ゼルダの伝説~真実の瞳~   作:はいから

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第一章 覚醒の兆し
塔の覚醒


焦燥感。

 

 

シーカー族の青年、レオンの胸には、言いようのない焦燥や不安が募っていた。

眼前に広がるのは深夜のクロチェリー平原。明かり一つないこの平原では、夜空と大地の境界すらあやふやで、はっきりと認識できない。

 

「........」

 

なにも、今日だけ特別に焦燥を感じているわけではなかった。

こうやって、イーガ団の組員を始末した後には、いつもレオンは激しい不安や焦燥に駆られた。

 

さっきまで、残心の太刀を握りしめていた掌を見つめる。

 

あのイーガ団の男を切った感覚が、未だにその手には残っている。

もしかしたら、あれが両親だったのかもしれない。

イーガ団の両親を持つレオンにとって、イーガ団と対峙した後には、必ずそんな思いがレオンの胸を突いた。

 

「(.....帰るか)」

 

言いようのない不安を胸に、レオンは、ゆっくりとカカリコ村に向かって歩き出す。

暗闇が辺りを包むこの平原の中で、遠くは西の方向で、双子馬宿の優しい光が見えた。

日中はあの馬宿のおかげで旅人や行商、野生馬で賑わうこのクロチェリー平原も、深夜にはそよ風の音一つが大きく聞こえるほど、しんと静まり返っている。

辺りに響くのはレオンの足音だけで、時折馬やボコブリンの寝息が聞こえるほかは、一切の静寂に包まれていた。

 

足音と共に、レオンの長い前髪が揺れる。

 

月光に照らされ、煌めくように輝くその白髪は、この暗闇の平原の中でも、ひときわ目立っている。

レオンはそんな前髪を撫でつつ、そろそろパーヤに切ってもらうか、と考えながら、その足をカカリコ橋に踏み入れた。

 

レオンの足音のほかに、川のせせらぎが辺りに響く。

 

結局、あのイーガ団をアジトまで尾行するつもりが、始末してしまったな。と、そんなことを考えながら、ぼうっと橋を歩く。

さらさらと流れる川のせせらぎが、レオンの耳にはやけに大きく聞こえた。

それと同時に、何処からか、こんな声も聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

『まことのメガネは、イーガ団のアジトの最奥に祀られているらしい』

 

 

 

 

 

 

「.......!?」

 

突如どこからともなく聞こえてきたその声に、レオンは腰の残心の太刀に手を掛け、辺りを警戒する。

今の今まで、人や魔物の気配は全く感じなかった。そのはずであるのに聞こえてきたその声に、レオンは並みならぬ不気味さを感じた。

 

「(どこだ.....?)」

 

臨戦態勢のまま、辺りを見回す。

されどいくら見回したところで、辺りに人影は見つからない。

それどころか、魔物の影一つすらない。

 

「......」

 

レオンは、より警戒を高める。

聞こえてきた声の方向を辿るように、目線を向ける。

それはカカリコ橋を渡り終えた向こう側で、暗くて見えにくいが、川岸の方から聞こえてきた。

 

暗闇の先を、目を凝らすように睨みつける。

 

ぼやっと浮かぶ橋向こう。川岸の岩々に囲まれ、一つだけ、異様な形をした石がそこに立っているのが見えた。

丸みを帯びた石。辺りの岩とは違う、確実に人工物であろうその石には、なにやら模様が刻まれている様子だが、ここからでは暗くてよく見えない。

 

石が喋るなんてこと、あるのだろうか。

 

この世に生を受けて十数年。レオンの人生の中で喋る石なるものは見たことがない。

しかしその声は確実にその石から聞こえてきた。

 

レオンは、訝しむようにその石を見つめながら、石に刻まれている模様を確認すべく、ゆっくりと近づく。

一歩、一歩と、カカリコ橋を踏みしめて、石に近づく。

そしてその石との距離が十メートルもないというほどの距離になって、ようやくその模様が、レオンの目に映った。そこには......

 

「これは......」

 

”瞳”と”涙”。

シーカー族の紋様が、刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

──その瞬間

 

 

 

 

 

 

けたたましい轟音が、辺りに響く。

レオンがちょうどその石の紋様を確認したと同時に、どこからかそんな衝撃音が鳴り響いてきた。

地面が唸るように揺れ、ただ事ではない轟音が辺りを包む。

眠っていた動物や魔物たちは目覚め、混乱の限りを尽くす。

 

地震。だとしたらこの轟音は説明がつかない。

 

混乱する大地を見回すレオンの目に飛び込んで来たもの、それは

 

 

 

 

「なにが....どうなってんだ?」

 

 

 

 

大地から、次々と塔がせりあがってきている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大地の割れる音。

大地の揺れる音。

 

それらは轟音となって、レオンの耳を激しく突いた。

このクロチェリー平原から目視できる数だけでも二本。一体どれだけの数の塔が、このハイラルの大地に出現したというのか。

この揺れと音から察するに、2,3本どころではないだろう。

 

「........」

 

茫然と遠くにそびえたつ塔を眺めているレオンに、夜の冷たい風が容赦なく叩きつける。

淡くオレンジ色に発光するその塔は、深夜のハイラルの大地の中では、異常なほど目立っていた。そして、遠くから見てもわかるその大きすぎる塔の存在感は、もはや不気味でもある。

 

