ゲーム知識がまるで役に立たないのだけれど?   作:夢泉

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2章はまだです。すみません。
2章か3章の幕間にしようかとも考えていた話ですが、多分ここで出しておくのが一番いいような気がしたので。


幕間2:「世界」を眺める者たち

「ねぇ、“イグザム”!彼やっぱり最高過ぎないかい!?もしかしなくても彼を選んだ私って凄すぎるのでは?」

 

 何かの遺跡のような場所で歓声が上がる。

 発する何者かはあまりにも美しかった。それこそ、一目でこの世の理から外れた存在であると見抜けるほどに。

 真っ白な長髪と深紅の瞳。顔立ちは中性的で、男にも女にも見えてしまう。

 この存在に性別という分類を当てはめていいのかはわからないが、発せられた声は男のそれであった。

 

「一人の何も持たない凡人を別世界に放り出して放置する行為が称賛されるようになったら世も末だと僕は思うよ、“マーレイ”」

 

 答えるのは「イグザム」と呼ばれた者の筈だが、その姿はどこにもない。

 ただ若い男の声が古い建造物の中に響くのみだ。

 しかし、声だけの存在に対して「マーレイ」と呼ばれた何者かは些かの疑問も恐怖も抱いていないようであった。仲の良い友人に語り掛けるように楽し気に話を続けていく。

 

「ん?それって遠回しに私の事褒めてる?」

「……なんでそうなるの?」

「だって、実際に()()()()()()()()()。このゲームはもう限界でしょ?」

「言葉の綾ってやつなんだよなぁ…」

 

 そう、楽しげに。あまりにも軽い調子で。

 それこそ朝食のメニューを聞かれたから答えたような自然さで。

 故にこそ、語る内容の異常さが余計に際立ってしまう。

 

「……まぁ、いいや。それで?彼の何がそんなに君の琴線に触れたんだい?」

「んー?まず、コストがかからないのが良い。まぁ、これはそうでなければならなかったという切実な事情もあるのだけれど…。それを踏まえてもあの青年は軽かったからね。他の作業の片手間にポイっと移動させられたってわけさ。いやー、楽ちんで助かった。どんな事柄でも安上がりってのは良いものだよね。ほら、企業ってのも低コストを目指すものだろう?…もしかして私には経営者の才能もあるのだろうか」

「今のヒトをヒトとも思わない発言の数々に言いたいことはたくさんあるけど、今は置いておこうか。無論、理由は魂の重さだけではないんだろう?」

「そりゃあ勿論。うーん、いろいろあるんだけど、そうだなぁ…」

 

 少し悩むような素振りをみせた「マーレイ」は、やがて詩を歌うように朗々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「――例えば、この世界をゲームだと妄信してゲーム知識に頼りきりになるような人間では駄目だ」

「――例えば、この世界をゲームとは別物だと判断してゲーム知識を完全に捨てるような人間でも駄目だ」

「――才能で世界を蹂躙するような人間では駄目だ。それは我らの母が一番嫌う在り方である故に」

「――恐怖に囚われ世界の片隅で隠れるような人間でも駄目だ。それでは世界が終わらない故に」

「なればこそ、私は彼が最高の掘り出し物だったと感じている。「ゲーム知識」を役に立たないものと判断しながらも、持たざる者である故に捨てきれない。常に「ゲーム知識」と「現実」を比較して判断している。どうかな?これはあくまで理由の一部だけれど、君の求める答えになっていたかな?」

 

 大きな身振りまで加えて劇的に演出された語りが終わる。

 畢竟、1つの「世界」の行く末を左右するような事柄でさえ、この存在にとっては「劇」や「舞台」を楽しむようなものでしかないのだ。

 

「1つ肝心なことが分からない。君は彼があの夫婦の娘…君が言うところの“Speranza”と惹かれ合うことを予想していたのかい?」

「いいや全く?それは正真正銘の偶然に過ぎないよ。私は別にアレがどうなろうが知ったこっちゃないからね。それこそ死のうが狂おうがどうだっていい…君は違うのだろうけど」

「……なんのことだい?」

 

 「マーレイ」の口調にはどこか揶揄うような調子が含まれている。

 だからだろうか。「イグザム」と呼ばれた存在の声が不機嫌そうになった。

 

「誤魔化すなよーぅ。ナディア…と言ったっけ、あの子凄く似ているじゃないか。君が愛した「彼女」にさ。「魔王」だし、“フリュゲニア”だし。世界の連続性ってのは怖いねぇ…。絶対に重ねちゃってるでしょ」

