
「あらぁ…んん?どういうことぉ?いや…もしかしてそういうことぉ?えぇ、そんなことってあり得るぅ?…ねぇ、貴方ってもしかしてぇ?」
「やめよ、ヒルダ。そこから先はいずれ余が話す。…余が己の口で話したいんだ」
あぁ、もしかしなくても魔王様の事情に関わる事か。じゃあ、魔王様が話してくれるまで待ちましょうかね。
しかし、魔王様がちょっと言葉に力を込めたのがトリガーとなったのかヒルダさんはまただらしない表情をして身もだえし始めた。
「んん!僅かに魔力圧が上がったぁ!あぁ、アタシ生きてるわぁ!」
あぁ、間違いなく残念な人だ。残念美人って言葉がピッタリの人だわ。
「……はぁ」
「なんか、色々大変そうっすね、魔王様。俺にできることとかあれば手伝いますよ?」
このハイテンション残念美人に絡まれるのは疲れて当たり前だろう。
なので、ため息をつく魔王様に何か手伝えることはないか聞いてしまうのは仕方ないことかと思われた。
ただ、ちょっとよく考えれば、
「じゃあ、その…すまないが、しばらくヒルダの相手をしてやってはくれんか?ヒルダは長期の任務で遠方に行っていたので労いたい所なんだが、余はこれから急きょ別の業務があってな…」
というわけで、俺が残念美人ヒルダさんのお相手をすることになった。うわ、疲れそう…。
◆
その後、ヒルダさんには魔王様との出逢いから今に至るまで根掘り葉掘り聞かれた。
この魔族さん常時テンション高いので、はっきり言って凄く疲れた。まぁ、意外と話していると楽しかったりもするんだけどね。
やがて会話は俺の方からも質問するようになった。
「ヒルダさんって魔導具?でしたっけ、魔法や魔術の道具の専門家なんですよね」
「魔王様と魔術勝負をすればぁ惨敗しちゃうクソ雑魚だけどねぇ?」
ヒルダさんは自嘲気味に言う。とはいえ、あんまり悲壮な感じはない。事実は事実として受け止めるというのをしっかりできてる感じだ。
それでも、凡人の俺だからこそ言っておかなきゃならんことがある。例え彼女自身が納得をしていたとしても、だ。
「それでも、魔族全体で4人しかいない四天王の1人なんすよね。じゃあ、それはとても凄いことなんだって俺は思いますよ。俺は魔法とか魔術とか一切使えないですし」
たとえ彼女自身が、自分の力量を魔王様に劣ったものと認識していて、それで良いと感じているのだとしても、その凄さが否定されていいわけじゃない。
「あらぁ、貴方…そう、貴方はそういう感じなのね。ふぅん、面白いじゃない」
「何がです?」
「んーん!何でもないわぁ、こっちのは・な・し☆」
何やら意味深に頷くヒルダさんに尋ねてみたが、答えてはもらえなかった。
ただ、それはそれとして。
「そのテンション何とかなりませんかねぇ…」
「「魔」の四天王なのに魔王様に魔術で負けるとかぁ、こういう口調でもしなきゃぁ没個性でしょアタシぃ?」
「あーなるほど?頑張ってキャラ造りしてる感じです?」
「いえ?全くの素だけどぉ?」
素なんやん。さっきの話のくだりは何だったんだよ。
「じゃあ、そんな「魔」の四天王のヒルダさんに一つ聞きたいんですけど」
「あらぁ、何かしらぁ?」
さっき先送りにしたことを今こそ聞くべきだろう。
俺が少しでも強くなるために。レベリングが不可能だということはよくわかったけど、でもそれは強くなる手段を求めない理由にはならない。
少しでも魔王様の力になるために少しでも手段を模索しておくべきだ。
「魔法・魔術が使えない人間が使えるようになる裏技みたいの何か知りませんか?」
「んー?アタシは貴方の特殊さを理解できているからぁ、その上で言うんだけどぉ…魔力が無ければぁ、魔法や魔術は使えないわよぉ?」
それは知っている。
それでもやはり、希望があるとすればこれだ。
俺がどんなに体を鍛えたって「龍」であるドラゴネスさんとかに勝てるわけじゃない。
どんなにトレーニングをしたって空を飛べるようになるわけじゃない。
けど、魔法や魔術を何らかの方法で使えるならば希望はある。
「例えばですけど、「魔石」を使うとかして何とかなりませんか」
俺が注目したのは3日目に魔王様から聞いた魔石の話だ。
魔石が魔力の結晶体だというのなら、それを使えば魔法や魔術が使えるようになるかもしれないではないか。
ファンタジー小説でも、魔力結晶体的なモノを使って魔法を使うって展開は良く描かれる王道だ。
「えぇ?魔石でぇ…?うーん、魔力を持たないんじゃぁ、魔石を使っても無理だと思うけどぉ」
ヒルダさん曰く、魔法を使う上で最初に必要なのは、術者からの魔力の信号だという。それが魔力を活性化させて術の形に変換するので、最初の始まりの信号を発せないのであれば魔石を用いても術は使えないということだ。そしてその信号は魔力のもの。魔力を持たなければ信号は発せられない、ということだ。
うーん、やっぱり一筋縄ではいかないかぁ…。
あれ、待てよ…?
