「…というわけでさ、皆で海に遊びに行って一日中遊びまくったんだ。…思えば、あれがあのメンバーで遊ぶ最後の機会になっちゃったわけだけど」
「そのすぐ後にミリアさん…だっけ?」
「そうだね。さっき話した通りだよ。そこからふざけたシナリオが進んでいくことになったんだ」
「…そう。それでも。それでも、あえて言うわ。あなたの冒険に楽しい思い出もたくさんあったんだって知れて良かった」
「どうだろう…楽しい思い出があればあるほど辛いことも際立つって知っちゃったからな…」
「いいえ、それは違うわよ。楽しい思い出があるから私たちは前に進めるの。その思い出を抱いて生きていくの。最後になって楽しい思い出が無い方がずっとずっと悲しいことなのよ」
「そう、かな。うん、そうだね。きっとそうだ」
「だから胸を張りなさい。間違いなく、あなたはその時一緒に遊んだ人たちに素晴らしい贈り物をしたのよ」
――――――
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―――
◆◆◆
魔王城生活7日目。
しつこいようだが、俺は凡人だ。
だから当然、こういうことになる。
「そうだ、遊びに行こう」
「はい?」
今日も今日とて魔族の文化や礼儀作法などを教えてくれようとしていたミリアさんが呆けた顔をする。だが構うものか。俺はもう決めたのだ。
「ミリアさん、この辺りに遊べる場所はありませんか」
「えっと…?急にどうされたのですか?」
「海とか湖とか川とか、山でも良いし娯楽施設でも良い。丸一日目一杯遊べるような場所はありませんか」
「え、えっと…いろいろありますけど、この時期は暑いですし、海なんかが人気です、よ?」
「う・み!海ですとな!あぁ、青い空、広い海、白い砂浜に輝く太陽!最っ高じゃないですか!」
「本当にどうしたのです?いつもはあんなに熱心に学んでいるのに…」
「俺は凡人なんです!凡人は何日も連続で全く知らない新しいことを学び続けるとか無理なんです!もう頭がパンクしそうなんですよぉ!」
魔王様の傍にいるなら最低限の礼儀作法を知らないといけないというのは分かる。すごく良く分かる。だから頑張ったさ。俺は頑張ったんだ。
この5日間は勉強ばかりだったと言っていい。礼の仕方、成れない服の着方、食事作法、ダンス、魔王様を取り巻く勢力関係、基本的常識…そしてそれに加えてこの世界のことや魔法・魔術のことも必死になって学んでいた。元の世界でもこんなに頭を酷使したことはないってくらいに学んだ。なぁ、俺頑張ったよな?誰でも良いから褒めてくれよ。
だが、もう限界だ。ここらで息抜きしなくちゃやってられるか!
適度な休息が作業効率を上げるんだって偉い人が言っていた気がする!
だからこそ!
そうだ、海に行こう!
◆
と、いうわけで。
やってきました!海!!
魔王様は権力がないとはいえ、そこは何代も続いてきた魔王の血筋。プライベートビーチの1つや2つ保有しているのであり、俺たちはそこの1つに来ていた。
魔王城は海からさほど遠くなく、魔術で飛んで(俺は抱えられて)いけばそれほど時間はかからなかった。
ちなみに、疲労でテンションがおかしくなっていた俺は、もうこの際だから盛大に遊んでやろうとミリアさんに魔王様、ドラゴネスさんにヒルダさんという親しくしているメンツ全員に声をかけ、如何に休憩が大切かを力説。勢いで押し切って全員で遊びに来た。
正直、一国のトップ3人を連れ出すとか馬鹿げたことをしたと思ってる。けど全く後悔はしていない。遊ぶのなら徹底的にだ!!
…一応、他にも魔王様派閥はいるので、早急に何か問題が起きてしまうってわけでも無いようだ。加えて、仕事の方も後日にカバーできることはミリアさんから言質をとっている。
つまり、何の問題も無い!!多分!
「のう人間よ、海に来たのであればさっさと泳がぬのか?」
「何言っちゃってるんですかドラゴネスさん!?今から一番の目玉イベントでしょうが!」
そう、海と言えば水着回!
魔王様にミリアさんにヒルダさん…美女美少女揃いである。彼女たちの水着姿を楽しみにしないことなどありえるだろうか?いやありえない(反語)。
…け、決してこれを目的にして声をかけたんじゃないんだからね!ホントだよ?
現代日本でイメージするような水着ってのはそんなに歴史が長くはなかったような気がするが、そこは流石の異世界魔法文明。現代日本人がイメージするようなオシャレな水着の数々がしっかりと揃っていたのだ!発明した奴グッジョブ!
