ハイスクール・フリート ~転生の護衛艦~ 作:メトロえのしま
皆さんこんにちは、メトえのです。
ここ最近、他の先生方が執筆されているはいふり二次創作や、他の軍艦系のお話を読ませていただいているのですが…。
いやもう私とはレベルが違いすぎてですね…。
こんなペーパー初心者の作品は足元にも及ばないくらい、物語の展開や戦闘描写が濃密なんですよ!
メンタル削られつつも、私が筆を取る際の参考にさせていただいております。
さて今回は、 vs.シュペー戦ROUND1!(ボウリング違いますよ?
1発でも当たれば海の藻屑と化する明乃たちは、どのように戦いを進めていくのでしょうか。
それでは、お待たせいたしました。本編へどうぞ!!
第二話 原稿
〜西之島新島 沖合〜
一路演習海域へと向かう、横須賀女子の直教艦『武蔵』。
「明日から、他のクラスと合流ですね」
「うん!」
この艦の航海員を務める 吉田 親子(よしだ ちかこ)が、艦長へ明日からの予定を尋ねる。
その声は明るく、どこか待ち遠しそうに思える。
艦長の名は 知名 もえか。
今年行われた横須賀女子の入学試験にトップで合格した優等生だ。
身に纏っている制服が他の生徒と同じセーラー服ではなく、海上自衛隊の第1種夏制服に似たようなものになっているのは、彼女が首席生徒である証だ。
知名は、窓の外に貨物船がいるのを発見した。
「航海艦橋へ連絡」
「んっ?」
目の前に広がる海図に夢中になっていた吉田は、顔を上げて知名の方へ目をやった。
「左舷60度10,000に貨物船。注意して」
「了解しました」
吉田は近くの受話器を手に取ると、貨物船のことを伝達しようと航海艦橋を呼び出した。
しかし中々返事が来ず、受話器から伸びているコードに人差し指を絡めては離し、絡めては離しを繰り返す。
「…もしもし?」
あまりにも返事が来ないため、吉田は相手に電話の感度があるか確認を取ろうとする。
「どうかしたの?」
「…艦長、応答がありません」
「えっ?」
知名は最初、感度が悪くて相手が聞こえていないものだと思った。
しかし、突如前甲板の46サンチ主砲が旋回を始めたのだ。それも、貨物船の方へ向けて。
「えっ…!?」
知名は慌てて主砲へ目をやった。
そして次の瞬間、主砲は貨物船を目掛けて発砲した!
砲弾はなんと初弾にもかかわらず、貨物船のすぐ近くに着弾した。俗に言う "夾叉(きょうさ)" である。
「射撃指揮所、応答して!」
知名はすぐさま伝声管から射撃指揮所を呼び出すが、こちらも応答がない。
それどころか、今まで聞いたことがないような雑音や機械の異音が耳に届いてくる。
「なっ…!?艦長!!」
「ちょっと見てくる!」
「私も行きます!!」
一体、この艦の中で何が起きているのか。2人はたまらず艦内へ駆け出した。
「角田さん!!」
「艦長ッ!!」
2人が艦内をしばらく走り回っていると、応急員の1人である 角田 夏美(つのだ なつみ)が血相を変えて駆け込んできた。
「落ち着いて。一体、何が…?」
「みんな…みんながあっ!!」
息が上がっているのか、あまり詳細な内容が伝えられずにいる。
「みんなって…?」
その時、吉田が廊下の向こう側に多くの乗員が並んでいるのを発見した。
だが、その乗員たちはどこか様子がおかしい。なぜなら全員、瞳の色が赤く染まっていたからだ。
「ひゃあっ!?」
たまらず悲鳴を上げる角田。
「あなたたち…一体……?」
乗員たちは知名の問いには答えず、まるで洗脳されたロボットのように真っ直ぐ知名たちへ近づいていく。
「っ…!?走って!!」
「えっ!?」
「こっち!!」
知名は "このままでは自分たちが危険だ" と判断し、角田の手を引っ張ると吉田と共に走り出した。
『武蔵』が貨物船へ砲撃を開始してから数時間後、他の艦でも同じような異変が起き始めていた。
太平洋上を航行する、1隻の大型直教艦。
艦内は横須賀女子の生徒たちが暴れ回り、本や書類が床にばら撒かれていようともおかまいなしだ。
そして視界に艦艇や船舶を捉えると、容赦なく主砲弾を撃ち込んでいく。
そんな中、艦橋付近に1人の生徒がうつ伏せになって倒れている。
彼女は自身が艦長であることを示す制帽をかぶっているが、非常に息が荒く苦しそうに胸を押さえている。
「…私が、いけなかったの…?私が、弱いから…?」
自分のせいで生徒が変わってしまったのかと問うが、それに答える者はいない。
「私が、もっと強ければ、こんなことには…」
彼女は先天的な理由で、幼い頃から体が弱かった。
それでもブルーマーメイドを目指し、反対する親を押し切って横須賀女子に入学していた。
"自分の部下を守れないのなら、艦長を引き受けるべきではなかった" と、自分を責めている。
「…みんな、本当に…ごめんなさい……」
そして彼女は生徒たちへの謝罪を口にすると、それまで持っていた自らの意識を手放した。
のちにこれらの異変は、反乱疑惑をかけられている『晴風』そして羽村たち自衛隊を巻き込んだ、日本の安全を揺るがす大騒動へと発展していくこととなる。
2016年 4月8日。
鳥島沖南方を航行する、3隻の艦。
横須賀女子の航洋艦『晴風』を挟むようにして、その左側に海上自衛隊の主力イージス艦『たかお』が、そして右側に最新鋭の汎用護衛艦『はつづき』が並んでいる。
羽村たちがこの世界に転生して2日目。
当初は混乱状態だった自衛隊側の乗員たちも今は落ち着きを取り戻し、それぞれが受け持つ作業をこなしている。
そんな中『晴風』では、前日に起こった『さるしま』との戦闘の際に負った損傷の確認作業が行われていた。
「うぁ〜大変…。後部甲板も応急修理しないと…」
「こりゃメチャクチャっす…」
確認作業を行なっていた機関科の 和住 媛萌(わづみ ひめ)と 青木 百々(あおき もも)は、『晴風』が負った予想以上のダメージにショックを受けていた。
そんな中…。
「1000%マジかっこいい〜!!」
まるで空気を読んでいないような少女が1人。同じく確認作業を行なっていた主計科の 等松 美海(とうまつ みみ)である。
どうやら彼女は航海科の野間 マチコ(のま まちこ)に一目惚れしてしまったようで、先ほどから確認作業そっちのけで野間がいる見張り台の方を向いている。
