【完結】ペニーウォートの怪物   作:唯のかえる

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幕間 2

 フィムが来る前、ルルが灰域踏破船に搭乗してきた頃の話だ。このクリサンセマムには取引実績の多さから本船への入退が自由に許可されている商人が二人いる。

 

 一人は定番商品をそろえることをモットーとする者。猫耳フードでだらりとリクライニングソファに腰掛ける胸元を大きく開けた女性。

 ──通称『行商人フェイス』

 

 もう一人はちょっと面白い商品を並べることをモットーとする者。たれ耳犬ヘルメットとライダースーツの前面を大きく開け、さらしで胸を固定した女性。

 ──通称『流浪の商人ホープ』

 

 深くは語られていないが、二人とも赤毛で似た顔つきなので姉妹のようだった。商品にかける情熱もどちらも同じように強い気高い商人たち。

 

 未来で『ハウンド』とも懇意に商売をする偉大な二人である。縁の下の力持ち、彼女たちがいなければアラガミとの戦闘継続が困難であった。

 これはそんな二人と、クリサンセマムで出会った時の話。

 

 

 ◇

 

 

 二人分の足音がクリサンセマムの廊下に響いている。

 一人は猫背気味で閉じてない口からギザギザ歯が覗き、黒いクマが特徴的なぐるぐる瞳の男。

 もう一人は銀髪長髪を頭頂でまとめボディラインが丸見えなぴっちりインナーをむき出しにした女性。

 イザナイとオリーネ、その二人が肩を並べて歩いていた。

 目的はこの先の灰域ビーコンでクリサンセマム所縁である馴染みの商人が乗船するということで歓迎と買い物のために二人で向かっているのだった。ほかの人が付いて行ってもおかしくない事例だが、『初恋応援キャンペーン』の一環なのでみんながニヤニヤしながら気を使っているのだ。

 

「ん。久しぶりに二人で歩く」

「ン? あー、そうかもなァ。二人だけで一緒にミッションをしていたのは俺が暴れ回る前くらいだもんな」

「たまに命令を無視してこっちに来てくれるのは嬉しかった。最近は寂しい」

 

 オリーネは戦闘にイザナイが参加していないことを少し不満に思っている様子。理由は頭では理解しているが、多少すねた様子だ。最近のペニーウォートでは、戦闘でしか顔を合わせていなかったので少しだけ繋がりが細くなった気がしているのだ。

 イザナイとオリーネはお互い甲判定AGEとして強敵に対して組まされるということが結構あった。組む頻度が高かったので、先輩ぶってオリーネに戦いのイロハを教えたりもしていたものだ。

 オリーネが感応現象で花畑を見ておよめさんにあこがれる契機になったあの日のように、二人で戦っていた日々。

 

 だが、イザナイはオリーネのそんな様子に首をかしげる。

 最近の戦闘チームはイザナイが基本ソロなの対し、オリーネは仲間と戦っていたからだ。この男、まったくもって何に対して寂しさを感じているのか理解できていない。

 

「寂しい? お前はユウゴとジークと一緒に戦ってるんじゃないのか?」

「それはそう」

 

 オリーネは自分の感情表現が希薄で口下手なのを理解している。イザナイが好意に対して割と朴念仁気味なのもわかってきているので、頑張って言葉を選びながら真っすぐに端的に伝えるように努力していた。

 

「イザナイがいないから」

「……頼りにしてくれてるねェ。だが、そろそろ俺離れしないとだめだぞ?」

「イヤ」

「ヒヒヒ、我儘なお姫様だねェ。まっ、俺は強いからなァー」

「そういう意味ではない」

「???」

「むう……」

 

 イザナイは横を歩くオリーネの肩をポンと叩いて笑った後、オリーネの言葉に内心首をかしげた。この頃はユウゴとオリーネは相思相愛なんだろうというバイアスもかかっていたからなおさらである。ついでにオリーネもそんな風に思われているとは思いつくわけもない。彼女的には毎日恋に気づいてアピールをしているからだ。

 

 違うそうではない。オリーネは自分の口下手さを呪った。

 ここでイザナイの唐変木と思わない辺り、恋は盲目といった所だろうか。ちなみに、この話を隠れながら聞いていたイルダとエイミーがもっと直接的に攻めていこうと提案したりもう周りが伝えた方が良いのでは? と思ったりするのだったが、ジークの『すでに親子作戦』というアホが考えたみたいな作戦で全てに終止符が打たれた。

 クリサンセマムの通路も長いとはいえそこまで長くはない。そんなこんなな会話をしているうちに目的の場所へとたどり着いてしまった。

 

「いらっしゃ~い♪ 今日は何が欲しいのかな?」

 

