空色ギターを奏でる彼女は僕の世界を変えていく 作:味なしコンフレーク
※2025年5月26日、一部推敲。
Ep.12
「愚かな男だ・・・弱者は何も救えないのだと、理解していただろうに」
魂狩りは目の前で気を失っている少年を少し哀れんでいた。自分もまた弱い者だったから。
愛する者・守りたい存在があった・・・力が弱かったかつての自分は全てを奪われた。
「人間の本質は変わらん。人を裏切り、殺し合う。だからこそ強くなければならない・・・そうは思わないか?」
ガキンッ!と言う音を立て、繰り出した拳と突然現れた刃がぶつかりあったが、魂狩りの拳は簡単にミブローの刃を弾き返した。
「なッ!?」
「人為的に死角を作っていたのか。並の魔術師だったならばとっくにやられていただろうな」
「お前‥‥マジのバケモンかよ・・・」
普段は隠している『素』が出てしまうほど、弓手ミブローは動揺していた。まさか奇襲が破られるとは思わなかったからだ。
近衛深春の捉える右眼は、魔術師ではないものに魔力を帯びた視線で動きを一瞬止めて隙を作り出し、最初の一撃だけ『必中』させることができる。だが魔術師に対しては逆に魔力を辿られて動きを読まれてしまう『デメリット』となる。
近衛深春は無策で敵に挑んでいたわけではない。デメリットを逆手に取り、自身にターゲットを集中させることで、それ以外の人間の気配を魂狩りの視覚から外していたのだ。
視ることを極めた彼が編み出した『最強の初見殺し』こそ、近衛深春という魔術使いの真髄である。
(だがその奥の手も破られた・・・敵を牽制しつつ、ここから脱出するのが最善手だが、眠っている六花ちゃんと片腕失った瀕死の深春を抱えながらじゃ、それも厳しい。こんなのどうすればいいんだよ・・・!?)
「さて・・・お前も、その男のように抗うか?」
「畜生・・・ッ!」
「
Ep.13
「驚いた。あの
「んだと、コラ!やんのか、テメエ!ぶっ殺s−−−−」
「ケン、おすわり」
「
絶体絶命の弓手の前に現れたのは部下を連れた烏合衆の魔術師、庵堂ウィノラだった。
「何が何だかよく分からないが・・・助けてくれるってことで良いんだよな?」
庵堂が魂狩りを追っていたのは知っていたが、一応、味方かどうか確認する弓手に、彼女は「もちろん」と答えた。
「深春クンのおかげでこうして犯人にたどり着けたんだ。見殺しになんかしないさ・・・ケン!」
「合点です、姐さん!オラ、そこのビン底眼鏡!!お前は片腕野郎を抱えて病院に行け。寝ている地味女は俺が連れていく」
「分かった・・・頼んだぞ、庵堂」
「任された」
部下と弓手が路地裏を脱出したのを確認した庵堂は胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
「吸っても良いかな?」
「・・・貴様、未成年だろう?」
「女の子には色々あるのさ・・・学校で吸ったりしたら、怖い風紀委員に怒られちゃうんだけどね」
魔術で火を灯し、煙を吸い込んで吐き出す庵堂。漂う煙に顔を顰める魂狩りには目もくれず暫くニコチンを味わった彼女は「質問なんだけど」と話を切り出した。
「これでも私は魔術師としてはそこそこに優秀だと自覚しているんだけどね?今日まで私は、君の存在どころか、事件の全容すら把握することができなかった」
「・・・」
「冥土の土産に教えてくれないか・・・君には、共犯がいるんじゃないのか?」
「・・・一つだけ答えてやろう。お前が知るのは−−−己の死だけだ!!」
使い魔数十匹と共に小柄な少女に魂狩りは容赦なく拳を振り下ろす−−−ことができなかった。
「・・・から、だが、うご、かん」
自身の拳が少女の顔面寸前で止まっていた・・・正確に言えば、拳だけではない、身体全てが金縛りにあったかのように動けなくなっていた。更に使役している使い魔たちは突然、燃え盛った炎に包まれ灰すら残さず消え去った。
「な・・・!?」
「なら・・・私も最後に一つだけ」
咥えた煙草の煙を揺らめかせながら浮かべた庵堂の笑顔は・・・さながら死神のようであった。
「別に敵討ちとかは考えてないんだが・・・せめて自分が殺した奴らの気持ちを考えながら死ね」
その言葉を最後に肺から全身を焼き尽くされるような感覚と共に魂狩りの意識は落ちていった。
Ep.14/目を覚ました深春
「・・・あれ?」
「おや、目が覚めたかい、深春クン?」
魂狩りに投げ飛ばされ、意識が吹き飛んだ僕が目を覚ましたときに見たものは、火のついていない煙草を咥えながら林檎を剥く庵堂だった。
「ここは病院か?・・・生きているのか、僕は」
「あぁ、何とか生きているとも、五体満足・・・とはいかなかったけどね」
左に目線を向けると、確かに僕の左腕はなくなっており、包帯が巻かれていた。
「・・・まぁ、生きて帰ってこられただけ、もうけもんだな」
林檎を剥き終えた庵堂は、窓を開けてから煙草に火をつけた。
・・・禁煙の文字が見えないのだろうか?
