空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく   作:味なしコンフレーク

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※2021年7月26日、第一章の内容を分割しました
※2025年5月26日、一部推敲。


Spring Days-1-

Ep.01

 「すみません。その子、知り合いなんです・・・手、はなしてあげてくれません?」

駅で体格の良い男たちに囲まれていた女の子を無視できなかった僕は、知り合いのフリ作戦で声をかけた。

「あ゛・・・? オニーサン、誰?」

「僕の名前は・・・「そういう意味じゃなくてさー」」

少女の手を掴んでいたリーダーらしき金髪の男はこっちをジロリと睨んだ‥‥漫画の主人公だったら涼しい顔をしていられるような相手なのかもしれないが、僕は何とか平静を装うのが精一杯だ。その証拠に怖くて足の震えが止まらない。

「なにしゃしゃってんの?って意味。俺たちはこれからこの子と遊びに行くだけなんだよ」

「‥‥怖がってますけど?」

「ヒーロー気取りは辞めてくれない?メーワクなんだけど」

金髪が仲間に「おい」と声をかけると、スキンヘッドの男が僕の肩に手を回した。

「こいつに逆らうのはやめておけ。特にここ最近は烏合衆とかいう輩が幅を利かせているからお前みたいなのは余計癪に障るんだよ。だから・・・さっさと帰れ、な?」

親しい友人のように語りかけてくるが、目は笑っていなかった。逆らえば殺す。そう言いたげだ‥‥だが、それで逃げたら勇気を出した意味がない。

「・・・手をはなしてください」

「分かってくれたか。じゃあさっさと––––」

スキンヘッドが僕と目を合わせた瞬間、彼に一瞬だけ隙ができた。

隙さえあれば、例え相手が強くても––––一撃くらいは当てられる。

「『強化の魔術を起動(SYSTEM•SET)』!」

炉心(しんぞう)に火を灯すイメージ‥‥循環させ、発勁の要領でスキンヘッドを突き飛ばした。

「な・・・!?」

「え・・・?」

「今・・・なにが起きて・・・?」

金髪と彼の仲間たちが呆然としているうちに僕は少女の手を掴んで男たちから引き離した。

「ここは僕に任せて。今のうちに逃げて」

「あ・・・えっと」

「早く!!」

「は、はいっ!」

金髪たちと一緒に呆けていた少女が無事に包囲網から逃げられたことに安堵したのも束の間、僕は襟首を掴まれ、地面に叩きつけられた。

「うぐっ・・・!」

「やってくれたな、おまえ。ただの隠キャかと思えば」

金髪がさっきより恐ろしい形相で僕を睨んでくる。まさに怒髪天を衝く。おそらく無傷では帰してくれないだろう。僕にそれをどうにかする術はない。

「は、はは・・・見逃してくれるとか、ないよね?」

 

 

Ep.02

顔面に綺麗な右ストレートを食らって意識が吹き飛んだ僕が目を覚ましたときに見たものは、瓶底メガネのアイドルオタクだった。

「深春氏!目を覚ましたでござるか!」

「‥‥最悪だ。目を覚まして最初に見るのがお前の顔かよ」

「心配していたんだ。中々目を覚まさないから、今生の別れとなってしまったかと後悔していたところでござる」

「勝手に殺すなよ・・・ここは?」

「駅の救護室。時刻は11時。2限の講義は間に合わないでござるな」

「ご丁寧にどうも・・・アイツらは?」

「アイツら?」

「とぼけるな。見ていたろ、ボコボコにされているところをさ。僕はしっかり『捉えて』いたぞ、弓手」

「‥‥さすが深春氏。盗み見だけは他の追随を許さない男ですな」

弓手ミブローはいつもの口調でヘラヘラ笑いながら茶化してきた。

「言いたいことがあるならハッキリ言えよ」

僕がイライラしていることに気づき、揶揄うのをやめた弓手だったが、代わりにおどけた顔で肩をすくめてみせた。

「あんなガタイの良い連中に突っかかったところで、こうなることは目に見えていたはず。知らないフリだって出来た。なのに、しなかった。今日だけじゃない。拙者達が出会ってかれこれ3年。我が友人の自己犠牲だけは未だに理解できないでござる」

