【完結】ペニーウォートの怪物   作:唯のかえる

15 / 25
遅くなりました。


第15話

 ズン……と地面が揺れる。

 大型アラガミが力尽き、地に伏した音。

 月の昇る頃合い。

 灰域濃度が高まる場所。

 

 パチパチパチ。

 私は拍手をしながら、背を向ける彼に近づく。始めての邂逅から一年程度しか経っていないが、身長が高くなった少年がそこにはいた。

 

「『ペニーウォートの怪物』、やはり君だったか」

「んおっ!? アンタか、驚かせないでくれるか。……ペニーウォートの怪物って?」

「巷では君のことをそう呼ぶ。とても強いAGEだと喧伝されている」

「へぇそうなのか。怪物、怪物ねェ……そうか、怪物かぁ」

 

 後ろから声をかけた私を、彼は肩越しに視線だけで振り返る。

 深く黒く渦巻く瞳が私の姿を捉えた。

 言葉を宙にさ迷わせて、少し寂しそうな声音で怪物とつぶやく。

 

「君を再び勧誘しに来た。我らが同胞よ、『朱の女王』へ来ないか」

「……以前、断らなかったか?」

「何度でも君を求めよう。君を救いに来た」

 

 言葉を重ねる。グレイプニルからペニーウォートへの『怪物』の購入の打診があったと聞いていた。

 

「……俺を救うって? ヒヒ」

「何を笑う」

 

 かつて無かった不思議な笑い方。

 

「いやァ、利己的な勧誘だろうになァと思ってな」

「……君は、相変わらず視野が広いな。ああ、その通りだ。我々の利益のために勧誘しに来た面もある」

「簡単に認めるねぇ。ま、悪く思ってるわけじゃない。救いたいって気持ちも本当だろうからな」

 

 小型とはいえ灰域種の単独討伐を行ったと言われる彼がいれば、我が父の考えているフェンリル本部奪還もうまくいく可能性がある。そうなると、限界灰域にある『朱の女王』の拠点の位置が気取られてしまう。人の手が及ばぬ限界灰域、そこにグレイプニルの目的もあるのだから。

 故の妨害工作。彼を『朱の女王』の仲間にすることが出来れば、戦力の増強にもつながる。

 

「まぁ、アンタの意図を組んだ上でもう一度言葉を返そう」

 

 しっかりと、こちらを振り返って立つ彼が居た。

 目の下にどす黒いクマ。ギザギザの乱杭歯。

 人は、成長するだけでこんなに形相が変わるだろうか? 

 妙な悪寒が走り、唾を飲む。

 

「悪いけど、『朱の女王』に入るのは断らせてもらう。……もう遅いんだ、前回の誘いに乗っておけば知り合いを助けることが出来た未来が掴めたかもなんて終わった話であり得ないifだ」

「……」

「俺はアンタらが思うほど広い視野なんて持っていやしない。希望と言いつつありもしない未来に思いを馳せて眺めてるだけのガキだった」

 

 彼は神機を担ぎながら大袈裟に肩を竦める。

 私は黙って彼の独白を聞いた。

 

「……英雄、いや特別になりたかった。友達の中だけでいい、顔見知りを助けるだけの力があると思っていた」

 

 彼は空を仰ぐ。

 彼の視線の先には緑化した月があった。

 

「無かったなぁ、そんな力。……チームの友達二人も死んでしまった。蝶々の羽ばたきは地球の裏側で竜巻を起こすが、近くだと対して影響がないみたいだ。世間で『怪物』って呼ばれるのも仕方ないよな……」

 

 静かな口調で巷での『ペニーウォートの怪物』の真実を教えられる。灰域種討伐の中でAGEが捕食され、灰域種こそ討伐はしたがミナトで見殺しにされた話をする。外では彼が単独で討伐したことになっているが、実際はそうだったのか……。

 そこまで聞いて、私も口を開く。

 

「そうか、それが『怪物』の真実か。……やはり、君は私たちと来るべきだ」

「アンタが救いたいのはAGEだけだったよな?」

「ああ、そうだ。同じ人類であるAGE達が虐げられているのが許せない。私達『朱の女王』はほかの人類に干渉しない。ひっそりとでいい、静かに穏やかな人間らしい暮らしが出来ればいいのだ」

 

 虐げられたのだろう? 苦しいことがあったのだろう? 

