空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく   作:味なしコンフレーク

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Prequel the May's-1-

-Opening-/弓手ミブローの焦燥

 「深春さんッ!・・・深春さん・・・ッ!!」

「近衛さん、聞こえますか!?近衛さん!?」

近衛深春は死にかけていた。

六花ちゃんと看護師が必死に呼びかけるが、心拍数は下がり続ける一方だ。

「クソ・・・こんなところで死ぬなよ!俺や庵堂が助けた意味がねぇだろ!」

 

 

「師匠!」

『手術中』と書かれたドアの前で立ち尽くす六花ちゃんを慰めるべきかどうか迷っていた俺に声をかけたのは、推しのアイドルの一人である若宮イヴちゃんだった。彼女が働いている喫茶店の看板娘であるつぐみちゃんもいる。

「ミブローさん、深春さんの容態は?」

「まだなにも分からないでござる・・・」

「そうですか・・・」

その時、病室のドアが開いて看護師さんが出てきた。

「看護師さん!深春さんは!?」

「危険な状態です。あとで先生からもお話があるかと思いますが・・・」

「そんな・・・」

顔を真っ青にして倒れそうになった六花ちゃんを支えるつぐみちゃん。

「私、知らない男の人に殺されそうになって・・・深春先輩、私を守るために・・・いやや、深春さん、死んじゃいややッ!!」

「落ち着くでござる、六花氏!」

俺は、自責の念から錯乱しそうになっていた六花ちゃんの肩を掴んだ。

「っ・・・ミブロー、さん・・・」

「六花氏・・・まだアイツは死んでいない」

俺は本音で六花ちゃんに言葉を伝える。

「近衛深春は弱くて、向こうみずの阿呆だ。あんな化け物に突っかかったところで、こうなることは目に見えていたはずなのに、偽善者ぶって、この有り様だ。出会ってかれこれ3年ほど経つけど、あの自己犠牲だけは未だに理解できない」

「ッ・・・そんな言い方・・・!」

「でも、これだけは言える・・・アイツは君を置いてどっかに行ったりしない」

「え?」

「・・・これ以上は言えない。でもさ、アイツが今まで、誰かを助けるために命まで投げ出したことは一度だってないんだ」

そうだ。近衛深春は、こんなところで死んじゃいけない。まだアイツは、本当の意味で、六花ちゃんを救えてはいないのだから。

 

 

- Day1- 0:00/『弓手』と『庵堂』

 「君は意外と友達思いなんだな。もっと薄情なやつだと思っていたよ」

六花ちゃんをつぐみちゃんたちに任せて、病院を後にする俺に声をかけたのは、庵堂だった。

「魂狩りは?ちゃんと殺したのか?」

「恐ろしいことを言うな、君は。私はね、無駄な殺生はしない主義なのさ・・・まぁ、死ぬより辛い地獄が彼には待っているけどね」

煙草の煙を揺らめかせながら、にっこりと笑う庵堂。

「これからどうするつもりだい、ミブロークン?」

「決まっている。魂狩りの共犯者を炙り出すんだよ」

そういうと、庵堂は少し驚いた表情を見せた。

「魂狩りとの会話を聞いていたのか?」

「これだけ騒ぎが大きくなっているのに、烏合衆が全く対処しようとしていない時点で、考えられることは二つだ。烏合衆の目を上手く誤魔化せる魔術師が魂狩りに協力していたか、或いは・・・」

二つ目を言いかけた俺は居合の要領で抜き放った刀を庵堂に突きつけた。

「・・・烏合衆にとっては得があるから見逃していたか、だ」

血気盛んな部下数人が銃を構えるが庵堂が手で制する。

「だが二つ目の線は消えた」

「それは私が深春クンを助けたからかい?」

「違うな・・・お前が魂狩りではなく、近衛深春を利用しようとしているからだ」

「ぷっ・・・あっはっはっは!面白いことをいうなぁ!『近衛深春を利用しようとしているから信用する』だなんて、一体全体、君はどっちの味方なんだい?」

「俺が近衛深春を助けたのは、自分の為。ついでに言うと、乗る船は慎重に選ぶけど、乗った船を途中で降りるなんていう中途半端な事はしない・・・ここで共犯者を見つけて、近衛深春とアンタらに恩を売る」

刀を新聞紙で隠していた鞘に納刀する。瞬間、俺の服装はいつものオタクファッションから紋付羽織袴へと変わった。

「良いね、乗った!早速で悪いが働いてもらうとしよう・・・精々頑張ってくれよ、弓手の当主さま?」

 

 

