ゲーム知識がまるで役に立たないのだけれど?   作:夢泉

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『ラスボス』

 余は「魔王」だ。

 「魔王」という名を与えられた、世界を回す歯車の1つに過ぎない。

 

 そのことに気付いてしまったのはいつ頃だったか。もはやよく覚えていない。物心を覚えた時には自らの異質さには気付いていたように思う。

 

 そしてそれは恐らく、余が()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。

 余の父は先代魔王であり、魔族であった。

 だが、母は人間であった。

 本来、魔族と人間は決して相いれることはない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そもそも「魔力」とは何か。簡単に説明するのならば、命が活動する限り生み出され続ける力。生命力とは似て非なるもの。生きるという行為が生み出す神秘性が力となったものだと考えられている。「()」は生命が生み出す未知を望む。それ故に、生きるという可能性に満ちた行為へと祝福を与えているのだ、というのが最新の魔力の見方である。

 それを炎や雷、或いは暗示や回復といった様々な形で出力するのが「魔法」や「魔術」だ。より詳しくは、種族や個人に特有の能力が魔法であり、万人に扱える術としたものが魔術となる。

 生物は生きている限り、この魔力を生み出し続ける。多くは体を循環し「体内魔力」として存在するが、過剰分の魔力は体外へと排出されている。

 この時、魔力の移動には1つの法則性がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 そしてこの魔力が有する性質こそが人間と魔族が憎しみ合ってしまう根本的な原因である。

 人間と魔族の混血である余だからこそ、この事実に気が付いてしまった。

 

 魔族は総じて多くの魔力を生み出し、蓄える。対して、人間は魔族と比べて遥かに少ない魔力しか生み出せず、蓄えられる限界量も少ない。

 故に、人間と魔族が近くに存在した場合、魔族から人間へと魔力が流れ込む。

 

 個体によって差はあるが、すべての生物には魔力の許容限界がある。それを大きく超えて魔力を注がれてしまうと、軽い段階では体調を崩し、より過剰に注がれると最悪死に至る。

 

 だから、魔族と人間が同じ空間にいれば、それだけで人間の体調は悪くなる。また体が本能的に魔力の流れを感じ取るので、人間は魔族に対して強烈な嫌悪感を抱く。つまり、人間は魔族を見ただけで吐き気を覚えるようにできているのだ。

 

 この嫌悪感があるから、人間は魔族を排斥・迫害してきた。魔族の国が過剰な魔力で満ちた人間が住めない地に存在するのは、人間から逃れてきた結果である。当然、野菜や家畜にも許容魔力上限は存在するので、当初はまともな食料さえ手に入らない痩せた地であったと聞く。先人の様々な工夫の末に少しだけマシな環境となったが、未だ過酷な地であることは変わらない。この歴史があるから、魔族は人間を憎む。

 

 このように、魔力がある限り人間と魔族が共に暮らすなど不可能である。

 まるで、誰かが人間と魔族という対立構造を意図的に作ろうとしているようではないか。

 もし、そうであるならば。「魔王」という魔族の頂点は滑稽な駒、1つの大きな歯車のようではないか。

 

 だが、父と母の間には余が出来た。憎しみ合う存在の間に、種族の壁すら超えて余が産まれた。

 なぜ人間と魔族という相容れない種族の二人が交わったのかは知らない。

 父と母が種族の垣根さえ超えて、世界が定めた理すら超えて愛し合ったのかもしれないし、単純に父が母を戯れに犯したのかもしれない。恐らくは後者だとは思うけれど、真実を知る者はもはやどこにもいない。

 

 母は余を産む前に亡くなったと聞いている。魔族と交わったこと、魔族の子を宿したことが原因だろう。むしろ出産直前まで生きていたことが奇跡と言える。そうして、余は人間の母の亡骸から産まれたのだそうだ。

 その母の姿は知らない。魔族の王が人間と体を重ね、あまつさえ人間との間に子を儲けたことなどあってはならないことだったから。だから、母が存在していた形跡は徹底的に消されている。絵も無ければ像も無い。ドラゴネスが渡してくれた母の形見だという小さなブローチだけが、彼女がこの世にいたことを示している唯一のものだ。

 

 父も先代勇者に殺されて既にこの世にはいない。だから、真相は分からない。ずっと父に仕えていたドラゴネスすらも詳しいことは知らないと言っていた。

 

 ともかく、余は人間と魔族の血を受け継いで産まれた。それは即ち、人間と魔族の両方の特性を備えた化け物として産まれてしまったことを意味していた。

 

 人間は周囲の強い魔力を寄せ付けてしまい、それから悪影響を受けるが故に魔族を嫌悪する。

 魔族は大きな魔力を有するが、それ故に人間から醜悪な脅威として認識される。

 この両方の特性を余は有していたのだ。

 

 人間の特性を有した余は強大な魔力を生み出せない。だが、魔族の特性をも有する余は巨大な魔力を貯蔵することができる。

 本来、余が生み出す魔力は、この土地と土地に住まう全ての生物が有するどんな魔力よりも小さい。そのため、この地にある全ての魔力が余に向かって流れ込んできた。通常、そのような状態に陥った人間の体は呆気なく破裂する。けれど、余は違う。余は魔族の特性も有している。だから、耐えられた。それどころか、その全ての魔力を己の魔力として貯蓄し、全ての生命を凌駕するほどの魔力を有する存在となった。…なってしまったのだ。

