「はぁ....っ!はぁ.....っ!」
真夜中のクロチェリー平原を駆ける二つの影。
イーガ団の組員であるその男は、ここ数分間続く追いかけっこに大きく息を切らせながら、後ろから迫るある男から逃げていた。
事の発端は数刻前。
カカリコ村への偵察の帰りがけ、尾行に気付いたイーガ団のその男は、いつもの如く逃亡を試みた。しかし、この現状を見れば逃げきれていないのは明らかで。幾度となく逃亡を試みても、その尾行してきた男を、未だに振り切れる様子がないのだ。
いや、それどころか。
まるで永遠に続くともとれるほど続くこの追いかけっこは、もはやどこかに誘い込まれているようでもあった。
逃亡を図るこの男の本拠地である、イーガ団のアジトまで尾けてくるつもりか。
それに気づいたイーガ団の男は、後ろから迫る男を向かい打つべく、首狩り刀を構え、後ろを振り返った。
「......!」
イーガ団の臨戦態勢に気付いた尾行男も立ち止まり、手に持っていた大きな太刀を構える。
ここでイーガ団の男は、一つ、あることに気付いた。
「(”瞳”と”涙”....。あの紋様は....!)」
月明かりに照らされ、尾行男の顔が白日の下に晒されたその時。
月光により露になったその顔には、シーカー族の紋様が描かれていた。
「......っ!」
その紋様を見て、イーガ団の男は、より一層警戒したように首狩り刀を構える。
月光に照らされ、煌びやかに輝く白髪。透き通るような白い肌に、瞳に涙が零れたようなシーカー族の紋様。
そしてその赤い瞳は、イーガ団の男を貫かんとばかりに鋭く光っていた。
「な、何が目的だ?」
その鋭い視線に気圧されながらも、イーガ団の男は威勢よく問う。
そんなイーガ団の様子を見たシーカー族の男は、呆れたようにため息を吐いた。
「それ、こっちのセリフでしょ....」
面倒くさそうにそう呟いた後、腰の残心の太刀に手を掛け、低く構える。
「『勝って兜のなんとやら』」
「......え?」
突拍子のないことを言い出したシーカー族の男を相手に、イーガ団の男は呆気にとられたように立ち尽くす。
さっきまで確実に目の前に対峙して、対面して、その姿を捉えていたはずであるのに。いつの間にシーカー族のその男は、イーガ団の男の背後を取っていた。
鞘に納められていた残心の太刀の刀身は、いつの間にかその身を露にしていて、刀が発する銀色の光が、やけにイーガ団の男の目に映った。
「うちの婆さんの口癖だ。隠密活動をするなら、まず気付かれないこったな」
シーカー族の男は、静かに、ゆっくりと、その刀を鞘に納めた。
『抜刀』