 扉を開け搬入口に当たる場所に来ると、パステルピンクの猫耳フードを被った女性がのんべんだらりと床に無造作に設置したリクライニングソファに背を深く預けてコチラに緩く手を振っていた。外部の人間のはずなのにまるで自宅のような寛ぎ具合は人の気など知らない家猫の様だ。定番商品をそろえることをモットーとしている商人、人呼んで『行商人フェイス』である。

 彼女はそのままリクライニングソファに身を深く沈めたまま、プラプラと片手を振り挨拶する。

 

「ヒヒヒ、リストだ。よろしく頼むぜ」

「ふむ、承ったよ。……待っている間暇だろう? 今取り扱っている商品のリストだ、眺めておくといい」

「あいあい、サンキュー」

 

 イザナイはそのまま近寄って、リカルドから頼まれていた資材リスト一覧の端末を渡す。

 手慣れた様子で端末を操作しながらフェイスは別な端末をイザナイに渡した。

 回復剤やアンプルなどゴッドイーターに必要な必需品をオリーネと共に眺め、必要なものを購入検討していく。

 

「そういえば、こんな話を聞いたね」

「ん」

「……ァン?」

 

 リストの確認をするために高速で上下に視線が動かすフェイスが、話題を出す。

 イザナイとオリーネは小さな端末に向かって顔を寄せ合って見ていたのを止めて顔を上げた。オリーネは少し残念がり、イザナイは予想以上に女の子の匂いがしていたので思考が若干オーバーフロー気味で話を聞けていない。

 

「ペニーウォートのAGEをクリサンセマムが保護したって。アンタらの事かい?」

「そう」

「へー、どおりで見ない顔だ。まぁクリサンセマムにいなかった手錠型腕輪をしてるからそうだとは思っていたけどね」

「……怖い?」

 

 AGEとはアラガミに近いとされるゴッドイーターだ。クリサンセマム内では手錠を外した状態で動かせてもらっているが、本来であれば腕輪での拘束が基本とされている。そう考えると、あまり深く知りもしないのに腕輪の拘束を禁止したクリサンセマムの人間はかなりの剛の者であった。

 外部の人間であるフェイスは言葉の意味を不思議そうに考えていていたが、クスリと笑った。

 

「ふふ、私は商人だからね。群れからはぐれたAGEにどう物を売りつけてやろうかとしか考えてないよ」

「……もしかして阿漕?」

「ハハ! 君たちのミナトほどじゃないさ!」

「ぐぅ」

 

 オリーネのぐぅの音が出てしまった。ペニーウォートは阿漕な商売で有名だからね、仕方ないね。そこまで話したフェイスがそういえばといった風に目を瞬かせる。

 

「そういえば、アレはいないのかい? ほら、アレ」

「?」

「ほら、『ペニーウォートの怪物』さ」

 

 オリーネとイザナイが顔を見合わせる。

 

「いやなに戦場に立つだけでアラガミが泣いて謝ったとか、ぐっとガッツポーズしただけでアラガミが結合崩壊したとか、神機を振っただけでハリケーンが起きたとか」

「イチ〇ー伝説じゃねェか……」

「……あとは、灰域種を討伐したとかね」

「それは本当」

「へぇ、これは本当なんだ~」

 

 面白そうにフェイスは頷く。イザナイに顔を見合わせたオリーネがどうするの? 正体を教えるの? とアイコンタクト。別に隠す事でもないと、イザナイはオリーネに頷く。

 

「ん。この人」

「……君が?」

「ヒヒヒ、そんなに胡散臭そうな目で見ないでくれよ」

「えーでもさ、誰にでも噛みつき暴れまわり暴言吐きまくりのやべー奴って聞いてたんだけどなぁ。戦闘力は折り紙付きだけど、性格が終わってるって聞いてた」

「……噛みついてやろうか?」

「結構。君の歯とげとげして痛そうだし」

 

 ニィと歯をむき出しにして歯を見せるイザナイに、ごめんだねとフェイスは肩をすくめる。その様子を見ていたオリーネはこんな風に軽口叩けたらいいなぁと羨ましそうに見ていた。

 そんなこんなな会話をしていると、横に合ったハッチが開く。

 

「フェイスー、搬入終了っ! 疲れたよーっと」

「はいはい、お疲れホープ」

「あー、またサボってる! 私に全部任せるんだから!」

「お客さんの対応中だからサボってませ~ん♪」

「っと、本当だ。今日も良いモノあるから見ていってよ!」

 

 今度は垂れた犬耳ヘルメットを着けたライダースーツの前面を大きく開け胸だけをさらしで固定した女性が飛び出してくる。蒸し暑いところで作業してたのか、整った顔や肌に珠玉の汗粒が浮かんでは流れている。やる気なさそうなフェイスとは違い活発そうな顔立ち。ちょっと面白い商品を並べることをモットーとしている商人。人呼んで『流浪の商人ホープ』である。