「………そんなことはないよ」

「あっはははは!君もそんな感情表現が出来るようになったか!いやー良い感じにヒトっぽくなったじゃない。めでたい、実にめでたい」

「僕がヒトらしくなったというのなら、それは彼女のおかげだろうね」

「おや、惚気かい?胸がキュンキュンときめいてしまうね。独り身の私には少々刺激が強いくらいだ」

 

 仲の良い友人と語り合うような調子で話が進んでいく。

 テンポが良く、軽やかで、楽しげで。

 だからこそ。

 

「………君って、よくもまぁ、そんなに()()()()()()()()ベラベラと話せるよね」

 

 「イグザム」からすれば、それは非常に迷惑な話であった。

 この2者の間に切っても切れない堅い友情など全く存在していないのだから。

 敵でもなく、他人でもない。

 心の底から「友人」にはなり得ないと感じている。ただそれだけであった。

 

「あはは。これこそが「私」なんだ。「母」の望んだとおりになった結果がコレだった。だから、悪いけど変えるつもりも曲げるつもりもないんだよ……さて、話は戻るけれど。君でさえ「成長」できたんだ。ニエーナにも是非見習ってもらいたいところだよね」

「僕は彼女もそろそろ至ると思うのだけれど、君から見てどんな感じなんだい?」

「私から見てもニエーナは結構いいところまで行っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。赤い光帯とか必死過ぎて笑えるよね。ミウイよりよほど見込みがありそうだ」

「今はミウイの話はどうでもいいだろう。()()()()()()()()()()()()

 

 会話が始まってから一番「イグザム」の機嫌が悪くなる。

 

「あ。しまった。君はミウイの理論は大嫌いだったね」

「あの惨状を好める存在なんかいるの?君もさっさとあっちを終わらせてくれないかな。ニエーナなんかよりよっぽど気持ち悪いじゃないか」

「いやー、残念ながら私はアレを結構好ましく思ってるマイノリティなんだ。「鬱ゲー」の少ないけどコアなファンってやつだね。あの“Speranza”のような「バグ」が発生しない限り私が介入することはないよ」

「「希望」という名称にしておきながら、本音は「バグ」と認識している、か。本当に性格悪いよね」

「これこそ我らが「母」の望んだことだろう?私ほど親孝行してる息子もいないだろうに」

 

 「性格が悪い」と明らかな悪口を正面から言われても、「マーレイ」が傷ついたような様子はない。終始変わらない微笑を浮かべ続けている。

 

「そうだね。もうそういうことにしておくよ。君と話すのは本当に疲れる。ほら、君だって暇じゃないだろ?さっさと帰ってくれないかな」

 

 その言葉が示す通り、ここは「イグザム」の場所。

 そこを示す呼称は数多くある。時代が、種族が、文化が、そして世界が違えば異なる呼ばれ方をする場所だ。

 

「つれないことを言わないでくれ。この世界の君とは久しぶりに会ったんだ。もう少し話していこうよ。君の出番…試練の時もまだまだ先だろうし」

「僕の出番もくるのかい?」

 

 しかし。この世界での呼び名は「試練の祠」。

 遥か古より存在する謎多き建造物。 

 そこはいつどんな時代、どのような世界であれ変わらずそこにある。

 

「当然だろう?何も持たない「凡人」が一つの世界を終わらせるんだ。試練を超えでもしなければ土台無理な話さ」

 

 その門は常に開かれている。

 汝、世界に疑問を持つ者よ。

 汝、世界へ変革を望む者よ。

 汝、()()()()()()()()()()宿()()()()

 

「………彼の場合、かなり過酷なものになるよ。正直、監督官として受けさせたくないくらいには」

「それでも「凡人」の彼は受けるだろう。受けなければ目的を達せられないが故に。本当に持たざる者ってのは哀れだ」

 

 なれば、「試練」を超えるがいい。

 「己」を超越し、「可能性」を示すがいい。

 

「……やっぱり僕は君が嫌いだ」

「そうかぁ。もっとも、私は私を嫌う君の事も好ましく思うのだけれどね?」

「本当に嫌な奴だよね、君」

 

 そこは、「試練の祠」。

 数多の「バグ」が目指した最後の地。

 即ち。

 異世界より来たりし「凡人(プレイヤー)」と

 世界に嫌われた「少女(バグ)」がいずれ至る場所である。

 

 




こういう視点は難しい…

アーサー王伝説の魔術師もだけど、とある町の名前も参考にしています。
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