「ん~。かゆい、かゆい」
頭が痒いが、両手が馬鹿デカい真っ赤な手錠で施錠されてるのでうまく掻けない。仕方がないので、犬のように足を柔軟に頭にもっていってガシガシガシと乱暴に掻いた。そんな俺の様子を見てこの牢獄の看守が見下すようにこちらを見ているのを発見。
どうやら、新人みたいだ。
……おっさんかぁ。
GE世界なんだから、せめて可愛くてえっちな格好の女の子にしてほしい。
でも性格悪かったらいやだなぁ。
まぁとりあえず、おっさんが舐め腐った目で俺を見ている。
「ニィ。ヒヒヒ…」
ニィ、と歯が思いっきり見えるように笑ってソイツを見つめ返す。
乱杭歯、いわゆるギザ歯を三日月の様に見せつけながら、我ながらひどく濁ってると思うどす黒い希望の消えた眼球で見つめてやる。ついでにブラック過ぎる環境のせいで、目の下の隈が消えた試しもない。
口の周りには、しつけの出来てない犬に着けるような頑丈な口輪。
壁からジャラジャラと伸びる行動範囲を制限する真っ赤な首輪と鎖。
昔、ぶちぎれて嚙みついてやったらこんなものまでつけられるようになってしまった。
「ッ、チ!」
「ヒヒ、ハハハ!」
「PW-01371! 静かにしろ!」
「は~い」
「……くそっ! なんで俺が『怪物』の看守なんかに!」
「運がないねぇ、お・た・が・い♡」
「うるさい! 黙れ!!」
たったこれだけの言葉のやりとりで頭に来たのか新人看守のおっさんは手に持った銃器を俺に向ける。だが撃たれない。コイツは俺を撃てない。責任問題になるからな。
──なぜなら俺は。
『AGE*1管理番号PW-01371。ミナト周辺に向かう第一種接触禁忌種『カリギュラ』が確認された。迎撃、および撃破せよ』
──灰域種を撤退、迎撃の実績有り。超強い甲判定AGEだから。
といっても小型なんだけどな。それでも、一個大隊でも小型の灰域種相手に勝率五割以下と言われるやばい奴なんだから上々だろう。
かなりギリギリの戦いだったが、勝利したおかげでこのミナト『ペニーウォート』でのブランド品としての扱いを受けている。……それでもクソな牢獄生活環境には変わりないけどな。
牢獄部屋に直接、放送がかかる。
トイレとベッドしかないこの部屋で、のそりと立ち上がった。
「お仕事の時間だなァ。ほら、出せよ」
「『怪物』め! 精々アラガミを喰って喰われて死ね!」
「ヒヒ、そのセリフは灰域種が出たときにでも取っておくんだな」
ガシャン、と牢屋の扉が開き、無駄に高性能な首輪がひとりでにガシャンと音を立てて床に落ちる。
さて、今日も死なないようにアラガミを喰いに行きましょうかね。
俺が食わないと他のAGEがアラガミに食べられちゃうからね、仕方ないね。
ああそうだ。精々言葉で看守に牽制かけとくか。牢屋ン中いじられんのも癪だし。
目ん玉かっぴらいて~。上見て~!
口角ぐい~ん。よだれ垂らして~!
「くそったれな職場へようこそ! ヒヒ、ヒャハハハハハ!!」
新人看守に笑顔で出る時に言うと、真っ青になった顔で慄いていた。
うわ、こいつ(顔芸)やば……。って顔してる。
俺もマジでやってると感じてたらヤバいと思うわこんな奴。
やっぱAGEってやばいんすね! (他人事)
「い、いけ! 早く行け!」
「はいは~い、お留守番よろしくぅ」
憂さ晴らしも終わったし、毎度出撃時に考える全ての元凶の記憶を思い出すのだった。
◇
いわゆる神転って奴なんだと思う。
暗い所で椅子に座らされて頭になんかかぶせられた。
頭の上に乗っかったソイツは流ちょうに言葉をしゃべるようで、どこかで聞いたことのあるセリフを吐いた。
『ふぅむ。難しい、こいつは難しい。蛮勇に溢れておる、頭も悪くなくもない』
「オイィィ! 待てい、今バカにしただろ。組み分け帽子かテメー!」
『一種の才能もまぁ……。自分の力を発揮したい、自己顕示欲ぅ、ですかねぇ』
「全部曖昧じゃない? ちょっとー? ねぇ!」
俺の言葉を聞いて、頭の上のソイツは鼻で笑った。
草。キレそう。
でも、体は動かなかった。悲しい。
『終末世界とかどう? いっぱい戦おうね♡』
「終末世界は嫌だ。終末世界は嫌だ!」
『終末世界は嫌なのか。いいのかね? 君は偉大になれる可能性がある、かも』
「それでも終末世界だけは!」
俺は必至で首を振った。動かない体は小刻みにぶるぶると震えた。
お腹一杯ご飯食べたい。可愛い女の子がいるとなお良し!
