「あばばばばばばばばばば!」
いかん。これはヤバイ。
括りつけられての高速空中移動。それは良い。似たようなのは初めに魔王城へ向かうときと、海へ向かうときに経験している。
だが。
アリアの「誰にも負けない」という飛行速度舐めてた。
なんか、体中がヤバイ。
ジェットコースターなんか比較にならん。
吐き気とかなんか色んなものが凄い。とにかく表現できないけどヤバイのだけは確か。
「ちょっとスピード落とすっスか!?」
けれど、急がなければならないのも事実だったので。
「このままで…良い…おぇ」
ただ、吐き気を堪えながらだったので、声が小さくなっていたんだろうね。
「このまま加速して行けっスか?了解っス!自分の限界を見せてやるっスよ!」
あ、これ死んだわ。
◆
「リベタス~、東方の国ジパニスに着いたっスよ~?大丈夫っスか~?」
魔王城から飛び出して丸一日。途中何度か休憩をはさんだにもかかわらず、たったの一日で到着してみせた。
ミリアさんやヒルダさんが全速力で移動しても2日はかかるということだったので、ハッキリ言って凄すぎる。色んな意味で開いた口が塞がらない…おぇ。
「それで、次はどうするっス?町の中を探すっスか?」
「ここは人間の国なんだよね?だとしたら俺もアリアも中には入れないんじゃない?」
ちなみに、口調は休憩時にアリアにお願いされたので、敬語ではなくなっている。
思えば、この世界に来てから敬語ばかり使っていた。ドラゴネスさんやミリアさんやヒルダさん、それに王様である魔王様など、地位ある人にはどうしても敬語になってしまう。しかも全員、俺より長く生きてるし。けど、アリアはそういうのいらない気が凄いのよね。
親しみやすいというか。距離感が近いというか。良い意味で尊敬とは違う感じと言うか。なんていうか、本当にただの友達に接しているような感覚にさせてくれる。
「自分は無理とは思うっスけど、リベタスは入れるはずっスよ?」
「え?俺って身分証も何も持ってないよ?実際、前に門前払いされたし」
思い出すのは最初の町ヒロネスタ。あそこで俺は門番の衛兵さんに丁寧にお断りされたのだ。今思い出しても、あの神対応には感謝しかないわ。
今回は魔族であるアリアもいるので無理度はさらに上がっているとみていいだろう。
「おかしいっスね…?人間の国同士の戦争なんてほとんど起きたことないっスから、ほぼほぼフリーパスのはずっスよ?」
「え?そうなの?」
「そうっスよ。人間同士で争ってたりしたら自分ら魔族が攻める絶好の機会っス。だから、小さな揉め事とかはあっても、大きな戦争とかをする馬鹿はいないっス。おそらく、リベタスが入れなかったのは、その町に何か問題があったんじゃないっスかね?」
言われてみれば、あの時は魔物に攻め込まれていたという非常時だった。非常時だから入れなかっただけで、普段なら入れたってことか?
