追っ手を撒こうとしても足のダメージが大きすぎて速くは走れなくなっていた。
だから、この両側が岩壁となった場所で向かってくる敵を一対一で撃破していく方針にしたのだが。
最初に向かって来た奴らは殲滅した。けど、その次が直ぐにやってくる。
そして、体はもう動かない。
「あ、れ…?」
おかしいですね。あの人間の声が聞こえたような…?
先程、思い浮かべたからでしょうか。
全く…。最後の幻聴が出逢って10日程度の人間の声とは、私もどうかしていますね。
◆
岩壁に背を預けてピクリともしないミリアさんを見つけて、そのすぐ近くへ向かう。遠目にも酷い出血だと分かる。
少し離れて、既に鬼たちが迫っている。もう大きな声なら届く距離だ。
意識が無いのであれば、ミリアさんが自力でアリアに掴まることはできない。
そして、アリアがミリアさんを括りつけて飛ぶには絶望的に時間が足りない。
そもそも、飛び立って直ぐは加速が十分に出来ず、格好の的になる。
であれば。
俺にとれる選択肢は1つ。
無論、この状況を話し合いで解決できると考えるほど脳内お花畑でもない。
つまりは、戦うしかないのだろう。
「一つ、女人の生き血を啜り」
アリアから飛び降りながら声を張り上げ、言葉を紡いでいく。
「二つ、不埒な悪逆非道」
相手を少しでも躊躇させるためだ。警戒して足を止めてくれるのなら、それだけ時間が稼げる。
「三つ、悲しき浮世の鬼を」
正直、めっちゃ怖い。
日本で平和ボケを極めに極めた凡人が、いきなり実戦とか馬鹿げてる。
すっごく逃げ出したい。
でも。今ここで逃げるわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。
この世界で右も左も分からない俺に、丁寧に常識や基礎知識を教えてくれたミリアさん。
彼女を助けるためには、戦うしかないんだ。
「退治てくれよう、この杖で」
だから、どうか地球のヒーローたちよ。俺に勇気を分けてくれ。
そんなわけで、ここからはオタク&中二病全開で行かせてもらう!
燃やせ!燃やせ!心を燃やせ!!
「何奴!?」
集団のリーダーらしき「鬼」の声が轟く。
なんだかんだと聞かれたら 答えてあげるが何とやらってなぁ!
「ふはははははははは!美しき女性を寄ってたかって襲う悪鬼羅刹共!遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!我こそは、魔王ルナウディアが客人、リベタスなりィ!」
敵は屈強な「鬼」が11人。
戦力はどこまでいっても凡人の俺1人。
サッカーで40年間無敗を誇った名門中学校による蹂躙試合より勝ち目がないかもしれない。
それでも。
それでも、やるしかないのなら。
「リベタス?そうか貴様が…」
そりゃ知っているだろうな。俺が魔王城に招かれて11日。いくら離れていても情報は届いているはず。まして、魔族にとって仇敵の人間が魔王に客人として招かれたなんてビッグニュースはな。
そして、アリアから、俺が得体のしれない強者として認識されていたという摩訶不思議な状況は聞いている。
そうであるならば。
「ただし!そこより一歩でも踏み入れてみよ、この大いなる神より授けられし愛杖、カドゥケウスにて貴様らを殲滅してやろう!その覚悟が貴様らにはあるか!?」
こうして言えば、奴らは迂闊に踏み込んでこれないはず。杖の名前は今適当に考えた。
最悪なのは、奴らが
だからこそ、これで時間を稼ぐ。
そう思っていたのだが。
「ガハハハハハ!ハッタリだな!
は?
いやなんでコイツら向かって来てんの?
待って待って待って待って!?
想定外だ。
予想外過ぎる。
「神の杖が激しく唸る!」
近づいてきてくれるなら大いに結構!
俺を無視してミリアさん&アリアへと突進されるのは最悪。だが、攻撃のために
何故ならば!この一撃は近ければ近い程、
見せてやるさ、凡人の悪あがきってやつを!
「異世界凡人がァ!!!」
伝承は語る。
それは、かつて天空の城を手中に収めた大佐すら瞬殺せしめたのだと。
「最大奥義ィ!!!!!!!!」
この技こそは。
過去現在未来、全ての凡人が抱く、空しき夢。
『チート無双』という願望の結晶。
強者を屠る弱者の一撃。
今、ただの凡人は高らかに、手に取る奇跡の名を叫ぶ。
其は…
「目潰しィイイイイイイイイ!!!!!!」
杖より迸る光が、鬼たちを飲み込んでいった。