 だから、私は手を伸ばした。それでも彼は首を横に振る。

 そして、質問された。

 人類にとって、ゴッドイーターにとって悲しくて絶望的な質問。

 

「アンタはゴッドイーターが、AGEがアラガミ化したらどうする」

「それは……」

 

 手を下す。殺す。人を襲う前に、人であるうちに眠らせてやる。

 ……どの回答も、彼には返せなかった。

 矛盾というところもある。

 

 だが、気が付いてしまったのだ。

 

 アラガミ化。ゴッドイーターとは制御されたアラガミである。制御できなくなり、オラクル細胞にその身を喰われてアラガミと化す。それがアラガミ化だ。

 制御。捕食。感応能力を失う。

『怪物』の仲間に何が起きたのか。

 

「ミナトの連中を恨んでないといえば噓になる。資源をありったけ使って、人命を救助しようとすれば捕食された二人を助けられたんだからな。……でも、それをしたら限られている偏食因子や資源の枯渇で他の人間が死んでいたかもしれない。ああ、簡単なロジックさ」

「……」

「朝起きたら、二対の手錠があった。……さすがに感情をねじ伏せることが出来なくて、暴れまわってしまった。ヒヒヒ、そこで殺されてもおかしくはなかった」

 

 非常に凶暴な存在として言われている理由はソレか。

 でもまぁ。と淡々と静かに彼は言葉を続ける。

 

「俺が、アイツ等が捕食される前に助けて灰域種を殺せばよかった。それだけなんだ、それが出来なかった結果なんだ」

 

 彼が一番悔いていることはそれなんだろう。寂しそうな表情を見て、そう分かった。

 

「君をブランド化する事で、ペニーウォートがミナト間でのヒエラルキーの上位にいく。喧伝と過剰なほどの単独戦闘履歴はそのためか」

「あとは外で俺に死んで欲しいんだろうな。ミナト内で俺が死んだら本格的にグレイプニルが干渉してくるだろうし、出来るだけ稼ごうって腹だろうなぁ。ヒヒッ!」

 

 ペニーウォートは特に生き汚い大人が一杯だし。と呟く。

 

「そんな扱いを受けているのに、君は何故誘いを拒む?」

「……もう一度聞くぞ。AGEがアラガミ化したらどうする?」

 

 ニヤリと牙をむき出しにした笑み。

 無意識に、ぎゅっと神機を握りしめる。

 先ほど感じた悪寒が再び走る。

 

「まさか、君は……? いや、馬鹿な。そんなことはないだろう? 第一、アラガミ化というのは──」

「──体内のオラクル細胞が暴走し、制御できず即喰らいつくされて、アラガミへと変化するってか?」

 

 逆に彼から手を差し伸べされた。

 私は後ずさった。まさに目の前の少年が得体のしれない『怪物』に思えたのだ。

 

「知りたいと強く思い、この手を握ってみろ。教えてやるよ、感応現象でな」

「……」

 

 彼の顔と差し出された手を、私の視線が何度も行ったり来たりした。

 たらりと、冷や汗が流れ落ちる。

 

「ヒヒヒ、まぁそう怖がるなよ。アンタにとっても悪い話じゃないんだぜ」

「なにをいう……?」

「アンタが言う俺の視野とやらを知るチャンスだ。アンタがAGEを救う様々な方法があるかもしれないぜ?」

「それは……」

 

 悪魔のささやき。いや、怪物の誘惑。

 分かっていても魅力的な提案に恐る恐る、手を掴むために手を伸ばす。

 目の前の少年について知るチャンスだ。

 彼がなぜ虐げられているのに勧誘を拒むのか、その広い視野に何が見えているのか、そのすべてを知る機会。彼の言うとおり、私の知らない知識を手に入れられる可能性があるのだから……! 

