さて、パーティも終わり、俺は俺に与えられた部屋にいた。
元の世界における俺の部屋より広い。家電とかがないとはいえ、広い部屋というのはそれだけで嬉しいものである。しかも壁が厚いから、周囲の人に配慮する必要がない。大声で歌っても隣の住人に「公害やめろ」などと言われなくて済むのだ。俺の歌は披露する度に公害認定されてきた。何故だ。
ちなみに、ミリアさんはここにはいない。隣の部屋が彼女の部屋となっているそうで、俺が部屋から出ようとすると魔術的ななんやかんやで感知されて彼女がやってくる。忘れそうになるが、彼女は監視員なのだ。
しかし、流石に疲れた。この後魔王様に呼ばれているとはいえ、魔王様自身はまだいろいろとやることがあるらしい。お食事デートまではまだ時間があるようだ。
時間になればミリアさんが呼びに来てくれるそうだし、俺は少し眠るべきだろう。空腹もあるが、それを上回る睡魔が酷い。思えば、異世界転移してから今まで半日以上、殆ど休養を取らずに活動をしている。元の世界で滅多にみなかった死体や流血も目撃したし、魔族たちの射殺すような視線にも晒されていた。これほど疲れて当然だったか。
あぁ、本当に眠い。
◆
…?
なんだかいい匂いがするな。
なんだろう、これは。…あれ、体が動かないぞ?
…うん?なんか腰のあたりに乗っかっている感覚がする、ぞ…?
「おう、起きたか。リベタス。もうちょっとで終わるから天井の染みでも数えてろ」
「一体ナニをしていらっしゃる!?」
一瞬で覚醒したわ。二度寝常習犯とは思えない瞬間覚醒である。元の世界にいた時に身につけたかった。
だが、それもそのはず。起きたら俺の身体は手錠っぽいものでベッドに拘束され、魔王様が俺の腰辺りに馬乗りになっている。加えて、何故か俺の上半身は裸にされている。
やっちまったのか、俺は?一夜の過ちとかそういうやつか?魅力的な存在だと思っていたのは事実だが、会った初日の、しかも一国の主に手を出したのか俺は?
いや、いや。それはおかしい。どう見てもこれは俺が襲われている。それに下半身はまだ衣服を着ている。まだ大丈夫だ。大丈夫のはずだ。部屋でロリを体に乗っけてSMプレイに興じているようにしか見えないがまだ引き返せるはずだ。
「何とな?お前の体は特殊だから色々と調べていたのだ。このまま食事もできないようでは餓死することになるぞ?」
「…あぁ、なるほど。そういうことですか。ありがとうございます、魔王様。ただ、せめて起こして一言かけてほしかったのですが」
「ミリアが声をかけたのに起きなかったのはお主だ。まぁ、疲れていることは明らかだったからな。寝ている方が処置も楽だし、そのまま弄らせてもらった」
あー二度寝常習犯全く直ってなかったわ。起きてすらいなかったのか俺。
すると、それまでどこか嗜虐的な笑みを浮かべていた魔王様は急に辛そうな悲しそうな顔になってしまった。
「すまなかったな」
「え?」
「余がお主を連れまわしてしまったばかりに、これだけ疲労させてしまった。全ては余の我儘が招いたことだ」
何を言ってるんだ、このロリは?
「いやいや、俺が魔王様に感謝することはあれ、魔王様が俺に謝る必要なんかどこにもないでしょうに」
「いや、余はお主を人間の地から連れ去って、周りに魔族だらけの環境に放り込んだのだぞ?罵られて当然の…」
あぁ、もう。ふざけんな。
「いいですか。俺が貴女に助けてと言ったんです。貴女はそれで魔物溢れる森から俺を安全な城まで連れてきてくれた。真の名を隠す必要性を教えてくれて、新しい名前をくれた。ミリアさんをサポートにつけてくれた。これで何を貴女が謝る必要があるんですか?」
そうだ、これだけのことをしてもらっていて文句などあるわけないではないか。彼女は自分にできる範囲で精一杯俺のことを考えてくれた。
「あぁ、それと。多分だけど、四天王のドラゴネスさんを俺と同じ部屋に突っ込んで最初に話しかけさせたのも魔王様の仕込みでしょ?」
「…え、何故それを?」
「いやいや、流石に順調すぎましたよ。あそこで地位も実力もある「武」の四天王さんに真っ先に声をかけさせて俺を認めさせる。そうすれば、他の魔族も認めざるを得ないってことでしょ?しかも、あの後ドラゴネスさんは直ぐにいなくなって、パーティにも出ていなかった。本来なら忙しくて手の空いてないような方だったんでしょう?それを貴女が俺のために連れてきてくれたってことかと思うのですが、どうでしょうかね」
「…む、むぅ」
図星だったんだろう、色白の顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
「ここまでされて、文句なんかいう訳ないでしょうに。だから、ありがとうございます、と。俺が言うべきはそれだけです」
