「…っぐぁ」
何がどうなって…
ぐっ、頭がグラグラする。体中がズキズキと痛い。大出血をしているわけでも無いし、致命的な怪我はないようだけど…。
そうか、俺は空から落ちて…
見れば、俺の体が白い翼で包まれていることに気付く。
なるほど、アリアが翼で包んで護ってくれたのか。それと足元に広がる腐葉土みたいなのがクッションに…そうだ、アリア!アリアとミリアさんは無事か!?
「アリア!ミリアさん!」
「自分はなんとか平気っスよ…急に飛べなくなったっス。申し訳ないっス」
よかった。決して無傷ではないけれど、アリアの意識はある。致命傷を負っているという訳でもないようだ。
ミリアさんは……反応しない。息はある。けれど、完全に気を失っている。彼女のこともアリアさんが翼で包んで護ってくれたようだ。
それでも、早急に治療をしなければならない状況であることは変わらない。
まずはこの状況を切り抜ける。そのためにも少しでも情報を集めなければならない。
「アリア、さっき何かが撃ち込まれたみたいだったけれど、大丈夫なの?」
「なんだったんっスかね、アレ。怪我も痛みもないっスけど……あ!翼に変な式が刻み込まれてるっス!自分、体に刺青入れちゃうような子じゃなかったのに!乙女の体に何てことしてくれやがるっス!必ず責任取らせてやるっスよ!」
これだけ騒げるなら、一応は元気みたいだな。
まぁ、空元気の面も大きいのだろうけど。
すると、何やら翼を動かしたりして確かめていたアリアが顔を青ざめさせて呟いた。
「………やばいっス」
「何やらただならぬ雰囲気だけど…一体何が…?」
「魔法も魔術も一切使えないっス!どうなってるっスか、コレ!?」
ハーピィは美しい翼を有しているが、地球の鳥のように翼で飛んでいるわけではない。無論、この翼も飛行には重要な役割を果たしている。果たしてはいるが、基本的に「飛行魔法」という種族特有の魔法と、それに風や軽量化の魔法・魔術を重ねることで飛んでいるらしい。
「え!?つまりもう飛べないってこと!?」
「そう言うことになるっスね…申し訳ないっス…飛べないアリアはただの役立たずっス」
「いや、アリアが悪いわけじゃない。あの距離を狙撃してくるなんて予想できなかった。それに飛べなくなっても翼で俺とミリアさんを守ってくれたんだろ?じゃあ、役立たずなんかじゃないよ。むしろ命の恩人だ。ありがとう」
「…っ!べ、別に当然の事をしたまでっス!…自分、リベタスのそういうところ好きっスよ」
そんなに特別なこと言ったか?助けられたのなら感謝をするってのは普通だと思うんだが。
「ただ、それはそれとして現状の戦力分析はしっかりしないと。詰まる所、後は俺の魔石魔術2回分しかないってことか…ヤバくね?」
ヤバいよね。これって本当にヤバいよね。
この地の人間さんたちは魔族であるミリアさんとアリアの敵で。鬼さんも敵だ。
周り敵だらけの四面楚歌状態で武器が2回しか使えないとか。詰んでね?
「事前に「最強無敵の奥の手がある」とか言ってたっスけど、アレ殺傷力ゼロだったじゃないっスか!あれじゃあパワー馬鹿の鬼とは戦えないっスよ!」
しかもこれだよ。選んだときは魔王様やドラゴネスさんとか戦えるヒトのサポートが出来ればって思って選んだけど。
サポート対象となる強キャラが1人もいない状況とか想定してない。
ソシャゲのサポーターは単体じゃ戦えないのが普通なんだよ!しかも俺とかレア度☆1とかそんな感じの雑魚だぜ!?
「でもさっきは役に立ったじゃん!要は使い方だよ使い方!よく考えて使えば良いんだ!」
「自分、頭使うの苦手っス」
「俺も得意じゃないっス」
「うわぁ~ん!やっぱもう終わりっス~!」
そもそも、あれは初見であればこそ使える技でしかない。目潰しされると分かっていれば対策など簡単にとられてしまう。
くそっ、どうする!?このままだと直ぐに追手がやってくるだろう。アリアは魔法を封じられて飛べず、ミリアさんは目を覚まさない。
VS帝国サッカー部再び。なお、炎のストライカーは現れない。
その時。ガサリと茂みをかき分ける音がした。
「っ!くっそぉ!やってやらぁ!鬼が何だってんだ!ただの人間リベタス様が相手になってやんよお!アリアはミリアさんを連れて先に行って!」
ここは俺に任せて先に行け!ってな。
一度言ってみたいとは思っていたが、まさか本当に言うことになるとは。
「そんな!リベタスを置いていくなんて無理っスよ!それに、今の自分じゃ逃げたくても逃げられないっス」
アリアも負傷していて、ミリアさんを背負って逃げるというのは現実的ではない、か。
もうやけくそだ。鬼相手に何がどれだけできるか分からないが、もう一度見せてやるよ。凡人の悪あがきってやつの怖さをな。
「かかッ!これは面白き事でござるな。鬼を斬り続けてきた拙者が、ついに鬼に間違われることとなろうとは」
けれど、現れたのは先ほどの鬼たちではなく、帯刀した壮年の男だった。
年は俺よりは上のようだが、30代にも50代にも見える。異世界人の年齢は良く分からない。
ゆったりとした着流しのような服装。角も翼も無く黒髪黒目。俺とあまり変わらない「人間」のようであった。少なくとも、先程の鬼たちとは異なる。
それでも、警戒は解かない。人間であっても決して味方という訳ではないのだから。
ミリアさんとアリアを隠すように前に出る。
「青年よ。何やら奇妙な状況のようだが、故にこそ1つだけ問うでござる。君は背後に庇う存在が
まぁ、この世界の「人間」からしたら魔族を守ろうとしてる「人間」というのは奇妙だよな。
今の発言だけで、この男もまた魔族を敵と認識しているであろうことが察せられる。
「その人間は自分たちの奴隷っスよ!叩いたりとか、悪口言ったりとか、えっとえっと、とにかく酷いことしてきたっスよ!」
「っ!アリア!」
この状況でそう言うってことは、俺だけでも生かす道を選んだとでも?ふざけんな!