 

 吸収した結果、余は如何な魔族と比べてさえ異常な程の魔力を有するようになった。だから、魔族ですら余を恐れ、嫌悪する。そもそも人間の血が混ざっているというだけで魔族たちは嫌う。

 人間も魔族も獣も。全ての命は本能的に余を恐れ、嫌うのだ。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()

 余の魔族の特性が貯め込んだ膨大な魔力を、余の人間の特性が嫌悪する。

 だから、余は余自身が憎らしくて汚らわしくて忌々しくて仕方がない。

 どれだけ気持ちを落ち着けようと、魔術を用いて冷静になろうと、本能的に己自身の力を憎悪している。

 

 気付けば、己を自傷している。

 ふとした時に無性に体をかきむしりたくなる。

 執務の最中、疲労で精神の枷が緩むと、いつのまにかペンで自身の手を突き刺している。

 寝ている間に、無意識のまま魔術で己の体を壊そうとしている。

 

 膨大な魔力を有する余の傷は直ぐに治る。回復魔法・魔術が存在していることから分かるように、魔力は体の治癒能力にも影響するからだ。

 傷は治る。けれど流れ出た血は残る。

 

 毎朝起きた時、鏡に映る血だらけの姿を見て思うのだ。

 あぁ、なんて歪で醜い生き物なのだろうと。

 

 

  ◆

 

 

 だから、そんな化け物を「聖女」なんて呼ぶ人間が現れることなんて考えても見なかった。

 

 ソイツは奇妙な存在だった。

 見たこともない服を繕い、自分が戦場にいるのだという自覚すらなさそうな間抜け面を晒していた。表現が難しいが、自分の命が危ないことを知識としては知っていても感覚として知らない、とでも言えばいいのだろうか。

 一体、どんな生き方をしてきたらこんな人間になるのか皆目見当もつかなかった。

 

 しかもソイツは、余にホイホイ「真の名」を明かしてくるような馬鹿だった。

 ありえないことだ。心臓を剥き出しで渡しているようなものだ。

 ただ、詳しく話を聞いてみると「真の名」の事すら知らないようだった。

 だから、この危機感の足りない馬鹿に「真の名」を明かす危険性を教えてやった。それで少しは怯えるかと思ったら、「教えてくれてありがとうございます」とか言ってくるのだ。

 余が呪うとか殺すとか微塵も疑っていないようだった。意味が解らなかった。理解不能だった。けれど、どうしようもなく嬉しいのも事実だった。

 

 実を言えば、「聖女」呼びは男が何かを勘違いした結果であるということは、かなり早い段階で気が付いた。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 己の姿を直視できる誰かがいたことが嬉しかった。

 そばにいて傷つかない誰かが存在していたことが嬉しかった。

 

 だから、ソイツの「助けてほしい」という願いくらい叶えてやろうと思った。

 何から助けるかなんてわからないままに安請け合いし、方法なんてなんでも良かったのに城に連れ帰ることを選んだ。

 

 あの時はよくわからなかったが、情報が集まってくればわかることもある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だって、魔力を持っていない存在など自然ではあり得ない。生きている限り湧く力が無いということは、それは死んでいるということになってしまう。けれど、ソイツはしっかりと生きている。

 しかし、この矛盾も自然のものでないのなら、或いは可能性がある。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 余も魔術の研究者の端くれだ。少しでも自分の体のことを知ろうと躍起になって魔術知識を学んできた過去がある。

 だから、わかる。わかってしまう。「魔力無し」という存在が如何に研究材料として優れているかということが。「魔力無し」を実験に使うことでどれだけの未知が切り拓かれるのか、ということが。

 

 人か、魔族か。何者かが「魔力無し」としてコイツを生み出したことは間違いない。

 「真の名」しか知らないことは決定的な証拠ともいえる。…なぜなら、実験で体を弄る時に「真の名」が剥き出しになっていた方が術をかけやすい。そも、人間らしく生かすつもりがなく、初めから実験体としてのみ使う予定であるのならば「真の名」以外を与える必要がない。

 

 けれど、それは決して選んではいけない選択だ。許されざる悪徳だ。

 犠牲があってこそ進む知もあろう。それは否定できない。

 けれど、これは許してはいけない。無垢な命を弄び、実験体として使い潰すなどということは。その先にあるのは命を命とも思わぬ狂気の発展だ。きっと多くの悲しみを生む。

 

 コイツは実験のために「魔力無し」として生み出され、必要最小限の知識と「真の名」しか与えられなかったのだろう。着ていた高級そうな服を見るに、どこかの貴族か商人などの裕福な存在が出資を行っている研究の成果に違いなかった。本当に、反吐が出る。

 

 あの地は丁度魔族の領域と人の領域の狭間に当たる。そのため、コイツを生み出した存在が魔族か人かは分からない。魔法技術力的に考えて人間に生み出せるとは思えないが、確証はない。本人に聞くのが一番かとも思ったが、辛い記憶であれば無理に思い起こさせるのもよくないだろう。