魔法とか使いたい! 女の子といちゃいちゃしたい!
孫に囲まれて老衰で眠る様に亡くなりたい!
無理言わないからダークな世界観は嫌だ!!
『その願いは私の力を超えている』
「ファッ〇ンゴッド!!」
『OK!』
「へ?」
頭のソイツは、キメ声で言った。
『──GOD EATER!』
「終末世界イヤアアアアアアアアア!!!」
ボッシュートされた。数秒ほどの浮遊感と共に意識がぶっ飛ぶ。
そして、意識が戻ると子供の体になって拘束具をつけられて椅子に座らされていた。
軍服のような服を着た屈強な男たちに囲まれている。
雑すぎる流れ作業にこう言わざる得ない。
「ファッ!?」
『AGE適合試験を開始します。気を楽にしてください』
「え、なんて??」
『第一段階、喰灰による浸食を実行』
「有無を言わさずかいsい、ぎっ!?」
ドクン! と体がはねる。視界がネガポジ反転するぅ!?
じりじりと体の中身を削り取られていくような激痛が走る。
荒い紙やすりを肌に擦った感覚が体の中のあらゆるところから起こり始める。
あ、これ捕食されてるって奴なのですわ!
助けて!!
助けて!!!
『浸食開始を確認。続いて第二段階、神機を実装』
「──~ッ!」
目の前にバカでかい剣が現れる。激痛にさいなまされる体は拘束具で跳ね、目の前に来たそいつを勝手につかむ。
ガッチャン!! 一生外れない真っ赤な腕輪は激しい音と共に、右腕に噛みつく。
『最終段階。対抗適応型オラクル細胞を移植』
「ィイイイイ!」
今度は左腕のほうにも赤い腕輪がガッチョン!! と噛みつく。
もう体中痛すぎて逝くゥ! 今来たばっかだけど逝くゥ!!!
ほんと、Ni、sぢぬ……。
その後も音声は何か言っていたけど、意識がもうろうとして聞き取れなかった。
良く分からんまま、契約書を作られて、そのまま牢屋に叩きこまれる。
鉄格子の外の小さな窓には、まるで前世の地球を宇宙から見ているような星が浮かんでいた。
あれがこの世界のお月様なのですわ! 心の中のイマジナリーお嬢様が高らかに叫ぶ。
そして俺も声高に、お月様に叫ぶ。
「よりによってナンバリング3かよぉ!!! ファッキ〇ゴッド!!!」
「うるさい! 黙れAGEめ!!」
叫んだ瞬間、看守から怒鳴り返される。
俺は泣きべそ掻きながらしょぼくれた。
簡単にGODEATERの各ナンバリングの内容を思い出す。
1はくそったれな職場。だけど、本当にアットホームな感じで大体良い人がいっぱい。
お月様のほうがおいしそう。イタダキマス! 生きることから逃げるな、これ命令なんよね。
2はエリート集団の一員。悲しい過去はあるけど、前向きにアラガミをパクパクですわ!
歌は世界を救うんだ! シプレ、シルブプレ! オゥ、メルシー!
そして、3は──。
「3は……」
周囲を見る。
絶望した顔で自分の手錠になった腕輪を眺める子供たち。
空腹を押さえつけるためか、腹を抑え泣きながら眠る子供。
必死で喉を抑えながら体の蠕動を押さえつける子供。
白目を剥く俺。
それをせせら笑う看守。
ヒューマンデブリみたいなもんになっちまったよ、かーちゃん!
「おぅ、寝よ。俺さ、大きくなったら神機兵に乗るんだ」
どうしようもないよねと思って寝た。現実逃避である。
せめてこれが夢であると、現実逃避したのだ。
看守にたたき起こされて小型アラガミ討伐に駆り出されるまであと1時間。
◇
「さて、今日もお疲れ神機ちゃん」
くたばったアラガミがコアを失い、全身崩壊していくのを瓦礫を椅子にして眺める。
この世界に来て一番の相棒である神機ちゃんを優しく撫でながら、ロングブレードに汚い字で刻印された『No way back "Im GOD EATER"』の文字をなぞる。昔に格好つけて刻んだ言葉だ。ゴッドイーターのBGMから引用している。
ちなみに刻んだ時、看守からめっちゃ怒られた。ぶっちゃけ今より強くなかったから殺される寸前まで痛めつけられた。でもそこまでやられても、腕輪付けたときのほうが数段死にかけた気がするから心持ち平気なんよね。(ハナホジ)
若干灰域濃度が高いのか通信障害が発生している。
通信が安定するまで、ここで待機でいいだろう。
ミナトの連中も俺がくたばったとは思ってもいまい。
神機を愛でていると、ザリッと足音共に二人の人影が歩み寄ってくる。
「『ペニーウォートの怪物』の名に違わない戦いぶりだったな。イザナイ」
「ユウゴか。ソレ恥ずかしいからやめてくれ」
俺の名前はPW-01371の後ろからとってイザナイ。
まぁ名前はないと困るからな。適当に付けたってもんよ。
気に入ってはいないが、『ペニーウォートの怪物』とも呼ばれている。
小型灰域種を倒した時についた俺の二つ名だ。
正確には、その後にミナト内で大暴れしたらついたんだけどね!