「・・・お前には一生理解できないよ」

理解しない方が良い。僕のこれは自己犠牲だなんて崇高なものじゃない‥‥ただの自己満足なのだから。

「あの・・・」

そのとき弓手の背中からひょっこりと顔を出したのは、僕がさっき助けた少女であった。

レースのついた花柄のワンピースを着た彼女は僕が目を覚ました事にホッとしていたがどこか申し訳なさそうな表情も浮かべていた。

「・・・お前の知り合いだったのか、弓手?」

「救護室への付き添いに名乗り出たら、一緒にいかせてくださいって頭を下げてきたので連れてきた。一緒に手当てを手伝ってくれたんでござるよ」

「そうだったのか。ありがとう」

「いえ、そんな!私こそ、助けてくれてありがとうございました!」

「気にしなくていい。僕が行かなくても駅員がそのうち助けてくれたよ」

「六花氏。我が友人の深春氏は喧嘩が強くもないのに殴られにいくヤベー奴でござる。お礼なんか言っても何も出てこないでござるよ」

「・・・まぁ、そうだな。君が無事だったのなら、僕はそれでいい」

「そ、そういうわけにもいきません!」

‥‥面倒くさい。こっちが良いと言っているのだから、礼だけ言って帰れば良いものを。

無視して帰ってしまおうか?・・・なんて考えていると、珍しく静かだった弓手が僕とロッカさんの肩に手をおき、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。嫌な予感。

「弓手、お前ちょっと黙っていr––––」

「そんなにお礼がしたいのなら、深春氏の友達になってあげてほしいでござる!」

「え、お友達、ですか・・・?」

「深春氏ってばこんなんだから拙者以外にマトモな友達がいないんでござるよ。まぁ話す相手がいないというわけではないんでござるが、それはともかく、拙者は、こうみえて忙しいので、毎日深春殿と遊んであげることもできないんでござるよ」

言いたい放題の弓手を今すぐぶん殴ってやりたかったが我慢する。助け舟とは言えないが、この状況を抜け出す為の一手にはなった。

「コイツの戯言だよ、聞かなくて良い。ここら辺はあぁいうのが多いから、次は友達や親御さんと一緒に来ると良い」

話を強引に終わらせるように持っていけば、向こうも深追いはしない。今日の金髪達は僕のことを知らなかったようだが、年単位でナンパやカツアゲの邪魔をし続けているのだ。助けた人が今度は復讐目的で人質にされかねない。

「それじゃあ」

「っ・・・ま、まって下さい」

背を向けて歩き出す僕に声をかけたのは他でもないロッカさんだった。

「私、今日から進学で上京してきた朝日六花って言います。旭湯っていう名前で銭湯をしている親戚の家で下宿を始めるんです。だから、その・・・お風呂、入りに来てください!コーヒー牛乳奢ります!!」

人間というものは損得感情で動く生き物だ。お金を払って洋服を買ったりご飯を食べたりするのと同じように、『助けたということは何かの見返りを期待しているはずだ』と考える。けれど僕は、助けた人間に見返りを要求したことは一度もなかった。どんなに大怪我しても『助けた人間が無事ならそれで良い』と思っているからだ。当然、恩を返そうと考えていた相手は、困惑する。

そして、大抵の人間はこう考えてしまうものだ。『気味が悪い』と。

だから・・・自分のような人間に『また会っても良い』と思っている物好きの言葉(やさしさ)くらいは受け取っておこうだなんて思ってしまった。

「・・・日野芽学園大学1年の近衛深春だ。気が向いたら行くよ、朝日さん」

『長風呂は苦手だから行かないかもね』という言葉を呑み込んだ。おそらくもう二度と会うことはないだろうし、わざわざ相手を不快にさせることもないと思ったからだ。

 

 

「ちょい待ちでござる、深春氏!」

朝日さんと別れた後、今日はもう講義もないのでさっさと家に帰ろうと帰り道に足を向けたのだが、弓手がそれに待ったをかけた。

散々人のプライベートを会ったばかりの女子高生(あさひさん)に暴露しまくった上に、今度は進路妨害だ。百歩譲ってコイツが現状、唯一無二の友人だったとしてもこれ以上は看過できない。人を『殴られて喜ぶ変態』扱いしたことへの仕返しくらいはしておかなければ。

「待たない。ついでにいうなら、もう二度とペア握手券の入手は手伝ってやらない」

「そんなッ!?我ら友人じゃないでござるか~!!そんなこと言わずに、今度の千聖様の出演する映画のペアチケットの抽選会も付き合ってくれでござる、深春氏~!」

アイドルバンド『Pastel*Palettes』、コイツはそんな通称パスパレの大ファンだ。元人気子役『白鷺千聖』が最推しらしい。

そんな、命よりも大事だと豪語するパスパレの推し活を手伝わないと言われるのがコイツには1番堪えるだろうと僕は思った。結果は思ったとおり。

「人をマゾヒスト扱いしやがるやつの言うことなんか誰が聞くか」

「それに関しては拙者もちょっと言い過ぎたと思っているんでござる!!だから、深春氏に昼食をご馳走しようと思って・・・」

「お前が僕に昼食・・・?一体どういう風の吹き回しだ?」

『推しに全てを懸けてこそ真のドルオタだ!』と信じて疑わない弓手はその言葉通り、趣味以外にお金をかけることは全くない。そんな男が『昼食を奢る』と言い出したのだ。なにか企んでいる、と警戒するのは当然だ。

