空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく   作:味なしコンフレーク

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※2021年7月26日、第一章の内容を分割しました
※2025年5月26日、一部推敲。


Spring Days-3-

Ep.05

 「はぁ〜・・・全然ビラ受け取ってもらえませんでした・・・」

使い魔の人食い事件から数日後。

朝日さんのバンドメンバー探しが始まったが、結果は芳しくなかった。

車を借りてライブハウスを回り、メンバー募集のビラ配りを行ったはいいものの、目標にしていた枚数の1割も減らすことが出来なかった僕たちは肩を落として駐車場に戻って来た。

「チラシも空きがなくて貼らせてもらえなかったな・・・みんなバンドメンバーを探しているんだな」

『大ガールズバンド時代』とか呼ばれている昨今、僕の通う大学でも女の子の3人に1人はギターやベースを背負っているし、ガールズバンドの女の子とお近づきになりたいという理由で楽器を始める男子も多い。

「うぅ〜。このままじゃ高校生活3年間ただビラを配るだけで終わっちゃいます・・・」

涙を浮かべ、ネガティブな感情に引きずられていく朝日さん。このままではバンドメンバー探しを諦めると言い出しかねない。それだけは何としてでも止めたいと思った。

「まぁ、最初はこんなもんだって!疲れたし休憩にしよう。朝からずっと歩きっぱなしだし」

‥‥今日は氷川の「依頼主」と夕方に会う予定だが、約束までにはまだ時間がある。涙目の朝日さんも可愛いけど、彼女は笑った顔が一番だ。甘いものでも食べればきっと元気になるはずだ。

「はい・・・」

いつまでも落ち込んでいても仕方がないと思ったのか、少しだけ笑顔を見せた朝日さんを見てホッとした僕は行きつけの喫茶店に向かうことにした。

(‥‥なんで僕、朝日さんの声や表情で不安になったりホッとしているんだ?こんなこと今までなかったのに・・・)

「深春さん?」

「あ、ごめんね?行こうか?」

「あのっ、無理しないでくださいね?もともと私のワガママで始めたことなんですから」

「ワガママだなんて思っていないよ。むしろ楽しいんだ」

「楽しい?」

「そう、楽しい!どうしてなのかは分からないんだけど、朝日さんといると楽しいんだ」

「・・・私も」

 

「私も深春さんと一緒にいる時が一番楽しいかもしれません」

 

–––僕は最初、幻聴が聞こえるようになってしまったのかと思った。

でも、助手席に座っている朝日さんが顔を真っ赤にしながらこちらをじっと見つめていたことで、今の言葉は幻聴などではなく疑いようのない現実なのだと僕の脳は理解した。

「・・・なんて。迷惑ですかね?///」

 

 

「いらっしゃいませー・・・あ、深春さん!」

キッカケは『パスパレのイヴちゃんがアルバイトしているコーヒーが自慢の喫茶店があるらしいから一緒に行こうぜ深春氏』という弓手の一言だった。最初は乗り気じゃなかったのだが、日替わりケーキが意外と美味しかったので1人で来ることも多い。

「席、空いているか、羽沢?」

「はい勿論です・・・って、六花ちゃん!?」

「つぐみ先輩、こんにちは」

「こんにちは・・・もしかして、お邪魔でした?」

僕と一緒にいた朝日さん(さっきからずっと顔が赤いままだ。理由はおそらくさっきのアプローチだろう)を交互に見た羽沢は申し訳なさそうな顔をした。

「僕と一緒にいる時が一番楽しいんだってよ。変わっているよな」

「ちょ!深春さん!?何で言っちゃうんですか!!///」

「だって嬉しかったから、知り合いに自慢したくて」

「あぅ・・・それ、卑怯ですよぅ///」

「・・・あのー、窓際のテーブル席で良いですか?」

 

 

「さて・・・次のビラ配りで何とか挽回したいところだけど」

注文した飲み物でようやく一息ついた僕たちは、ケーキが来るまで軽い反省会を行うことにした。

「私は、もうちょっと積極的に声かけした方が良かったかなぁって」

「こういうのって苦手?」

「はい・・・私、すぐ緊張しちゃって頭が真っ白になっちゃうから、こういうときに上手く喋れなかったりするんです・・・」

「じゃあ、声かけはなるべく僕がする。朝日さんは今日みたいにできる範囲で良いよ」

「え?でも・・・」

「正直な話、僕はこっちの方を何とかした方が良いと思う」

僕はそう言って、大量に余ったビラから一枚だけ取り出した。白い背景に黒いペンで『バンドメンバー募集中』。下に朝日さんのプロフィールと連絡先が書かれていた。

「・・・ものすごい上から目線のダメ出しになっちゃうんだけど」

「大丈夫です。聞かせてください!」

「なら遠慮なく言わせてもらうけど・・・ちょっと地味すぎるかな」

「じみ・・・?」

「うん地味。とてもバンドメンバー募集している人が作るチラシじゃない。学校のプリントじゃないんだから、タイトル以外の文字も、もうちょっと大きくしないと。こういうのって、見やすさが一番大事だからさ」

