空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく 作:味なしコンフレーク
近衛深春は俺にとって理解できない人間だ。敵にやられて地面を転がる彼の姿をビルの屋上から眺めながらそう思った。もうかれこれ30分は同じ事を繰り返している。転がした相手はもう彼のことを敵とすら見ていない。
『良い加減鬱陶しいぞ、半人前の魔術使い。その女の魂はオレが喰う。これは決定事項だ』
奴の言う通りだ。両者ともに魔術と呼ばれる異能に関わっている人間ではあるが、使い手としては『魂狩り』の方が格上だ。
『ッ・・・・まだまだああああああああッ!!』
魂狩りが魔力を得るために捕らえた少女を助ける。それだけを原動力に近衛深春は何度も挑み続けるが、転がすのも面倒くさくなったのだろう。魂狩りは素人の動きで繰り出された左腕を掴んで、引きちぎった勢いで投げ飛ばした。
ガシャアアン!!
大きな音を立てて、積んであった鉄材に突っ込んだ近衛深春はそのまま動かなくなってしまった。
「馬鹿なやつだ。他人なんか助けようとするからこういう目に遭うんだ」
目の前で死にそうになっている友人を、助けたいとは微塵も思わなかった。あんな化け物に挑んだところで返り討ちにあって死ぬだけだ。
死んだら
深春も深春だ。たった数回しか会っていない奴のためにどうしてそこまで命を懸けられるのだろうか?
『・・・っか』
「!?」
勝敗は決した。少女はもうすぐ魂を喰われて、近衛深春はいずれ出血多量で死ぬ。だというのに、彼は最後まで少女を助けるために足掻こうとしていた。
「・・・呆れた。自分が死ぬかもしれないっていうのに、まだ他人の心配しているのかよ」
初めて会った時から一度決めたことは絶対に譲らない性格だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
「・・・なんか、見捨てたら化けて出てきそうだな、アイツ」
『無知ほど怖いものはない』というが、知っているからこそ怖いものもあるのだと俺は思う。この世界は、思ったよりも『何でもあり』。だから裏切られた友人が怨霊となって俺を呪い殺す可能性だってある。重要なのは、どっちにしても、死ぬかもしれないということだ。
なら、まだ・・・見捨てない方がマシだ。
「助ける理由としては十分、か」
俺はリュックサックから新聞紙で包んでいたものを手に、ビルから飛び降りた。
「しょうがねぇから助けてやろう。呪い殺されたくないでござるからな!!」
人間というものはそう簡単には変わらないと思う。
だが、彼との出会いは、俺の心をほんの少しだけ動かしたのかもしれない。