 

「俺を救いたいんだろ? 物語の分水嶺だ、この羽ばたきで竜巻を起こす。今度こそ!」

 

 彼が何を言っているのかわからない。だが、この手を掴めば理解できるのだろうか。

 ゆっくり、ゆっくりと手を近づける。

 

 触れる。

 

 握りしめたその手は情熱の熱さを滾らせていた。

 

()()()()()()()()()()()やろうぜ! ヴェルナー・ガドリンッ!!」

 

 いつか彼がすごいと思う人の言葉と言っていたセリフを借りて私の名前を呼ぶ。

 思えば、これがすべての転機で。

 我々、灰域異常に苦しめられた人類にとっての蜘蛛の糸だったのだ。

 

 彼の手を掴んだ瞬間、私の頭の中に──。

 

「ぐッ……! オ、あアア──ッ!?」

 

 

 

 

 いずれの 未来 を穿つ

 

 

 

 

きらびやかで美しい場所、人波。

 捕食痕のない落ち着いた街並み。

 自然があふれる素敵な光景。

 たくさんの人の笑顔。

 美しい白金の月。

 

 

 暗転、怖気。

 

 

 腕輪をはめ込まれる瞬間。

 暗い牢獄、緑化した月。

 銀髪の少女との口約束。

『人はな、幸せになるために生まれてくると思うんだよ』

 小型灰域種との戦闘。

 二人のAGEの感謝の言葉。

『ありがとう、俺達の英雄』

 二対の赤い手錠の前での慟哭。

 紅蓮灰域での誓い。

 

 

神機に存在するアラガミとの契り。

 人の紡ぐ物語の美しさを語り、エンゲージして混ざっていく姿。

 相互理解による緩やかなアラガミ化。

 

 

そして──。

 

 

 

 如何なる 軌跡 を誓う

 

 

 

 彼の想像する、この未来の断片が頭の中へと濁流のようにたたきつけられたのだった! 

 

 

 ◇

 

 

 なんか、ヴェルナーが手を差し伸べながら目を閉じて固まった。

 毎回断ってるんだけど、そんなにショックだったのかな……? 

 というか毎回会うたびに同胞って言ってくれるけど、俺はもうAGEの枠から大分外れてるってヴェルナーも分かっているはずなんだけどなぁ。……いや、まだ人間扱いしてくれるんだなぁって嬉しさはあるんですけれどね? ありがたい話ですわ。

 

「オイィ? どうしたァ、急に固まって」

「いやなに、君に出会った頃と転機を思い出していた。君の視点がなければ、私は、私たち人類は確かに滅びの道を歩んでいただろうなと思ったのだ」

「ン。まー結構想像してた未来と変わったんじゃァねぇの? アンタも、アンタのパパも」

「……ああ。そうだな」

 

 俺の言葉にヴェルナーは頷く。

 知っている情報を断片的に感応現象で伝えたところ、ヴェルナーは原作の未来のことを『神機のアラガミから得た知識で導き出した、不確定だが最悪訪れる未来』として受け取った。錯乱した彼は俺に詰め寄る。なんなのだ今の想像は、私の努力は! と。

 

 そして俺は、その弱ったところに付け込んだ。

 ま、悪いやつの常套手段ですわ! 

 怪物って呼ばれちゃったから吹っ切れたんですわ! 

 

 ……本当は、悪い人ではないし生き残ってほしいなと、思ってしまっただけだけど。

 

 彼が暴走して灰嵐になった後に『奇跡』が起きて平和が訪れるなら。

 彼が暴走する前に、『奇跡』を起こす努力をしてもいいじゃないか。

 まぁ、前者と後者では内容の違う『奇跡』だが。

 

「フ……。では、今後の話をしようか」

 

 そういって、ヴェルナーはここに来た目的を話し始める。

 

「……始まったよ。君の想像していた転換期が、まさにここだろう」

「ペニーウォートを襲った灰嵐だけど、やっぱアレは?」

「ああ。AGEを媒介に灰嵐を起こす技術だ。人型アラガミの因子を、灰域異常を止めるための力を逆に消費する技術」

 

 俺の言葉に頷いてヴェルナーは続ける。心痛そうな表情なのは、彼も必要があればグレイプニルへと対抗する手段として使用しても仕方がないと考えていたせいだろう。

 

 俺が彼に伝えたことは色々あるが、この話で必要なことはコレ。

 

 灰域を捕食し、無くす技術が既に存在していた事。

 これについてはグレイプニル総督が常々フェンリル本部奪還を狙っている事から『オーディン』の使用転向が既に可能であったことを示している。ただ、その方法は莫大な動力が必要になるのでさらなる研究が必要という事。

 

