【完結】ペニーウォートの怪物   作:唯のかえる

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第12話

 憤怒する荒神(ヌァザ)がちっぽけな人間(イザナイ)の前に君臨する。

 義腕を手に入れた戦いの神(アガートラーム)。再臨する神話の王。

 溢れる紫光。そのすべてが致死に至るデッドリーヴェノム。

 人類を食らう天敵。

 これが『荒神』だ。

 

 

 ◇

 

 

 ──イザナイはゴッドイーターだ。

 

 俺は強い。

 俺は怪物だ。

 コイツを食い殺し、今日も生き残る。

 今日も生き残って、明日を獲る。

 

 心の中で、呟き続ける。

 

 カタカタと揺れる指先で神機を握り締めた。

 これは武者震いだと決めつける。

 違ったとしても、常に自分に言い聞かせる。

 

 ああ、そうだ。いつだって強がる健気立て。

 不敵な笑みで、強気なロールプレイで不安を殺す。

 

 神転と銘を打ってはいるが彼はどこにでもいる変哲もないAGEだった。

 紅蓮灰域の夜以降、人間離れしたがその程度。

 潰して切り取り千切られれば死んでしまう存在だった。

 

 一振りで大型アラガミを断てることもなく、身体能力でアラガミを殴り殺せるわけでもない。自由自在にバーストする事も出来なければ、無限に体からオラクルバレッドを湧き出せることもない。

 GE2のブラッドのように特殊な力に目覚めることもなかった。当然だ、与えられている偏食因子がそもそも違うのだ。バーストしなくても使えるブラッドアーツの習得も不可能。ここには『喚起』の能力を持つブラッド隊の隊長がいるはずもないのだから。

 唯一チートと言えるようなものは、少し経歴が特殊なコアの神機ちゃんくらいだった。もちろん、戦闘に影響などあるわけもない。またまた当然な事だ。神機はアーティフィシャルCNSと呼ばれるもので制御され、人の身で扱えるように制御されているのだから。普通の神機と違う様に出力が制御できないものはただの不良品だ。

 

 一般的なAGEと違い、自信をもって持っていると言えるものは『ゲームでのGE知識』と『学生時に習う程度の体の使い方』その程度。

 

 持っているモノはそれだけなのに、ターミナルもまともに使えない場所に閉じ込められ、カスタムバレッドの知識すら役に立てることが出来ない。ならばとアラガミの行動を知識に当てはめようとしてもゲームと違い、行動パターンがころころ変わる。

 それもそうだ。

 アラガミを構成するオラクル細胞は高度な学習能力を持つ『考えて、喰らう細胞』なのだから。ワンパターンな攻撃などすぐに学習されてしまう。

 

 イザナイも考えて考えて戦い続ける。

 何度も何度も死にかけた。

 死にかけるたびに、走馬灯のようにして自分の知識を探り続けた。

 やるべきことと定めた、この人生の目標に辿り着くために足掻き続ける。

 

 イザナイが『極東リザレクション流』とさも特別そうに使っている技も、捕食形態機構を制御する機構が神機に搭載されているとGERで説明されていたから扱えているモノだ。絶対にあるはずだと信じてペニーウォートで神機をいじくりまわして何とかモノにした、諦めの悪い試行錯誤の結果だった。

 思いついたことを試しすぎて、どれが正解だったのかが自分でも分からないのがキズだが。いまだにペニーウォート産のAGE達が扱えない理由でもある。

 だが、いずれこれも特別なことではなくなる。クリサンセマムを出るときに、キースに説明をする予定だからだ。キースはゲーム内で言うところの『とんでも博士枠』だ。ヒントさえ与えてしまえば、後は勝手に何とかするだろう。少なくともイザナイはそう信じている。

 

 7年。灰域がこの世界に広がった時間。

 そして、堕とされたイザナイが不眠不休で戦わされ続けた時間だ。

 神機を扱う練度は増し、戦闘の老練さは増した。

 最終的に人間離れした肉体を得たが、育て続けた戦い方の根幹は変わらない。

 

 圧倒的な力で捩じ伏せる勇気の鬼神ではない。

 狡猾卑劣に牙を研ぎ、最大の機会を窺う怪物。

 

 ──それがイザナイの戦いの本質。

 

 そんな怪物だから。

 アラガミを恐れる弱い人の気持ちが痛いほど分かってしまうから。

 

 退路はない。

 逃げれば誰かが喰われるから。

 怖くても立ち続ける。不敵に笑う。

 

『俺はゴッドイーターだ』

 

 神機と心に刻んで前を見る。

 

 

 ◇

 

 

 イザナイは一つの薬を口に弾いて、口に含む。

 そして、嚙み砕いた。

 薬の名前は『強制開放剤』という。

 僅かなふらつきと共に、全身のオラクル細胞が活性化する。

 捕食行為をせずに体力を消費し、疑似バーストを起こす劇薬だ。

 

『バースト時間増加しました。……過度の使用は体に負担がかかるので気を付けてください』

「ヒヒ、繋ぎだぜ繋ぎ。ま、もう終わるから待ってなァ!」

『みんなで、待ってますね! 無事に終わらせて帰ってきてください!』

 

 ヌァザが動く。

 右腕として出来上がった触手の義腕を弓を引くように後ろに絞る。

 拳を振るうと想定するが普通に考えて、イザナイまで全く届かない距離。

 

 分かりやすい。とイザナイは不敵に笑う。

 おそらく届くのだろう。

 伸びる、飛ばす、高速接近など思考を巡らせ、捕食攻撃に使っていた触腕と質感が対して変わらない事に目をつけ、伸びることが一番あり得そうだと絞り込む。

 

 グゥン! とイザナイの想定通りヌァザの義腕が伸びる!! 

