でも、物語を進めるうえでは必要な話なので大目に見てください…。
魔王城生活8日目。
「おはっス~!アンタがリベタスっスね~!自分は今日からアンタの担当になったアリアっちゅうもんっス!種族は見ての通りのハーピィっス!不束者っスが以後よろしくっス!」
朝起きて、今日も頑張ろうと気合を入れてたら部屋になんか来た。
本人の言葉通り、ハーピィなのだろう。若草色の髪をした彼女の背中には大きな翼が生えている。あと、何故かメイド服を着ているが、ミリアさんの同僚だろうか?
「えっと…?よろしく、おねがいします?ミリアさんはどうしたんですか?」
彼女に何かあって同僚が代わりになったとかだろうか?病気とかじゃなければ良いんだけど。
「先輩っスか?ミリア先輩は極秘任務っス!今朝早く、故郷の東方に単独出撃していったっス!」
なるほどそういうことか。
ただ、単独だって?
「単独って危なくないんですか、ソレ」
「仕方がないっスよ!魔王派は人数がめっちゃ少ないっスから、遠方の任務はだいたい単独になっちゃうっス!この前のヒルダさんの任務もそうだったっス!ただ、先輩くそ強いんで心配するだけ無駄っスよ!任務地が故郷なので知識も安全っス!」
まぁ、それなら大丈夫なのかな?
故郷への里帰りとかそんな側面もあるのかもしれない。
「なんてったって魔術の「魔族」とパワーの「鬼」のハーフっスからね!パワーも魔法も死角なしっス!自分は戦いめっちゃ弱いんで、ちょー憧れるっス!」
なるほど、「東方」だから「鬼」か。納得。
彼女の2本の角はそのまま鬼の角だったというわけか。
「…というか、極秘任務の内容言っちゃって良いんですか?」
「あっ、しまったっス!忘れてくださりやがれっス!」
この子、なんとなくアホの子っぽさが滲み出てるけど大丈夫なんだろうか?
◆
とりあえず、アリアさんと連れ立って行動することになった。
今日は、「魔石」を使った武器がどうなっているかを尋ねにヒルダさんの研究室に行くことになっている。そのため、アリアさんに案内してもらいながら向かう。
すると、ヒルダさんの研究室から出てきた男の魔族がいた。
赤い髪と黒めの肌のイケメンだ。ヒルダさんに似た悪魔のような黒い翼と尻尾が特徴的。装飾を廃した服装だけど品があって、仕事ができるって感じの印象を受ける。ヒルダさんと同じ種族だったりするんだろうか?
「あれはビフレウスっスね。知識を鼻にかけたインテリ文官っスよ。魔王派っスけど、気に食わない奴っス。しょっちゅうヒルダ様の研究室に足を運んでるんで、ほの字じゃないかって専らの噂っス」
アリアさんが耳元へ内緒話をするようにして男の情報を伝えてきた。
なるほど、文官か。頭良いんだろうなぁ…。
「人間…?いや、そうか。貴様がリベタスか」
そうやってアリアさんの説明を聞いていると、近くまで来ていたビフレウスさんが話しかけてきた。
「はい。魔王様の客人としてお世話になっています。人間のリベタスです」
「ほう、最低限の礼儀は知っているようだな。オレはビフレウスだ」
結構いい感じのヒトっぽい。人間の俺にも敵意を向けずに話しかけてくれる。
「だが貴様、昨日の一件は一体全体どういうことだ?国のトップ3人を1日連れまわすとは…あれでどれだけの業務が滞ったと思っている?」
あ、駄目だ。結構怒ってらっしゃる。表情がほとんど動かなくて感情が読みにくいな、このヒト。
「その件は本当にすみませんでした。とても反省しています」
うん、やっぱり流石にやりすぎだったよなぁ。急だったし。文官は一番被害を受けただろうしね。ここは平謝り一択だわ。
「はぁぁぁぁぁぁ…。まぁ、いい。魔王様方の息抜きにもなったようだからな。今回だけは見逃そう。だが、次は許さん。金輪際、このようなことはしないでもらおうか?」
滅茶苦茶深い溜息をしたものの、何とか怒りを収めてくれたらしい。助かった。
「……それはそれとして、だ。おい、そこのメイド。少々席をはずせ。オレはこの人間と内密の話がある」
「えっと、自分はこの人間の監視を任されていてっスね…」
「メイド如きが口答えするな。僅かな時間だ。監視とやらはオレが引き継ぐから問題あるまい?そこまで心配なら声の聞こえない程度の距離で見守っているがいい。とっとと下がれ」
「り、了解っス!」
ちょっと険悪だな。因縁があるとかってわけじゃなくて、ビフレウスさんの性格が少々キツイ感じっぽい。
アリアさんは少し離れた位置へと下がっていった。
内密の話って何だろ?