「美海ちゃんは野間さんに夢中っす…」
「等松さんもヒマなら手伝って〜…?」
2人は等松のことを注意するが…。
「マッチ〜!!」
全くもって彼女の耳には届いていない様子である。
「はぁ…メロメロっす……」
2人は呆れるしかなかった。
「はぁ〜…マッチと撮った写真、妹に送りたいんだけどなぁ。今は携帯の通信は禁止だしなぁ…」
自前のスマートフォンを取り出して、待ち受け画面を楽しむかのように眺める等松。
反乱の疑いがかけられている『晴風』は、岬の判断で携帯電話を含め現在位置が特定されるような機器の使用が禁じられていた。
それは自衛隊側でも同じで、艦の位置情報およびビーコンなどがシャットダウンされている。
「媛萌ちゃん、百々ちゃん、美海ちゃん。お疲れ様!」
そこへ、現状を把握するために艦内を巡回していた岬がやって来た。
「被害状況は?」
「見ての通り、応急修理しないとね。艦長…」
「わかった!あとで手伝うね!!」
岬は足早に艦内へと戻っていった。
「…本当、バタバタっすね」
岬の後ろ姿を見た青木が呟く。
2人も同じことを思っていたのか、それに頷いた。
「…そう言えば」
青木は、ふと思い出したように後ろを向いた。その視線の先には、艦首に「178」の番号を浮かべる『たかお』の姿があった。
見ると、乗員たちが忙しなく甲板上を動き回っている。
「あの艦、本当に頼りになるんすかね?」
「あ〜、艦長が言ってた『自衛隊』ってやつだよね? なんか艦の迫力はとてつもないけど、もしブルマーとかと戦闘になった時、ちゃんと戦えんのかねぇ?」
3人から見た『たかお』と『はつづき』は、どうやらイマイチ頼りなさそうである。
その頃機関室では、先ほど後部甲板から移動してきた岬が顔を出していた。
「麻侖ちゃん、状況どう?」
『晴風』の機関長 柳原 麻侖(やなぎわら まろん)が、頬を膨らませながら怒っている。
「前進一杯にしたせいだ、総点検が必要になっちまったんでい!」
まるで江戸っ子のようなその口調は、自身の祖父から移ったのだという。
「全く、無理させるわね」
機関助手を務める 黒木 洋美(くろき ひろみ)が、ドスを効かせた声で岬を睨みつける。
「クロちゃん、ごめんね?」
顔の前で手を合わせながら謝る岬だったが…。
「馴れ馴れしく呼ばないで!"黒木さん"って呼んでくれる!?」
逆に黒木を余計に怒らせる原因になってしまった。
「わかった、クロちゃん!」
だが岬はそんなことお構いなしなようで、適当に返事をして機関室から出て行ってしまった。
黒木は呆然としてしまった。
「全然わかってないじゃん…」
「アレが艦長…?」
若狭 麗緒(わかさ れお)と 伊勢 桜良(いせ さくら)は、黒木に同情するかのように言葉を漏らした。
次に岬が訪れたのは医務室。
『さるしま』との戦闘の際に、何人か怪我をしてしまったため、その見舞いも兼ねてやってきた。
「光ちゃん、大丈夫? 瑠奈ちゃんと空ちゃんも怪我ない?」
医務室の中ではちょうど、砲雷科の小笠原 光(おがさわら ひかり)が怪我の治療を受けているところだった。
駿河 瑠奈(するが るな)は、岬が早くも乗員の名前を覚えていることに驚いた。
「うぇ〜!?もう名前覚えたの!?すご〜い!!」
「さすが艦長殿」
広田 空(ひろた そら)は、驚きこそしなかったものの関心した様子である。
「他に怪我人はいないよね?」
「ない」
衛生長の鏑木 美波(かぶらき みなみ)が端的に答えた。
彼女はなんとまだ12歳。
6歳の時に医学免許を取得するという超人的な実績を持ち、その経歴が評価され飛び級で横須賀女子へ入学した、いわば「天才」である。
「良かったぁ…でも、こんなことになるなんて…」
岬は、小笠原たちを怪我させてしまったことに責任を感じていた。
「青天の霹靂」
想定していなかった大きな事件、という意味のことわざだ。
「これからどうしたらいいんだろう…」
岬はそう言うとため息をついた。
「知者は惑わず 仁者は憂えず 勇者は恐れず」
中国の孔子が遺した言葉と言われており、「かしこい人は迷わずに判断できるし、心がしっかりしている人は心配しない、勇気がある人はおそれない。この三つの心が大切」という意味のことわざだ。
小笠原・広田・岬の3人は、鏑木がなぜこんな言葉を知っているのかと不思議に感じるとともに、彼女へ対して若干引いたような表情を見せる。
だが駿河だけは、鏑木の言っている意味がわからないのか、笑顔のままだった。
「艦長!至急艦橋にお戻りください!」
宗谷の声が、医務室の中に響いた。
「ごめん!お待たせ!!」
「被害状況どうでした〜?」
納沙は主計長ながら艦についての記録員も務めているため、現在の状況について尋ねてきた。しかし肝心の記録を取る様子はなく、目の前の羅針盤に居座る猫 五十六(いそろく)へ意識を向けていた。
「後部甲板が結構やられて、爆雷があと1発。魚雷もないし…機関室も総点検だって」
「あっ!可愛い!!」
自分から質問してきた割に、納沙は全くもって話を聞いていなかった。
「そんなもの撮ってないで、被害状況を記録して自衛隊に報告しろ!!」
宗谷はそんな納沙を叱りつけたが、これは当然の結果である。
「学校側から連絡は?」
「ない…」
「私たち見捨てられたんじゃないの〜…?」
西崎は "国に反乱者扱いされている自分たちを、学校が助けるはずなどない" という考えのようだ。
「今、事実確認中なのかも」
「こ、このまま、鳥島沖10マイルまで退避でいいんだよね…?」
知床はどこか不安そうな表情だ。
「うん。私たちが反乱して『さるしま』を攻撃したみたいに言われてるけど、違うってことを説明しなきゃ」
「ご、合流地点に着いた途端に捕まっちゃわないかなぁ…?」
その言葉に反応するかのように、またしても納沙が1人芝居を始める。
「「お前ら!何故『さるしま』を攻撃した!?」「違うんです!先に攻撃したのは『さるしま』の方で!」「嘘を言うなぁ!!」」
「ひっ!?」
あまりにも迫真すぎる演技に、立石が怯えてしまう。
「信じてもらえないってこと?」
西崎は、納沙が何を言いたいのかなんとなく理解したようだ。
