クリサンセマムでの夜の話だ。
男部屋の一角。
真剣な表情で一人の男が立ち上がった。
ダンッ! と音を立てて、部屋の中央にある机に勢いよく手を乗せる。
「イザナイ、勝負をしようぜ」
「……ヒヒ、ジークか。こうしてやり合うのも随分と久しぶりだなァ?」
いつになく真剣な表情のジークにそういわれ、肩を鳴らしながらイザナイは立ち上がる。
二人が対峙したその時、ゆらりと数人が立ち上がる。
「フッ、俺も混ぜてもらおうか……」
「ユウゴ? お前が勝てないとわかっている勝負に望むのは珍しいなァ」
「へっ、ジーク兄ちゃんに良いところ取られるわけにはいかないね」
「キースもか。……ヒャハハ! いいぜぇ、かかってきなァ!!」
一触即発の気配。
「「「「ドロォー!!!」」」」
そして全員で、目の前のトランプの山札からカードを引き、頭上に掲げた!!
――所謂インディアンポーカーである。
ベッドの上から胡乱気な表情でそれを見ていたお疲れ気味のリカルドは言った。
「……おじさん寝ていい?」
「リカルドはジークがイカサマしないように見張っててくれ!」
「ちょ、ユウゴ!」
「やれやれ」
かくして男たちの真剣勝負は始まりを告げたのだった!
◇
ここで軽くインディアンポーカーについて触れておこう。
インディアンポーカーとはトランプ一式を使ってやるゲームである。ハウスルールも含めるので解説をする。
遊び方は単純。まずはトランプと賭けるためのコインを各員20ずつ用意する。
山札から各々一枚カードを引き、自身が引いたカードの数字を見ないようにしてインディアンの羽飾りのように額に当てる。そして、周りの参加者にカードの数字が見えるようにする。
開始時に全員1枚のコインを賭ける。
相手の数字を見て自分の数字が勝てるかどうかを考え、勝てそうであれば掛け金を増やし、負けそうであれば勝負を降りる。ポーカーフェイスで相手に考えを読ませないようにしたり、挑発をして相手を勝負に引き込んだりする。
数字の強弱は2<3<4<……<Q<K<A<JOKERとする。
(場合によっては3から始まり、JOKERが3に負けたりする)
同数時の絵柄の強弱は♦<♣<♥<♠となる。
5回勝負を行い、最終的にコインを多く持っていたものの勝利となる。
「はい、みんなおじさんにコインを渡してくれよな」
リカルドがディーラーとしてコインを集める。
イザナイ♠K ジーク♣9 ユウゴ♦3 キース♦A
全員の手札が公開された瞬間、イザナイを除いたジークユウゴキースリカルドの視線が絡み合う。
(((分かっているよな?)))
イルダからの指令。
『初恋大作戦』イザナイの好みのタイプを聞き出すのだ!!
ジークはともかくユウゴとキースに関しては渋りそうなものだが、イザナイの思わず溢してしまった(と思っている)本音の夢を全力で支援するために無駄に気合いが入っていた。
「折角だ。負けたらなにか罰ゲームでもしないか?」
「生真面目ユウゴが珍しいな! まぁ緊張感が出るから俺は賛成だぜ!」
「ウンウン。そうこなくっちゃ」
「ほォ? ……まっいいぜ。何をするンだ?」
ユウゴが提案し、周りが乗る。普段そういうことを咎めるユウゴが提案したことにイザナイは一瞬いぶかしむが提案に乗る。
「そうだな……。それは勝利者が決めるとしよう。最近のジークは気が緩んでるから、灸を据えてやらないとな」
「俺かよ! 戦闘はしっかりやってるだろ!?」
「監獄から出られているとはいえ、最近弛みすぎなんだよ……」
「ハハハ……。俺はジーク兄ちゃんに勉強でもして貰おうかな」
「キースまで!? ぜってー負けないからな!」
「ヒヒヒ、それじゃァ始めるとするか!」
三人は内心でガッツポーズ。
上ではまるでみんなジークの敵のようだが、全部ブラフである。そして、ユウゴとジークの視線が数回キースの手札に走る。キースはごくりと息を飲む。
結託、談合。
イカサマを封じるためにリカルドをディーラーに置いたが、既にそれすらもミスディレクション。
ここにいる全員がイザナイの敵であった。
「いやァしかし……ヒヒ!」
「うん? どうしたイザナイ」
急に笑うイザナイに動揺するユウゴ。結託して陥れようとしているのがバレてないかヒヤヒヤしているのである。
そんな生真面目なユウゴにイザナイは目を細めて、心底嬉しそうにこう溢した。
「こうやってお前らと周りを気にせずに気軽に遊べる日が来るなんてなァ。俺はすっごく嬉しいぜ」
「「「……ッ」」」
「最近じゃ俺だけ違う独房だったから、こうしてお前らと遊ぶのも本当に久しぶり……か。ヒヒ、お前らがまだこんなに小さかった時にこの遊びも教えてやったんだっけなァ」
良心の呵責による胃痛が対面の三人を襲った。
対戦中の三人の顔に冷や汗が流れ、胃のあたりを押さえる。
「リカルドのおっさんも眠いところ悪いねェ。その……ありがとな」
「……ッ」
ついでといわんばかりにリカルドの涙腺も深刻なダメージを受ける。
クリサンセマムで子供達と家事をしているところを見るとイザナイの性根がわりと真っ直ぐで、それを怪物のロールプレイで隠してペニーウォートの子供達を守って居たことが既に分かっているからだ。そんな青年に素直に感謝の言葉を吐かれるだけで、緩くなって来ている涙腺にダメージが入るのだ。