- Day1- 13:00/白鷺千聖の憂鬱

 「えっ!?深春先輩が!?」

レッスンの為、事務所に集まった私たちパスパレの話題は、あまり聞きたくない内容だった。

「ハイ。何とか一命は取り留めたんですけど、まだ目を覚まさないらしいんです・・・」

「そうなんだ、心配だね・・・私たちもお見舞いに行こうか?」

「それはダメよ、彩ちゃん」

「え?」

「私たちはアイドルなのよ?大人数でゾロゾロと特定の人物の病室を尋ねたら、週刊誌になんて書かれるか分かったもんじゃないわ・・・」

「そ、それは、そうだけど〜・・・」

「イヴちゃん、あなたもよ。トラブルを好むような人間とはなるべく関わらないようにしなさい」

「そ、そんな・・・!」

「分かったわね?」

「ッ・・・は、はい」

しゅん、と落ち込むイヴちゃんを見て少し言い過ぎてしまったと後悔したけれど、これも、彼女のためだ・・・『魔術師』なんて危険な連中と仲良くなっても良いことなんかない。

「・・・千聖ちゃん、ちょっとひどくない?その人、幼馴染なんでしょ?」

このまま話は終わりかと思いきや、黙っていたメンバーの日菜ちゃんがとんでもない爆弾を落とした。

「え!?」

「そ、そうなの、千聖ちゃん!?」

「・・・誰からそれを聞いたのかしら?」

「薫くん。なーんか、顔が暗かったからさー、どうしたんだって聞いたら教えてくれたんだよ?なんかちょっとだけ怒っていたようにも見えた」

「そ、そう・・・できれば、あまり言いふらさないでちょうだいね?」

余計なことを、と少し苛立ったが、悪いのは私なので、薫が愚痴を溢したくなるのも仕方がないことだと思った。

瀬田薫は同い年の幼馴染。日菜ちゃんが生徒会長をしている羽丘女子学園の生徒で、中性的な顔立ちから『羽丘の王子様』と呼ばれており、熱狂的なファンが多い。

そして・・・一つ上の幼馴染、近衛深春。日野芽学園大学の文学部に入学したばかりの青年。彼とは家族ぐるみの付き合いだったので、彼が『魔術師』であるということは知っていた。

どちらも積極的に関わりたくない相手だが、後者に至っては正直、顔も見たくないし、声も聞きたくない。何故なら、自分の感情を押し殺し、見知らぬ誰かを助けようとする彼の人間性に嫌悪感を抱いているからだ。

だから、昨日の夜にかかってきた電話で珍しく焦った様子の薫に彼のことを聞かされても私は、病院に行くことを頑なに拒んだのだ。

『・・・ちーちゃんのばか』

電話が切れる前に、薫がぽつりと呟いた言葉は、普段演じている王子様キャラではなく、彼女自身の本心だった。

「私もちょっと言い過ぎだと思うよ、千聖ちゃん。深春先輩と何があったのかは知らないけれど、悪い人じゃないのは確かだよ」

「う・・・」

ボーカル担当の彩ちゃんも日菜ちゃんに味方する。言葉を届けるのが仕事の彼女だからこそ・・・その言葉は強く突き刺さった。

(そんなこと分かっているわ。子供じみたワガママだってことくらい・・・でも、そう簡単に納得できるものじゃない)

ドラム担当の麻弥ちゃんは少しだけ遅れて来るので、この場には私以外に味方はいない・・・どうすれば誤魔化せるだろうか?と考えていた時だった。

「何の騒ぎですか?」

聞こえてきた声にホッと胸を撫で下ろす。

「甘野さん・・・お疲れ様です」

事務所に姿を表した声の主は、最近パスパレの担当スタッフになった甘野さん。私が唯一信頼している男性だ。

「「「お、お疲れ様です!」」」

「千聖さん、お疲れ様です・・・皆さんも、ご苦労様です」

爽やかな笑顔を私たちに向ける。それだけで幾分か心が楽になるのを感じた。

「すみません、甘野さん。すぐにレッスンを開始しますね」

「ち、千聖ちゃん、話はまだ・・・」

「甘野さんはお忙しい方なのよ・・・別に、お見舞いに行くのがダメって言ったつもりはないわ。ちゃんとアイドルとしての自覚があるのかを聞きたかっただけだから」

「お見舞い?誰か入院されたのですか?」

「え、えぇ。今年、卒業した高校の先輩です」

「困っている人のために勇気を出して立ち向かう・・・ミハルさんはまさに私の目指しているブシドー精神の持ち主そのものです!」

「ちょっと、イヴちゃん!」

「人助けですか・・・まだ若いんでしょう?大した人だ。僕とは大違いだn「そんなことありません!!」」

助け舟に乗っかるという名目もあったが、それ以上に、甘野さんの言葉を否定したかった自分もいた。

「甘野さんのおかげで私たち、すごく仕事がしやすくなりましたし、それを決して驕らず努力を続ける姿は本当に素晴らしいと思います!!甘野さんが近衛先輩なんかより劣っている部分なんて一つもありません!」

「・・・」

「・・・あっ、ご、ごめんなさい、私ったら・・・」

ついさっき言い過ぎを反省していたのに、またやってしまった。どうも調子が悪い・・・私はこうも溢れ出る感情に歯止めが効かなくなるタイプだっただろうか?