「だが我々に反乱の意思などない。自衛隊が付いてくれているとはいえ、このまま逃げ続けられないのだから、羽村さんたちと協議して速やかに近くの港に入ろう。艦長」
いつかはブルーマーメイドか他の直教艦に見つかってしまうだろうし、それ以前に食料や燃料などの物資が足りなくなってしまう。
昨晩、羽村が警戒していたものの1つだ。
「うん、そうだね。港に入れば、攻撃されることも無いだろうし…。鈴ちゃん、横須賀までどれくらいかかりそう?」
「巡航で、38時間かな…?」
最速でも2日弱かかってしまう。それまでに誰にも見つかってほしくないというのが、岬たち全員の願いだ。
「全く、"こんなクラス"になったばっかりに…ツイてない」
宗谷の発した "こんなクラス" という言葉が頭にきたのか、西崎が強い口調で反論する。
「なによ "こんなクラス" って。そりゃ『晴風』は合格した生徒の中でも最底辺が配属される艦かもしれないけれど、それはアンタも一緒でしょう!?」
「一緒にするな!!私は入学試験は全問正解していたはずなのに、解答欄を1つズラして解答したから…」
"なんだか可哀想…" と同情する岬と知床。
"お前マジかよ…" と言いそうなほどに呆れる納沙と立石と西崎。
艦橋の空気は、地味に重たくなってしまった。
「ツイて、無いんですね…」
「うるさいっ!!」
なんて声をかけていいかわからず、宗谷の 「ツイてない」発言を事実として認めてしまう納沙。そりゃキレる。
「そ、そっか〜。私なんて、受かっただけでも奇跡なんだけどね〜。たまたま勉強してたところが出て、ましてや艦長なんて…」
「こちらは強運の持ち主ですかぁ…」
「うぃ」
岬に関心する納沙と立石。
しかしフォローする相手の宗谷に対しては、傷口に塩を塗り込む形になってしまったのだが、岬はそれに気づかなかった。
立石がふと窓の外を覗くと、艦隊の上をカモメが飛んでいるのが目に入った。
「こんな風に、学校へ戻れたらいいんですけど…」
納沙はどこか羨ましそうに、カモメたちを見上げた。
「水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って、造れないですかね?」
「はぁ…あんなもの空想の産物だ。バカバカしい」
宗谷はぴしゃりと言い放ったが、その空想の産物が自分たちを護衛している艦に搭載されていることを、彼女たちはまだ知らない。
「艦長、『晴風』から被害状況きました」
『たかお』CiCでは、羽村と半沢、それに望畑の3人が海図台を囲んで話し合っている。
納沙が送ってきた『晴風』の被害状況をメモした紙をもとに、今後自分たちが『晴風』をどうサポートしていくかを考えている。
「後部甲板破損、魚雷残弾数なし、負傷者も何人か出てるのね…ミケちゃん本当によく頑張ったよ…」
「爆雷が残り1発だけなのが不安要素ですね…まぁ万が一対潜戦闘になったとしても、こちらから短魚雷やVLA (※アスロックミサイルのこと) による攻撃を行えば良いのですが」
望畑は、『晴風』が潜水艦と対峙した時のリスクを心配していた。
戦前艦・現代艦関係なく、水上艦にとって潜水艦からの魚雷攻撃は1発被弾するだけでとてつもない破壊力を持つため、最も恐るべき脅威といえる。
その潜水艦に対抗する手段が爆雷1発のみという『晴風』は、仮に羽村たちと遭遇せず単艦行動を続けていた場合、非常に危険であった。
対して自衛隊側の『たかお』および『はつづき』は爆雷こそ無いものの、魚雷やアスロックに加えて『はつづき』の艦載ヘリであるSH-60Kが対抗手段として用意されており、対潜戦闘の準備も万全である。
「対空に関しては、この世界に航空機の概念が無いようなので心配はいらない…ですよね?」
半沢は自分たちが元いた世界と違い、航空機の開発が失敗していることを聞かされていた。
そのため、イージス艦の本業とも言える対空戦闘は、行われる確率が極めて低いものと推測していた。
「飛行機とかヘリは無いんだけど、飛行船みたいな無人機はあるんだよね〜。けどこっちのシーホーク(SH-60K)よりも速度遅いから、仮に攻撃火器を積んで向かってきたとしても、迎撃手段にSM-2とかシースパローをわざわざ選ぶ必要性は低いかなぁ…」
羽村は、仮に無人機が飛んできたとしても、主砲弾の射程内に入ってきたところで迎撃すれば問題ないと考えている。
その方が無人機がどういう武装をしているのか目視で確認できるし、補給ができないミサイル類の消費も抑えられるので合理的、というわけだ。
「となると、やはり心配なのは…」
「対水上戦、だよね…」
ミサイル攻撃が主流となった現代において、水上艦同士で主砲を使った近接戦闘を行うことは殆ど想定されておらず、水上戦闘を行うにしても "ハープーン"や国産の "90式艦対艦誘導弾" と言った対艦ミサイルが主な攻撃火器となっていた。
そのため現代艦の装甲はとても薄く、敵の主砲弾を1発喰らっただけで大破してしまうくらいには弱くなっているのだ。
「インディペンデンス級やあきづき型との戦闘に支障はそれほど無いと思われますが…問題は学生艦ですね」
旧海軍からの払い下げである海洋学校の学生艦は、まさに大艦巨砲主義の全盛期に生まれた艦である。
主砲弾の直径は大きく、装甲は現代艦とは比べ物にならないほどぶ厚い。
そのうえ砲弾の装填などがそこそこ自動化されているため、砲弾の威力はそのままにしつつ1分間あたりの発射速度が向上している。
そんな艦を相手に戦闘態勢をとったとしても、自衛隊側にハンディが大きすぎるのだ。
「幸い『たかお』のハープーンと『はつづき』の90式は、それぞれ8発全て揃っていますが…正直あまり使いたくないんですよね…」
望畑は、対艦ミサイルの使用には消極的だった。
現代艦相手ならまだしも、学生艦に対艦ミサイルを撃ったとしても1発だけでは大きな効果は期待できないからだ。
「まぁ、水上戦闘に関してはケースバイケースで考えるしか無いよね…私たちだってそれ程実戦を積んできたわけじゃないから」
先の波留間有事では、相手戦闘機から発射された対艦ミサイルを迎撃することが多かったため、羽村たちも水上戦闘の経験はあまり無かった。
なお羽村たちがこの世界へと飛んだ後、第6護衛隊群は残りの艦艇で水上戦闘を何回も行っているのだが、羽村たちは当然ながらそのことを知らない。
