空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく 作:味なしコンフレーク
???/昔の記憶『わたしとはるくん』
『事務所の人にいわれたの。はるくんのおうちはあやしいしゅうきょうをやっているから関わるなって』
小学校の帰り道、わたしは、先を歩く一つ年上の幼馴染にそう声をかけた。
少年は立ち止まったがこちらを振り向かない。
『・・・そうなんだ』
『怒らないの?』
『まぁ、そう思われても仕方がないから・・・ちーちゃん知っている?人ってさ、知らないことに対してすごく怖がるんだよ』
はるくんはそう言われることに慣れているのかもしれない。彼を切り捨てようとしている私に怒ったりはしなかった。
『僕はこの力を困っている人のために使うよ。そうすれば、きっと・・・』
振り向いたはるくんがどんな顔をしているのか見ようとするのだけれど・・・いつもそこで『
- Day2- 18:00/白鷺千聖の感情
「・・・ん?」
何かに揺らされる感覚に私は目を覚ました。何か夢を見ていた気もするのだが・・・はっきりと思い出せない。
「目が覚めましたか?随分とうなされていましたよ?」
「甘野さん・・・はッ!?」
私は、仕事が終わって甘野さんに車で家まで送ってもらっていた最中だったことを思い出した。
「す、すみません、居眠りなんて・・・」;
「大丈夫ですよ。むしろ安心しました。今日は少し疲れていた様子でしたから」
「本当にすみません・・・」
弓手先輩の言葉が頭から離れなかった私は今日、全く仕事に集中できなかったのだ。
「千聖さんは、もう少し肩の力を抜くことを覚えたほうが良いかもしれませんね」
「それは・・・」
「まぁ、どんな仕事でもプロ意識を忘れない千聖さんには難しいかもしれません。そこが貴方の長所でもあるのでしょうが・・・」
「・・・」
「僕を頼ってくれても良いんですよ」
「え?」
「貴方たちが最高のコンディションでアイドルとしての活動ができるようにサポートするのが僕の仕事です。他のメンバーや家族に甘えるのが難しいと言うのなら・・・って、これじゃあ何だか愛の告白みたいですね、ハハハ」
「甘野さん・・・///」
顔が熱い。言葉の一つ一つに心地よい気持ちよさを感じる・・・あぁ、これが恋なのだとしたら、抗えない。
うっとりしていた私を・・・突然、ガツンッ!という衝撃が襲った。
「うわッ!?」
「きゃああッ!?」
車は駒のように回転しながら、近くの電柱にぶつかった。
「いっつ・・・甘野さん!大丈夫ですか?」
私は運転席の甘野さんに声をかけた。
返事はないが、息はしている。気を失ってしまっただけのようだ。
「一体、なんなのよ・・・え!?」
とりあえず救急車を呼ぶために車を降りた私は、言葉を失った。
腐臭を放つ死骸のような動物たちが群れを成して動いていたからだ。
・・・いや、間違いなくこの動物たちは死骸だ。そうでなければ、内臓や眼球が体からこぼれ落ちようが、平然と動き回っていられることに説明がつかないからだ。
その群れがこちらに襲いかかってきた。
「・・・っ!?」
死ぬかもしれないという恐怖と絶望。せめて苦しまずに楽になれたらと願いながらギュッと目を瞑った。
「『
ズガン!という音がしたけれど・・・それは私が化け物に食い殺された音ではなかった。
「え・・・!?」
立っていたのは弓手先輩だった。そして、彼がぶん投げたのであろう巨大な手裏剣が化け物の群れを轢き潰していた。込み上げてくる吐き気を無理やり抑え込む。
「やれやれ。魂狩りのやつ、自分の使い魔を放っていきやがったな・・・大丈夫でござるか?」
「弓手先輩・・・今のってまさか–––」
「待った!」
「へ・・・?」
「言いたいことはわかる!だが待ってほしい!千聖様の言葉一つ一つが尊いもの。ならばここではなく、次の握手会で・・・」
「ふざけないで!!」
生物としての形が残っていたものをグチャグチャにしておいて、平然としていられる弓手先輩を
「・・・へ?」
「何なのよ!あなたたちは、どうしてそんな簡単に命を投げ出せるの!?ただ見ているだけだった私はまだ足の震えが止まらないのに・・・どうして、そうやってヘラヘラ笑っていられるのよ!?」
それが八つ当たりだと分かっていても、心の奥底に長らく沈めていた感情は、止まらずに溢れ出し続ける。
「何が正義のヒーローよ!・・・これじゃあ、まるで・・・ッ」
「ちさとs–––」
「触らないで!!」
頭を打ったと思われたのか、手を差し伸べようとした彼の手を払い除けた。
「ッ!?」
「・・・もう近付かないで。貴方たちと関わり合いになりたくないの」
彼の静止を振り切ってその場を立ち去った。
- Day2- 18:30/私にとっての魔術師
最悪の気分だ。何故かというと、見た夢の内容を思い出してしまったからだ。
『不思議な力を使う人たち』と言われていようとも、近衛深春が私に危害を加えることはなかったので、特別扱いすることも毛嫌いすることもなかったけれど・・・全ての人間が同じ考えだとは限らない。
私が子役だった頃の事務所は魔術師を危険な存在であると考えていた為、私は事務所のお偉いさんから、近衛とは縁を切るようにと言われた。
当時の彼とはとても仲が良かったし、本当は縁を切りたくなかったけれど・・・結局、大人が敷いたレールの上を歩いていた私は、彼と関わらない道を選んだ。
『僕は、この力を困っている人のために使うよ』
