「武」の四天王ドラゴネスさんがショタっ子ボイスで「客人」宣言をしたことで、俺の待遇は随分と改善された。
まだ好意的に話しかけてくるような魔族はほとんどいないとはいえ、あからさまに敵意ある視線を向けられることが随分と減ったのだ。これだけでだいぶ精神的には楽である。偶然にも最初に話しかけてきたのが彼で、かつ、あのような感じで話が進んだのは奇跡的だったと言えるだろう。
あの後、彼は仕事があるとかで早々にいなくなってしまったが、できればもっと話していたかった。あのショタっ子ボイスは癖になる癒し効果がある。
今の俺は、魔王様が準備してくれているという歓迎会の開催を待っている。元の世界では誕生日が長期休暇の真っ最中ということもあって、家族以外から誕生パーティも行われたことない俺が妙な状況になったモノだ。城という巨大会場貸し切りで王様直々の主催で大勢の魔族の方々による歓迎会である。やべえ嬉しいけどちょっと緊張してきたわ。
そんな感じで緊張真っただ中の俺はじっとしていることもできずに城内をウロウロ探索していた。俺は「魔王の客人」ということで城での自由行動も許されているらしい。なお、独りでの行動ではなく、俺専属のメイドさんが1人付けられての行動である。
このメイドさんも当然ながら魔族さんで、あととても美人さんだ。黒い肌に深紅の瞳が宝石のように美しく煌めいて、おでこの辺りの2本の角が可愛らしくチャーミングである。魔王城滞在中のさまざまなこと(意味深)を彼女がサポートしてくれるそうだ。嘘である。サポートは本当だけど、そんなエロ同人みたいな展開はない。そもそも立場を振りかざしてのアレコレとか俺は嫌いなのだ。
そんなわけでメイドさんの彼女――名前は「ミリア」さんというらしい――とお城デートと洒落込んでいるわけだ。因みに、俺の服は血だらけだったのでミリアさんが用意してくれた魔族の衣装に身を包んでいる。全体的に黒っぽいけど、シュッとしていて格好良い。漆黒の服とか漆黒の何たらって厨二心を非常にくすぐられるよね。彼女は多少俺の知っている代物とは異なるがメイド服を着用している。
そうして歩いていると何となく見覚えのある像を見つけた。何やら美しい女性の像である。何者かを象ったソレは、巨大な通路を眺めるようにして鎮座している。なんだったっけコレ?どこで見たんだろうかこんなの…?
…あぁ、そうだ。確かこの像の裏側に超強力アイテムが落ちていたんだったか。ゲームにおいては装備するだけで魔法攻撃による被ダメージを0.8倍にする破格の性能だった筈だ。魔族はその名の通り魔法主体の戦い方を好むので、魔王挑戦前にここで指輪を獲得することはプレイヤーにとっての常識であった。
仮にそれがここにあるなら是非とも回収しておきたいところである。今は多少改善されたとはいえ、そんなすぐに人間への敵意がなくなるわけじゃないだろうし。俺の身の安全のために持っていて損はないはずだ。もっとも、過酷な冒険を乗り越えた勇者一行ならともかく、ただの雑魚の俺がダメージ20%減したところで一撃も耐えられないことは明白ではあるのだが。
…そんなわけで色々と調べてみたんだが、何にもない。裏側に指輪なんか落ちていないし、像の裏側に謎のボタンとかギミックとか隠されているわけでも無かった。おかしいな?
そういう仕事だからかミリアさんは特に何か文句を言うでもなく、ジッと俺の背後に控えてくれているようだ。とはいえ、急に女性の像を念入りに調べ始める奇行である。客観的に考えて危ない奴の行動だし、事実彼女の顔も怪訝なものになってしまっている。まずい。
とりあえず話を振りつつ誤解を解かないといけない。俺専属美人メイドさんに変態認定されてしまうのは今後色々と気まずいなんてもんじゃない。
「えーっと、変なことを聞くようですが、この像の裏側に指輪が落ちていたとかそういう話を知りませんか?」
「指輪、でございますか…?一体どういうことでしょう?」
彼女の顔がさらに怪訝なものとなる。もはや不審者を見るものと大差ない。
けれど、彼女の誤解を解くのは勿論として、この世界におけるアイテムがどのように扱われているのかも把握しておきたかったのである。ここから上手いこと話を進めて、彼女の誤解を解きつつ情報収集も行うのだ。
「実は俺は夢で予知夢のようなものを見ることが多いんです。今朝も来たこともないはずのこの城のことを夢に見ていまして、その夢の中で俺はこの像の裏側で指輪を拾っていたんですよ」
俺はゲーム知識をどのようするかと悩んだ結果、予知夢という不思議現象として扱うことにした。こればっかりは見た本人にしかわからないはずだし、ゲーム知識と異なったことがあっても「夢だから」で片づけられる。魔法なんてものがある世界だし、地球よりもこういうファンタジー現象への理解は深いはずだ。多分。
ミリアさんの反応次第で予知夢作戦の今後の展開も決まる。意外とうまく誤魔化せそうなら今後も予知夢として扱い、無理っぽければ新しい手段を考えなければならない。
そして、彼女の反応は…。
「なるほど予知夢ですか。そういうこともあるかもしれませんね」
拍子抜けするほど簡単に信じて貰えた。あれれ~おっかしいぞ~?