「そうですね…とにかく、戦闘があまり起きないことを願うばかりですよ。ここから38時間、横須賀入港までがヤマ場ですね」
「せいぜい停船命令くらいにしてくれれば良いんですがね〜…」
最悪の場合、自分たちも『晴風』と同じように国賊扱いされて交渉のチャンネルを失うかもしれない。
戦闘状態になることは極力避けたかった。しかし…。
「水上レーダー目標探知、右60度方向1隻。真っ直ぐ近づく」
「CiC、艦橋!戦艦と思われる大型艦艇1隻を視認!真っ直ぐ近づく!!」
その思いは、無情にも打ち砕かれてしまった。
「右60度、距離30000。接近中の艦艇は…『アドミラル・シュペー』です!!」
「『アドミラル・シュペー』!?」
「ドイツからの留学生艦です!」
正式名称『アドミラル・グラフ・シュペー』。
ドイツが製造した『ドイッチュラント』級装甲艦の3番艦である。
「とりあえず、総員配置に!!」
「総員配置!」
岬の指示と宗谷の復唱により、『晴風』では直ちに戦闘態勢がとられた。
『たかお』と『はつづき』も対空・対水上戦闘用意の令が出され、乗員たちが持ち場へと向かっていく。
「そ、速度20ノットで接近中!」
「見つかっちゃいましたね…」
「…そのようだな」
さらに事態は、悪化の一途を辿っていく。
「シュペー、主砲旋回しています!!」
「っ…!?」
シュペーは既に『晴風』へと目標を定めている。
つまり、"お前の墓場はここだ" と暗に示しているのと同じだ。
「撃ってくる…!!」
「問答無用ですね…」
宗谷と納沙は、自分たちがここで死ぬのではと絶望した。
「野間さん!白旗を!!」
岬はとっさに、敵対意識はないことを示すよう指示した。"これで止まってくれれば" そう願った。
「シュペー主砲発砲!!」
しかしシュペーは、主砲の照準を合わせるとすぐさま砲弾を発射した。
「なんで…!?」
「エンジンを止めないと駄目だ!」
機関を停止させて始めて、敵対意識が無いことを証明できる。そのため、白旗を振っただけでは意味が無いのだ。
「でも、逃げるんだよね…?」
知床は岬に、シュペーと戦闘するつもりは無いだろうと確認する。
「うん、180度反転する!面舵一杯!前進一杯!!」
「面舵一杯!」
『晴風』たち3隻は右方向へ艦首を向け、飛んでくる砲弾を避けようとする。
「着弾!!」
シュペーの放った砲弾は、『晴風』と『たかお』の間に着弾した。
次々と飛来する砲弾の合間を縫うように進む3隻は、やがて向きを180度回頭し、シュペーに艦尾を向け逃走を図る。
「シュペーも速度を上げました!」
しかし、それに合わせるかのようにシュペーも速力を上げ、追尾してくる。
"意地でもここで沈めてやる" と言わんばかりの猛追である。
「シュペーは、基準排水量12,100t、最大速力28.5ノット、28cm主砲6門、15cm副砲8門、魚雷発射管8門、最大装甲160mmと、"小型直教艦" と言われるだけあって、巡洋艦並みのサイズに、直教艦並みの砲力を積んでいます!」
これが故に、シュペーを含む『ドイッチュラント』級装甲艦は "ポケット戦艦" という異名を持っており、対戦する中で非常に厄介な相手である。
「着弾!!」
この間にも、シュペーは次々と砲弾を撃ち込んでくる。
しかし偶然なのか、はたまた岬の幸運がはたらいているのかはわからないが、砲弾はどれも命中はせずに海中へと消えていく。
「主砲の最大射程は、約36,000m!重さ300kgの砲弾を、毎分2.5発、発射可能で!1発でも当たれば一瞬で轟沈です…。まぁ15cm副砲でも、ウチの主砲よりも強いんですけど…。自衛隊の『はつづき』が初速と最大射程を上回っているので、そこで対峙できるかどうか…」
『はつづき』が搭載している主砲は、アメリカ海軍が開発した "Mk.45 5インチ砲" の "Mod4" と呼ばれるタイプで、長らく量産され続けているMk.45シリーズの中で最新バージョンの主砲だ。
砲弾の重さは31.75 kg、砲弾の発射初速は1,051.6m/sで、最大射程は約37,000m。シュペー副砲弾の重量が45.3kg、発射初速が875m/sで最大射程が22,000mであるため、重量以外では僅かに『はつづき』が上回っている。
「だがそれは副砲が相手の時の話だろう?それに『はつづき』の主砲はそうでも『たかお』の主砲では届きやしない。砲力と装甲は向こうが遥かに上…」
『たかお』の主砲は、イタリアのオート・メラーラ社が開発した "127mm単装速射砲" 。砲弾の重量は "Mk45" と同じだが、発射初速808m/s、最大射程23,000mと『はつづき』に比べ劣っている。
「ウチが勝っているのは、速度と敏捷さだけ…」
「このまま機関全開にし続けたら、間違いなく壊れちゃうよ…」
前進一杯は、エンジンに多大な負担をかけてしまう。そのため、長い時間出し続けることはできない。
「魚雷撃って足止める?」
「もう無い!」
「っちゃ〜!そうだった〜!!」
『晴風』が搭載していた魚雷は、演習用の1発のみ。それも『さるしま』との戦闘で使ってしまったため、残弾数はゼロだった。
「こっちの砲力は?」
「70で5」
「7000(m) で50mm!?シュペーの舷側装甲は?」
岬はどうやら、砲撃戦を視野に入れているようだ。
「80mmです!」
「30」
「30まで寄れば抜けるのね?」
岬が考えついたのは、自分たちがシュペーから最も距離を離し、なおかつ最もシュペーへダメージを与えられる場所で発砲するというものだった。
「ちゃんと会話が成立してる…?」
「これが艦長の器ってヤツですか〜…」
西崎と納沙は、岬へ関心した様子だが、
「そんなわけ無いだろう!!」
宗谷は顔を真っ赤にして否定した。
「麻侖ちゃん!出し続けられる速度は!?」
「第4戦速まででぃ!」
言い換えれば、最大戦速と前進一杯は継続することができないということだ。
「第4戦速…27ノットか……」
「向こうの最大戦速と同じです」
「どうしたら…」
その時、立石が小さく呟いた。
「…ぐるぐる」
最初は、立石が何を言っているのか聞き取れなかったが、すぐに立石が何を言いたいのかを理解した。
「…ぐるぐる!」