 ただの物理攻撃ではない対策なく触れれば致命の毒。全くもって質が悪い。

 だが──。

 

「ヒヒ、バーストアーツの真髄を見せてやるよォ」

 

 もっと質の悪い男が目の前にはいた。

 目の前の敵はバーストしている。つまり、捕食攻撃はしばらく飛んでこないという事。致命の毒? 捕食じゃないなら感応能力がなくなるわけでもあるまい! イザナイは先ほどまでより大胆に攻防を行うと決めていた。

 

「──朝凪の型Lv1」

 

 神機のシールドを展開し義腕に添えられるように当て、イザナイは受け流す。

 当然、凄まじい物理衝撃だ。受け流すなど簡単に行くはずもない。さらにぶつかった衝撃で周辺に巻き散るデッドリーヴェノム。

 

 だが、いつの間にか淡く光る神機が攻撃をいなし、撒き散らされるデッドリーヴェノムから主人を守る。

 

 常にイザナイのオラクル細胞が振起し、神機パーツ全てにまとわりついているのだ。

 ロングブレード使いのAGEが初めに扱えるようになるバーストアーツ『朝凪の型』。

 今まで見せていた『スピニングフォール』や『飛天翔』が力任せの剛の型だとすれば、その『朝凪*1』の名の通り変幻自在の柔の型。

 

 イザナイが最初に覚え、自由自在に扱えるまで使い続けて昇華させた切り札。

 

 デッドリーヴェノムと神機のオラクル細胞が互いに喰い合い、イザナイへの影響をせき止める。

 

 むしろデッドリーヴェノムのオラクルエネルギーを奪い貪り、自身のオラクルエネルギーをどんどん高めていく。

 わずかに神機の輝きが増す。

 

 川を流れる葉のように、地面を滑る。輝き続ける神機の軌跡が美しく残る。

 ヌァザとは見当違いのほうに吹き飛ぶイザナイだが、その運動エネルギーを殺さずに高速移動へと置換。そのままくるくるとステップを踏みながら、ヌァザに届かぬ位置でロングブレードを振りぬく。

 

「朝凪の型Lv2『旋風ノ太刀』エフェクト『偃月』」

 

 神機が纏うオラクル量が目に見えて増えた。だが、刀身は遠くにいるヌァザには届かない。下から上に斬撃が空に振り抜かれる。

 

 斬撃の軌跡から腕を振りぬいたままのヌァザに、三日月型のオラクルエネルギーが飛んでいく。

 

 刀身で直接切り裂くよりはるかに弱い、だがそれはイザナイが狙いを付けていた無防備なヌァザの髑髏面へとぶち当たり切り傷を与え消えた。

 いつかの焼き直し、ヌァザは視界を数秒奪われる。

 

 近寄られるとアドバンテージを失うと既に理解しているヌァザは瞬時に義腕を引き寄せ、今度は地面へと左腕を叩きつけた。

 

『地下でオラクル活性化! 周囲を吹き飛ばした広範囲攻撃と一致!』

 

 エイミーが観測情報を今度はしっかりとイザナイに伝えきる。

 叩きつけた左腕の先から、地面がゴバッ! とまくれ上がって左右に逃げ場が無いほどの土石流がイザナイに襲い掛かる。左手を地に触れながら土石流を発生させて、引き戻した右腕を再び引き絞った。

 学習した知能で、イザナイが土石流をバッタのように飛び跳ねて避けるであろう事を予測しているのだ。

 アラガミは『考え、喰らう細胞』である。

 即ち、敵対しやられた行動を理解し、常に行動が進化する。先ほどまで戦っていたイザナイの癖を読み、考えた結果だ。

 

 バーストして普段以上に思考が研ぎ澄まされているヌァザは獲ったと確信する! 

 

 だが、イザナイもアラガミが思考し進化する生き物だと当然理解している。

 常に恐れ、考え続けるイザナイもヌァザがそう行動することを読んで、一歩先を行く! 

