空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく   作:味なしコンフレーク

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Prequel the May's-3-

Day3- 18:30/千聖と弓手ミブロー

 「良い加減、僕のものになってくれる気になったかな、千聖?」

甘く囁くような声色に、つい全てを投げ出してしまいたくなる衝動を必死に堪えて、私は、目の前の男を睨んだ。

西洋風の屋敷の一室、天蓋付きのベッドに、手足を縛られることもなく、私は普通に寝かされている。いつでも逃げることが出来るはずなのに、身体は全く動かない。まるでここにいることを望んでいるかのように。

気ハ、タシカ(あぁ、ご主人様)・・・!お許しください、(コンナコトサレテ、)身体が言うことを(素直ニイウコト聞クワケ)きかないのです!(ナイジャない)!」

「強情だねぇ・・・でも、それは本当に君の意思かな?」

「なに、言って・・・?」

「君、もうどっちが本当の気持ちか分からなくなっているんじゃないのかい?」

「それは・・・」

かろうじて正気を保っているけれど・・・いや、そもそも今の私は正気なのか?『甘野に抵抗している自分』ではなく『ご主人様の人形としての自分』が白鷺千聖として正しいのではないか?

考えれば考えるほどに、私は自分のことが分からなくなっていた。

「そんなに苦しむ必要はないじゃないか」

「誰のせいだと・・・!」

「ご主人様である僕のせいだと言うのかい、千聖?」

「あぁ、申し訳ございません!操られているとはいえ、ご主人様を疑うなんて・・・ハッ!?」

「・・・安心するといい。まだ手は出さないさ。こういうのはお互いの気持ちが大事だからね。君が本当の自分を取り戻した時・・・愛を確かめ合おう、千聖」

耳元で囁かれ、心と身体がキュンっと疼いた。早くこの人のものになりたい、滅茶苦茶にしてほしい・・・違う、それは私の気持ちじゃない!

 

「そうだ・・・それは君の本当の気持ちじゃない!!」

 

瞬間、窓ガラスを叩き割って・・・彼は現れた。

「なんだ!?」

驚く甘野を意に介さず、最後に会った時とは違う、紋付羽織袴姿の青年・・・弓手ミブローは、鞘から刀を引き抜いた。

「見つけたぜ・・・随分とまぁ、俺らのアイドルに好き勝手やってくれたな、甘言術師」

「お前は千聖の・・・どうしてここが分かった!」

「おかしいと思わなかったか?魂狩りから借り受けていた使い魔にお前らが襲われて、そこへタイミングよく魔術を扱える人間が現れたことに」

「庵堂ウィノラに魔力のほとんどを奪われて、使い魔をコントロールできなくなったんじゃ・・・ッ!?」

「お前にそう思わせることこそ、作戦さ。魂狩りは、強力な使い魔を使役できるが、烏合衆の目を盗んでこの街に入り込めない。お前は、一目惚れした千聖様をどうしても自分のものにしたかったが、荒事は苦手。だからこそ両者は互いの目的の為に手を組んだ。『お互いの素性を第三者に明かさない』という契約を交わして・・・違うか?」

「あぁ、そうさ!目的の為に仕方なくな!当然、僕はあんな野蛮な男、1ミリも信用しちゃいなかったから、パスパレのロケ現場でだけ魂狩りを行わせていたんだ!でも、あのヤロウ・・・やっぱり僕を裏切ったな!!」

「いや?魂狩りはちゃんとお前との契約を守っていたらしいぞ?これは契約外の話さ。『自分の手元を離れた元使い魔が新たなご主人を食い殺そうとしても、それは、ソイツの管理不足。自己責任だ』ってな・・・さぁ、いくぞクソ野郎」