「そ、そう言われると確かに。私がお客さんの立場だったら、このチラシを見ても一緒にバンドをしたいとは思いませんね・・・」

・・・本当は朝の時点で気にはなっていた。やる気十分の朝日さんに水を差すようなことはしたくなかったので敢えて何も言わなかっただけで。だけど声かけが苦手だというのなら、こういうところを変えていかないと本当に3年間をビラ配りに費やすことになる。しょんぼりと落ち込んでしまった朝日さんを見るのは心苦しかったがここは心を鬼にする。そのために僕がいるのだから。

「背景の色はもっと明るくした方が良い。でもあんまり明るすぎると目がチカチカして見づらいから・・・朝日さんのギターに合わせて空色とか」

「文字の色も変えたほうがいいですね・・・白とかどうでしょう?」

「良いね!雲みたいで空色と合うかも」

忘れないようチラシに必要なことを書き込んでいく。これなら次のビラ配りは上手くいくはずだ。チラシを貼ってくれるところも増えるかもしれない。

「・・・深春さん。聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

「いいよー、何?」

 

「はじめて会った時、どうして私に嘘をついたんですか?」

 

「・・・え?」

良いものが出来そうだと自画自賛していた僕は、突然投げかけられた質問に飲もうとしていたアイスコーヒーの入ったグラスをテーブルに落としてしまった。グラスの中身がテーブルにこぼれるのを気にも留めず、朝日さんはこちらをじっと見つめる。

「・・・『嘘』っていうのは僕が旭湯に来るつもりがなかったんじゃないかってこと?」

「それもありますけど・・・深春さんは『人と深く関わることそのもの』を避けようとしているんじゃないかって思ったんです。この間だって今日だって深春さんはどこか一線を引いて私と接しているように見えました・・・旭湯で会った時、私のことを本当は忘れていたんじゃないですか?」

朝日さんの声が僅かに震えていた。それこそ「嘘」であって欲しいと思っているのだろう。

「・・・そこまで分かっていたなら、どうして?」

どうして旭湯で突っ立っていた僕に声をかけた?どうして、僕と今日ここにいるんだ?

「ッ・・・そんなの、決まっています。楽しかったからです」

今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらも、目だけはまっすぐと僕を捉え続けている朝日さん。『言い逃れなどさせない』とでも言いたげな強い意志を感じ、僕は少しだけ怯んでしまった。

「深春さん。さっきの答えを聞かせて下さい」

「え?」

「深春さんが何を抱えているのかは分かりません。でも私、今日深春さんと一緒にいるの、凄く楽しかった。私はそれだけで十分です・・・誰かと仲良くなるのに時間なんか関係あらへん!」

僕は、彼女のことを過小評価していたのかもしれない。いや、心のどこかでは分かっていたのに僕は気付いていないフリをしていたのだ。僕はもうとっくに–––––

 

「随分と信頼しているみたいだけどさ・・・ソイツの本性を知ってても、アンタは同じことが言える?六花」

 

 

Ep.06

 人間という生き物は、自分が一番可愛いものだ。だから、嫌なことや取り返しのつかない失敗に直面したときこそ、その人間の「本音」が垣間見える。

「私は何も悪くない」「関係ない」って思いたいし、「アイツのせいだ」と、他者に責任を押し付けてしまいたくなるものだ。

「蘭ちゃんどうして!?今日は華道の稽古があるって・・・」

「私が来ると何か都合でも悪いの、つぐみ?」

『蘭ちゃん』と呼ばれた少女の名は美竹蘭。華道の名門の跡取りで羽沢を含む幼馴染4人と一緒に『Afterglow』という名前でバンド活動をしている。黒ショートカットに赤メッシュというビジュアルからはとても華など連想できないが、羽沢によれば中々の腕前らしい。

そして・・・僕はこの子に一方的に憎悪を向けられている。

「・・・つぐみがコイツを店に入れたの?」

「う、うん」

「どうして!?コイツがつぐみに何をしたか忘れた訳じゃないでしょう!?」

「それは・・・」

「ちょ・・・ちょっと待って下さい!!」

美竹は羽沢が僕を店に入れたのが気に食わなかったらしい。羽沢も『ある理由』から質問にまともに答えられず、怒りで我を忘れている美竹を止められないでいた。そんな羽沢に助け船を出したのは呆然としていた朝日さんだった。