「何も企んでなんかいないでござるよ」

そう前置きした弓手は、ポケットから2枚の紙切れを取り出した。

「一日限定ランチ無料券・・・?」

「同じパスパレファンの同志からもらったのでござる。『ご主人様のお世話をしないといけないのでよろしければどうぞ~♪』とのことで、有り難く頂戴した」

「自腹を切ることはないだろうとは思っていたが、そういうことか・・・」

だがこれは僕にとっても有難い話だ。大学への進学を機に『学費以外は自分で何とかしろ』と親に仕送りをストップされてしまったので、人助けで負った怪我の治療費にしていたバイト代を日々の生活費に回さなければならなくなってしまったからだ。

出費はなるべく減らしたい。答えはもう決まっていた。

「・・・分かった。お前の提案に乗る」

「決まりでござるな!」

ニッと笑う弓手。なんだかコイツの口車に乗せられたみたいで癪だが、なんにせよタダ飯を食えるのなら、少しくらいは付き合ってやっても良いかな。

 

 「こんなことだろうと思ったぜ・・・」

「拙者はただここら辺でパスパレのロケが行われる予定だと、有力筋から情報を得ていただけで、チケットに関しては本当に偶然だったんでござるよ?」

「どうだか・・・」

向かいのケーキ屋で食レポを行っているアイドルたちを気持ちの悪い笑顔を浮かべながらながめる弓手。仕事とはいえ、こんな奴にも愛嬌を振りまかないといけないパスパレがなんだか可哀想に思えてくる。

「いやぁ~、今日も千聖様はお美しいでござるなぁ~」

弓手の視線の先にはお上品にケーキを口に運んだ少女がカメラに向けて笑顔を見せている。上品な立ち振る舞いや言動を普段から心がけているのだろう。

「・・・あんなの営業スマイルに決まっているだろう。あぁいう清廉潔白そうな奴に限って、腹の中がドス黒かったりするんだぜ?」

「やれやれ・・・千聖様腹黒説を未だに信じている輩がいたとは。良いでござるか、深春氏?それは彼女たちを快く思わない連中が作り上げたデマ。我々からすればそんな説、もはやアンチ共の負け犬の遠吠えでしかないのでござる。見よ!あの千聖様の神々しい姿!」

視線の先では、ギター担当の氷川日菜(興味はなくても何度もライブや握手会に連れ回されたら嫌でも覚える)が、お茶の間を凍りつかせるような発言でもしたのだろう。白鷺千聖が般若のような形相で激怒している。本人は全く反省していないようであるが。

「あぁ・・・仲間を諭す凜々しい彼女もまた美しい・・・!」

「‥‥そういやお前、講義は夕方からだったよな?なんであんな朝早くから駅前にいたんだ?」

パスパレに特に強い思い入れがあるわけでもない僕は、ランチを食べ終わり、すっかり暇になってしまったので、退屈しのぎにそんなことを聞いてみた。

「麻弥さんの『ドルドル』内コラムのまとめ本発売を記念したサイン会の帰りでござる」

「・・・ブレないな、お前は」

初めて会った時もそうだった。今朝のようにナンパに絡まれていた高校時代の後輩を助け、ボコボコに殴られた僕が気を失っている間に弓手が警察を呼んでくれたのがキッカケだ。大抵は怖い思いをしたくないから見て見ぬ振りをするのにそうやって勇気を出せるやつもいるのだから、世の中まだまだ捨てたものじゃないって感心していたのだが・・・。

『いやー、なんか弱そうな癖にヒーロー気取っている馬鹿がいるなーって思っていたのでござるが、黒髪ゴスロリ巨乳美女が困っていたからつい助けてしまったでござる~。今日が新曲の発売日じゃなくて握手会だったら、見捨てていたかもしれないでござるがな』

多分、コイツは本当に握手会があったら俺を見捨てていたに違いない。弓手ミブローとはそういう男である。

(だけど、なんだかんだ言ってコイツには助けられてばっかりなんだよな)

助けるといっても、やっていることはただ駅員か警察を呼ぶだけという他力本願なのだが、なにもしないよりはマシだ。それに今日だって、救護室への付き添いに名乗り出てくれた。性格は悪いけど、性根まで腐りきっているわけではないのだ。コイツへの文句は山ほどあるが助けてくれていることに関してはお礼を言うべきだろう。

「それじゃあ、拙者、用事があるのでこれにて」

「あ、あぁ。ありがとう、弓手」

「・・・風邪でも引いたか、深春氏?」

やっぱり、この男とは縁を切ってしまった方が良いのかもしれない。

 

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