夜の静寂が、再びレオンを襲う。

 

塔が立ってしまえばもう静かなもので。

さっきまであった轟音と揺れは、まるで嘘かのように辺りは静けさに包まれた。

 

「......驚いている暇はない、か」

 

茫然と塔を見上げていたレオンは、頭を振るって目を覚ます。

彼は、後ろを振り返り、カカリコ橋の向こうを見やる。

 

「(1,2,3......5匹はいるか)」

 

クロチェリー平原から流れるようにこちらに走ってきている、複数体の魔物の影。

恐らくさっきの揺れと轟音で目を覚まし、突然の衝撃で混乱しているのだろう。正気ではない様子で、こちらに向かって走ってきている。

 

「.......」

 

レオンは、腰の残心の太刀に手を掛け、体制を低く構える。

魔物たちを見やると、揃いも揃って馬鹿正直にまっすぐ突っ込んできている様子だ。

 

好都合。

 

好んで片刃の太刀を使うレオンにとって、戦闘中自分からアグレッシブに動くのは出来るだけ避けたい。そうなると最もレオンにあった戦闘スタイル。その最適解は.....

 

「はぁ.....っ!」

 

居合切りによるカウンター。

 

「グゲェ!?」

 

太刀による居合とは思えないほどの速度で、鞘から放たれたその抜刀は、優にボコブリン5体を吹っ飛ばし、後続の魔物たちをも一掃した。

その隙を逃さないといった様子で、レオンは一気に魔物たちへと距離を詰め、流れるように切り刻んでいく。

 

一体、二体、三体、四体....。

 

一匹も逃がさないといった様子で、レオンは素早く始末していった。

現代のシーカー族は、なにかと技術力の高さのみが注目されがちだ。しかし本来のシーカー族は、ハイリア人より遥かに機動力と躍動力に優れた、戦闘能力の高い民族である。

ハイラル王国の影として秘密裏に暗躍し、忠誠をつくし。暗殺や諜報活動を生業とする、かつてのシーカー族。そんな本能とも呼べる種族の血が、レオンの身には色濃く宿っていた。

 

「グ、グゥ....」

 

目の前で起こる惨劇に、モリブリンは気圧されたように後ずさりをする。

暗闇に煌めく白髪、鋭い赤い眼光。そして額に描かれた”瞳”と”涙”の紋様。

軽々と大きな太刀を振り回すその男、レオンは、容赦なくモリブリンに迫り

 

「.....ふっ」

 

その首を刈り取った。

 

「ガッ....!?」

 

刀を鞘に納めたと同時に、モリブリンは崩れ落ちる。

しかしその様子すら、もうレオンの目には映っていなかった。

目の前に転がるモリブリンたちの亡骸も、突如大地からせりあがってきた塔も、シーカー族の紋様が刻まれた喋る石も、彼の目にはもう何一つ映っていなかった。

 

「......っ」

 

彼は焦ったようにカカリコ村に向かって走り出す。

彼の頭の中は、インパやパーヤといった、カカリコ村の民たちの心配ごとで埋め尽くされていたのだ。

 

「(無事でいてくれ....!)」

 

普段感情表現を苦手とし、分かりやすく仲間たちの心配をすることがないレオンであるが、根本にあるその純粋な部分が、今の彼を激しく突き動かした。

 

元より彼は、誰よりも純粋で、誰よりも人の不幸を悲しみ、誰よりも人の幸せを喜べる人間だった。しかしいつからだろう。彼の純粋は、年を増すごとに曇っていった。

その原因の発端は、レオンの両親がカカリコ村を出ていった時にまで遡る。

 

カカリコ村にスパイとして潜入していたイーガ団の両親の元に生まれ、その両親がカカリコ村に伝わる”秘宝”を盗み出し、レオンを置いて村を出ていったあの日。

村の長老のインパに引き取られた当時の彼は、よく感情を表に出し、よく笑う純粋な幼子だった。

それ故に両親の悪事に普通以上の責任を感じ、彼はなんとかその盗まれた”秘宝”をイーガ団から取り返そうと、今日までの期間、ずっと暗躍の日々を過ごしてきた。

 

事あるごとにイーガ団関連の事件には首を突っ込み、その度にイーガ団の組員たちと対峙しては始末し、そのことが積もりに積もって、いつしか彼の純粋はどんどん曇っていくことになる。

やがて感情を表に出すことはなくなり、かつてあった純粋な瞳は鋭く光り、いつしか彼の笑顔を見ることも、稀となった。

 

それでも彼の根底に眠る純粋なその部分は、激しい揺れと轟音によるカカリコ村への被害を、酷く案じていた。

 

彼は村人たちへの心配を胸に、夢中でカカリコ村へ続く谷の道を駆ける。

木々が、動物たちが、魔物が、すべての景色が後ろへと過ぎ去っていく。

 

そしてようやく村が見えたというところ。

山に囲まれた道を出て、村にたどり着いたというところで、レオンは息を切らせながら立ち止まる。

 

「はぁ.....はぁ.....」

 

膝に手を突き、息を整えながら村を見渡す。見たところ、幸い地震による土砂崩れなどの被害はない。

村人たちは、インパは、パーヤは。

不穏な心持で、彼はインパの屋敷に向かって再び走り出す。

 

 

しかし彼を待ち受けていた光景は、予想とは大きく違った村の光景だった。

 

 

 

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