 

「朝凪の型Lv2『煉獄の劫火』エフェクト『朧車』」

 

 ズドンッ! 土石流の前で腰だめの正眼に神機を構え、峰に手を添えた状態で銃口から名の通り眼前に風穴を開ける熱量が噴き出す。

 インパルスエッジ、銃形態への変形を最小限にとどめることで即座にオラクルバレットを発射するロングブレード専用特殊アクション。

 発動したバーストアーツはエネルギー出力を限界まで引き上げ発射するまさに爆発というパワフルな物。さらに言えば、イザナイの神機は今では時代遅れのブラストだ。だが、大砲をそのまま括り付けた様な銃口がレールガンなどでは不可能な面での爆発を可能にする。

 さらに余剰オラクルをエフェクトとして自身の横で車輪のように超回転させ、横から流れ込もうとする土砂すら全て吹き飛ばした。

 

 目の前にトンネルが出来て、ヌァザへの直通ルートが出来上がる。

 

 トンネルの上をヌァザの巨大な義腕が通過する。

 ソレを尻目に出来たそばから崩れ行くトンネルを駆け抜ける。

 

 たどり着くのは、動揺を隠しきれない様子のヌァザの目の前。

 拒むヌァザは口からデッドリーヴェノムの泥を形成。そのままイザナイめがけて噴き出し、強制的にイザナイを付近から追い払う、もしくはそのままヴェノムを付与して殺そうとする。

 

「朝凪の型Lv3『アイギスキャリバー』エフェクト『狂風』」

 

 足は一切止めずに、地面へと張り付くような前傾姿勢。

 飛んできたデッドリーヴェノムの泥を、横薙ぎに撃ち払う。横薙ぎを振るうタイミングで、オラクルの壁がまるでバリアのようにイザナイをデッドリーヴェノムのしぶきから護る。さらに竜巻のように余剰オラクルが吹き上がり、道を開く! 

 

 朝凪の型を使い始めた当初、薄っすらとしか纏っていなかったオラクルエネルギーがどんどん嵩を増し、目に見えて溢れんばかりの輝きを放つ。

 イザナイの持つ神機がどんどん輝きを増していく!! 

 

「GU、GUUGAAAAAAAAAA!!!」

 

 なんだそれは知らない、そんな攻撃先ほどまで行ってこなかった! バーストを行ってはいるが、それまでの戦闘で致命傷を受けているヌァザは狼狽えるように後ろへとよろよろと後ずさる。

 絶対に近づいてくるな! と義腕と元々あった左手を高速でイザナイに向けて振り回す!! 

 

「ヨォシ、これでもッ、喰らいなァ!!」

 

 至近距離まで近づいたイザナイはまるで()()()()()()()()()()()()大声を出し、片手でヌァザの髑髏面に向かって、丸い物体を良く見えるようにゆっくり放物線で放る。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヌァザは、遠くへと弾き飛ばすために義腕を鞭のように振るった。

 視界を奪うことを攻撃の起点にしているイザナイはコレが失敗すれば逃げ場はない。イザナイの背後は土石流で大きな壁のようになっているのだ。即席のトンネルも既に埋もれて消えている! 

 ヌァザは勝利を確信した。

 このスタングレネードを弾き飛ばした後、出来た隙に最初のほうで有効打だったオラクルを練りに練った咆哮を浴びせる。咆哮には当然デッドリーヴェノムも付与する。足が止まったところに何度も面での拳を振るう! 

 それで、勝てる!! 

 

 ヌァザの義腕にイザナイがゆっくり放り投げた、ナニカがぶつかり──炸裂した。

 ニィ、とギザギザの牙が剥かれる。

 

 

 荒神と人間の読み合い、化かし合い。

 その終わり──。

 

 

 バチバチバチィッ!! 甲高い音共にヌァザの体がガクガクと痺れる! 

 知らない、知らない、知らない! ヌァザのオラクル細胞が何が起きたのかを理解しようとフル回転する。

 まるで、ヌァザは首を差し出すようにイザナイの前に自身の意思とは裏腹に跪く。

 

「朝凪の型LvMAXッ!」

 

 イザナイが投げたのは、ホールドトラップ。

 強い衝撃を与えると弾け、触れたものにスタンという行動不能の状態異常を与える物。

 一度も使わずに切り札とした手札の一枚!! 

 

 動けぬヌァザの眼前。

 イザナイは、天に向かって神機を両手で持ってゆっくり振りかぶる。

 神機の輝きがロングブレードに集まり、天を貫くほど巨大な光の大剣を形成する!! 

 

 髑髏面の向こうの瞳。

 ヌァザは牙を剥いた怪物を幻視した。

 

「『一ノ太刀 絶閃』」

 

 それがヌァザの見た最後の景色だった。

 

 唐竹割り。

 轟ッ! 凄まじい地響きが響く。

 

 ──灰域種『ヌァザ』討伐。

 

 頭から胸にかけて大きな斬撃痕。

 地に伏したヌァザはもう動かなかった。

 

*1
朝、陸風と海風が吹き変わる時の無風となる現象




 やっと終わった……。
 長かった……。

 たぶん怒り状態捕食攻撃時が一番灰域種の強い時間だと思う……。

幕間書き順決め

  • 男のカードバトル イザナイのタイプは?
  • リカルドと家事をする話
  • 行商人とイザナイの話
  • オリーネ取材 イザナイの事どう思ってる
  • フィムと寝子とイザナイお昼寝
  • 初恋大作戦 オリーネおしゃれの巻
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