魔王城生活10日目。
魔王様は仕事で昨日から城におらず、ミリアさんも故郷で任務の真っ最中。
そのため、9日目は神話の本を読んだりして自主勉強に費やした。
今日も午前中は昨日と同じようになるだろう。
…ただ、午後になれば魔王様が帰ってくる。そして、彼女が抱える秘密を教えてもらえるのだ。俺の秘密、つまりは異世界転移に関しても話すつもりでいる。
「異世界転移」がどのように受け止められるかは分からないものの、今日という日が大きな転換点となる事だけは間違いがなかった。
この世界とRPG『YOUR FANTASY』に強い関係性があるとして、やはり一番怖いのは「ストーリーの強制力」や「世界の強制力」なんて呼ばれるものだ。
一口にゲーム世界転移系と言っても種類がある。
1つ。本当にゲームの中パターン。これが一番「ストーリーの強制力」を受けるゲーム世界転移だろう。
2つ。地球でゲームが創られた結果として誕生したゲーム世界パターン。要するに、創られた物語が何らかの作用によって「ゲーム世界」を誕生させたってことだな。「世界の強制力」的なのを強く受けることが多い。
3つ。もともと「ゲーム世界」が最初にあって、その世界を元にしてゲームが創られたパターン。以前の帰還者がゲームにしたとか、因果がどうのこうのってやつだ。これはそこまで強制力は受けないことも多い。
4つ。「ゲーム世界」が偽りの記憶パターン。主人公がそれっぽい記憶を植え付けられた地球人または現地人だったりする。俺の日本人らしい容姿から考えるに現地人モブ説は薄い。だが、俺がプレイした『YOUR FANTASY』の記憶が偽りのものという事態は十分に考えられる。最悪はこの記憶が誰かを不幸にする目的で仕組まれている場合だな。
5つ。夢落ち。一番色々な意味で最悪。夢落ちなんてサイテー。
主にこんなところだろうか?
この世界は「ゲーム」か否か。
「世界」が先か「ゲーム」が先か。鶏が先か卵が先か。
レベルアップやアイテム、CVなどゲーム知識が役に立たない場面は多かった。ならば、この世界はゲームではないと考えるべきだろうか?
しかし、登場人物はあまりにも酷似している。ゲームの中説すら捨てるには早すぎる。
はっきり言って、現状有している情報では判断できない。あまりにも情報が足りない。
それでも、考えることだけは辞めちゃいけない。魔王様が気付かせてくれた。凡人だからこそ、思考を放棄してはならないのだと。
ありとあらゆる事態を想像しておけば、出来ることはあるはずなのだ。
昨日、俺はこの世界の「神」について知った。
「勇者一行」を選び出し、力を授ける女神ニエーナ。
「魔王」の血筋に力を与えた女神ミウイ。
そして、正体不明のマーレイまたはマルレイ。
最後に、それら全てを産み出した「大いなる神」。
この「神」とは何だろうか?ゲームの制作者?ストーリー?或いは本当に神様?これもわからない。
だが、この「神」が何であれ、1つだけ確かなことがある。「神」が「ゲームの制作者」だろうが「ストーリー」だろうが「正真正銘の神様」だろうが、「強制力」を発動することは可能なのだ。
「ストーリーの強制力」。シナリオに沿ってキャラクターや自然現象を動かしていく力。定められた結末へと有無を言わさず連行する何者かの意志。
ならば、俺は「強制力」が存在すると仮定して動くのが最善だろう。
この世界がゲームか否か。それはまだわからない。
けれど、「ゲーム」であれ「世界」であれ、「強制力」が存在する可能性は高いのだ。
そして、「強制力」が誘う結果で俺が最も恐れるのは。
決まっている。
魔王様が「悪逆非道の魔王」として覚醒することだ。
改めて振り返ろう。
『YOUR FANTASY』は
だが、それだけでは物語に深みが出にくい。「悪役にも理由がある」や「悪のカリスマ」、「悲しい過去を抱えた美形悪役」などといった設定が徐々に当たり前となったのもこうした背景あっての結果だろう。
そこまで深い理由がなかったとしても、せめて「動機」がなければ「意味不明の敵」で終わってしまう。世界征服を企むラスボスが「何も考えていない」では観る側・遊ぶ側は納得しない。
だから、『YOUR FANTASY』にも申し訳程度の「魔王が悪逆非道になった動機・きっかけ」は描かれていた。
もともと魔王軍が人間世界に侵攻したのは「人間を滅ぼすため」。その後、魔王が冷酷非道な行為に走るのは、戦争の途中で「魔族の町が惨たらしく蹂躙されたから」だった。要するに、ジェノサイドだ。
しかしながら、何度も言うが『YOUR FANTASY』は勧善懲悪のRPG。勇者一行の掲げる正義が曇るようなシナリオがあってはならない。故に、魔族に対するジェノサイドを行ったのは、性格クズの人間領主ということになっていた。コイツは勇者一行にさえ文句ばかり言う嫌われキャラであり、勇者一行はこの領主も討伐することで己の正義を確かなものにしたという経緯がある。
つまり、
以上。これが『YOUR FANTASY』で魔王が悪逆非道の行為に走った理由である。
さて、ここまで考えて、だ。
その上で思う。
いや、
いや、そりゃ勿論自国の民が傷つけられたら悲しむと思うよ?憤ると思うよ?でもさ、だからって老若男女皆殺しって発想となるか?