「あっ…!!」
「鈴ちゃん!取舵一杯!!『たかお』と『はつづき』に発光信号!『たかお』は急いでここから離脱、『はつづき』はウチに付いてきて!!」
「取舵一杯!取舵30度!!」
宗谷は、その指示が一体何を意味するのかわからなかった。
「何をする気ですか!?」
「煙の中に逃げ込むの!!」
「CiC、艦橋!『晴風』より発光信号!「我に続ケ」!繰り返す、「我に続ケ!!」」
「艦橋!第4戦速!!取舵!30度ヨーソロ!!」
平井は即座に、『晴風』の後をつけるように指示を出した。
「一体、岬さんは何を…?」
五香は、『晴風』からの突然の指示に困惑した。
何かしらの意図があっての指示だということは理解できるが、それが何なのかまではわからない。
「艦橋、CiC!状況に何か変化は!?」
平井は、『晴風』がどういった行動をとっているのかを確かめる。
「CiC、艦橋!『晴風』煙突部からの黒煙により、目標を視認できません!!」
平井は、岬が何を狙っているのかを察した。
「っ…!!そういうことか。案外やるじゃねえか」
「えっ…?どういうことですか?」
まだ理解が追いついていない五香に、平井が説明する。
「『晴風』のエンジンを不完全燃焼させて、通常より多くの黒煙を発生させる。そんで、不規則な舵をとることで黒煙の中に自分の身を隠し、相手に照準をとらせないようにするってことだ。こんなの、乗艦したての人間が思いつくような芸当じゃないけどなぁ…」
平井はそう言い終えると腕を組んで唸った。
ガスタービンエンジンを機関とする自分たちにはできない、『晴風』ならではの技だ。
「『晴風』転舵!」
「戻せ〜!面舵!30度ヨーソロ!!」
『晴風』と『はつづき』は、右に一回転、左に一回転を繰り返しながらシュペーを撒いていく。
シュペーは手当たり次第に主砲を撃ち続けている。砲弾は『晴風』の艦首付近に着弾したり、『はつづき』のすぐ真横に着弾したりと、まるで姿が見えているかのように砲撃を出してくる。
「…副長、判断はどうか?」
五香は、少しのあいだ考えたような表情を見せた後、こう述べた。
「我々は、既に何度も敵艦から砲撃を受けています。敵艦の主砲弾の威力はこちらの倍以上。このままでは我々は轟沈を免れません。『急迫不正の侵害』に当たることは確実です。正当防衛と緊急避難の名目で反撃できるかと。ただ当然ながら、我々の艦と戦前の巡洋艦は実戦で対峙した経験はありませんし、そもそも自衛隊には今までそんな記録が記されたこともありません。どの程度の効果が見込まれるかは未知数です。それに、戦艦を相手にして護衛艦と駆逐艦のみで近接戦闘を行うのは、リスクも大きく危険です。かなりの博打にはなると思いますが…」
砲弾による物量攻撃が主流である敵艦と、ミサイルによる遠距離からの攻撃が主である『はつづき』。
そして、速力と小回りの効きが自慢の『晴風』。
砲撃戦では、相手に対して自分たちが持つチップの数は圧倒的に少ない。勝算は限りなくゼロに近いだろう。
「だがウチの主砲の威力と、『晴風』の速力を考えれば、やってみる価値もあると…?」
「そういうことです」
相手の主砲弾よりも高速で飛翔する『はつづき』の主砲弾なら、敵艦の装甲を貫けるかもしれない。
弾着した後は『晴風』が出せる最高速度に合わせる形で、海域から離脱すれば良い。
「…具体的に、相手のどこへ当てれば1番効果的か?」
五香は、納沙から共有されたシュペーの設計図を取り出した。
「向こうの乗員が学生であることを鑑みると、甲板部や艦橋付近にはあまり持っていきたくはありませんね。ですが確実に仕留める必要があります。とするならば…」
そう言って羽村が指差した場所は、艦尾部分だった。
「…スクリューシャフト?」
艦の推進・後進を掌るスクリューシャフトを撃ち抜けば、乗員に大きな怪我を与えるリスクを低くしながらダメージを与えることができる。
「だが海中にあるスクリューシャフトなんか、どうやって狙うんだ? 海中に入ったら砲弾速度が大きく低下するから、狙えるかわからんぞ?」
「理論上は5インチ砲…127mm砲でも同じなので構いませんが、その場合では海中に没した後も10mほどは前進すると言われています。特に本艦の5インチ砲は速度が速いので、それ以上に進むか、海中の速度が速くなるものと考えます。30まで接近すれば、可能性はさらに上がるかと」
それを聞いた平井は、五香の考えを尊重した。
「わかった、攻撃しよう。責任は俺が持つ」
「…了解。対水上戦闘行います」
その時、『晴風』から発光信号が送られてきた。
内容は「我レ、『アドミラル・シュペー』へ砲撃ス。援護サレタシ」だった。
どうやら『晴風』も同じことを考えついていたようだった。
『晴風』と『はつづき』は、ともに主砲を敵艦のスクリューシャフトがある方向へ旋回させながら、接近していく。
「目標主砲発砲! 主砲弾、『晴風』へ直撃する!!」
距離を詰めたことが仇となってしまった。
敵艦は先ほどより照準を正確にしてきている。
「副長攻撃だ!出し惜しむな!!」
「はい! 対空戦闘!近づく目標!CiWS攻撃始め!!」
『はつづき』前甲板の20mm高性能機関銃が、『晴風』の右舷に弾幕を張るかのように射撃を開始した。
やがて接近してきた主砲弾は、『晴風』を目の前にして大きく爆発した。
「爆発閃光視認!!」
主砲弾の破片は、バラバラと『晴風』の甲板上へと落下していく。
土壇場のところで何とか迎撃に成功した。
だが一息つく暇も無く、更なる報告が寄せられる。
「敵艦より、小型艇がこちらへ接近!乗員は…1名!!」
長い金髪の少女が舵をとる真っ白な小型艇が、敵艦から全速力で向かってくるのが見えたのだ。
「小型艇、目標の右舷副砲より攻撃を受けている!!」
混乱しているのか、敵艦は仲間であるはずの小型艇にも発砲している。
「艦長、どうしますか…?」
想定外の事態に、五香は平井の指示を仰いだ。
「…作戦変更、対水上戦闘だ。副砲を攻撃しろ!小型艇の乗員を保護するんだ!!」
「ですが、敵艦の乗員ですよ? 我々に乗り込もうとしているんじゃあ…」
相手が1人だけであるということはさておき、反乱の疑惑をかけられている『晴風』と、それに随伴する2つの艦。