「単刀直入に聞こう。誤魔化すなよ、ヒルダにおおよそのことは聞いている。
「…?」
つくりだした?何を?俺を?どういうことだ?母さんが俺を産んだけど?
思い当たることが一切無くて返事が返せない。
「…いや、いい。なるほど。そういうことか。反応を見るに魔王様にもお伝えしていないようだな?」
「え、えぇ…多分…?」
伝えるも何も、何のことか全くわからないんですが?何が「なるほど」なんです?
「なるほどなるほど。クク、これは良い。素晴らしい」
「えっと…?つまりどういうわけです?」
本当に意味が分からない。アリアさんも「インテリ」って言ってたし、頭が良すぎて俺には理解できないのかもしれん。
「いや、なに。こちらの話だ。貴様には関係が無い」
まぁ、関係がないってならそこまで気にしなくて良いかな?
「時間をとらせてすまなかったな。精々問題を起こさぬようにすることだ」
「わかりました。昨日は本当にすみませんでした」
いや、ホントに申し訳なかった。
「ふむ、共にこの国と民のため……それと魔王様のために尽力しようではないか」
「あれ、これって…?」
ビフレウスさんが右手を差し出してきたのだ。
「確かこういう時、人間は手を握り交わすのであろう?握手、と言ったか。この国には無い文化だが貴様に合わせてやろうというのだ。有難く思うがいい」
なるほど?向こうから歩み寄ってくれたということで良いんだろうか?
魔族の皆さんは基本的に人間の俺に対して敵意マックスなので、なんだかこういう対応は新鮮だった。
喜んで握手を受け入れ、そのままビフレウスさんとは別れた。
「どんな話してたんっスか~?」
「いや、よくわかんないだよね…なんだったんだ…?」
戻ってきたアリアさんに尋ねられたが、答えられることが無かった。
ホントに何が何やらわからなかったのだ。インテリってのは凡人には理解しにくい思考回路をしているのかもしれない。
◆
本来の目的であったヒルダさんの研究室についた。
ちょっとだけ気になったので、ビフレウスさんの事を聞いてみたが、「アタシが下級悪魔でぇ彼が上級悪魔。種族繋がりでぇ気にかけてくれてるんだと思うわぁ」とのことだった。仮に片思い説が本当ならビフレウスさん脈無さそう…。
「注文の品だけどぉ、できてるわよぉ」
「流石ヒルダ姉さん、仕事が早いですね!あ、今更だけど俺お金とか持ってないですよ?」
「お金なんていいのよぉ。魔王様を護るために必要なんだからぁ。お代は成果でってことでOKよぉ」
ちょっと荷が重いかもしれない。でも、やれるだけのことはやるって決意したばかりだからな。俺は出来ることをやるだけだ。
「まぁ仕事が早いと言われてもぉ、そんなに複雑ってわけでもないし当然ねぇ。ただ、一般的な実用化はぁ現実的じゃないわねぇコレ」
「そうなんですか?」
「えぇ。先ずねぇ…」
ヒルダさん曰く。
まず、魔力の塊とはいえ、本来の形とは違った状態となっている「魔石」では、魔法や魔術への変換効率が著しく悪くなるとのこと。要するに威力が極端に弱くなるってことだ。
次に、失った魔力の補充が出来ない。魔力は生きている肉体が生成するものなので、肉体から離れた魔石には補充する方法がないとのこと。つまり、回数制限があるってことだな。精々3回撃てればいい方らしい。
さらに、本来の魔石の元となった人物の魔法特性*1に強く左右されてしまう上に、魔術式*2を刻み込む形式なので一種類の魔法しか設定できないとのことだ。炎の魔法が得意な種族の魔石であれば炎の魔法しか設定できず、しかも一度魔法の種類を決めたら変更は不能ってことか。
最後に、魔力を持っていない存在と言うのがそもそもいないので、一般化させても誰も使わないとのことだ。加えて、魔力を有する存在、つまりは生物を内部に組み込むというマッドな側面もあって好意的には見られないっぽい。
ちなみに、俺の武器となる杖には「スライム」が一匹組み込まれているらしい。虫では直ぐに死んでしまうが、これなら当分は大丈夫とのことだ。なお、スライムは液体に強い魔力が宿った存在で、外部からの衝撃に反応はするけど意思は有していないようだ。ちょっと安心した。
まぁ、長々と説明したが、要するに異世界で知識無双は夢のまた夢ってことだな。
まとめると…
・威力は超弱い。
・回数は3回が限度。使い切ったら作り直し。
・設定した魔法は変更不能。使えるのは1種類のみ。
・悪い意味で俺専用。
・1匹のスライム君の尊い犠牲の上に完成している。
ってところかな?