「すまなかったな、深春クン。魂狩りとの戦闘に君を巻き込むつもりはなかったんだけど、巻き込むどころか、ほとんど任せっきりにしてしまった・・・私もまだまだ未熟だな。烏合衆の若頭として不甲斐ないよ、本当に」
花咲川学園のワンピースタイプの制服の上から肩に引っ掛けたコートを翻し、病室を後にしようとする庵堂に僕は声をかけた。
「でも、助けてくれたんだろう?ありがとな庵堂。だけど煙草は体に悪いからやめた方が良いぜ」
「煙草なんかじゃ私の肺は焦がせないよ・・・少なくとも君よりは長生きできるはずさ」
Ep.15/煙隔魔術師と・・・
「待たせたね。それじゃあ行こうか。知り合いのツテで航空券も手に入った。お土産とかは空港で買うと良い。ハピハピ島のココナッツサブレなんてどうだい?」
近衛深春の病室を後にした庵堂は待たせていた『旅行客』に声をかけた。
「・・・」
「まさかとは思うが、この期に及んでまだ朝日六花の魂を食おうとか考えているのか?」
「・・・いや。私は魔力の殆どをお前に奪われた。多くの命を奪っておいてなんだが、命は惜しい。だからもうあの女は襲わない。この街にも二度と来ない。これは決定事項だ」
「なら良いんだけどね」
「・・・何故俺を殺さなかった。お前なら造作もないことだっただろう?」
「言っただろう?『自分が殺した奴らの気持ちを考えながら死ね』って。簡単に殺してしまったら考える時間なんてない。一瞬で楽になってしまう」
庵堂は悪戯っ子のような笑みを浮かべて魂狩りだった男の右胸をつついた。
「私は性格が悪いんだ。君はこれから自分が殺した人間たちのことを忘れることはできない。罪の意識に苛まれながら、肺をジリジリと焦がすような苦痛を死ぬまで味わい続ける事になる。そういう呪いさ・・・覚悟するといい」
「ふん‥‥貴様のいるこの街に手を出したのは、失敗だったな」
深春と六花
庵堂が病室を後にした数分後、バタバタという騒々しい足音が聞こえてきた。
病院なのだから少し静かにしてほしいなぁ、なんて他人事のように考えていたのだが、その足音はどうやら僕の部屋に用があるらしく、開いた扉から現れたのは焦ったような表情を浮かべた六花だった。
「深春さん・・・ッ!」
「・・・おはよう、六花」
六花は呑気に挨拶する僕を見るなり緊張の糸が切れたようにぺたんと地面に座り込んだ。
「生きている・・・」
「うん、生きていた」
「・・・深春さんが病院に運ばれてきた時、私、血の気がひきました。致死量をこえた出血に折れた骨が肺に刺さっていたって・・・死んでいてもおかしくなかったって・・・ッ」
「だ、大丈夫!今は何ともないから!ホラ、こんなに元k」
「そういう問題やあらへん!!」
だんだん目尻に涙を浮かべ始めた六花を放っておけなかった僕は腕をグルグル回したりなんかして至って健康だとアピールして見せたが、今度は何故かキッと睨まれてしまった。
「・・・もしかして怒っている?」
「怒っています。人を助けられるなら自分は死んでも良いとか思っている深春さんに心底怒っています!」
フンッ!とそっぽを向く六花。怒っている姿も可愛いけれど・・・魂狩りよりコワイと感じるのは気のせいだろうか?
「ありがとう、六花。でも・・・ごめん。僕は君を助けようとしたことを後悔なんかしていないし、これからもできる範囲で人助けしたいんだ・・・ダメかな?」
「・・・私の気持ちは変わりません。数回交わした言葉だけで十分すぎるくらいに救われたから。だから助けたい。出来ることなら、ずっと」
そう言って僕に目線を戻してくれる六花。その表情はどこか不安げだ。
「それとも・・・私じゃ頼りないですか?」
「・・・はぁ〜・・・やっぱそうなるよなぁ〜」
「なんでため息!?私、何か変なこと言いました!?」
「・・・そりゃあ、誰かれ構わず助けているから、そう勘違いするのも仕方がないと思うけどさ、僕はスーパーヒーローじゃないんだぞ?人を助けるためにポンポン命投げ出したりとか出来ないんだよ。何で分かってくれないかなぁー」
「え、えっと・・・?」
先ほどとは違い、今度は六花がたじたじになる番だった。だがこれだけは言わせて欲しい。これじゃあ、もし死んでいたとしても死に切れなかったかもしれないのだから。
「だから!死んでも守りたいって思ったのは六花だけなんだってば!///」
「へ・・・!?」
「察してくれ。柄じゃないっていうか‥‥気取っているみたいで、恥ずかしいんだよ」
「そ、それって・・・つまり・・・ッ⁉︎///」
向こうも意味を理解したのだろう、顔がみるみる真っ赤になっていく。多分僕も同じくらい赤くなっているんだろうけれど。
だが、いつまでもお互い赤面して黙り込んでもいられない。
スッと右手を差し出した僕に首を傾げる六花。でも僕は、生きていると分かった時から、こうすると決めていたのだ・・・友達という過程はすっ飛ばしてしまったけれど、まずはここから、最初の一歩を踏み出すのだ。
「こんな頼りないやつだけど・・・どうか助けて欲しい」
六花も僕の考えを理解したようで、少し照れ臭そうに、でもどこか嬉しそうに、僕の右手を両手で包み込むようにそっと握ってくれた。
「はい!もちろん!」