空気が固まったとこに気がついたのかイザナイは首をかしげる。
「ン? どうしたお前ら」
「「「「別に何も……」」」」
どぉーすんのこれぇぇぇ! とイザナイを除いた全員が銀〇魂の登場人物達ばりの目元真っ暗な深刻な顔になっていた。
もちろんトランプのカードを頭にくっつけたままの若干間抜けな感じでだ。
一番最初に音をあげたのは恐らくイザナイに勝利している数字であろうためにチラチラ見られたキースだった。
「俺は、その。……お、降りようかな……」
「「!?」」
まさかの一抜けである。だが、ここでキースが勝ってしまえばこの気まずい空気から脱出出来そうな気がするジークとユウゴは必死だ。
「おいいぃ!? キースなにいってんのぉぉぉ!?」
「い、いけるいけるって! 諦めるなってキース! 頑張れってぇぇぇ!」
あまりの二人の剣幕に端から見ていたイザナイは不思議そうに頭の上に?を浮かべてその様子を見ている。
キースも必死な顔で顔をぶんぶんと横に振る。多分イザナイはイカサマされたと知っても怒らないだろう。人となりを知っているここのメンバーなら分かる。
だけど現状は怒ってくれた方が方がましな心境だ。こんな皆でいじめるようなやり方で勝ってイザナイが一人の時に、俺嫌われてるのかな……、と凹まれる方が嫌である。
イザナイの夢(思い込み)を後押しするための行動なのにそれでは本末転倒であった。
「俺は……、降りるッ!!!」
「??? まァ、それならそれでいいんだが……」
ドンッ! と後ろに効果音がついていそうな表情でキースは頭上のカードを下ろした。
イザナイは目をぱちくり瞬かせながら展開についていけていない。
キースは普段とは違う気障っぽさを感じさせる表情で言った。
「次の試合こそ真剣勝負。決着をつけましょう」
「ン? いや、多分5回勝負だよな? アレ?」
「キース……、そうだな」
「ヘヘ、ようは普通に勝てばいいんだよ!」
「ンー? ……ヒヒ、まぁ楽しもうぜ!」
その会話でようやく、ユウゴたちが何かを企んでいたのかを察する。
やれやれ、と仕方ないなとやはり笑顔を浮かべて許しながら勝負の続きをしていくのだった。
「な!? 俺の全額レイズに臆しないだと!?」
「いや、その手札じゃなァ……その、どんまい」
「妙なところで強気になるよなユウゴって……。現実じゃ成功してることが多いけどさ」
「ユウゴの仇は俺が打つぜ!」
次の勝負でキースの熱に当てられたユウゴが男気レイズでコインをすべて失い飛んだり。
「うおおおおお! 行くぜイザナイ、これが俺のカードだぁああ!!!」
「ヒャハハハ! うおおおおおおお!!!」
「俺も忘れないでよっと……!」
「クソッ! まだ俺も参加したかった……!」
「……やれやれ」
そんなこんなで夜は更けていく。
「……リカルド眠気とか平気か?」
「ああ。おじさんの目も覚めちゃったよ」
「ヒヒ、なら次参加しないか? 一緒に遊ぼうぜ」
「……はぁ、やれやれ。──おじさん、強いよ?」
「「「「相手にとって不足なしだ!」」」」
ペニーウォート魂を見せつけるためにリカルドVSその他になったりしたが、途中参加で最初から仕切り直しリカルドが全部勝利していった。
何でもできるリカルドはやはりカードバトルをさせても強かったようだ。
◇
「あー遊んだ遊んだ。やっぱこうして自由に遊べるっていいな!」
「だな。俺もかなり楽しめた」
「ユウゴは大体変なところで勝負に出て飛んでたけどね……」
「うるせぇ! いいんだよ、遊びで勝負の練習するくらいでな」
「ヒヒ、今日はさっさと寝ちまいな。明日もまた仕事だろ?」
「ああ。まぁでも、ちゃんとゆっくり休めるから大分……いや、かなりいい生活だ」
ユウゴがしみじみと言う。
ペニーウォートじゃ昼夜関係なく仕事に駆り出されていたから、今の環境は控えめに言って天国であった。
そういえば、と思い出したようにイザナイが言う。
「そういやァ、何か企んでたみたいだけど俺に何の罰ゲームを要求するつもりだったんだ?」
「あー、それかぁ」
どうする? と男たちが顔を見合わせる。
最終的な勝利者はリカルドであるが、さすがに疲れていたのか勝負が終わったらまた今度ねぇと言って本当に寝てしまったのだ。
まぁ言うだけ言って聞いてみるかと全員で頷く。
「あー、イザナイの好きな女のタイプとか?」
「……修学旅行の夜かァ?」
「しゅう、なんて?」
「あーまァそうだな」
特に言い淀むようなことでもなかったのでイザナイは答えるようだ。
「ま、普通の女の子だなァ」
「普通?」
どこか遠くを思い出すような目で、簡単に告げる。
「普通におしゃれをして」
──彼の求める普通、それは。
「普通に恋愛して」
──この世界でのどうしようもない特別で。
「普通に日々を暮らしている女の子とかかねェ」
──イザナイが心を通わせた仲間たちに味合わせたい生活の理想だった。
イザナイの言葉を聞いてその場の全員は思う。
(((普通の基準値が高い……! オリーネ、大丈夫か?)))
また全員が目元を真っ黒にして渋い顔をしていることに気が付かないイザナイであった。
タイプ不一致による全員の心配は恋愛弱者のイザナイに押せ押せのオリーネの恋愛パワーで何とかなるので心配ご無用なのだった。あくまでタイプはタイプだからね。
仕方ないったら仕方ないのだ。