「お、落ち着いてください、蘭先輩。つぐみ先輩が怖がっているじゃないですか!」

「あ・・・ごめん、つぐみ」

「へ、平気だよ」

「蘭先輩。『ソイツの本性を知ってても、アンタは同じことが言える?』って仰っていましたけれど、あれはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

落ち着いたからといって、俺への憎悪が消えるわけではない。美竹は僕をギロリと睨みつけた。

「正直に答えて。私たちの後輩を助けたフリして、今度は何を企んでいるわけ?」

「企んでいるって・・・深春さんは何も」

「六花はコイツに騙されているんだよ。ソイツは自分のためなら平気で他人を蹴落とす最低な男だよ!」

「え・・・」

朝日さんが僕を見た。『信じられない』・・・そう言いたげな顔だった。

美竹は本当は友達思いで何事にも真剣に取り組む子だと聞いている。朝日さんだってそれを知っているから美竹が嘘をついているとは思わないだろう。それでもまだ、僕を信じようとしてくれている。

(ありがとう朝日さん。僕を信じてくれて・・・でも、ダメだ)

やっぱり神様ってやつは僕を虐めるのが、楽しくて楽しくて仕方ないらしい。

「ッ・・・深春さん、やっぱりやめましょう!こんなの誰も––––」

「羽沢。お会計」

「っ」

「‥‥朝日さん。俺は用事があるから先に帰るよ。お金は置いておくから」

「え?あの‥‥深春さん?」

「逃げるの!?やっぱりアンタ、六花を利用しようとしていたんだ?」

「ご想像にお任せするよ。じゃ、ご馳走さま」

「み、深春さん、待って!まずはゆっくり話を––––––」

SET, CLOSE(来るな)

「え‥‥ッ!?」

立ちあがろうとした朝日さんを‥‥僕は卑怯な手を使って拒絶した。

「み、はるさん‥‥?」

「さっきの答えだけど‥‥楽しかったよ。まぁ、暇つぶしにはなったかな」

「アンタ‥‥どこまでッ!」

「‥‥」

朝日さんの目から涙が溢れる‥‥悲痛に歪んだその顔を見ていられなくて、僕は逃げるように店を出た。

「ごめん」

‥‥聞こえないよう小さな声で、謝ることしか出来なかった。

 

 「彼女、置いていくのかい?可哀想に」

ひとり駐車場に向かおうとした僕に声をかけたのは僕の母校である花咲川学園の制服を着た少女だった。

「‥‥優しい先輩たちが何とかしてくれるだろ」

「名演技だった。よくもまぁあんな心にもないことを言えたもんだ」

「能書きはいい。さっさと持っている情報をくれないか?」

「へぇ・・・どうして私が紗夜先輩の依頼主である魔術師だって分かった?」

「自分の身体の中を弄って平然としていられる頭のおかしい奴なんてたかが知れている。この街じゃあアンタくらいだろうよ––––鬼才の煙隔魔術師(エンチャントオーサー)、庵堂ウィノラ」

「やっぱり『視える』のか。流石は魔術師の名家『近衞』の人間だ」

「ただの落ちこぼれだ」

そう自嘲する僕の右眼『だけ』にノイズが走り、目の前の人間だけでなく周囲の人間や物の情報や感情、ちょっと先の未来の幾万通りもの可能性が写し出された。

「・・・君が落ちこぼれねぇ。まぁあそこは全ての魔術分野においてオールマイティだからねぇ。肩身が狭いのは確かだ」

近衛家。日本の魔術師としては最古の家系でその歴史は平安時代にまで遡る。彼らの最大の強みは『弱点らしい弱点がない』こと。全ての魔術において、他者より突出することはないものの劣ることは決してない、まさに『全能(オールマイティ)』。勿論、それにはある理由がある。

「近衛家の『魔眼』か。固有魔術(ワンオフ)っていうのは本当に厄介だ。私のような半世紀ちょっとの家系の魔術師じゃあ、あれを完全に破ることは不可能だ」

魔眼の仕組みは物の構造や人の感情・行動の先を捉える右眼とそれらに干渉して糧とする左眼を組み合わせて真価を発揮する。その眼こそが近衛家の全能を可能としているのだ。

「極めれば数年先の未来や太古の魔術を読み取るなんていわれているけどさ・・・干渉できなければただ視るだけの目さ。僕は、魔術師にも普通にもなれない中途半端な人間なんだよ」

「でも私は君の力に一目置いているんだぜ?」

朝日さんに酷いことをした罪悪感で、思考がどんどん暗い方へ傾き出していた僕にウィノラは最強の魔術師とは思えないことを言い出した。

「今世紀最強とも言われるアンタが僕を?何の冗談だ?」

「協力を依頼するのは私の方ってことさ、このえ深春クン・・・君の眼を借りたい」

 

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