 次に別な灰域捕食の研究もしくは動力開発の研究ではなく、逆に灰域を広がらせる技術が開発され実行されている事。

 そしてその方法はAGEが身を散らせるというモノ。ソレはAGEから強い感情を引き出しその身を滅ぼさせ、少なくともペニーウォートを脈絡もなく滅ぼす事が可能なレベルの灰嵐を引き起こす技術だ。

 

 そして最後に──、灰域異常の発生源『ラグナロク計画』の要であった『セントラルコア』の所在が不明で、尚且つ守られている可能性がある事。

 これについては、ミナト『ダスティミラー』のオーナーであるソ……アインさんが常にアンテナを張りながら7年過ごしているのに見つけ切れていない時点で明白だ。

 ……原作知識で『セントラルコア』には、アラガミの思考思想が存在していた可能性があると言う。対立を煽り、人類を、捕食衝動を満たすために世界を喰らおうと考えてもおかしくはないだろう。

 

 GE1、2の『特異点』ではなく、おとぎ話風に語られた食べ続けた結果、世界を捕食する結果になりえるというアラガミの姿そのもの。

 

「この技術を開発したミナトは『バラン』だ。異常なほど秘密が多い、そして大量の技術者を保持している。灰域踏破船の船長は表に出ても、決してミナトのオーナーは表へと出てきていない。すでに掴んでいるが『朱の女王』と『グレイプニル』への二重スパイも確認できている。……もちろん、気取られてはいない」

「ヒヒ。やっぱり居ただろォ? 信じてくれて助かるぜェ」

 

 まるで人類とAGEとの対立を煽り、灰域を広げることを目的にしているようにも思える。

 いや、まさに『奇跡』が起こらなければ、原作ではそうなっていたのだから……。

 

 っと思考が逸れた。

 となると、俺もそろそろ動かないといけないのかな。

 本来であればペニーウォートが灰嵐に襲われた後にペニーウォートの灰域踏破船から逃げ去るか、『朱の女王』に襲撃をかけてもらって脱出合流の予定だったんだけどね! 

 新人看守ェ……。

 

 ……クリサンセマムでの日々はとても過ごしやすくて、心のどこかでは幸運だと思っていたようですけれどね。

 まぁヴェルナーが今回接触してきたのは予定を詰める為の俺の回収なんだろう。

 

 んー、あー……。

 ただ、俺がクリサンセマムからペニーウォートに一度連れ戻されないと、ユウゴやオリーネたちがペニーウォートに戻されそうなんだよなぁ。イルダとの契約書もあるし……。

 

 ……。

 ……………。

 ………オリーネのこともあるし。

 服の中に隠した指輪が、なんとなく存在をアピールした気がした。

 

「ワリィ、ちょっと迎えは待ってもらえるか?」

 

 オリーネのことは一旦置いておいて、ヴェルナーにかくかくしかじかと説明をする。

 ふむ、と唸りヴェルナーは数秒思考。分かったと頷いてくれた。

 

「では、当初の予定通りペニーウォートの灰域踏破船に襲撃をかける。その後、合流の手はずで良いな? ……後は、君のその首輪だが」

「アー。もう成るから、最近神機ちゃんも我慢が出来なさそうだし、俺たちの命に別状はない威力だから」

「本当に、良いのだな? もしもの場合は……」

 

 言葉を濁らせるヴェルナー。

 俺は神機を、刻まれた文字を撫で、肩に担ぐ。

 

「『No way back "Im GOD EATER"』ってな。俺もコイツも、ゴッドイーターだ」

「そうか、君の意志を尊重する。なに、君たちなら大丈夫だ」

 

 きっと、根拠はないだろう。

 だが、俺とヴェルナーは顔を見合わせて強がりな笑顔を浮かべた。

 

 

 ◇

 

 

「アッ! そうだ、ヴェルナー、いやヴェルナーさん? ちょーっと人生経験の差で聞きたいことがあるんですけど……!」

「なんだろうか」

 

 別れ際、思い出したように俺は爆弾発言になろうが、自分のために人の傷跡だろうけど踏み込むことにした。

 ヴェルナーさんやさしいから多分許してくれますわ! 