そして―――
「はぁい!ヒルダお姉さんのぉ超絶レアな水着姿よぉ。しっかりとぉ目に焼き付けておきなさぁい」
うっわヤバ。何がヤバいってアレがアレでデカくて凄い。
うん、普段の服装でも明らかだったけど、水着だともっとヤバいな。何がとは言わんが。
ヒルダさんが着ているのは布面積がかなり小さめのセクシーな黒色水着。大人の魅力ってやつが強調されている感じだ。うん、凄く美しい。
「ヒルダさん超絶似合ってますね」
「あらぁ、ありがとうねぇ。そうやって真っ直ぐ褒められるのは君の良い所よぉ」
「いや、この姿見て褒めない奴いないと思いますよ」
俺は凄いものは凄いと、綺麗なものは綺麗だと素直に賞賛するべきだと考えている。素晴らしいもんは素晴らしいんだから、それを認めなくてどうするって話よ。
「一名、ガン無視で既に泳いでるようだけどぉ?」
「あれはああいう生き物です。無視してください。ノーカンです」
待ちきれなかったのかドラゴネスさんは泳ぎに行ってしまった。3人の水着姿を見ないとか、マジでか?ロリコン兼ショタコンというだけあって理解が出来ん生き物だ。やはり人と龍は解り合えないのかもしれないな…。
「あまりこういう露出の高い服は着慣れていないのですが…」
次に登場したのはミリアさんだ。うわ、やっぱミリアさんスタイル良いなぁ…。
ヒルダさんよりも露出が少なめの全身を覆うような水着ではあるが、普段が露出皆無のメイド服であることもあってギャップがたまらない。白い色の水着が黒めの肌と対照的になって素晴らしい効果を発揮しているのもポイント高い。
「普段のメイド服も似合ってますけど、こういうのも良いですね。ここはプライベートビーチですけど、普通の海だったら渚の視線を独り占めって感じになるのが目に浮かぶようです」
「…っ!貴方は…!……人間如きに褒められてもどうということはありませんが、一応受け取っておきます。……ありがとうございます。貴方の恰好も悪くは無いですよ」
おうよ、俺なんかの賛辞でいいならいくらでもくれてやるから受け取れ受け取れ。賞賛なんてもんはなんぼあっても良いですからね。
さあ、最後は―――。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・あれ?
「あの、魔王様は?」
「……普段水着など着ませんので、恥ずかしがって更衣室に引きこもってます」
何ソレ可愛いかよ。
「いやでも、せっかくこうして遊びに来たんですし、何とかなりませんかね?」
「私とヒルダで説得したんですが、無理でした。力尽くでどうにかしようにも力では勝てませんし…。時間をおいてどうにかなるかどうか…」
「力不足だったわぁ」
いや、参ったぞコレは。
仕方ない、俺が何とかしてみようではないか!
…正直、方法なんて何も思いついてないけど、このままじゃマズイって思うのよ。
更衣室は何やら紫色の魔法の結界っぽいもので囲われてた。ここまでするほど恥ずかしいの?今まで海とかどうしてたんだ?
…もしかして、大勢で遊びに来たことなかった、とか?
それなら、尚更なんとかしなきゃ駄目ってもんだ。
「おーい、魔王様ー?出てきてくれませんかー?」
「…リベタスか。余は絶対に出ないぞ。何故こんな下着みたいな恰好で外に出なければならんのだ」
「水着と下着は違うはずです!」
「違わないだろう!こんな露出の多い…!」
むぅ、これは手強い。
なら水着から話を逸らそうか。
「そんなこと言わず皆で遊びましょうよ。海の水は冷たくて気持ちいですし、絶対に楽しいですよ」
「それなら余に構わず、向こうで皆と楽しく遊んでおれ」
…はい?
いや、そりゃ無いでしょうよ、魔王様。
リベタスちょっとカチンときたよ。
魔王様の水着姿が見れない残念さってのも勿論ある。そういう低俗な感情を俺は否定しない。だけど、それ以上に見逃せんことがある。
「このままだと俺が魔王様と遊べないんですよ」
なんか自然と自分と自分以外で分けてしまっているのが気に入らない。自分を「みんな」の外に置くような言葉が良い慣れている感じで気に食わない。
…もしかしたら、そうするのが今まで当たり前だったのかもしれない。
俺は魔王様の事情を全て知っているわけではない。というか知らないことの方が多い。
だから、偉そうなことはあまり言えない…そんなわけあるか。
知らないもんは知らない。人間関係なんてそんなもんだ。どんなに仲良くなっても知らないことってのはある。けど、例えば、知らないことがあるからって仲の良い友達を放っておくか?
魔法とか魔術とか王とか政治とか地位とか難しいことは俺にはわからん。俺はあくまでも凡人だ。だから、凡人にわかる内容に置き換えて考えるしかない。ただの友達関係とかに例えて考えるしかないんだ。
そして、その上で思う。ここに魔王様が独りで居て、他の奴らが一緒に楽しく遊んでるのは違うだろ。それじゃあどっちも楽しくない。
だから俺はこう言うのだ。
「単純に、俺が魔王様と遊びたいんです。一緒に遊んではくれませんか?」
反応を待つこと暫し。
ややあって紫色の結界はシャボン玉が弾けるようにして音もなく消える。
そうして、ついに魔王様が更衣室の小屋から出てきた。
「―――。――。―――ぁ」
「な、なんだ人の姿を見るなり固まって。な、何か言ったらどうだ。……そんなに似合ってないか?」
魔王様は可愛らしい水色の水着を着ていた。スクール水着と似た感じで、極力露出を廃している。それを見て、俺は固まってしまった。
直ぐに心のままに褒めようと思うのに、不思議なことに口が全く動かないんだ。
あぁ、そうか。
多分、俺は彼女に…
「――。ぃ、いや、その、見惚れてしまっていました。……すごく良く似合っています。とても可愛いと、そう思います」
「そ、そうか……。それなら、仕方ない、な。……その、ありがとう、の。…お主も良く似合っておるぞ」
うわ、なんか凄く恥ずかしいぃ!頬が熱いし、魔王様の方をまともに見れない!
太陽がギラギラとしてるせいかな!
多分きっとそうだな!そうに違いない!
続きます。