討伐時に一緒にいて灰域種に捕食されたメンバーが治療されずに死んだから、そりゃもうお怒りバーストモードだったんですわ。
灰域種討伐という人類未達の功績があれば、暴れ散らして噛みつきまわって言葉で攻め立ててもなんとか死なずに済んだのだった。正直、処刑されてもおかしくはなかった。
そのせいで普段、独房に入れられて必要以上の拘束をされてる腫れ物だけどね! くそが!!
「あんたのおかげで俺たちは今日も生き残れた、感謝くらいするさ。な、相棒」
「ん」
黒髪でジャケットを着たクールなイケメンと長い銀髪を頭頂でまとめた切れ長の口下手美人が会話をして頷く。二人とも両手首に赤くてゴツイ腕輪をつけて神機を持っている。ペニーウォートのAGEだ。
そして、GE3の主人公とその相棒にあたる。女の子のほうが主人公ちゃんである。
このくそったれなAGEの環境を後々に何とかする組織のリーダーとその右腕。なくてはならないピースのようなものだ。
まぁ女主人公だったせいでそのことに気が付くのが遅れ、こいつらがAGEなりたての時にちょっと関わり方をミスってしまったが、信頼関係は築けたみたいだしセーフだろう。
「さて帰ったらまた『怪物』ごっこだ。多分飯抜きなんだ、なんか食いもん分けてくれないか」
「ん。レーションがある」
「ありがとな。……代わりに何か欲しいものはあるか」
「あなたがほしい」
「おう、アラガミ退治の時は体張らせていただきますわ」
「……ん、今はそれでもいい」
主人公ちゃんが隠し持っていたしけって不味いレーションをくれた。代わりと言ってはなんだが、交換条件で肉体労働を指定されたのでしっかりと今度も手伝おう。
こうして通信障害などでミナトの連中に聞こえてない際にはこうして情報や物資を交換し合っているのだ。
「ショウが、……子供の咳がひどい。メディカルキットがあれば譲ってほしい」
「古いのが部屋に隠してある。次の任務でお前らかジークに渡しとく」
「助かる」
「ありがとう」
子供の咳がひどい、か。ストーリーの始まりにあったが……。
まぁ大体いっつも咳がひどい奴はいる。そして、体力がなくなって死んでいく。
いつの間にか、原作が始まって救いがあることを期待しなくなってしまった。
でもまぁ……。
「……希望があるのが心のよりどころなのかもな」
「? ん、希望はある。貴方がいるから」
「そうだな。俺たちは死なねぇ、絶対だ。あの二人の『夢をかなえる場所をつくる』って夢を絶対叶える」
クールな見た目の癖に割と熱血なユウゴが手を握りしめながら強い意志を固めている。あの二人ってのはたぶん俺と一緒に灰域種討伐したのにミナトの連中に殺されたアイツらだな。相変わらず律義な奴だよ。
お前は? ユウゴが主人公ちゃんに聞く。
「およめさんになる」
「ハハッ、そん時は盛大に式を上げないとな!」
リア充な夢だなぁ。ユウゴと幼馴染だもんな。
毎度聞かされてるけど、惚気るのやめてくれねぇかな……。
あー、俺も女の子といちゃいちゃしたい。
……ちなみに主人公ちゃんのこの夢は最初にかかわったときにせめてこんな場所だからせめて夢くらい見ろよ? と俺が言ったせいでもある。将来の夢という事を子供なのに見れてなかったから、お前くらいの年ならお花屋さんかお嫁さんだな! 偏見全開で呵々大笑。
以降、主人公ちゃんの夢がお嫁さんになってしまった……。
これを聞くたびに、やらかした感が凄いんで気まずいんだ。
そんな風に不貞腐れてると、ジッと主人公ちゃんが俺を見つめてくる。
「イザナイの夢は? まだ聞いてない」
「あんたが俺たちに夢を見ることを教えてくれたんだ。いい加減教えてくれてもいいだろ」
「あれ、言ってなかったか? そうだな、うーん」
あれ、言ってなかったっけ?
