Re+verse~英雄に成りたかった僕と、お姫様に成りたかった幼馴染みとの詩~ 作:霧夢龍人
フワフワと身を包む優しい感触。
僕は直感的に察した──この感触は僕の
くっ、朝からこんなに僕を誘惑して──イケナイ子だ。
だからもう一回この感触に包まれて寝ても文句は言われな「「フィレ!!!あんったはまたそんなにグータラして・・・はぁ、くれぐれもルラちゃんを困らせるんじゃないよ!」は、はいっ!」
反射的だった。
大声でそう告げる母さんに、体が僕が意識するより先に動いたのだ。
日頃の
ここまで嬉しくない訓練の賜物などあっただろうか?
と、僕がこっそりぼうりょくはんたーいと訴えていると、母さんが木製のバケツを僕めがけて放り投げてきた。
「あっ、あ、あっぶないよぉっ!!急に何すんのさっ!?」
そこは流石僕。俊敏な動作でバケツを奇跡的に回避するが、そのバケツを投げてきた
何処の世界に八歳の息子に硬い木製バケツを投げつける母親がいるのだろうか?
いや、いる。目の前に。
「あんたまた水汲みサボっただろ?文句言う元気があるんだったら、さっさと水汲んできな。あと、何処で休んでたか知らないけどあんたが転けて意識を失ったとかいって、ルラちゃんがわざわざあんたをここまで運んできたんだよ。誠心誠意、あの子に感謝しときな」
「ぐっ」
え、僕気を失ってたの?しかも転んで?
ルラの前で?う、うわぁダサすぎるぞ僕ぅ。
しかもルラに運ばれたって・・・熊の巣穴に三日間籠りたい気分だ。
なんかもう、このままじっとしてるのも気恥ずかしいし、さっさと行ってしまおう。
「わ、わかったよ。今から行ってくるから」
「あぁ、今度はサボるんじゃないよ」
「分かってるって」
次またサボったら、今度はバケツじゃ済みそうにないし・・・なんて言葉は、ひっそりと胸の中に貯めておくことにした。
目の前の見えてる地雷を踏み抜くほど、僕はアホじゃないのだ。
「サボってると思われたら大変だ、早く行こう」
と、カランコランと音を立てるバケツを抱えながら、水の汲める川辺へと僕は足を早めた。
───
──
─
「んぐ・・・ぬぅ・・・お、重すぎるでしょこれ・・・」
水が溜まったバケツを溢さないように、必死に抱えて歩く。途中チャプチャプと水が音をたてて溢れるが、正直僕には気にする余裕がなかった。
だって重いんだもの。
川辺は、村のある麓から少し下の方にあるため、行きは下るだけで簡単なのだ。
“行き”は、だ、
帰りは、水がたぷたぷに入ったバケツを抱えて坂を上らないと行けない──地獄のようなコースへと化す。
考えて欲しい。
僕まだ八歳でちゅよ?
いや、確かに僕が貧弱なだけかもしれないけど───。
だって僕の幼馴染み、両手に一杯水の入ったバケツを一つずつと、頭の上にこれまた水の入ったバケツを溢さないように、バランスを取りながら大人よりも早いペースで帰ってくるのだ。
これには思わず僕も「えぇ」とドン引きせざるをえなかった。
そう考えたら、僕の貧弱さも極めて平均的なものに──あ、今僕より小さい女の子がバケツ持って先に・・・うん、認めよう。
やっぱり僕はもやしっ子である。
と、今日もまた世の心理に気付いてしまった僕は、えっほえっほとまたバケツを運ぶしかないのだ───ん?
はぁはぁと肩で息をしながら必死に運んでいると、村の広場の方から、キーンと金属音が聞こえてきた。
初めは聞き間違いかと思ったが、その金属音はどんどん激しさを増していく。
「も、もしかして──野盗の襲撃?」
最悪な予想が頭の中でちらつく。
もし本当に野盗なら、今すぐにでも近村まで助けを呼びにいくところだけど・・・。
「念のため・・・行ってみよう」
バケツをその場に置いて、急いで村の広場まで向かう。
近付けば近づくほど金属音は激しくなり、僕の心配を更に増幅させた。
ヒィヒィと肩で息をして、必死に体に鞭を打ちながら漸く到着した──が、そこには思ってもいない光景があった。
まず目についたのは、純白の鎧を身に付けた如何にもな騎士と、それに相対する小さな背中───間違いない、ルラだ。
しかも、比喩ではない目に見えない速度で、純白の鎧を着た騎士と切りあっている。
互いに笑っているため真剣勝負ではなさそうだが、それでも目の前で超次元的な戦いを見せつけられて、此方が冷や汗をかいてしまう。
───え、僕の幼馴染みこんなに強いの?