制圧を仕掛けられても状況的には何らおかしくない。
「だったらこっちから迎え入れてやろうじゃねえか。生身の人間が実弾喰らったら、命どころか体が残るかどうかの話だ。人道上の配慮による攻撃だ!」
「…了解しました。対水上戦闘、CiC指示の目標!主砲攻撃始め!!」
スクリューシャフトの方向へ狙いを定めていた『はつづき』の主砲は、敵艦の副砲へと照準を合わせていく。
「主砲目標よし!砲口監視員、砲口よし!射撃用意よし!!」
主砲の準備が整った。遂に『はつづき』が反撃する番がやってきた。
「主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!!」
「発砲!!」
砲術長の合図により、砲術士がトリガーの引き金を引いた。
主砲は轟音をたてながら、敵艦の副砲めがけて砲弾を次々と発射していく。
それを知ってか知らずか、目標である副砲は未だに小型艇へ向け発射を続けている。
その間に『はつづき』から発射された主砲弾は、ついに目標へ命中した。
艦橋からは、副砲が大破して炎上する様子が確認された。
だがそれと同時に、接近中だった小型艇の近くで水柱が大きく立ち、その姿が見えなくなってしまった。
「目標の破壊を確認!しかし、小型艇が爆発!敵の副砲弾が命中したものと思われる!!」
平井は思わず舌打ちした。タッチの差で届かなかったのだ。
「間に合わなかった…!!」
五香は顔をしかめた。
乗っていた少女が助かる確率は極めて低い。
CiCの空気は、たちまち冷たく重いものへと変わった。
誰もが少女の生存を諦めていたその時、耳を疑うような報告が飛んできた。
「『晴風』から1隻の高速艇が発艦!操縦者は…岬艦長です!!」
平井は自席から飛び上がった。
戦闘中に救助活動を行うなど、自殺行為と言ってもいい。
その上艦長が飛び出すなど、艦内の混乱を引き起こしかねない。
「…たとえ部下でも上司でも、一緒の艦になりたくはねぇな……」
平井は、小さく呟いた。
「なんで敵なのに助ける!?」
宗谷は、岬がこれから何をしようとしているのかがわかっていた。
"相手は自分たちを攻撃してきた敵ではないか。敵に塩を送るようなことをして、いったい何になる。そのまま見殺しにしておけ"
宗谷はそう思っていた。
しかし、岬の考えは宗谷のそれとは全く逆だった。
「敵じゃないよ。海の仲間は、"家族"だから」
宗谷は目を見開いた。
「行ってくるね」
岬は、艦長職を受け持つ生徒が被る制帽を宗谷へ預けると、スキッパーに飛び乗った。
「艦長落ちた子助けに行ったの!?」
西崎は、岬の行動が信じられなさそうに声を上げた。
「距離30まで近づけ」
宗谷は西崎の言葉を躱し、知床へ操艦の指示を出した。
「距離、32…31…」
『晴風』と『はつづき』は、徐々に目標へ向けその差を縮めていく。
「撃っちゃえ撃っちゃえ撃っちゃえ〜!!」
さっきの動揺はどこへ消えたのか。
西崎は自艦がこれから攻撃を行うことに対し、テンションが上がりきっている。
「2番砲、右 攻撃始め!!」
宗谷の号令と同時に、照準を合わせていた第二砲塔が火を噴いた。
続けて、『はつづき』の主砲が再び攻撃を行う。
初弾が目標の近くに着弾した直後、目標の近くから大きな閃光が上がった。
「目標に命中!シュペー速度落ちてます!!」
「やった〜!!!」
野間からの報告を聞いた艦内は、大きな歓声に包まれた。
すかさず宗谷が知床へ指示する。
「取舵一杯!第4戦速、ヨーソロ!!」
「取舵一杯〜!!」
ついさっきまであたふたしていたとは思えない程の素早い操艦に、納沙が半分呆れるような声でツッコんだ。
「逃げる時は、テキパキしてますねぇ…」
「大丈夫!?しっかりして!!」
岬は現場に到着すると、すぐさま救助活動を開始した。
金髪の少女は、副砲弾によって粉々になった小型艇の残骸に上手く引っかかるような状態で海に浮かんでいた。
その左手には、艦長が被るものと思われる制帽が握られていた。
いくら呼びかけても返事はない。今は彼女が息をしているのかどうかもわからない。
岬は少女を乗せると、彼女の脈が正常かどうかを調べ、次に自発呼吸があるかを確かめた。
「大丈夫。あなた、生きてるよ…!!」
岬は、少女の耳にそっと囁いた。
『晴風』へと戻った岬は、甲板上で鏑木に少女の治療を頼むと、艦橋へと戻った。
「シロちゃん!」
艦橋上から前方を見張っていた宗谷は、岬に気づくと岬の方へ軽く振り向いた。
「ありがとう!」
「…確実な指示をしただけだ」
宗谷はそう言ってそっぽを向いたが、その顔はかすかに赤くなっている。
「最大戦速!現海域から離脱する!!麻侖ちゃん!よろしくね!!」
機関室は、機関士たちのため息でいっぱいになった。
「ぶっ壊れちまうよ〜!!」
柳原の叫びが、悲しくこだましていく。
「…これからどうすればいいんだろう」
救助活動の際に海水をかぶった岬は、ひと段落ついたところで浴室に向かい、シャワーを浴びていた。
「私が不安そうにしてちゃダメだ!」
そう言って岬は、自分の頬を叩く。
「私は、艦長なんだから! …そうだよね?はなちゃん、もかちゃん!」
「美波さん!」
「あぁ、艦長…」
入浴を終えた岬は、先ほど救助した少女を心配し再び医務室へ向かった。
少女は海水でずぶ濡れの制服から、病院に入院している患者が着るような患者衣に姿を変え、ベッドの上で静かに眠っている。
「どう?」
「外傷は無い。脳波も正常。あとは、意識が戻るのを待つしか…」
副砲とは言え、ほぼ直撃に近い攻撃を喰らったのにも関わらず、怪我が無かったのは奇跡と言ってもいい。
岬は、ほっと胸を撫で下ろした。
「そっか…ありがとう。私、見てるから、美波さんは食事行ってきて?」
『晴風』では、既に乗員たちが交代で夕食を摂っている。
鏑木は少女が運ばれてきてからずっと、付きっきりで看病をしていたため、夕食のタイミングを逃していたのだ。
「感謝極まりない…」
鏑木はそう告げると、少女を起こさぬよう静かに医務室を後にした。
食事へ向かう鏑木を見送った岬は、少女の上にかかっている羽毛ふとんを直すと、少女をそっと見守った。
「はぁ〜汗かいたぁ…」
「やっとサッパリしたねぇ…」
浴室では、機関室の生徒たちが入浴する時間になっていた。