2人を見捨てて俺だけ助かるなんてできるわけないだろ!
あっ、そうか。俺がさっき言ったのもこういうことなのか。これは無理だわ。特大ブーメラン!
「黙っていてはくれまいか、翼持つ少女よ。今、拙者は青年と男二人の問答をして候」
この人は、言葉を投げかけてきてくれているし、「人間」である俺まで敵として認定しているわけでも無いようだ。
ならば、会話で切り抜けることもできるかもしれない。
「何者かというのは、つまり、彼女たちが「魔族」であると理解しているのかということで良いのでしょうか?」
「然り。分かっているのなら話は早いでござる。魔族とは人に仇なす存在。幾度も繰り返されてきた戦にて殺された人間は数知れず。それを知って尚、君はそこに立つでござるか?」
嘘が通じるって雰囲気でもない。
ここは正直に、俺の本心を言葉にするべきだろう。
「人間と魔族の戦争がどうとかは知りません。俺はただ、自分が大切だと、守りたいと思うから立っているんです」
まぁ、ある程度学んだとは言え、正確に理解しているわけじゃないし。そもそも、俺はこの世界の「人間」ではないから、なんか同族意識ってのも薄いしな。
「…ふむ。青年よ、本当にそれだけでござるか?」
男の手が腰の刀へと伸びていく。今の答えでは不十分だったか。
「あとは、まぁ、その…」
当然、今のも本音ではあったのだけれど。
こうなったら、もう一つの理由も曝け出そう。ちょっと、いや、かなり恥ずかしいが。
「背に庇う美少女たちに良い所見せたいって感じですかね。男の子ですから」
言っちまったよ。うわ超恥ずかしいな、コレ!
殺し合い上等の世界で、皆がそれぞれの覚悟を持って生きている。背に庇うアリアもミリアさんも、魔王様も他の人も。そして恐らくは、目の前の男も。
それらに比べれば何とも情けない理由だ。薄っぺらすぎる。
けどな、「凡人」の俺の本心なんてこの程度なんだよ!
…………………。
沈黙が落ちる。やはり、駄目だったのだろうか。
「……かっかっか!誠に天晴見事なり!男児はそうでなければな!」
だが、沈黙を破ったのは男の盛大な笑い声であった。
「青年、否、女を守らんとする戦士よ。其方の戦に水を差す無粋を承知で尋ねよう。助太刀は必要でござるか?」
そう言って、男は刀に伸ばしていた手を開き、こちらへと伸ばしてきた。
「…必要です。とても」
俺も手を伸ばし、繋ぐ。
「かっか!よかろう!であれば拙者、義によって助太刀致す。拙者は権兵衛。名無しの権兵衛と申す者なり!」
「いや明らかに偽名やん。俺はリベタスです」
「かかっ!真の名などという珍妙なものがあるでござる!ならば、所詮全ては偽りの名!名乗るのが偽名であっても同じこと!そうではないか?戦士リベタス殿!」
まぁ、確かにそうかもしれない。言われてみれば、俺も偽名だしな。
改めて考えると「真の名」ってのも変なものだよな。誰にもメリットがないようだけど、誰が何の目的でこんなものをつくったのだろうか?
「あの、そろそろ自分も発言していいっスか?聞きたいことがあるっス」
思案していると、アリアがおずおずと手をあげながら言葉を発する。
「おぉ、翼持つ少女よ!先ほどはすまなかったでござる!良ければ君の名も教えて頂きたい。可能ならば、そこで気を失っている女性の名も教えてほしいものでござる」
「自分はアリアっス。こっちは自分の先輩でミリアっていうっス。権兵衛さん、以後よろしくっス」
初対面で俺を「リベタス」と呼び捨てにしていたアリアが「さん」付けか。
年上に敬意を払っているのか、それともいきなり現れた人間を警戒しているのか。恐らく後者だろうな。
「こちらこそよろしくお頼み申す。それで、聞きたいこととは何でござるか?」
「その、権兵衛さんは自分ら魔族のことが憎かったりしないっスか?」
「……?あぁ、なるほど。魔族の近くにいると感じる不快感の事でござるな?久しく感じていなかったから忘れておったでござる」
不快感?そういうのがあるのか。
俺はそう言うの感じたことないけれど…。この世界の「人間」特有のものか?
何か重要そうだけど、魔王様やミリアさんが教えてくれなかったのは何故なんだろう?
もしかしたら、魔王様の抱えている事情に深く関わる事柄だったりするのだろうか?
「そんなもの齢十になる頃には
「なんかサラッととんでもないこと言ってやがるっスよ、この人」
うん、良く分かんないけど、この人は間違いなく強キャラだわ。
なんかさ、ファンタジーの「サムライ」系って基本強キャラよね。
ござる侍登場