「そ、そうか…。ばれてしまっては仕方ないな!ならば余に存分に感謝するが良いぞ!」
未だに顔は真っ赤だったけれど、羞恥を振り払うように彼女は踏ん反り返って偉そうにしはじめた。照れ隠し下手だなーこの王様。
「まぁ、唯一言うべきことがあるとしたら、この手錠は外してほしいということですかね」
「む、すまんかった。処置の間動かれるとやっかいだったのだ。直ぐ外そう」
どうやらこの手錠も魔法的な何かだったらしい。魔王様がぱちんと指を鳴らしただけで霞のように消えてしまった。
鉄のような見た目だったけどちっとも痛くなかったし、そういうところも配慮してくれていたんだろう。本当に、優しすぎる魔王様だ。
「ならば、さっそく約束の食事といこうではないか!式の間は酷なことをしてしまった。余の部屋に用意してあるゆえ、直ぐに向かおうぞ!」
だから、俺はこの優しい女の子の力になりたいと、そう思うのだ。
ゲームの登場人物として知っている悪逆非道の魔王の、じゃない。
もしかしたら彼女は本当にゲームのように残虐な一面を有しているのかもしれないし、既に身の毛もよだつような恐ろしいことをしているのかもしれない。
だが、それらのかもしれないなんて知識は関係ない。ゲーム知識なんて役に立たないものは今は捨て置け。
ただ、俺は俺の目の前にいる優しすぎる少女の手助けになりたいのだ。
だから、確かめておかなければならない。
「魔王様、その前に色々と明らかにしておきませんか」
「お主、何を言って…」
「貴女が置かれている状況と、抱えている苦しみを、ですよ。俺は凡人ですからね。生き残るために観察に徹して周りの情報を集めまくりましたから。だから、誤魔化しはなしです」
さぁ、暴こう。曝け出させよう。彼女の抱えている苦しみを。
「……なぜ、そのようなことを言うのだ?」
何故、か。
そりゃ、俺のような凡人に何ができるかなんてわからない。
ゲーム知識なんていう今のところ勝率ゼロに近しい役に立たないものしか俺は持っていない。現代科学の深い知識があるわけでも、恵まれた天性の肉体があるわけでも、神様にチートを貰ったわけでもない。魔法も魔術も使えないし、鍛えた武技もないし、特別な特技があるわけでもない。
けれど。
何ができるかなんてわからずとも。
何かしたいと、そう思うのだ。
恩を受けたから、というのも当然ある。
けれど、何よりも。きっと。
これは断じてゲーム知識によるものではなく―――
「単純に、優しい少女の手助けがしたいと思ったからですよ」
―――俺が見たものを理由とした、俺の意思だ。
◆
「単刀直入に言います。
「な…!そんな、ない、わけじゃない、ぞ…?」
なんだ、その反応。嘘下手過ぎかよ。
「……どこで気付いた?」
「いろいろありましたが、主な点は3つ。決定的なのは1つですかね」
細かいところをあげていけばもっと増えそうだったが、とりあえずハッキリしているのだけ告げていこう。
「まず、俺と魔王様が初めてあった時ですかね。あそこに
そうだ。それがおかしすぎた。
あの時、
あの時の俺は武器も何も持っていなかった。
そんな俺が彼女の元へたどり着けたのは、彼女の周りに魔物がいなかったからに他ならない。
つまり、彼女は町を襲っていた魔族ではない。
「なるほどな。…確かに、その通りだ。あの時あの人間の町を襲っていたのは魔族の中でも特に過激な主張を掲げる派閥の者であった。余はあの時、それを止めに向かい、結局間に合わなかっただけのことよ」
そうだろうなとは思っていた。人間滅ぶべし!みたいな思考で魔王様が動いていたら俺を助けたのも聖女ちゃんを見逃したのも不可解だからな。
そうして、それは魔王様の発言のみでは魔族全てを制御することができないということに他ならない。これが1つ目の不可解な点だった。
恐らく、ここにはもっと複雑な事情があるし、それが全ての根底にあると思う。
だが、それを掘り下げるのはまた後だ。とりあえず今は俺の答えを示しておかなければならない。信用が無ければ聞けない話題も多そうだからな。
「2つ目。これが決定的だったと言っても良いかもしれませんね。
魔王様が客人として連れてきたのに魔族の皆さんは敵意に満ちた目線を向け続けた。
しかし、
「はは、そうか。本当に情けない限りだがな。余の発言力など全くないよ」
魔王様が目に見えて落ち込んでしまっている。けど、彼女の事情を詳しく知らない俺ではうまく慰めることなどできない。とりあえず、今はさっさと根拠を明らかにしてしまうべきだろう。詳しい話はあとでいくらでもできる。
「3つ目。食事ですよね、やっぱり。これは魔王様も薄々と気付かれていることは察していたのでは?」
