空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく 作:味なしコンフレーク
※2025年5月26日、一部推敲。
※2025年6月2日、挿絵追加
Ep.07/六花の疑問
「六花ー!私、塾があるから先に帰るね?」
「あ、うん。またね、明日香ちゃん」
放課後。友達を見送った後も、私は机に突っ伏して、ため息をつく。
昨日は深春さんに拒絶されたショックで、家に帰ってからも自分の部屋に閉じこもって泣き続けた。泣き腫らした目を見て、叔母さんたちはすごくビックリしていたけれど、それも気にならないくらい、私はひどく落ち込んでいた。
たった3回会っただけなのに、彼はもう私にとって、とても大きな存在になっていたのだ。
「・・・やっぱり、腑におちん」
一晩経って落ち着いた私は改めて深春さんと会った日のことや彼のお友達の弓手さんの言葉、深春さんの何かを諦めたような表情を思い返してみたのだが・・・やっぱり深春さんが悪い人だとはどうしても思えなかった。
蘭先輩が嘘をつくような人だとも思えないけど、深春さんが本当に自分の損得だけで動くような人なら、あの時私のことを見捨てていたはずだ。
それに一つだけ気になっていることもある。それはつぐみ先輩が言いかけた言葉だ。
『深春さん、やっぱりやめましょう!こんなの誰も––––』
「あれ・・・どういう意味やったんやろう?」
その時、教室のドアが開く音がした。なかなか帰らない私に、担任の先生が早く帰るように言いに来たのかと思ったけど・・・現れたのはつぐみ先輩だった。
「よかった。まだ教室にいたんだね」
「つぐみ先輩、どうしてここに・・・?」
「六花ちゃんを探してたら、通りかかった明日香ちゃんがまだ教室にいるって教えてくれたの。私、どうしても伝えておきたいことがあって」
「伝えたいこと?」
「うん・・・深春さんのこと」
「やっぱり‥‥つぐみ先輩は何か知っているんですね?」
「うん。深春さんには黙っててって言われていたんだけどね‥‥実は私たちもあの人に助けてもらったことがあるの」
「そうなんですか?」
「去年の夏休みの事だった。羽丘女子学園の七不思議がAfterglowで少し話題になったことがキッカケだったの」
「七不思議って、存在しないはずの階段とかピアノを弾く幽霊がいるとかっていう・・・?」
「その日を境に都市伝説とかそういうのにモカちゃんが興味を持ち始めるようになってね。そのうちの一つ『女性を魅了する男の妖精がいる』っていう噂にひまりちゃんが食いついて、巴ちゃんと私を含めた4人で探しに行くことになったの」
「・・・あれ?蘭先輩は?」
「蘭ちゃんは華道の稽古で来れなかったの・・・もし来ていたら、話はこんなに拗れなくて済んだのかもしれないんだけど」
Ep.08/深春の真実
「それで?」
「あ?」
「さっきの話の続きだよ。蘭先輩を除いたAfterglowのメンバーは都市伝説探しの最中に迷い込んでしまった路地裏で不運にもそこを根城としていた不良連中に捕まってしまった、だったっけ?」
「アイツらはただの不良連中じゃなかった。そいつらをまとめていたリーダーが錬金術を少し心得ていた僕のような魔術使いだったんだよ」
庵堂と協力して人食い事件の調査をしていた僕はAfterglowとの間に起きた『諍い』の真相を尋ねられた。本当は言いたくなかったけど答えなければ調査結果は共有しないと脅されてしまっては仕方がない・・・協力を依頼したのは庵堂だったハズだが・・・。
「魔術の存在を知らない彼女たちは、そんなこと知る由もない。錬金術で変化して、迷宮と化した路地裏を走り回ったんだろう、僕が助けに来た頃には全員、疲労困憊だった。知っているはずだぞ?そのうちの一人を助けたのが烏合衆なんだから・・・なぁ、若頭さんよ?」
「私は別件でこの街にいなかったんだよ。つぐみ先輩の件だけは事後報告があったけどね。しかし解せないな。使い魔にビビっていた君が半端者とはいえ錬金術師相手にどうやって逃げ延びた?」