「あれ?意外とすぐに信用してくれるんですね。もっと信じてもらえないものかと」
「そうでしょうか?古来より未来を予知する魔法は存在しておりますし、魔術理論も真面目に研究されています。加えて夢を利用した魔術は王道とも呼べるものです。それほど不思議なことは…。あぁ、もしかして人間のゴミ屑どもはそんなことも異質扱いしているのですか」
うん?なんか雲行きが怪しいぞ?
「アレらの魔術の知識は浅いですからね。困ったときは魔法や魔術に縋るくせに、それらに長けた私たちを恐れ、迫害してきたのですから愚かの極みです。魔女狩りなんてものをしていたこともありましたか…本当に救いようがありませんよ。貴方も理解されずに苦労していたのでしょう。少なくともこの城では予知夢を頭ごなしに否定する者なんていないと思いますよ」
なんか勝手に自己完結されてしまった。まぁ、俺に不都合はないし、このままでも良いかな?嘘をついているようで心苦しくはあるけれど、この世界をゲームとして知っていますなんて話よりよほど混乱させないはずだ。婆ちゃんは正直者が一番とは言ってたが、爺ちゃんは「嘘も方便だ」ってしょっちゅう言ってたし。なんであの二人、おしどり夫婦として長年つれ添えたんだ?
それはそれとして、問題は俺を疑わないのかということだ。
「いや、それもそうなんですが、俺が嘘をついているとか考えたりしないのかな、と」
「嘘をついてまで女性の像を調べる必要性がどこにあるのですか?よほどの変態でもなければそんなことしないのでは?」
やっべ正論過ぎる。その通りだわ。
「まさか、それとも女性の像に、それもこんな人目の在る往来で欲情するのですか貴方は?」
「いえ、そんなことは断じてないです」
俺の人生でも一二を争うほど真剣な否定だった。改めて言葉にされると変態性が凄まじいものである。二次元やフィギュアに特別な感情を抱くことまで否定する気はないが、時と場合を考えろというやつだ。
「まぁ、それはともかく、実際貴方が嘘をついていても特に関係はありません。私は包み隠さず貴方のことを報告しますし、その上で判断を下すのは上の人たちの仕事ですから」
そう、彼女は俺の世話役であると同時に監視要員でもある。考えてみれば当たり前だ。素性の良く分からぬ異邦人を、客人とは言え国の中枢で野放しにするわけがない。
つまりは、予知夢があったという前提はあるとはいえ、女性像を詳しく調べていた事実は何人もの魔族に共有されるのである。今更だが早まったとしか思えないぞ。
「それで指輪が落ちていなかったかという問いかけへの答えですが、確かに落ちていましたよ。貴方の夢の力は予知とは違うかもしれませんが本物でしょう」
「え、本当に?」
「えぇ。とはいえ、もう何年も前の話になりますが。掃除をしていたら像の裏側で怪しい指輪を見つけました。持ち主を探したのですが見当たらないという怪しい指輪です。当然ながらそんな不審物をそのままにしてはおけないので、念入りに調べた後に破壊して捨てました」
「捨てたの?マジで?」
「マジです」
「そっかー」
うーん、なるほど。ボスの部屋の直前とかに強力なアイテムがあったりするRPGの謎は、この世界では通用しないようだ。どういう経緯かこの世界においても指輪は落ちていたが、行き届いた掃除によって捨てられてしまったのだから。恐らく、他のアイテムも似たり寄ったりな状況だろう。別の誰かに見つけられてしまっていたり、獣が持って行ってしまったり、雨に流されてしまったりって感じで。
拝啓、いずれ選び出される勇者様。君の冒険は想像以上のハードモードになりそうですよ。
〈以下お知らせなど諸々〉※読まなくても大丈夫です。
・試作アンケートについて
前回の話の最後に試作アンケートを設置してあります。今後やってみたいなと考えているキャラ人気投票などのための試験的なものです。ご協力いただけると幸いです。
・誤字報告への感謝について
また、ある方より誤字報告を頂きました。ありがとうございます!より良い文章にすることができました。
頑張って完結までたどり着きたいと考えておりますので、これからも応援していただけると幸いです。
それでは今後も『ゲーム知識がまるで役に立たないのだけれど?』をお楽しみください。