「なんッでテメェがここに居やがる、
「今の拙者は「権兵衛」という名で通ってござる。出来ればそのように呼んでいただけると幸いにござるよ、若頭「イサラキ」殿」
集団のリーダーらしき一際大柄な鬼が権兵衛さんに問いかける。
どう考えても「剣聖」って権兵衛さんのことだよな。やっぱり超強キャラだったんだな、この人。
「テメェの今の名なんざ知るか!わかってンのか、テメェが今庇ってんのは鬼だぞ!あんだけ斬ったテメェが…!」
「拙者、女を守りたいという男の願いに助太刀致しただけにござる。まぁ、貴殿ら鬼に「サムライ」の流儀を理解しろとは言わぬがな」
すると、権兵衛さんが左手を刀の鞘へ、右手を柄へと添える。
「さて。相手が悪鬼といえども、剣を交えるならば名乗らねばなるまい」
いつでも刀を抜ける体制となった権兵衛さんは、朗々と名乗りを上げていく。
俺の厨二ヤケクソ口上なんて比べ物にならないくらい様になっている。これが本物ってやつか…。
「拙者は権兵衛。誇る故郷もありはせぬ、ただの名無しの権兵衛にござりまする。リベタス殿の心意気に感服し、その戦に助太刀させていただくことと相成りました」
気付けば、鬼たちと権兵衛さんの間に深い亀裂が出来ている。
腐葉土の層を超えて下の土まで続く深い深い断裂だ。
まるで、剣で斬られたかのように真っ直ぐで…え、まさか。
「そこより先は拙者の間合い。死ぬ覚悟がある者のみ踏み込みなされ。いざいざ尋常に勝負と参ろうか!」
え、いつ動いたのこの人?俺何も見えなかったよ。権兵衛さん全く動いて無いようにしか見えなかったんだけど?
俺のスペックが低すぎるだけなのかと思ってアリアの方を見てみたら、アリアもポカンとしている。よかった、異常なのは権兵衛さんの方だ。
「ちィ!ここは引くぞ!」
すると、リーダーさんが大声で撤退を指示する。
「大将!いくら何でもこの数で負けることは無ェでしょ………ぉあ?」
……は?
リーダーさんの言葉に反対の意を示して前に進み出た鬼の体が
いや、おかしいとはわかってるんだけど、そうとしか表現できない。
急に体中から真っ赤な血が噴き出したのだ。
「安心なされ、殺してはござらん。まぁ、早急に手当てせねば危険であることに変わりはござらんが。ソヤツを連れて撤退することをお勧め致す」
もしかしなくても権兵衛さんがやったんだよな?やっぱり全く動いていないように見えたんだけど…?
「わかんだろ、アイツは怪物だ!殺りあえばこっちも無事では済まねェ!今は計画が第一だろォが!いいから引くぞ!」
そうして、ボロボロになった鬼を抱えて鬼の集団は撤退していった。
最後に比較的小さな女性の鬼がこちらをジッと見ていたようだが、なんだったんだ?不気味な仮面のせいで目線は分かりづらかったけど、多分、見ていたのは俺だったよな?
ともかく、気になることは多いが助かった事だけは間違いない。
「……ふぅ。頭の回る奴で良かったでござる。殆どは取るに足らぬ雑魚にござったが、あの若頭と仮面の鬼…あの二体だけは別。あれ程の強者たちを同時に相手取れば拙者とて無事では済まんかったでござろうからな」
「俺には何が起こったのか全く分からなかったんですけど…ありがとうございました。おかげで窮地を抜け出すことができました」
「ありがとうございますっス。権兵衛さんは命の恩人っスよ」
俺が感謝を伝えると、アリアもそれに続く。
「かっか!これは拙者がやりたくてやった事にござる。むしろ、助太刀を受け入れてくださったことに拙者の方が感謝すべきにござろう。リベタス殿、感謝いたす」
いや、どう考えても助けられたのはこっちの方なんだけど、これが権兵衛さんの、「サムライ」の流儀ってことなら合わせるべきなのかな。
「さて、見るに傷を癒す場所が必要でござろう?よければ、拙者の庵に来てみては如何か。食料と薬の蓄えもそれなりにござる」
「何から何まですみません。よろしくお願いします」
お世話になり過ぎの気もするけど、今は藁にも縋りたい状況。時間の猶予もないし、ここは権兵衛さんの厚意に甘えさせてもらうべきだ。
あとでちゃんと何かしらのお礼はしなきゃいけないだろうけど。
「それでは……む!」
ん?
「狙撃…危ない所でござったな。やはり油断ならぬ強者であったか」
権兵衛さんのつぶやきと同時、真っ二つに斬られた矢が地面に落ちた。
どうやら、俺を狙って矢が放たれたらしい。アリアを狙撃したのと同じ鬼だろう。
また権兵衛さんに助けられてしまった。何をすれば恩が返せるか分からないくらい積み重なってきたぞ…。
◆
「テメェなぜ撃ちやがった?俺は撃てと命令したかァ!?」
大柄な鬼「イサラキ」が仮面の鬼「シア」へと怒りも露わに問い詰める。
「いいえ、命令はされていません。この距離ならば術式の矢ではなく、実体を持つ矢が届きます。そのため、あの人間を始末する絶好の機会だと思い、独断で放ちました」
「道具は命令に従ってりゃァ良いんだよ!」
鈍い音が響き、シアが地面へと倒れ込む。
イサラキがシアを殴り飛ばしたのだ。
「申し訳、ありません」
「チッ、おい「ヤゼ」。こっち来やがれ」
「へい」
すると、イサラキはヤゼという鬼の男を呼ぶ。
目の周囲には隈が広がり、暗い雰囲気を繕った鬼だ。
「シアを見張れ。不穏な動きがあったら直ぐに知らせろ。どうしようも無ェ時はその場で始末しても構わん」
「へ?あの人形が裏切るとは思えやせんが?」
「アイツは今、自らの判断で矢を放った。完全に自意識が亡くなっているわけじゃァ無ェってことだ。姉を殺す状況に躊躇って裏切りを考えているかもしん無ェだろォが」
「なるほど、納得しやした」
「さっきの推測だって怪しいモンだぜ。あの人間が強力な術を複数使えることだって十分考えられる。シアの裏切りと、情報元の裏切りが無ェかどうか調べやがれ」
「へい、了解しやしたぜ。大将」