 

「アノ! エーット!」

「?」

「──いろいろな目的のために婚約者であったイルダさんとォ、どうやって別れたんですか!」

「ブフゥッ!」

 

 普段は冷静沈着なヴェルナーが見たことない顔で噴き出した。

 

「な、君どこでそれを!? い、いや君が何でも知っているのは知っているが、個人の事情に詳しすぎではないか!?」

「頼むよォ! 教えてくれよォ!」

「質問が斜め方向に急すぎやしないか!? んおっ、服を掴むな!」

「お願いですゥ! 関係ない場所で相談できる男の人がアンタしかいないんですゥ!!」

「せめて理由を、理由を言わないか!」

 

 ヴェルナーもキャラ崩壊したし、俺もキャラ崩壊していることを承知でヴェルナーの服を掴んで懇願する。

 俺は今のままじゃオリーネさんに絆されそうでアレなんだよぉ! 覚悟の仕方でも教えてくださいよォ! 情けさ全開ですわ……。

 

 本日二度目のかくかくしかじかを使い、クリサンセマム内で色々あったことを伝える。

 まぁ、色々は色々だ。

 話している途中で、ヴェルナーは俺が女の子とイチャコラした欲を持っているが踏み切れない童貞臭さを感じたのかどんどん顔つきが微妙な感じになっていく。

 まぁそうよね、あんだけ格好つけた話をした直後に、実は僕揺れていますみたいな話をしたらそんな顔になりますわね……。

 

「まぁ、そうだな。私から言えることは……『答えてもいいんじゃないだろうか』だ」

「ええェ!? サッパリキッカリ恋愛なんぞのうつつを抜かしてる場合じゃないだろ阿呆がって背中を押してくれないんですかァ!」

 

 ふざけて居るわけではないが、てっきりキッパリ諦めなさいってぶった切られると思っていたのに。

 俺の答えに、憤怒の形相になったヴェルナーが怒鳴る。

 

「人のために身を砕き、神に身を捧げた君にそんなことを言えるわけがないだろう!」

「い、イヤァでもさぁ……。真面目な話に戻るが、俺ってそういう訳じゃん? 恋愛とかァ──」

 

──私はいつだって大真面目だ!! 

 

 なんだ!? 後ろにイルダの幻影が見えるぞ!? 

 ヴェルナーの顔に集中線が走っているように見えた。 

 

「その子は君が昔救った子だろう? ああ、いつか約束をしたと語っていた子だろう? ……いいじゃないか、君がその子に言ったんだ」

「???」

 

 ポン、とヴェルナーは肩に手を置いて一呼吸おいて言った。

 冷静な顔に戻っている。ただ、俺を見る瞳はやさしい雰囲気を醸し出していた。

 

「『人はな、幸せになるために生まれてくると思うんだよ』と、君が少女に言ったんだ。君は人間だ。君が思う、幸せを選びなさい」

 

 ヴェルナーが、小型の通信機を俺に手渡してくる。

 目を白黒させて、話を聞いていた俺はそれを受け取る。

 

「……だが、君にその子と添い遂げろと私は言わない。君の体の事情も知っているし、私自身がイルダと別れ、彼女だけを守る道を選ばなかったからだ」

 

 ヴェルナーは今度こそ背を向け、離れていく。大人の男の背中だった。

 

「君の幸せを選ぶんだ。その通信機は灰域内の特殊な回線を使っている。君が選んだ答えを私に伝えるだけなら、どこにも漏れないだろう」

 

 その背中を見送りながら、ガリガリと頭を搔く。

 結局、自分で選ばないといけないのか。

 ため息をついて、俺はトレーラーに乗り込む。

 

「そォだなァ……」

 

 ガタガタと揺れる悪路を行く。

 

「思い出してみるかァ、クリサンセマムでの日々を」

 

 蔑ろにしていた自分にとって何が幸せかを、目をそらさずに考えることにしたのだった。

 

 




「シリアスさせろ」
「っ……!!」
「シリアスさんっていつもそうですね! すぐに発狂させたり気を狂わせたり私たちをなんだと思ってるんですか!」

 GE小説は気を抜くと主人公が速攻で発狂したり悲しい過去を自語りし始めたりするので、何度か書き直してました。
 

 次回からアンケで取った回想の数話です。
 年内完結むりそうですねぇ……。

幕間書き順決め

  • 男のカードバトル イザナイのタイプは?
  • リカルドと家事をする話
  • 行商人とイザナイの話
  • オリーネ取材 イザナイの事どう思ってる
  • フィムと寝子とイザナイお昼寝
  • 初恋大作戦 オリーネおしゃれの巻
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。