近衛深春は、この時の何気ない一言がキッカケで『自分の力で人が助かることこそが何にも勝る幸福』だと本気で信じ続けているのかもしれない。
「・・・彼のことを『普通ではない』と思ってしまう私は間違っているの?」
「いや。君はなに一つ間違ってはいない」
歩きながら思考を巡らせていた私の前に気を失っているはずの甘野さんが現れた。
「甘野さん・・・歩いて大丈夫なんですか?」
「僕のことは良いんだよ。心配なのは君だ」
「私?」
「一人の人間に負の感情を向け続けていたら、いつか、君の心が壊れてしまうよ?」
「じゃあ・・・どうすれば・・・?」
「彼を殺そう」
「・・・ころ、す?」
甘野さんらしからぬ言葉が出たとも思わなかった。
彼の、いや・・・
「邪魔だろう?距離を置いても、耳を塞いでも、彼がいる限り、君の心を彼はすり減らし続けるんだ。だったら・・・いなくなってくれた方が良い、違うかい?」
「・・・いいえ、
「君ならそう言ってくれると思ったよ・・・さぁ行こうか、愛しの千聖・・・僕らの愛を阻む邪魔者を殺して、僕たちの楽園を作ろう。それこそ、君の幸福なんだ」
「はい・・・」
あぁ、夢みたいだ・・・彼となら、きっと私の抱え込む悩みなんて・・・
『あまり他人を信用しすぎない方がいい。手遅れになる前に』
「ッ!?」
ピタリと、彼に向かって伸ばしていた手を私は止めた。
「ん?どうしたんだい、千聖?」
「ちが、う・・・これ、は・・・私の思考じゃ、ない・・・!?」
「どうしたんだい、千聖。早くしないと遅くなっちゃうじゃ」
「ッ・・・やめてください!」
苛立ったような声色の甘野さんが少し乱暴に私の腕を掴んだが、私はそれを振り払った。
「おっと・・・まだ自我が残っていたのか。さすがは千聖だ」
「私に、な、なにを、したんですか・・・貴方は何者・・・!?」
「・・・そんなことを君が知る必要はない」
優しかった彼とは思えない冷たい目を向ける甘野さん。
「かろうじて抵抗できているみたいだけど、それすらものみこまれて、僕のために身も心も捧げる人形となる・・・さぁ、僕たちの愛の巣へと行こう。でも」
「『
その言葉を聞いた瞬間、私の意識は闇におちた。
- Day3- 18:00/弓手と深春
近衛深春が意識を取り戻したと連絡があった。
推しに『近づくな』と言われた俺にとっては最早どうでもいいことだったが、『乗った船を途中で降りたりなんかしないぜ☆』と、庵堂にドヤ顔決めてしまった以上、お見舞いくらいは行くべきだろうと、彼の病室を尋ねたのだが・・・。
「ま、待て、刀なんて物騒なものはしまえ!」
「遺言はそれでいいな、深春氏?」
どこでフラグを立てていたのやら、かつての親友は六花ちゃんと恋仲になっていたのだ。
「深春氏。知り合いがリア充になった時、そうでない人間が選ぶ選択肢は『おめでとう、末長くお幸せに』または『羨ましいぞ、コノヤロウ!リア充爆発しろ』のどちらかだ」
「・・・で、お前は?」
「『今すぐコロそう』だ、オラぁッ!!」
「あぶなッ・・・!!バッカお前、そんなデカい手裏剣を狭い病室で振り回すなよ!!!ていうか選択肢関係ねーじゃねぇか!!」
「リア充死すべし、慈悲はない」
あともう少しで、全ての非リア充を代表して裏切り者を粛清できそうだったのだが、看護師に止められてしまったので、仕方なく刀をしまってパイプ椅子に座った。
「まぁ、無事で何よりでござる、深春氏」
「今、また死にそうになったけどな!」
「・・・六花ちゃん、泣いていたぞ。自分のせいで深春氏が死ぬかもしれないって」
「・・・あぁ」
「泣かせるようなことするなよ。彼女だけを守るために戦え。深春氏、弱いんだからさ」
「それはこっちのセリフだ。こんなところで油売っている暇ないだろ?」
「・・・なんで知っている?」
「いーや、なにも知らない・・・でもその顔、何かあるんだな?」
ニヤリ、と珍しく意地の悪い笑顔をみせる近衛深春。
「お前、また首を突っ込む気か!?今度こそ死ぬぞ!!」
「いやラノベ主人公じゃあるまいし、点滴引っこ抜いて、病院を抜け出したりとかしないって・・・それに、それは多分、お前にしか出来ないことだ」
「え・・・?」
「庵堂は結局、教えてくれなかったけど、お前がなにかしら抱えているのは分かる・・・助けたい奴がいるんじゃないのか?」
「それは・・・」
ここに来る前に庵堂から連絡があった。『白鷺千聖が行方不明になったらしい』と。犯人はおそらく、甘野と名乗っていた『甘言術師』だ。
俺の予想が間違っていなければ根城も特定できている。
・・・あとは俺の心の問題。
『貴方たちと関わり合いになりたくないの』
「・・・深春氏」
「ん?」
「もしも六花ちゃんに『関わるな』って拒絶されたら、深春氏は・・・
「助ける」
即答した。以前は、人間には限界があるのだと理解していたはずなのだが・・・守りたい存在が出来たからなのか、今の彼には、迷いも死の恐怖もなかった。
たとえ六花ちゃんが自分に関わらないでほしいと思っていたとしても関係ない。
『
「・・・やっぱり理解できないでござる、深春氏のこと」
「当たり前だ。お前に僕のことが分かってたまるか」
「それだけ軽口叩けるなら大丈夫でござるな。じゃ、拙者はこれで・・・」
「弓手・・・死ぬなよ」
「・・・当然。『ずっと付き合っていた彼女と結婚の約束をしているから』な!」
「おいやめろ!僕が死亡フラグ立てたみたいになるだろ!!」