ただ、ここで二手に分かれて単独行動ってのも不味いよな。俺はこの世界の事について知らないことが多すぎる。単独で町に突入して何かできるとも思えない。
アリアも戦闘力はないとのことだし、単独行動させるのは不安だ。仮に別行動で片方がミリアさんを見つけても助けられないんじゃ意味がない。
なら、取るべき選択肢は…。
「とにかく、このまま上空からミリアさんを探そう」
「了解っス!さっきと同じくらいのスピードで良いっスか?」
「いや、それは止めて。マジでお願いします」
人探しなんだから高速で移動する必要はないんよ。見落とさないようにゆっくり行こうぜ?…それに、まださっきのダメージが残ってる状態でやったら確実に再起不能になっちゃう。
◆
だが、たった一人の探し人を見つけるのは想像以上に大変だった。
眼下に広がるのはだだっ広い森と山。それだけ。
「いないっスねぇ、先輩」
「せめて任務の内容がもっと分かれば…」
「自分もそこまでは知らないっスよね…申し訳ないっス」
そもそも俺たちはミリアさんがどんな任務についているのか詳しく知っているわけではない。極秘任務というだけのことはある。
既に、移動の休憩中にアリアには「予知夢」と「ミリアさんの危機」については説明してある。
「確認だけど、魔法や魔術で遠い所の誰かと連絡とかできないんだよね?」
「無理っス。距離が離れるほど必要になる魔力が膨れ上がるっスよ。専用魔導具に莫大な魔力を注ぎ込めば可能っスけど…それは送る側が膨大な魔力を持っていることが前提っス。それこそドラゴネス様や魔王様クラスじゃなければ……あと、相手の位置がある程度わかっていないと厳しいっス」
探しながらも言葉を交わして少しでも情報を集める。何かに使えるかもしれなからだ。そのことを知っているから、アリアも丁寧に答えてくれている。
…ふむ。アリアとミリアさんで連絡が取れれば一番良かったけれど、流石にそう都合よくはいかないか。まぁ、よく考えれば遠方の相手の位置を正確に特定して言葉を送るってのは複雑そうだよな。発動コストが高いのも納得は出来る。
「莫大な魔力、となるとミリアさんでも?」
「先輩とヒルダ様が力を合わせれば可能だとは思うっスけど、単独では流石の先輩でも無理だと思うっス」
「魔術や魔法でミリアさんを探すってのは現実的ではないのか…じゃあ、遠方の地での任務の時ってどうやって連絡をとっていたの?」
「さっき言った専用魔導具を土地に設置して、その土地の魔力を使うっス。ただ、これは時間も手間もかなりかかるっスね。この地は魔力も少ないし、最適の場所を探すだけでも大変っス。だから基本は魔物を使い魔にして手紙括りつけて飛ばすっスね」
「なるほどな…」
つまりは、連絡用の拠点をつくるか、もしくは伝書鳩形式ということだな。アリアさんも連絡用魔道具は持たされているようだが、それを設置している余裕は無い、か。
八方塞がり。圧倒的な手詰まり感。
このまま時間ばかりが過ぎていくのはマズイ。こうしている今もミリアさんに危機が迫っているかもしれないというのに。
空中でアリアに捕まりながら考えていると、何やら声のようなものが聞こえた。
「ん?アリア、何か聞こえなかった?」
「何も聞こえてないっスけど…どっちっスか?」
ハッキリと聞こえたわけではない。
けれど。
…誰かが俺を呼んだような、そのように感じた。
「あっちの方…ん?」
顔を向けると、何やら一目で「鬼」だとわかる武装した集団が大きな岩山へと向かっていた。
「アリア!あっちだ!あの鬼たちが向かう方へ先回りして全速力!」
「っ!了解っスよ!!しっかり捕まってろっス!」
東方で魔族であるミリアさんに危機が迫る。この場合、考えられる敵は人間の可能性が高い。けれど、魔王様は魔族陣営にも敵が多いのだ。であれば、当然、「鬼」がミリアさんに危害を加える存在である可能性だって捨てていいはずがない。
つまり、その先にミリアさんがいる可能性は高い。
◆◆◆
「あれれ~?イグザム、もしかしなくても君、ちょっと介入したよね?」
「……なんのことかな」
「またまた~。「塔」のシステムに手を加えて、凡人君にメイドちゃんの声を届けたわけだ。平等・公平であるべき君が、特定の誰かに手を貸した、と」
「仮にそうだったとして、僕が自己の判断で動くことも“大いなる神”に認められている。君が言ったようなことを僕が行ったのだとしても、その事象も権限の範疇だ。君に非難されることではないはずだよ」
「あらら、随分と饒舌になっちゃって。これは図星だったかな?別に非難なんかしてないんだよ~?ただ、最高に面白いなぁと思ってね」
「そのにやけ顔を今すぐやめろ。何を邪推してるんだか知らないけど、今の僕は使命のために動いている。そこに私情を挟むことはない」
「あはははは!そうだね、そういうことにしておくよ!いや~ホントに面白いなぁ!君も、凡人君も、ニエーナも、この世界も全て!これだから愛しくてたまらないんだよ!」
「…本当に嫌な奴だよ、君は」
アリアとリベタスの1日2人旅の内容は幕間にでもしようかと考えています。2人はかなり気が合う感じで仲が良いです。