「はぁ〜本当にぶっ壊れるかと思ったぜぃ〜…」
戦闘中、第4戦速からの最大戦速で航行し続けていたため、エンジンは故障寸前まで負荷がかかり、室内は高温状態が続いていたのだ。
「さぁ!待ちに待ったカレーだ!カレー!!」
「さぁ!食べてよ〜!!」
『晴風』艦内では、今日が金曜日ということもあってカレーライスが夕食に出されていた。
自衛隊においても、曜日感覚を忘れないためとして旧日本軍時代からの風習として、金曜日の食事はカレーライスとなっている。
世界は違えど、海に生きる者同士で似ている部分もあるようだ。
「120%マジ美味しい〜!」
「これが晴風カレー…!!」
乗員たちは皆、カレーに舌鼓を打っている。
一口にカレーと言っても、それぞれの艦や部隊ごとにそのメニューは異なっている。
いくら曜日感覚のためとはいえ、レシピが同じでは乗員たちは流石に飽きてしまう。
国防に携わる者や運輸に携わる者にとって、食事は数少ない楽しみである。
給養員たちは隊員に少しでも活力を与えようと、各部隊でそれぞれ工夫の凝らした料理を作っている。
これも、自衛隊と共通している部分の1つである。
「やっと食べられますね〜!」
納沙は、やっとの思いでありつけられる食事に歓喜していた。
元々は昼食に提供されるはずだったカレーだが、シュペーとの戦闘に巻き込まれたこともあり、昼食自体が飛ばされていたのだ。
「…美味い!」
立石は、頬を赤く染めながらカレーを堪能していた。
「甘口だけどコクがあります…!」
「ブルーベリージャムを、隠し味に使ってるから…」
そう答えたのは、この艦の給養員長である 伊良子 美甘 (いらこ みかん) だ。
周囲からも続々とカレーに対する称賛の声が上がり、伊良子は嬉しそうに皆が食べている様子を見つめた。
「「やった〜!!」」
キッチンからその様子を見守っていた給養員、杵崎 ほまれ (きねさき ほまれ) と杵崎 あかね (きねさき あかね) は、双子の姉妹だ。
「マッチにも持っていってあげよ〜っと!」
先に食事を終えた等松は、当直のために食事に来られない野間へカレーを差し入れすることにした。
「何がマッチよ〜…」
和住は、朝から晩まで野間のことで頭がいっぱいな等松に対して、呆れを通り越して怒りを感じていた。
「美化委員長はクロちゃん派っすか〜?」
「はぁ!?」
青木の少しばかり煽るような言葉に、顔を真っ赤にする和住。
だが、話題に上がった黒木はと言うと…。
「あれ?宗谷さんは??」
こちらはこちらでガールズラブに陥っている様子。
「さぁ?艦橋じゃねえのか?」
共にやってきた柳原が、まるで "そんな事どうでもいい" とでも言いたげな表情をしながら答える。
その宗谷は、食事に出た知床に代わって環境で操艦していた。
「宗谷さん、お疲れ様。カレー持ってきたわ」
黒木は、宗谷のぶんのカレーを艦橋へと持ってきた。
「あぁ、すまない…」
皆と一緒ではないが、久々に摂れる食事に宗谷も思わず笑みをこぼす。
「あまり無理しないでね!」
黒木はそう言うと、左手を軽く振りながら食堂へ戻っていった。
宗谷は、左腕でカレーの乗ったトレーを支えながら、右手でスプーンを手に取った。
一方、『たかお』と『はつづき』も夕食時となっていた。
『たかお』の食堂では、乗員たちのおよそ半数が食事を摂っていた。
『晴風』などの学生艦とは異なり、乗員の数が莫大な海上自衛隊の艦では、乗員たちを半分ずつに区切り、それぞれが交代で食事を摂るというシステムが採用されている。
「なぁ?お前見たんだろ?『アドミラル・グラーフ・シュペー』」
「あぁ、まさか戦前の巡洋艦が動いてるところを生で見る時が来るだなんて思ってもみなかったぜ。」
「主砲を撃たれた時は、流石に今度こそは死んだと思ったわ…。」
「『はつづき』がヤツの副砲を撃ち抜いたと聞いた時ゃ、それはそれで驚いたけどよぉ」
乗員たちの話題は、昼間に起こった戦闘のことで持ちきりだった。
艦橋にいた者は当時の様子を事細かに話し、CiCなど艦内の奥で配置についていた者はその時のデータなどを持ち寄った。
「なぁ、この世界には『アドミラル・グラーフ・シュペー』が現存してんだ。もしかすると、大和型の姿が拝めたりしねえか?」
「どうたろうなぁ、俺らの知らない世界だから起こりうる話かもしれんが…」
「大和型をこの目で見られたら、それこそ自衛隊の冥利に尽きるぜ…」
そうして食事を運ぶ手が止まらなくなっていた。
一方、羽村たち幹部も士官室で食事を摂っていた。
「まさか、岬艦長が戦闘中に艦から飛び出すとは…。同じ国防の人間とは思えないほど度肝を抜かされました」
半沢はそう言うと、水の入ったコップに手を伸ばす。
「しかも1人だけでですよ? 艦長、ちょっと聞きづらいんですがその…この世界の海軍連中は、皆あのような人ばかりなのでしょうか?」
望畑は、"もしや、自分たちもこの世界で生きていく以上は、あのような行動を起こすような人間にならなければならないのか" と多少不安を感じていた。
「あ〜…いや、そんなことはないと思うよ?私だってこの世界で育ってた頃にそんな話を聞いた覚えは無いし、ミケちゃ…岬艦長の個人的な思惑があっての行動だと思う」
そう言った羽村の顔は、苦笑いを浮かべている。
「無理に言い直さなくてもいいですよ?艦長のお友達であるなら、変に他人行儀にするのもアレですし」
「そ、そう?じゃあお言葉に甘えて…」
半沢の勧めに、羽村は「では、改めて」と言葉を挟んで続きを語り始めた。
「そもそもミケちゃんがあんな風に、助けを求める誰かへ真っ先に突っ込むようになったのは、ミケちゃんに昔あった出来事が原因だと思うのよね…」
「出来事…ですか?」
「そう。その出来事っていうのは2つあるんだけど、そのうち1つは私が関わっていてね。 実は…」
羽村がそこまで言いかけた時、艦内通話用の受話器が鳴った。
部屋の中で共に食事をしていた最下級の幹部が、電話を取りに小走りで向かう。
「はい、こちら士官室。 …はい、はい。…艦長、CiCからです」
それを聞いた羽村は自席から立ち上がり、受話器を受け取った。
「はい、こちら艦長の羽村…」
すると受話器の相手は、とても緊迫した声で話してきた。