「裏技・・・というより奥の手ってやつで何とかね」
「ほう。一体どんな奥の手だい?」
「その話はまた今度な・・・ともかく僕たちは途中までは順調だったんだ。奴の部下はリーダーに頼り切っていたし、魔眼さえ使えば包囲網を抜け出すのは簡単だった・・・羽沢が転んで足を挫いてしまうまでは」
「転んだ?つぐみ先輩は君が囮にするために突き飛ばしたって聞いていたが?」
「そう言えって言ったからな」
事実はまったく逆。羽沢が自分で転んだのだ。足も挫いてしまったせいで彼女は走ることすら出来なくなった。それは彼女も理解していたのだろう。
『このままじゃ、私のせいでみんながあの人たちに捕まってしまいます。私を置いてみんなを助けてください・・・お願いします』
「僕は彼女を見捨てるしかなかった・・・あの時ほど自分の無力さを恨んだ日はない。中途半端に
「魔術師は全てを救えるスーパーヒーローじゃないんだぞ、深春クン。私たちにだって出来ないことはある。無限に増えていく『かもしれない』を考えても意味はないんだ。自分が辛くなるだけだよ」
「・・・分かっているよ、そんなことは」
「落ち込んでいる場合じゃないぞ。何せ私はまだ納得していない。見捨てたことに変わりはないのだから好かれることはないだろう。でも、蘭先輩の怒りようはまるで・・・まさか!?」
考え込んでいた庵堂だったが、どうやら自分で答えに辿り着いたようだ。
「信じられない・・・君は、会ったこともない他人のために、自分から嫌われ役を買って出たのか!?」
「美竹は、口数は少ないしあんまり笑わないから、彼女の事をよく知らない生徒にとっては近寄り難い存在らしい。そんな彼女にとって、自分を理解してくれる幼馴染は、特別なんだ・・・なら、僕が取るべき行動は、それしかないだろ?」
「呆れた。幼馴染を助けられなかった彼女の罪悪感を紛らわせるために『幼馴染を利用したクズ野郎』を演じたなんて・・・なんて退屈で、窮屈な生き方だ!ロクな死に方しないぞ、君」
「そりゃそうだよ、庵堂」
「僕の人生は、
Ep.09/六花の驚き
「そんな・・・・・・」
「・・・深春さんの判断は正しかったと思う。もし本当のことを言っていたら、蘭ちゃんは自分をずっと責め続けていただろうから」
「そんなの・・・それじゃあ、深春さんが救われないじゃないですか!!」
居ても立っても居られなくなった私は鞄をつかんで教室を飛び出す。家がどこかも、何をしているのかも分からない。電話はもちろん繋がらない・・・それでも。
「伝えなきゃ。こんなの間違っている・・・良いことなんかなんもあらへん!」
出会った駅前やその周辺を探せば彼に会えるかもしれない。会って伝えなきゃ。貴方は一人じゃないってことを・・・私は、貴方を・・・。
「きゃッ!?」
何かにぶつかったような衝撃に尻餅をついてしまった。見上げるとそこには2メートルはあるんじゃないかと思うほど大きな男の人が立っていた。
「ご、ごめんなさい。私、前みていなくて・・・」
「・・・お前」
「え?」
「良い
深春が出会ったのは・・・
昔話を語り終わった僕は庵堂と調査を続けたものの、犯人を特定できるような目ぼしい情報は得られず、そうこうしている間に僕らは、新たに使い魔による人喰い現場を発見した。食い尽くそうとしていた使い魔は庵堂が倒したものの、被害者は既に殺された後だった。
「クソッ・・・このままじゃ被害は増える一方だ!」
焦燥感を募らせる僕に対し庵堂は冷静で、黙って老齢の女性と思しき遺体を観察していた。
「ふむ・・・前回は金髪の若い男性で、今回は黒髪の老婆か。それ以前の被害者と思われる行方不明者の性格や見た目もバラバラだったことを考えれば大掛かりな儀式のための生贄という線は薄いな・・・深春クン。その眼で何かわかることはあるか?」
「特になにも。強いていうなら『魔力炉心の跡』があるってことくらいだ」