だが、それでも「強制力」が働いて魔王様が「悪逆非道の魔王」になるというのなら。
考えろ。
考えろ。
どうすれば、あの優しい女の子がそんな怪物になる?
考えろ。あの女の子が怒るとすればどんな時だ?
考えろ。それは、
考えろ。魔王様の味方は少ない。
考えろ。必然的に大切な存在も少ないし、
考えろ。魔王様にとって大切な存在ってのは…
ドラゴネスさん、ヒルダさん、後はアリアさんやビフレウスさんもかな?
そして何より…
何よりも…。
……あ。
思い出すのは2日前のアリアさんの言葉。
――――「仕方がないっスよ!
はは。そうかよ、そういうことかよ。
俺は馬鹿か。間抜けすぎる。
そうだ。そうだった。
――――『所謂リザードマンと呼ばれる種族のようだ。筋骨隆々で3メートルはある蜥蜴が鎧を着て二足歩行をしているのだから違和感が凄い。
――――『全体的に包容力のあるお姉さんって感じが溢れる見た目だ。ただ、その顔はだらしなく歪んでおり、非常に残念な印象を受ける。
だが、
「魔王様に忠誠を捧げる超強いメイドさん」なんて美味しい立ち位置のキャラクターが一切ゲームに登場していなかった。四天王と並んで登場してもおかしくないキャラクターが描かれていなかった。よく考えればこれはおかしくないか?
登場できなかった理由があるとしたら?既にその時には
そして、その彼女は今、
そういうことかよ、クソったれ!
どうすればいい?どうすれば最悪の事態を防げる!?
魔王様は城にいない。ヒルダさんも今日は研究の都合で外に行っているとか。
ドラゴネスさんはもともと忙しい方だから、どこにいるかわからない。普通に考えて軍の訓練とかで外にいるだろう。
「おはっス~!今日は午後に魔王様と約束があるっスよね?それまで何をして過ごすっスか~?」
「アリアさん!今すぐにミリアさんの所に行くことは出来ませんか!?」
焦っていると、今日も部屋にアリアさんがやってきた。詰め寄るようにして質問を浴びせる。
「急にどうしたっスか!?先輩の所ってどういうことっス?」
「上手く説明できないけど、彼女の元へ駆けつけないと不味いんだ!」
今は少しの時間さえ惜しい。ミリアさんが城を出発したのは2日前の明朝。もう既に彼女が危機にあるかもしれない。
「あ、なるほどっス。さては愛の逃避行っスね?二股バレたから駆け落ち的な感じっスね?」
「もうそれでもいい!何でもいから方法は無いですか!」
くそっ、状況の共有が正確にできないからもどかしい。アリアさんがおかしいんじゃない。ゲーム知識なんてもんを持ってる俺が異質なだけなんだ。
けれど、今は誤解されても何でもいいから迅速に動かなければならない。
「そういうことならお任せっス!自分、「逃げ足」だけは誰にも負けない所存っス!魔王様からも何かあったらアンタを抱えて逃げろって言われてるっスよ!直ぐに先輩の所まで連れてってやるっスね!」
もしかしたら、魔王様は不測の事態に備えて「俺だけでも逃がす手段」としてアリアさんを担当にしたのか。
いや、今はそういうことを考えている場合じゃない。全部丸く収まってから考えればいい。
魔王様との約束を守れなくなるだろう。とりあえず、簡単な書置きを部屋の机の上に残す。
『すぐ もどる 約束 ごめん ミリア 危ない』
熱心に勉強しておいてよかった。自作の日本語対応表を見ながらなんとか書けた。
「行きましょう!アリアさん!」
「了解っス!」
部屋を出る。
すると、直ぐに見知った顔に遭遇した。
「あ、ビフレウスさん!ちょうどよかった!魔王様に伝えておいてほしいんです!」
「急にどうしたのだ、人間。何をそんなに慌てている?」
魔王派のビフレウスさんなら安心だ。正確に伝えてくれるだろう。
「ミリアさんに危機が迫っています!俺の予知夢って言えば魔王様は分かるはずです!だから今からミリアさんの元に向かいます!魔王様には「約束守れなくてすみません」ということと、「可能であれば援軍をお願いします」と伝えてほしいです!」
「…余程の事態のようだな。承知した。オレが責任をもって伝えよう。行くがいい、人間」
「ありがとうございます!!」
これで言伝も安心だ。援軍だって期待できるかもしれない。
俺はそのまま全力で走り去った。
「クク、これは神に感謝せねばなるまい。ここまでお膳立てされるとは、な。存分に利用してやるとしようか。無駄に無様に足掻けよ、人間」
◆
「じゃあ、しっかり捕まってるっスよー!アリア行きますっス!!」
「お願いします!」
この世界がゲームか否か。それはまだわからない。
けれど。
最悪のシナリオを避けるため。「強制力」に抗うため。
全ては「あるかもしれない」という想定に過ぎない。でも、それだけで動くには充分すぎる。
あの少女を「ラスボス」なんかにしないために。
目指すは東方。
「鬼」の住まう地。
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