 さらしとかも汗を吸って湿っている感じ、イザナイはそっと視線を外した。

 GE世界女子の肌面積は広い。

 

「ってペニーウォートのAGE君たち? へー、へーへー?」

「ん、そう」

「ねぇねぇ本当に『怪物』っているの!?」

 

 元々が面白い商品を並べることをモットーにしているホープが気になるのも先ほどと同じような話題だった。

 イザナイは思った。このタイプの距離の詰め方はきっとえぐい。こいつはきっと陽キャだ。

 オリーネに視線を向ける。オリーネと視線が合う。

 伝えるのはやめようと軽く横に首を振る。

 それを見たオリーネは少し首を傾げた。

 

「ん。この人」

「実物!?」

 

 イザナイに指をさしてキメ顔でそう言った。

 ふんすっ、と親しい人ならぎりぎりわかる程度に自慢げだ。

 \バッドコミュニケーション!/ イザナイは項垂れた。

 案の定、ホープはイザナイにずいずいと近づいてくる。

 

「むむ。多少筋肉質だけど不健康的な感じ! もっとこう筋肉もりもりマッチョマンかと思ってた!」

「む、そんなことない。イザナイはすごい」

「ってことはあれ!? 神機を一振りでシユウを真っ二つにしたとか本当!?」

「ヒヒ、それは極東のクレイドル隊長だ! 俺なんかが騙るのは恐れ多いンだわ」

 

 ホープがものすごく近くに詰め寄ってくるので、イザナイは猫背気味の背を頑張って後ろに反らす。小型犬が人の周りでぐるぐる回って尻尾を振っているような感じだ。身長差が結構あるのに目の下あたりで活発に動くせいでライダースーツがぴらぴらして色々危うい。イザナイは鎖骨のまぶしさに目を焼かれた。

 

「後は一回のスイングで神機が三本に分裂するとか、ぐっとガッツポーズしただけでアラガミが結合崩壊したとか、現れただけでアラガミが素材を置いて立ち去ったとか!」

「……もしかして君らイチ〇ー伝説好きなのか? 全部フェイクだぞそれ……」

 

 圧に押され若干素が出てきたイザナイがちらりとフェイスのほうを見る。

 フェイスがやる気なさそうに欠伸をしてリストの乗っている端末の確認に戻っていた。

 どうやら彼女はホープをフリーで遊ばせているようだ。仕方がないとばかりにオリーネを見る。

 イザナイが困っている事は察することが出来たのか、ぐいっとイザナイの腕を引いて自分のほうに寄せた。その時にイザナイの脇腹あたりにやわらかい感覚が伝わってきて、ぐるぐる目玉もぐるぐるして脳内お嬢様と狂乱していた。

 

「私のだから」

「お? おっ? ハハーン、なるほどね! 君のだったかー」

 

 なので会話は聞こえていなかった。

 不敵なオリーネの宣言を聞き逃しているあたり、ダメダメである。

 

 いろいろとホープに色々と聞かれて、オリーネと一緒に話をしているとフェイスのほうも確認が終わったのかプラプラと手を振って話に参加してくる。

 最終的に『ペニーウォートの怪物』の噂話に尾ひれが付きまくってることが分かったイザナイはげっそりした。

 

 

 ◇

 

 

「想像と違ったね!」

「ねー。まぁ良い方に違ったから」

「なんだかへたくそな悪ぶり方で面白かったね!」

「それは私も思った。ヒヒヒって……途中からホープに押されて素が出てたし」

「後、女の子にめっちゃよわよわで可愛かったね」

「……わざとかワン子娘め。やめたげなよ」

「だったら助けてあげなよネコ娘?」

 

 イザナイとオリーネが去った後、フェイスとホープは話をする。

『ペニーウォートの怪物』のことを話す。

 イザナイのことを滅茶苦茶観察していたのか、ホープに詰められて動揺していたイザナイの内心などお見通しにされていた。

 

「ま、将来有望なんじゃない?」

「『怪物』? それともあの女の子のほう?」

「どっちも~」

 

 にやりと悪い笑みを浮かべてフェイスはイザナイとオリーネからはたんまり稼げそうだと思う。ホープはその様子をやれやれといった様子で見て肩をすくめた。

 

「……うん。私も長い付き合いになる気がしてるな!」

「ね~♪」

 

 くすりと二人で笑いあう。

 

 ──ハウンドとして未来で立ち上がるその後ろでは、いつだって行商人がいつも通り良い商品をそろえて帰りを待っているのだ。

 




 ホープは前面見開きでさらしのみとかすごい。
 あとフェイスのほうも北半球と太ももがまぶしい。
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