「魔力炉心の跡?」
「そ。魔術師が魔術を行使する際に必要な魔力生成器官『魔力炉心』らしき跡があったんだ。その人が魔術と関係があったのかどうかは分からないけどね。でも炉心の跡なんて珍しいものじゃない。衰退した元魔術師の家系とかにはよく残っているもんだ」
「いや・・・大手柄だぞ、深春クン。今回の事件の犯人は『魂狩り』だ」
「今ので分かったのかよ!ていうか魂狩りって?」
「魔力炉心は君のような魔眼を持つ人間以外にはイメージすることしかできないけれど、心臓と密接に関わっている器官であるというのは周知の事実だ。見ろ」
庵堂に促されて、遺体をよく観察してみると、心臓部分がくり抜かれていた。
「判別しにくいほど遺体がグチャグチャだったから目立たなかったけど・・・犯人が魔力炉心を狙っていたと分かれば、ここだけ綺麗に抜き取られていることにも説明がつく」
「使い魔は殺害の痕跡を消すために使役していたんじゃなくて、これを悟らせないようにするためだったのか・・・」
「今でこそ政府の魔術管理課が他者の魔力炉心を奪う行為を禁止しているが、戦前は貴族階級の魔術師が更なる強さを得るための手段の一つだった。買った奴隷の魔力炉心を得るために殺したり、いつか自分のものにするために魔力が多い女性と交わって強い魔力炉心を持った子を作ったりね」
「犯人は自分の目的のために人を殺しまわっているのか。絶対止めないと!」
「分かっているさ。だが今日はここまでだ。犯人がそういうことをするやつだって分かっただけ。特定にまでは至っていないからね。また明日、捜索を開始するとしよう」
庵堂と別れた僕は家に戻る途中、旭湯の前を通りかかった。本当は朝日さんに会って話したいと思ったけれど、今さら話すことなんか何もないと通り過ぎようとした僕は、旭湯の女将さんが立っているのに気づいた。何やら深刻そうな表情で周囲をキョロキョロと見回していた。
「こんばんは、女将さん。どうしたんですか?」
「あら、貴方は確か、お友達の・・・六花ちゃんを見ていないかしら?」
「・・・ごめんなさい。見ていません」
つぐみから本当のことを聞いたのか、もう一度、美竹に謝りに行こうと説得するつもりだったのかどうかは分からないけれど・・・僕みたいな人間のことなんて忘れてしまえば良いのに、どこまでもお人好しな子だ。
「そう、困ったわね。銭湯の掃除をお願いしていたんだけど、まだ帰ってきていないのよ。仕事をすっぽかすような子じゃないし、大事な用事があるならちゃんと連絡してくれるんだけど、電話も繋がらなくてね・・・」
「え?」
ザワっと嫌な予感がする。考えすぎだと思っても警鐘を鳴らすように心臓が早鐘を打つ。
「高校生だから色々あるんだろうけれどねぇ、こっちは大切な親戚の子を預かっている側だし心配にもなるのよ。それにほら、近ごろ何かと物騒じゃない?行方不明事件や原因不明の変死事件とかが多いでしょ?」
「ッ・・・僕、用事があるんで!失礼します」
挨拶もそこそこに、僕は来た道を戻るために走り出す。
(庵堂や氷川が見せてくれた行方不明事件の現場や僕が遭遇した殺人事件はどれも人目のつかない路地裏や人通りが少ない道・・・この間のビラ配りでの朝日さんの体力も考えて距離を狭めれば)
「ビンゴだ、少年」
角を曲がった先の路地裏・・・そこに『彼ら』はいた。
「あまりにも微弱な、魔術師とはとても呼べない魔力だから一瞬、ただの一般人かと思った」
「なに・・・しているんだよ」
茶色いコートを羽織った白髪の大男が抱えていたのは、まさに今、僕が探していた少女だった。
「朝日さんに何しているんだよ!」
Ep.10
「何をしているか、か・・・そんなこと、とっくに気づいているんだろう?」
「なんだと・・・!?」
「この女の
「・・・庵堂が言っていた魂狩りか!」
最悪た。朝日さんは魔力炉心を持っていた!それこそ魂狩りが欲しがるような魔力の器が‥‥一緒にいたのに気づかなかったなんて!