 そもそも、コイツは魔族と人間の区別すらまともにできていないようであったので、尋ねても意味がなかった可能性は高い。

 余とコイツが初めて会った時、1人の人間の女が乱入してきた。その時、女は余を明確に「魔族」と呼んだが、男は態度を変えなかったのだ。男はその時点で余のことを正確に認識しただろうにもかかわらず、だ。

 あの人間は徹頭徹尾、決して余を憎悪していなかった。恐れはあったかもしれないが、それだって微々たるものでしかなかった。精々がちょっと怖い演劇を見た程度のものでしかなかったのだ。

 本当に、馬鹿げている。馬鹿げていて、愚かで。そして、そんな愚か者をどうしようもなく渇望していたのも事実だった。

 

 だから、どうしようもなく焦がれてしまった。

 

 余が今まで関わってきた存在は全て、余から目を逸らした。ミリアやドラゴネスといった例外は確かにいたが、そんな彼女たちだって初対面の時は顔を顰めたものだった。

 だから、そういう存在に対しては余計に心苦しくなってしまうのが常であった。自分に優しくしてくれる人が自分のせいで苦しむことが嫌だったから。

 

 けどコイツは違う。コイツは余を真っ直ぐに見てくれる。理由なく余を忌避するようなこともしない。余が近づくだけで壊れてしまう存在でもない。

 

 余は彼に「リベタス」という名を与えた。それは魔族の大英雄の名でもあったが、断じて彼に魔族の側に立って英雄になってほしいのではない。むしろ、逆。彼には戦いとは無縁の場所で安全に過ごしていてもらいたかった。可能であれば余の城で余と共にいてほしいが、それを奴が望まぬと言うのならそれでも構わない。

 

 「リベタス」という語は、魔族を過酷な状況から解放した英雄「リベタス」の行いから転じ、「自由」や「解放」という意味を有する言葉となっている。

 

 だから、余は彼に「リベタス」の名を与えた。

 彼がかつて経験したであろう実験の数々に二度と囚われてほしくなかったから。

 魔力などという忌々しい存在とは無縁の、「自由」を謳歌する存在であって欲しかったから。

 舞台の上で滑稽に踊ることしかできない余に、魔力から解き放たれた「自由」があるのだと示していてほしかったから。

 

 だからこその、「リベタス」。余だけの騎士。自由の騎士リベタス。

 ただ、そうあってほしかった。

 

 たとえ、それが瞬きの間の事だけであるとしても。

 余が死ぬまでのほんのわずかな期間だけであるとしても。

 その間だけは彼に余の騎士であって欲しかった。

 

 そして、余が死んだあとは余のことなど忘れて「自由」に生きてほしいという願いも込めている。

 

 

  ◆

 

 

 …そのはずだったのに。

 

「単純に、優しい少女の手助けがしたいと思ったからですよ」

 

 コイツは余に手を伸ばしてくる。

 

 振り払うべきだということは分かっている。この戦闘力皆無の男を余の事情に巻き込むべきではないことなんてわかっている。

 なのに、どうしても、突き放せなかった。

 

 助けてほしいと思ってしまった。

 一緒にいてほしいと、願ってしまったのだ。

 




 感想にて、設定は回としてまとめるより小出しにしたほうが良いのではないか、というご指摘をしていただきました。確かにその方が良いと思ったので、後書きでの小出しスタイルに方針転換します。
 次回はメイドさん&四天王さんの視点(勘違いマシマシ)でお送りし、同時に人気投票に踏み切ろうと思います。

【キャラ設定1】
〈主人公〉地球での名:???? 異世界での名:リベタス
 男性、20歳前後。
 好きな物:アニメ、漫画、ゲームなど
 苦手な物:バッドエンド、犯罪
 特徴:黒髪黒目。中肉中背。特に誇る事もない平凡な能力。
 
 本名を書かなかったのは意図的だが、物語上深い意味があるわけではない。
 特に過去話とか投稿するつもりが無いからというのが大きな理由。また、この小説の当初のコンセプトが「特別な能力を持たない普通の人間がゲーム世界に転移しても無双とかできるわけない」だったので、「誰もがあてはまりそうだけど、誰もなれない存在」として名前を設定しなかった。
 とはいえ、徐々に言動が一般人離れしてきた。プロットから大きく外れているわけではないが、「キャラが勝手に動く」現象が発生している筆頭。
 最初の時に魔王様や聖女ちゃんの戦いを止めようと思ったのも、「目の前で誰かが傷つくのは良い気分じゃない」「異性に良い所みせたい」などの誰もが抱くようなありきたりな動機から。畢竟、「正義の味方」でもなければ「悪人」でもないということ。
 ただ、自らが「凡人」であることを誰よりも認識しているので、目的のためにできることなら何でもする。必要と判断すれば魔物の血も浴びるし、魔物の巣窟に武器無し単身で飛び込むこともする。しかし、あくまでも「凡人」なので判断が正しいとは限らない。
 名前の由来は自由の女神「Libertas」。
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