この質問結構な頻度で貰ってる気がするんだけどな。
少し考える。
そしてポンと手を打った。
「ジャイアントトウモロコシでポップコーン食べたいな」
「「……」」
呆れた顔で、ユウゴと主人公ちゃんが顔を見合わせている。
そしてため息。
「何だお前らジャイアントトウモロコシのポップコーン知らねーのか? 一粒両拳合わせたくらいのでっかいポップコーンだぞ!」
「そういう事じゃないんだ……」
「……、一応覚えとく」
くそ、相手にしてもらえねぇ! 本当にGE世界で食べたいシリーズなんだけどなぁ。
次点は初恋ジュースだ! うちの神機ちゃんにも飲ませてやりてぇなぁ。
そんなこんなで、騒いでいると通信が復帰した。
帰投命令が下り、俺たちはミナトに戻される。
ペニーウォートで今日よりましな明日を祈りながら僅かな睡眠を貪るのだった。
◇
「今日も、教えてもらえなかったな」
「ん」
ミナトに戻ったユウゴと主人公ちゃんこと、オリーネが牢屋で話し合う。
この区画の牢獄にいるAGE仲間のジークや子供たちはすやすやと眠っている。
「俺たちじゃ、やっぱりイザナイの本心は聞けないんだろうか」
「まだだめだったね」
イザナイ。
『ペニーウォートの怪物』と呼ばれる青年。
いつも目の下にメイクをしてるんじゃないかと疑うほどの深い隈を刻んだ猫背の男。自分にとって気に入らないことがあると、良く威嚇的な意味でギザギザな牙をむき出しにして笑みを浮かべることが多い人物。
単独で大型のアラガミを討伐する怪物のようなAGE。かなりの灰域濃度まで潜ることも可能らしくソロで狩りを行っている。
一見すると厭世的で退廃的な情のない人間に見える。
だが、実質は真逆。
自分が出来ることは精一杯やろうとするし、仲間に対してとても情が深い。
手綱をしっかりと持たないと暴れる『怪物』として、看守たちに恐れられているのも必要なことだからと言ってやっている一種のロールプレイという事をいつか語っていた。実際に、AGEをひどい扱いをした看守がいたと分かると鎮圧されるとわかっているのに、『ブランド品』は殺されないからと言って暴れ散らかすという事をしている。そのたびに拷問じみた扱いを受けているが、何度もやるので彼以外のAGEに看守からのいじめが少なくなったりした。
「身を挺して盾張ってくれてるあの人がいなかったら、ここのAGEはもっと死んでる」
「ああ。仲間を死なせないために俺たちも頑張っているが、あの人ほど身を削れちゃいない……。削ったとしても、あの人位の実績がないと灰域の奥で使い捨てられて、それで終わりだ」
「もっと頼ってほしい」
「フッ、お前は特にそうだろうな」
「ん」
かつて、灰域種討伐時まで組んでいたパーティが生きてた頃は、まだ心内を話していたと思う。
ユウゴとオリーネ、今寝ているジークを鍛えてくれたのもあの人だ。ジークの弟であるキースも体が弱い頃に出来ることとして、技術系の本を与えられていたりする。今では皆、生き残るのに必要なことを覚えられて何とか今日まで生きている。
そして夢の話だ。ここから出たときの希望。
いつかユウゴたちが叶える夢。
『誰もが夢をかなえられる場所を作る』
そんな大切な夢を与えてくれた。夢を見るという希望を与えてくれた。
そして、甲判定の希少なAGEとして過酷な戦いを強いられていたオリーネに変哲のない夢を教えてくれた。ソレを見てもいいんだと、笑いながら諭してくれた人。
「イザナイの夢を聞いてソレを叶えたら、顔向けできるんだがな」
「そうだね」
「まぁいい。何度だって聞いてやろう。そのためには、明日も生き残らないとな」
「ねる」
「ああ、明日も早い。俺たちもさっさと休もう」
今日も生き残って、明日が来る。
繰り返して、やがて運命の日。
檻に入れて虐げられた狼たちが、誠実と高潔の花言葉のミナトに迎えられる。
いずれ『クリサンセマムの鬼神』と呼ばれる少女は知ることになる。
『ペニーウォートの怪物』と呼ばれる青年の心の中が結構ちゃらんぽらんな事を。
「私、あの人のおよめさんになる。ユウゴ、ちゃんと夢をかなえて」
「そうだな。皆の夢がかなう場所じゃなきゃ式も挙げられないからな」
「ん」
まぁでも、恋は盲目というので……。
──きっと大丈夫でしょう。
着せ替えてもヨシッ!
数話予定。
9/22追記
少し長くなりました。