「千聖ちゃん、甘野さんには甘いよね?・・・もしかして好きなの?」

「は!?ひ、日菜ちゃん!変なこと言わないでちょうだい!!甘野さんにも失礼でしょう!!」

「そーう?男の人は、千聖ちゃんにそんなこと言ってもらえたら嬉しいと思うけどな〜・・・ね、甘野さん?」

「えぇ、もちろん」

甘野さんは私を見てニコリと笑い、そっと手を握ってきた・・・不思議と嫌悪感はない。

「アイドルとただのスタッフ、社会人と学生、性別・・・僕たちにはたくさんの壁がありますが、もし、それらが許されるのだとしたら・・・とても嬉しい」

「甘野さん・・・」

あぁ、やはり彼は素晴らしい人間だ。性別は違うけれど、こういう余裕のある大人になりたいと思う。

 

彼こそ、(カレニナラ、)私の理想なのかもしれない(ワタシノスベテヲササゲテモイイ)

 

 

- Day1- 17:00/烏合衆 幹部会議

 「で・・・共犯者の件、目星はついたのか?」

魔術管理課の末端組織・烏合衆の屋敷にて頭領である着流しを着た白髪の男が鋭い眼光を庵堂ウィノラに向けた。

「そう上手くはいかないさ祖父さま。なにせ今日まで私たちの眼を掻い潜っていた奴なんだから・・・やっぱり魂狩りから脅して聞き出しておくべきだったかなぁ・・・」

「これは俺ら組織のメンツに関わってくる問題だ・・・何としてでも共犯者を炙りだせ」

「だが、そう簡単に見つかるのか、庵堂?」と幹部の一人が疑問を呈する「相手が相手だ。大勢で動いて勘付かれたら見つけ出すのは困難だろう?」

「まぁ厳しい状況ではあるよ。こういう、探し人に最適な魔術使いクンはまだ意識が戻らないしね。だけど、希望がないわけじゃない」

そう言って庵堂が取り出したのは、解決したはずの魂狩りによる連続殺人事件の被害者と事故現場の写真だった。

「協力者からの情報でね・・・事故現場には、ある共通点があるらしい」

「共通点?」

 

「あぁ。日にちはバラバラだけど・・・どの場所も、過去にパスパレのロケが行われているのさ」

 

 

- Day2- 11:00/千聖と弓手

 「あら、こんにちは、弓手先輩」

「御機嫌よう、千聖様。今日もかわいいでござるな。どこの女神かと思いましたぞ」

新曲発売を記念したパスパレの握手会にやってきたのはファンの一人でもある先輩だった。

「ふふ、ありがとうございます。でも煽ても握手会の時間は伸びませんからね?」

「分かっているでござるよ。出禁にされたら堪ったもんじゃないでござるからな」

そう言って私と軽く握手を交わす弓手先輩。ファンとしての一線をしっかりと守って応援してくれる彼のことはそこまで嫌いじゃない。臭いとかにも気を遣っているみたいだし、年頃の女の子への正しい接し方も心得ているようだ・・・奇抜とも言えるオタクファッションで全部台無しになってはいるのだけれど。

「・・・イヴちゃんから聞きました。彼、大怪我されたそうですね」

「え、あぁ、深春氏?まだ意識は戻っていないんでござるが、容体は安定しているし、大丈夫でござる」

「心配じゃないんですか?」

「いや全く・・・それより千聖様、拙者としましては次のライブこそゆらゆらを・・・」

サラッと流されてしまったが・・・一瞬だけ、誰かを鋭く睨んだような気がした。

「では千聖様、お仕事ガンバでござる」

「えぇ、また来てくださいね」

「推しの為ならば是非もなし・・・あぁ、最後に一つ」

「?」

 

「あまり他人を信用しすぎない方がいい。手遅れになる前に」

 

「え・・・?」

「・・・なーんちゃって。では、これにてドロン」

背を向けてヒラヒラと手を振りながら去っていく弓手先輩。

「手遅れって・・・何のことかしら?」

 

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