「まぁ、な。流石にあれで気付かないというのは無理があるだろうよ」
「…毒、ですよね。恐らく」
「…あぁ。食材に魔力があるというのは本当だし、それが益ある効果ばかりではないのも本当だ。とはいえ、お主のようにそもそも魔力を受け入れる器官がないのならば安全に食せる可能性が高かった。まぁ、絶対ではなかったので先程詳しく調べたがな」
「なら、警戒していたのはやっぱり」
「魔族には効かなくても人間は殺せる毒、だな。そんなもの初歩的な魔術知識で誰でも作れる。それを混ぜられてしまえば余はお主を護れなかった」
だからこそ、あの場で食すなとの命令であったのだろう。
そもそもこの土地全ての食材に魔力があって俺には食えないというのが事実であったら、
「そのうえで魔王様も一緒に後で食べるってのは…」
「余はいつものことだ。余がいつも式の後で食事をしているのは事実だよ。王ともなれば常に命を狙われておる。まぁ、余の場合はそれだけではないがな」
「…その理由は教えてもらえたりするんですかね?」
「……それ、は」
ここまでしっかりと答えてくれた魔王様が返事に窮する。やっぱり簡単には教えてもらえないような複雑な事情があるんだろう。
「今は難しいならいいですよ。俺のことをもっと知ってもらって、お互いがお互いのことをもっと信頼できなきゃダメでしょうしね。俺の信用なんて今は皆無でしょ?」
忘れてはいけないが、俺は未だ身元不明無一文の不審者だ。彼女には俺のことを知ってもらって信用して貰わなければならない。それこそ、ゲーム知識の件だって彼女には明かしても良いと思っている。
だから、今の時点で俺の信用なんてゼロに近いと思っていたんだが…。
「そんなことはない!」
「え?」
「お主は、もう既に余に多くのものを与えてくれておるよ」
「覚えなんてないんですが…?」
「ふふ、お主はそれでよい。本人に自覚が無いからこそ嬉しかったこともあるのだ」
そういうものか。これを突いて掘り下げるのは野暮ってものなのかもしれないな。まぁ、魔王様の事情を知っていくうえでわかっていくこともあるのだろう。
俺が彼女のためにすべきこと。彼女のためにしてあげられること。そして彼女のためにしてあげたいこと。そういったことがきっとわかるはずだ。本人が既に受け取っていると言っても俺の気が収まるわけじゃない。
何故なら、これは俺がしたいことだからだ。
「ただ、な。簡単に語ることができる内容でもないし、余の心も主を巻き込んでしまうことに決心が定まっておらん」
「後者は俺のことは気にするなって話ですが、こればっかりは本人の気持ちですからね。待ちますよ。とりあえず、冷めちゃうから先に一緒にご飯を食べませんか?」
「そうだな、話なら後でいくらでもできる。よろこべ、実は余の手作りなんだぞ」
なんだと!女の子の手作り、だと!?しかもこんな美少女の!?やっばこれだけで異世界転移勝ち組と言えるのでは?
「え、すごい!魔王様、王様なのにいつも自分で作ってるんですか!?」
「いや、初めてだが?」
「え?」
「え?」
「はじ、めて…?」
「安心せよ!余にできぬことなど無いからな!」
「はは、そうですか…」
味はお察しだった。でも頑張って食った。魔王様は途中で味に気付いて俺を止めたが、それでも俺は止まらずに食ってやった。食材がもったいないのもあるが、美少女が俺のためにつくってくれたものを残すとかあり得なかったのである。
その場にいたミリアさんが俺のことを見る眼差しは偉大な英雄に向けるそれであった。初めて彼女から尊敬に近い感情を向けられたかもしれない。
この魔王様はかなり頭脳派の魔王様。主人公の体質(魔力無し)も勘違いせずにちゃんと見抜いてる。が、それとは別の所でちゃんと勘違いもしてる(詳しくは次回)。
これから魔王様のヒロイン力の加速が留まるところを知らなくなる予定。
<あとがきなど>※読まなくても大丈夫です。
・今後の展開について
次回、魔王様視点の話を投稿した後に、その次の話でキャラの設定公開と共に第1回キャラ人気投票を行います。
・「小説家になろう」様への投稿について
ガチガチのなろう派の友人から「なろうに投稿しないの?」と言われ、投稿してみました。なろう版は改稿版になり、多少読みやすくはなっていますが、投稿がハーメルンよりも遥かに遅くなります。こちらも随時おかしな文章は修正を加えていくので、2つのサイトで内容に大きな違いが出ることはないと思われます。
・応援への感謝について
多くの方から感想で応援のメッセージを頂きました。本当に励まされました。応援を糧にこれからも更新を頑張っていきたいです。
今後も当作品をよろしくお願いいたします。