元から凄いとか、強いとか、最強とか宣ってはいたが、それでも限度があった。
剣戟を飛ばす──?えぇ、なにそれ。
え、なんでそれをルラは真似出来てるの?
純白騎士さんも何で八歳児相手にそんなに思い切り戦えるの?
疑問は尽きない。
「ふはは!流石は勇者の末裔・・・幼いとは言えここまでとは!」
「んんぅ!おじさん怖い!早く倒れて!」
「ぬっ!?お、おじさんだと!?まだそこまで歳はとっていないぞ勇者よ!」
純白騎士さんは、ルラの一言で相当ダメージを負っている様子。
ふふふ、流石はルラ、僕には色んな意味で真似できないよ。
・・・勇者?あれ、今勇者って言った?
「まさかここまで楽しませてくれるとはな勇者よ・・・だがそろそろ、この楽しい切り合いにも終わりを告げなければなるまい」
先程まで、年齢の事を言われて死にそうな顔をしていた純白騎士さんはそう言うと、途端に余裕そうな笑みを浮かべて更にスピードを上げてる・・・と思う。
正直、僕目線では白い残光が幾重にも重なってるようにしか見えないから、キンキンキンと鳴り響く金属音で判断している。
「くっ・・・」
ルラも額に汗を浮かべて、とてもキツそうだ。
やはりいくら最強無敵ハイパー幼馴染みのルラでも、現役の騎士さん相手には負けるんだと、初めて幼馴染みが人間であることを思いしらされた。
ん?いや待てよ?
現役の騎士さん相手にここまで出来る時点で人間業ではないのでは・・・?
・・・ま、まぁいいか、うん。
「とても楽しかったぞ、勇者。では終わるとしよう・・・ふんっ!」
今までほとんど見えなかった剣戟が、ゆっくりスローモーションでルラに向かって振り下ろされるのが見える。
あぁ、やっぱりこの一撃でルラは負けるんだな。
そう考えると、今までルラ相手に一矢も報えなかった僕の代わりに、ルラを打ちのめす純白騎士が少しカッコよく見えた。
───その代わりに、今こうして棒立ちになって観戦している僕の貧弱さに、少し嫌気が差す。
僕の将来の夢は、皆が羨む英雄になること。そして、最後にルラを迎えにいくこと。
そんな夢を持ちながら何もしていない僕は、本当に英雄になれるのだろうか?
思えば、ルラを越えることは僕の英雄となる目標の第一歩のようなものだ。
彼女を越えれば、僕は大手を振ってルラを迎えにいける、そんなちょっとした目標。
そんな目標となるルラを・・・僕じゃない誰かが倒す?
そんなのは嫌だ。
あぁ嫌だ。
だから僕は───
「負けるなルラァッ!!!!」
思い切り叫んでやった。
途中、ルラが僕の方をチラリと見たような気がした。
「はぁっ!!」
そんな僕の声援が力になったかはわからない・・・が、確かにルラは負ける寸前の所で剣を振り下ろす手を掴み、そのまま純白騎士ごと思い切り投げ飛ばしていた。
投げ飛ばす威力が強すぎたのか、木々を次々となぎ倒しながら突き進む姿に、応援した俺も呆然としてしまう。
いや、見ていた他の村人達も呆然としていたに違いない。
何なら、投げ飛ばされた純白騎士の付き人っぽい人も、口をあんぐりと開けて驚愕している。
そしてそんな混沌とした広場で、ルラは今度は間違いなく僕の方を向いてこう言ったのだ。
「応援ありがと!お陰で勝てたんだぁ」
にへら、とした顔でそう告げる彼女は酷く魅力的で───俺が越えるべき壁はやはり高いんだと再認識した。