「艦長!至急CiCへお戻りください!緊急通信を使用した救援要請を傍受したとの報告が!!」
「何ですって!?詳細は!?」
「この世界に存在する艦艇の情報が乏しいため、艦種等については『晴風』に問い合わせています。ですが、救難信号を発した艦の現在位置については特定済みです!」
「了解、すぐに戻る!!」
羽村は急いでカレーをかき込むと、半沢と望畑を引き連れてCiCへと急いだ。
羽村たちがCiCへ戻ると、再び救援要請の通信が流れていた。
「…こちら『武蔵』、こちら『武蔵』。非常事態が発生、至急救援を…!」
その声を聞いた羽村は、驚いて目を見開いた。
「もかちゃん…!?」
何故ならその声は、彼女が明乃と同じように大切にしていた、もう1人の幼なじみの声だったからだ。
「現在、アサンシオン島沖北西。アサンシオン島沖北西! …至急、救援を。至急、救援を!!」
この言葉を最後に、通信は途切れてしまった。
羽村は目の前の状況に理解が追いつかず、ただその場に立ち尽くしていた。
(次回予告)
明乃「今回のゲストは、ココちゃんと『はつづき』副長の五香2佐で〜す!」
幸子&三咲「よろしくお願いしま〜す!」
明乃「いや〜それにしても、今回も大変だったな〜…」
幸子「えぇ。危うく 「コノママデハ、ワレワレハ、ウミノモクズデス!!」 「受け入れるしか、あるまい…」 みたいになってしまうところでした〜…」
明乃「いつもノリノリだね、ココちゃん!」
三咲「私このテンションについていけるのかなぁ…」
明乃「大丈夫だよ三咲ちゃん!そのうち慣れるって〜♪」
三咲「ッ…!? 私、女の子からちゃん付けされたの久しぶり…ちょっと感動…!!」
幸子「で、次回はどのようなご予定で?」
明乃「みんなのパジャマ姿を大公開するよ! 次回『ハイスクール・フリート』! 「ガールフレンド かっこ… 」」
三咲「いや待って!それ以上喋っちゃダメ!!絶対にダメ!!!」
明乃「え〜なんで〜??」
三咲「なんでも!!」
幸子「そうですよ!理由を教えてください理由を!!」
三咲「あ、あぁえっと…あ、明日に向かってヨーソロー!!」
幸子「あ、逃げました!逃げましたよこの人!!」
※今回のオマケ
登場する護衛艦の紹介
・DDG 178 『たかお』
海自初のイージス艦『こんごう』型の就役後に、朝鮮半島の軍事問題が活発化してきたことを踏まえて追加製造されたイージス艦『なち』型の2番艦。
(※という設定。忠実の『こんごう』型と『あたご』型の間で建造されている。なお『あたご』型は、第5・第6護衛隊群の新設計画により建造されたものとしている)
『こんごう』型での実績を反映させつつ、同型で浮かび上がった反省点などを大きく向上させ、ステルス性のさらなる向上を図っている。
当初、『たちかぜ』型護衛艦の代替として『なち』が舞鶴の第3護衛隊群へ、『たかお』が佐世保の第2護衛隊群へそれぞれ配属された。
後の第5・第6護衛隊群の新設に伴い、『なち』は横須賀に新設された第5護衛隊群へ、『たかお』は母港を同じとする第6護衛隊群へ転属されている。
なお、BMD改修については諸般の事情により『あたご』型に先行されたため、未実施のままであった。
[諸元]
基準排水量:7550t
満載排水量:9780t
全長:163m
全幅:21m
駆動方式:COGAG制御
出力:100,000馬力
速力:30kt以上
レーダー:SPY-1D (V) フェーズドアレイ・レーダー 、 OPS-28D 対水上レーダー 、OPS-20 航海レーダー
砲熕:54口径127mm単装速射砲 1基 、 高性能20mm機関砲 (CiWS) 2基
ミサイル:Mk.41 VLS 96セル (64+32) ※SM-2・VLA併用 、 ハープーンSSM4連装発射筒 2基
水雷:3連装短魚雷発射管 2基 (97式 / Mk.46)
艦載機:SH-60 J / K 1機 (後日装備)
乗員:約300名
・DD 119 『はつづき』
僚艦防空の機能を有する唯一の汎用護衛艦として活躍する『あきづき』型の5番艦。
第5・第6護衛隊群の新設に伴い増備されたグループ。
従来の『あきづき』型に比べて変化はほぼ無い。
[諸元]
基準排水量:5100t
満載排水量:6800t
全長:150.5m
全幅:18.3m
駆動方式:COGAG制御
出力:64,000馬力
速力:30kt
レーダー:FCS-3A フェーズドアレイ・レーダー 、OPS-20C 航海レーダー
砲熕:Mk.45 62口径5インチ単装砲 1基 、 高性能20mm機関砲 (CiWS) 2基
ミサイル:Mk.41 VLS 32セル ※ESSM(シースパロー)・VLA併用 、 90式SSM4連装発射筒 2基
水雷:324mm3連装短魚雷発射管 2基 (12式)
艦載機:SH-60K 1機
乗員:約200名
(※他にも電子戦に対抗する手段など、装備は沢山ありますが書き切ろうとすると大変なことになりますのでここで区切らせていただきます。
許してください!何でも…するとは言っていない。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!
今回の第二話、早くも難産でした。
なんてったって文字数約2万文字ですぜ!?
こんなに書いたのは流石の俺も初めてダァ…(コマソドー
実を言うと前回の第一話を投稿してから、およそ10日ほどで今回の8割を書き終えていたのですが…。
中の人が「探偵はもう、死んでいる。」と「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」にハマりまして、それが原因で残りの2割をそっちのけにしていたんです…。
いやさ、シエスタちゃんにカタリナちゃん。可愛すぎひん!?((殴打
いや〜これはちょっと世間は許してはクルルルェアセンヨォ (アキバのオタク
え?最後ら辺に違うマンガものの名前が挙がったって?
気のせいじゃないかなぁ…((明後日の方向
いつもの如く、次回の投稿予定時期は未定です!!
気長にお待ちください!!((現実逃避
また今回も、感想やご意見、お待ちしております!
誤字脱字の報告なども、どしどしお寄せください。