「安心しろ、まだ死んではいない。まぁ、遅いか早いかの違いだがな?」
「そんなことさせるか!・・・『
一瞬で魂狩りとの距離を詰めて強化された足でそのまま蹴りかかった・・・しかし。
「魔術を使うまでもないな」
言葉通り魔術を全く行使せずに僕の初手を片手で掴み投げ飛ばした。
「ごは・・・ッ!?」
たったそれだけで僕の肋骨は数本折れていた。素でこの威力だ。魔力を伴っていたらと思うとゾッとする。それだけ相手は格上だということだ。
「魔力だけでなく、戦略もお粗末か・・・魔眼の持ち主といえども、所詮は失敗作だな」
ギロリとこちらを睨みつける魂狩り。たったそれだけで声にならない悲鳴をあげた僕は、そのまま奴から後ずさっていた。
(冗談じゃない。こんなのどうやっても僕が勝てる相手じゃない!チンピラが相手なら我慢すれば大怪我程度で済むけど、コイツならきっと本気を出さなくても僕を殺せる。嫌だ。死ぬのは嫌だ)
痛みで立ち上がることが出来ない僕は、四つん這いで人の多い道へ戻ろうと懸命に手足を動かす。助けるんだと意気込んでいた僕は朝日さんの事なんかすっかり忘れて自分が助かることしか考えていなかった。
「逃げるか。賢明だな」
(違う!逃げるんじゃない!これは戦略的撤退だ・・・そうだよ!僕が挑んでも朝日さんが助かる保証はないじゃないか!僕を殺してそのまま朝日さんの魂をあっという間に喰ってしまうに違いない!ならここで僕に出来ることは少しでも無様な姿を晒して、奴の意識を朝日さんに向けさせないようにする事だ!そう!これは戦略的な時間稼ぎなんだ!)
僕を見てせせら笑う魂狩りに何も言い返せない僕は、心の中でみっともない言い訳を繰り返すことしかできなった。
(この街には僕よりも強い魔術師がたくさんいるんだから、そいつらに任せれば良いんだよ。朝日さんには悪いけれど、まずは庵堂を呼んでから助けに––––)
「みはる、さん・・・・?」
「–––––ッ」
たった1日会っていないだけなのに、その声は、すごく久しぶりな感じがした。
「しっかりしろよ、僕・・・そうじゃないだろ」
「ん?」
逃げていく僕に飽きてしまったのか、朝日さんの魂を喰らおうとその胸に手を伸ばした魂狩りは、逃げるのを止めた僕に目線を向けた。
「どうした?尻尾巻いて逃げるんじゃなかったのか、腰抜け?」
「あぁ、そのつもりだったんだけどさ・・・どうやらそうもいかないみたいなんだ」
「・・・死にたいのか、少年」
「死にたくないさ。怖くてしょうがないんだ。今すぐにでも逃げしたいんだよ・・・でもさ、その子はまだ、僕のことをヒーローか何かと勘違いしているみたいでさ。だから僕は・・・お前を倒して、その子をもう一回助けてあげないといけないんだ」
「お前に何が出来るというのだ?」
「・・・いま、見せてやるさ」
そう言って僕が懐から取り出したのは押し当てた際に針が飛び出すようになっている少し特殊な注射器だ。注射器自体は特注品というだけで魔術的な要素はない・・・注射器の中身こそ本命。圧倒的な戦力差をひっくり返せるかもしれない僕の『奥の手』だ。
僕は一瞬、この奥の手を使うことを躊躇したが、覚悟を決めて注射器を腕に突き刺した。
「ぅぐぁ・・・ぎ、ぎ・・・ぃあ!?」
瞬間、僕の身体中の血管や神経系が悲鳴をあげて、耐えきれずに出血を起こし始める。
「ぎゃあああああああああああッ!?」