弓手先輩は刀を甘野に向けた。

死ぬ覚悟は出来たか(Are you ready)?」

「クソ・・・まだだ!僕の駒はまだいる!!」

甘野が指を鳴らすと百を超える人間のゾンビが大量に現れた。そのどれもが女性だった。

「ゾンビ犬に人間の使者を用いた使い魔・・・魂狩りは死霊術師だったのか」

「甘言術ってのは、術師が男性であれば女性を、女性であれば男性を従わせやすいのさ。さぁ!ゾンビとはいえ、人間の形をしたものがお前に斬れるか!?」

喚く甘野を横目に弓手先輩は私の前に跪いた。

「千聖様。まずは怖い思いをさせてしまってすまなかったでござる。犯人探しの為とはいえ、君の乗っている車が襲われることを知っていて庵堂の作戦に協力していた・・・本当にごめんなさい」

「ど、どうして、あなたが謝るのよ・・・私はあなたを!」

「・・・まぁ、それに関してはほんのチョットばかし傷つい・・・いや、違うな。もうこの世の終わりってくらい立ち直れなかったんだけど、どうやら馬鹿が移ったみたいでござる」

「・・・!」

「だから喧嘩両成敗ってことで・・・まぁ、甘野の悪行は許してやらんでござるがな」

刀を正眼に構えてゾンビと対峙する弓手先輩。

「百鬼夜行、恐れるに足らず・・・かかってこい!!」

瞬間、ゾンビが一気に襲いかかってきた。数えるのも馬鹿らしいくらいの死者の軍勢は、さながら蝗害のようで、それに食い荒らされる弓手先輩を想像し、目を覆いたくなった。

「『弓手流投剣術・唯一極型(ゆいいつきょっけい)』・・・!」

だがそれらに対して物怖じすらせず、まるで陸上競技のやり投のように刀を構えた。

 

「『刀擲(とうてき)』!!」

 

放たれた刀は光の尾を引きながら、ゾンビを全て薙ぎ払い、奥にいた甘野のすぐ目の前に突き刺さった。

「ひぇ・・・ッ!?」

「さて、これでお前を守ってくれる者はいない・・・安心してくたばれ」

「ひぃいいい・・・ッ!!」

「弓手先輩、待っt––––」

「せいっ」

「おふん・・・っ!?」

殺さないで、と言いかけた私は、気の抜けたような声に思わず目が点になる。

弓手先輩が甘野に振り下ろしたのは、刀の鞘だった。

「安心しろ、まだ殺さない・・・お前が行くべき場所は刑務所だ、甘言術師」

 

 

-Ending-

 甘言術。他者の思考をコントロールする暗示の上位互換である固有魔術。一度その術中に嵌ってしまえば、どんな方法をもってしても術を解くことはできない。

それが私、白鷺千聖がかけられていた魔術だった。

「女遊びが酷すぎて家から縁を切られた後は行方知らずだったらしいが、まさか、この街に潜んでいたとは思わなかったよ」

「彼はその後は?」

「獄中ですごく元気にしているそうだよ。なんでも看守が女の人で、好みのタイプだったらしい・・・金髪貧乳好きだなんて、変わったシュミの持ち主だね」

「喧嘩を売っているのなら買うわよ、ウィノラさん・・・?」

「おーこわいね・・・まぁ、そんなわけだから、後遺症についてはさほど残らないとだけ言っておこう。安心してアイドル活動に勤しむといいよ」

「それはどうも・・・」

「そうだ!どうやらこの病院、『彼』がいるらしい。せっかくだから会いに行ったらどうだい?」

 

「とはいえ・・・いまさら話すことなんか何も無いのよね」

『近衛深春』と書かれたプレートの病室に辿り着いたものの、ドアを開けようとしては手を引っ込め、その場を後にしようとしてはまた戻ってきてを繰り返していた。

「あれ?・・・千聖先輩?」

かけられた声に振り向くと、そこにいたのは朝日六花ちゃんだった。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

結局、彼の病室には立ち寄らず、私は六花ちゃんを連れて病院にある庭園にやってきた。どうやら六花ちゃんは購買に行っていたらしく、多めに買っていたらしいおにぎりを差し出されたので、ありがたくいただいた。