長すぎる説明でアリアさんが立ったまま寝てしまっている。実に幸せそうな寝顔だ。落書きしてみたい。
「いくつも杖を持っておけば複数の術が使えたりはしないんですか?」
「その重さの杖をぉたくさん持てるのかしらぁ?」
「……無理ですね、ハイ」
「それにぃ、そこそこ貴重な素材を使うのよぉ。今すぐ量産は無理ねぇ」
貴重な素材まで使ってくれたのか…。
何から何まですみません。ヒルダさんには頭が上がらないよ。
「それで、この杖にはどんな術を刻んだんです?」
「まだ最後の仕上げだけしていないのよぉ。命を預けるわけだしぃ、貴方自身が決めた方が良いと思ってねぇ?」
「なるほど、何から何までありがとうございます」
「いいのよぉ。それでどうするのぉ?ここにいくつか種類を用意してあるわぁ」
「説明をしてもらっても?」
「いいわよぉ、先ずは…」
◆
「…じゃあ、この術にします」
「なるほどねぇ、これを選ぶのねぇ」
「えぇ、これが一番俺に合ってる感じがしたので」
「そうねぇ。貴方らしいかもねぇ…っと、はい、完成したわよぉ」
「ありがとうございます、ヒルダさん!」
異世界生活8日目。俺に待望の「戦う」コマンドが実装されたのである。
【キャラ設定7】
名前:アリア 真の名:????
ミリアの後輩メイド。女性。34才(人間の17才程度)。
容姿:若草色の髪と純白の翼。瞳は赤。メイド服。
種族:ハーピィ
好きな物:ミリア先輩。飛ぶこと。食事。睡眠。光る物。
嫌いな物:勉強。頭を使うこと全般。
典型的なアホの子キャラ。飛ぶことが大好きで勉強は嫌い。基本的に本能で生きている。メイドとしてミリアの後輩にあたり、ミリアに強い憧れを抱いている。魔王派であるのも、「憧れのミリアが魔王様と仲良しだから」という理由。理由が浅い。
もともとハーピィという種族は戦闘に不向きだが、彼女は輪をかけて戦闘が苦手。魔術の腕は目も当てられない有り様。戦闘力皆無と言っても過言ではない。仕事も失敗ばかり。だからこそ、仕事も戦いもできるミリアに憧れている。しかし、飛ぶ速度と飛行技術に関しては右に出る者がいない。空を愛し、空に愛された少女。「逃げ足」だけは国一番と言えるだろう。
【キャラ設定8】
名前:ビフレウス 真の名:????
文官。男性。86才(人間の43才)。
容姿:赤い髪に黒めの肌。黒い翼と尻尾。
種族:上級悪魔
好きな物:国。国民。仕事。
嫌いな物:不真面目な無能
仕事一筋のインテリ文官。国を愛し、国民のために生きる。
種族は上級悪魔。基本的に下級悪魔よりも能力が高い種族だが、彼の戦闘力は低い。生まれついて魔力の保有量が少なかったことが原因。そのことに大きなコンプレックスを抱いてきたようだ。或いは、知識を求めたのもこれが根底にあるかもしれない。
ヒルダの研究室に頻繁に顔を出しているが関係性は不明。一方的な片思い説が魔王城では有力。彼の恋が成就するかどうか勝手に賭けが行われているらしい。なお、「成就する」側に賭けている魔族はほとんどいないとか。哀れ。