「その注射器の中身は魔力だったのか・・・バカな真似を。そんな貧弱な魔力炉心に大量の魔力を取り込めばどうなるかは分かっていただろうに。いや、分かっていなかったのか?」
「分かっていないのは、お前だ・・・クソ野郎」
「なに?」
「人から奪ったもので粋がっているみたいだけど・・・それってさ、『本当の自分はメチャクチャ弱いんです』って吹聴して回っているようなものじゃないの?」
「・・・黙れ」
魂狩りが呼び出した使い魔が数匹襲いかかってくる。
「いつもの僕ならそれで良いかもしれないけど、『今の』僕だけはみくびらない方がいい!」
襲いかかってきた使い魔のうち、一匹目を右足で蹴り飛ばして、二匹目の攻撃を横に飛んで回避。背後から食い殺そうとした三匹目は、裏拳で吹き飛ばした。
「!?」
「『
身体能力だけでなく、発勁によって発生するエネルギーさえも強化した拳を魂狩りに躊躇なくねじ込んだ。
バゴンッ!!という音と共に吹き飛ぶ魂狩りには目もくれずに朝日さんを抱きかかえた僕は急いでその場から逃走する
魔術使いと言えるかどうかも怪しい僕が挑んだのは格上の魔術師。普通に戦っても勝てる相手じゃない。だから僕は賭けにも近い勝負に打って出た。
魔力というのは自身で生成できるものと道具や体内摂取で外から取り込めるものとが存在する。当然、各々が持つ魔力炉心の容量分しか取り込めないし、それ以上を取り込もうとすれば体が耐えきれず魔力が通る血管や神経を圧迫、やがては破裂し、死にいたる。
だからこそ、力を求める魔術師はその魔力を受け入れる『なかみ』を求めるのだろう。
「驚いた。『そんな』使い方があったとはな」
「なっ!?」
一瞬の出来事だった。もう動けないと思っていた魂狩りが仕返しとばかりに魔術で強化された拳で僕を殴り飛ばした。
「ごはッ!?」
朝日さんを庇うためにクッションがわりになった自分は、思いっきり壁に叩きつけられた。
「体内の魔力の流れすらも視られる魔眼でリスクを軽減したのだろう?・・・大雑把に見えるが、1ミリでも調整を失敗すれば即死は免れない。なるほど、少々侮っていたようだ」
「偉そうに。何ならもう一発お見舞いしてやろうか?」
「戯言を。軽減したところで身体への負担は大きいはずだ。二度目はない・・・違うか?」
「・・・違わないさ。でも逃げない」
「勝ち目がないことが何故分からない?弱いお前は俺には勝てない。これは決定事項だ」
奴の言うことは正しい。
切り札は使った。身体はボロボロで残った魔力は雀の涙だ。死の恐怖で震える足には力が入らない。それでも逃げ出さないのは、僕が腹を括ってしまっただけ。
僕が朝日さんの前で『カッコつけたいだけ』だ。
「そんなの・・・やってみなきゃ分からないだろう!!」
Ep.11/六花の気持ち
近衛深春さんは私にとってのヒーローだ、なんて言ったら笑われてしまうだろうか?
他人だった私を助けてくれた人。ありのままの私を笑わないでくれた人。夢を応援してくれた人。
見知らぬ誰かの心を救うために平気で自分の心を傷付ける、優しいけど、悲しい人。
どうして誰も、彼を助けようとは思わないのだろうか?
(私のおたんちん・・・そうじゃないやろ!)
人間というものはそう簡単には変わらないと思う。
(でも私は変わりたい。誰も彼を助けないというのなら・・・私が彼を助けたい!)