「……すみません、この世界の生物って全て魔力持ってるんですよね?」
「えぇ、そうねぇ。そうなってるわねぇ。アタシの目の前に例外がいることを除けばねぇ」
「それで、魔力を持ってるってことは魔力の信号も出せるんですよね?」
「そうなるわねぇ」
「じゃあですよ。こう、杖みたいのに虫とかを入れたりして、その虫に刺激を与えて
そうだ。この方法なら、俺以外の魔力信号で魔法や魔術を再現できるのではないだろうか?
「……貴方ぁ、もしかして天才ぃ?」
「いえ、ただの凡人です。似たようなモノを見たことがあっただけです」
そう、電気を回路に流す的な発想だ。小学校知識で誰でも思いつく程度のものに過ぎない。
「…可能かも、しれないわぁ」
きた!ついに希望が見えたぞ!
「その前に1つだけ聞かせて。貴方はその力を得て何をしたいのかしら?」
すると伸びた口調を辞めて真剣な声音でヒルダさんが尋ねてくる。
忘れちゃならんが魔族と人間は敵対関係だ。魔王様の傍にいる人間が力を得ようとしてるんだから、魔王様の味方としては俺の本音を確認しておきたいんだろう。
少し、考える。無論、魔王様を害そうなんて微塵も考えちゃいない。ただ、改めて自分の意志を確認する機会になると思ったからだ。
何をしたいか、か。
うん、何度考えても答えは変わらない。
「魔王様の…1人の優しい女の子の手助けがしたいと思っています」
ただ単純明快にそれだけ。そこから増えもしないし減りもしない。今後何があっても俺の原点はこれだ。
凡人の俺はよそ見をすれば失敗する可能性も増える。いくつものことを抱えられるほど器用でもない。だから、この目的だけは絶対に見失ったりしない。
「…っ!へぇ、結構見どころあるじゃない貴方。気に入ったわぁ。背伸びする男の子ってアタシ好きよぉ」
「お眼鏡にかなったようで何よりです」
「少しだけ時間をちょうだいねぇ。アタシの方で貴方の言うような魔導具を制作してみるわぁ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいのよぉ。一緒に魔王様を支るんだからぁ。お互い頑張りましょうねぇ?」
「そうですね。頑張りましょう、お互いに」
確かに魔王様の敵は多い。それでも、こうして味方になってくれる心強い存在は確かにいる。
俺も俺にできることを精一杯やっていこうと、そう思った。
【キャラ設定6】
名前:ヒルダ 真の名:????
「魔」の四天王。女性。70才くらい(人間の30代半ば相当)。
容姿:褐色に赤い瞳と長い金髪。悪魔のような黒い翼と尻尾。大きな兵器(詳細省く)。
種族:下級悪魔(非常にサキュバスに似ているが異なる)
好きな物:生きている実感。死の感覚。研究。
嫌いな物:不明(基本的に明らかな嫌悪を表に出したりしないので本音がよくわからない)。ただ、辛いものが苦手とはよく言っている。
魔王軍四天王にして魔法部門のトップ。魔力の保有量でルナウディアには遠く及ばないため、単純な戦闘力では大きく劣る。しかし、その魔法・魔術への知識と技術に関しては彼女もまた怪物級。むしろ、「上級」ではない「下級」悪魔なのにルナウディアと競えるだけであり得ないこと。全ては少ない魔力を如何に効率よく使うかを考えて研究し続けてきた成果。リベタス(主人公)の特殊な体質(魔力無し)も深い知識で察している。
また、彼女はその知識を活かした国一番の魔導具の専門家でもある。魔導具とは、魔法・魔術を補助・強化したり、その性質を大きく変えたりする道具。それは戦闘面だけでなく、日常の生活面でも非常に役立てられている。魔族の国で1年に発表される新しい魔導具論文の3割は彼女が何らかの形で関わっているらしい。地球に産まれていたら大学の教授とか研究員とかやってたに違いない。世界的な賞を受賞するのも夢ではなかったかも。
ルナウディアを敵視せずにいられるのは、彼女から発せられる魔力を原因とした「死の恐怖」を心の底から楽しんでいるから。「死」が間近にあるからこそ「生」を感じられる、とは本人の談。なぜ彼女がここまで「生の実感」に拘るかは不明。結構フレンドリーで気さくなようでいて、肝心なことは話そうとしないタイプ。誰でもある程度は仲良くなれるが、その先に行くのが非常に難しい。ミリアとはかなり仲が良いとのこと。
〈あとがき〉※読まなくて問題ありません。
宣伝です。
『絵を観る猫の話』
奇妙な夢を見たので、その内容を元にした短編小説を『小説家になろう』様に投稿しました(ハーメルンっぽくはない気がしたので…)。
現実世界でのちょっと不思議な話です。『ゲーム知識』は一切関係ありません。
誰かの背中を押すきっかけになれば幸いです。(一応調べたけど利用規約違反じゃないよね…?もし違反なら消しますので誰か教えてください)