「あのー・・・本当に深春さんのところに行かなくて良かったんですか?」

「いいのよ。会ったって何を話せば良いのか分からないし・・・それに、他の女と喋っている恋人の姿なんて見たくないでしょう?」

「へふぇ・・・ッ!?///いや、その、かかかカノジョって言ってもまだ2日くらいだし、手を握ったりしかしていないから、その、ええっと・・・!」

「ふふ、ごめんなさい。ついからかいたくなって・・・でも邪魔したくないのはホントよ?」

「・・・千聖先輩は、深春さんと、その・・・どういった?」

「幼馴染よ・・・元、だけれどね」

「?」

「私から縁を切ったのよ。自分の女優としての将来の為にね。でも彼ったら、仕方がないって、受け入れちゃって・・・人助けをするようになったのはその頃からかな」

そう。彼の異常とも言える偽善行為は、私の彼との離別がきっかけだ。私からすれば良い迷惑だった。勝手に人助けをし出した癖に、『お前のせいでそうなった』と言われているようで腹立たしかったのだ。

「でも、そうじゃなかった」

「え?」

「私があの時聞きたかった言葉は肯定じゃなく否定だった。『しょうがない』じゃなくて『そんなの嫌だ』って言って欲しかったの。お兄ちゃんみたいに優しくしてくれた彼は、私にとって大きな存在だったし、彼にとっての私も同じく大きな存在であって欲しいって思っていたの・・・だって私は」

「・・・深春さんの事が好きだった?」

「『May be(かもしれない)』わね。でも、私に、はるくんは変えられなかった。でも貴方は違った」

私は六花ちゃんの手をそっと握った。

「あの人の手、絶対に離さないでね」

「・・・はいッ!」

 

「・・・盗み聞き?趣味が悪くないかしら?」

六花ちゃんが深春先輩の病室へ向かったのを見計らった私は、草むらに隠れている弓手先輩に声をかけた。

「あ、えーっと、あはは、奇遇ですな、千聖様!いやいや偶然!偶然でござるよ!!たまたま通りかかったところに千聖様がいただけでござるすぐ立ち去るから!はいホントにすいませんっした!!ではこれに拙者はドロンどr––––「待ちなさい」ぐえっ!?」

この間の孤軍奮闘ぶりはどこへやら、すっかりいつものアイドルオタクに戻ってしまった弓手先輩は、私から逃げ出そうとするが、その前に首根っこを捕まえた。

「・・・この間のことはお礼を言うわ。ありがとう」

「推しに労ってもらえるなんて、俺は幸せ者でござる。でも、まぁ、当然のことです」

「?」

「ドルオタっていうのは、推しのためならどこまでも強くなれる生き物だからさ」

「ぷっ・・・変な人」

「そのー・・・怒っていない?」

「なんで怒るの?」

「いやだってその・・・俺ら魔術を使う人間とは関わりたくないんでしょ?」

「・・・今の話聞いていたんでしょ?だったら、分かるはずよ」

「?」

「もうその話はなしってこと!!あなたはこれまで通り、握手会やライブを見にきてくれれば良いのよ」

「え、ホントに!?」

「えぇ、ホントに・・・ただし、条件があるわ」

グッとそのまま襟首を引っ張って彼の頭を私の膝に乗せた。『膝枕』というやつだ。

「え・・・な・・・なッ!?///」

「良い?あなたは私のことだけを見ていなさい。最推しだというのなら、私のグッズだけ買って、私が出るイベントだけに出て、私だけに夢中になっていれば良いの・・・分かったわね?」

「ファ、ふぁい・・・え?てことは、今度の彩ちゃんのまんまるお山に彩りスペシャル再公演も麻弥さんのコラムが載ったドルドル定期購読もダメ!?」

「あら、私に膝枕してもらっているのに、他の子に浮気するのかしら?良いのかしらね〜?この様子を写真に撮って、SNSアカウントに全部流しちゃっても・・・」

「わ、わかったでござる!拙者の負けでござる!」

「ならここで誓ってもらおうかしら?」

「分かった・・・拙者は、千聖様だけに・・・貢ぎます!!」

「よし♪契約成立ね・・・じゃあ、今度のショッピングに付き合ってもらいましょうか。荷物持ち、よろしくね?」

「え・・・それって、結局、俺が過激なファンに刺されるんじゃないの?」

 

 

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