深春の再起
「ぐぇあっ!?」
もうかれこれ30分は経っただろうか?何度も魂狩りに挑み続けている僕だけど、簡単に返り討ちにされてしまっている。向こうからすれば軽くあしらっているだけなのかもしれないが、僕には、一撃が全部重い。
『良い加減鬱陶しいぞ、半人前の魔術使い。その女の魂はオレが喰う。これは決定事項だ」
奴は僕のことを敵とすら思っていないのだろうが、もう相手をするのも面倒臭いのだろう。
「手加減はしない。次で殺す」
「このッ・・・!」
「待ってください!」
焦りと恐怖で自暴自棄になった僕は最後に一矢報いようとして・・・朝日さんに引き留められた。
「朝日さん・・・!?」
「私・・・今何がどうなっているのかさっぱり分からないけど、これだけは分かる・・・このままじゃ深春さんが死んじゃう!私、そんなの嫌や!」
「・・・どうして?」
最初は嘘をついた。
露骨に仲良くなろうとするのを避けた。
止むを得ない事情があったとはいえ、僕のことを信じてくれた彼女に酷いことを言った。
嫌いになったはずだ。もう二度と関わりたくないと思ったはずなのに。
「どうして・・・君は僕を追いかけようとするんだ!?」
「助けたいから!」
つい口からついて出た
「理由なんかいらないッ!誰がどう思うかも関係あらへん!私が!貴方を助けたいんや!」
「く・・・ふふ」
思わず笑みが溢れた。僕も大概、綺麗事ばかり言っている自覚はあるけれど、まさか・・・こんな血生臭い世界に片足突っ込んでいる人間を魔術師でもないくせに助けたいとかいう奴が現れるとは思わなかったからだ。
「ちょ、ちょっと!なんで笑うんですか!?」
「いやぁ、ごめんごめん・・・物好きだなーって思ってさ」
僕は笑って、少女の頭をわしゃわしゃと撫で回す。少々手荒いのは勘弁してほしい。
僕はこれから、恥ずかしいけれど、どうしても君に伝えなければならないことがあるのだから。
「ちょっと!髪が乱れちゃうじゃないですか、やめてくだs−−−−」
「ありがとう、六花・・・僕と一緒にいるのが一番楽しいって言ってくれた事、すごく嬉しかったかっ
「え・・・?」
「『
「随分と自信のない詠唱だな」
寝息をたてる少女を壁にもたれるように座らせた僕は立ち上がる。
「・・・成功するとは思わなかったんだ。僕は暗示魔術が成功した試しが一度もないから」
「そうか。ならそれで満足すると良い・・・女を渡せ」
「渡すもんか・・・絶対に!」
「ならば死ね」
暗示魔術で魔力は全て使った。僕に残っているのはまだ動く手足のみ。
「まだまだああああああああッ!!」
六花を助ける。ただそれだけの理由で僕は声を張り上げ、走り出す。
見るものはないと判断したのだろう。魂狩りは素人の動きで繰り出した僕の左腕を掴んで、投げ飛ばした。何かが弾けたような感覚がしたけれど、アドレナリンが分泌されているのか、痛みを全く感じなかった。
ガシャアアン!!
大きな音を立てて、僕は積んであった鉄材にそのまま突っ込んだ。
(あーあ・・・これ死ぬわ、間違いなく)
朦朧とする意識の中、僕は呑気に自分の死を悟っていた。さっきまであんなに死ぬのが怖かったのに、今は逆に、清々しい気持ちすらある・・・。
「寒いなぁ・・・旭湯でも、行こうかな・・・そう、だ、ろっかは・・・」
重たい瞼を何とか動かす。視界に映ったのは変わらずに眠り続ける、守りたかった人の姿。幸いなことにさっきの攻撃には巻き込まれなかったようだ。
「・・・よかった」
安堵からか僕の意識が少しずつ途切れていく。走馬灯だろうか?僕はあることを思い出していた。
『なんで僕、朝日さんの声や表情で不安になったりホッとしているんだ?こんなこと今までなかったのに』
(あぁ、今なら何となく分かる・・・こんなこと、それこそ恥ずかしくて言えないけど)
「僕は、はじめて会った時から、君を−−−−」