「ええと……『フィムと寝子とイザナイお昼寝』だね」
「プロットを作っておいたのは?」
「……アンケートを作った直後のメモ帳にだね」
「もひとつ質問良いかな。 プロットと寝子どこに行った?」
「!」
「……すまん、どっか行った」
この話は『フィムとイザナイ、聞き耳神機ちゃん』になっております。
すまねぇすまねぇ……。
メモ帳の整理は丁寧にやらないととあれほど気を付けていたのに……。
夜も更けたある日の事だ。
すやすやと同じベッドでオリーネの腕の中、フィムが眠りについていた。
丑三つ時、起きている者は当番でアラガミを警戒してる人間くらいだろう。
そんな夜更けに──。
──♪。
ぴくん、とフィムが頭をあげた。眠気眼をぐしぐしと猫のように掻いて首をかしげる。人の何倍も優れた聴覚をしているこの子は人間の可聴域では察知不可避な音に気がついた様子。
少しうとうとしていたが、音が続いている事が分かると眠っているオリーネの腕からするりと抜け出して音の方へと歩みだした。
◇
とてとてととと。
軽い足音で好奇心旺盛なフィムが歩いてたどり着いたのは神機保管庫の前だった。
──♪~。
調子っぱずれな鼻歌はこの中から聞こえるようだ。
危ないから一人で入っちゃいけませんよ、とエイミーから言われているフィムだったが……。
「……おとうさん?」
声の主の正体に気が付き、イザナイがいるなら多分エイミーの言いつけも守れてるかも! とその場で頷いて、ゆっくりと扉を開いた。
歌が止む。
フィムが扉の隙間からひょっこり顔をのぞかせると、目の下に真っ黒いクマを作ったいつも通りのイザナイが児童本を片手に床に座り込み、開いた扉の方を見ていた。一瞬何事だろうと疑問そうな顔から一転、意外そうな人物の顔を見たために首を傾げる。
「ヒヒ、どうしたフィム。眠れねェのか?」
「おとうさん、お歌うたってた?」
「イザナイさんな。……アー、そういやあったな。そんな設定も」
「??」
イザナイは思い出す。フィムの耳が凄まじく優れており、船内でクレアのハミングを聞くとすっとんで来るというゲーム内での会話があったのだ。
「おとうさんって呼んじゃ、だめ?」
「……しょうがねェな。おいでフィム」
「えへへ、うん!」
イザナイはやれやれと頭を振ってから、ほれこっち来いと手招きをする。フィムは顔を華やがせ笑顔で室内へと入っていった。
「おとうさん、なにしてるの?」
「ンー、まァフィムならいいかねェ。こいつにお話を読んでやってたんだ。で、読み終わって朝まで手持無沙汰だから寝ないようにしてたのさ」
と言って親指で目の前に設置した神機を指さす。それはイザナイの神機だった。
フィムはイザナイの背後に回り、両肩に手を置いてイザナイの頭の上に顎を置いて神機を見る。
「お話?」
「ああ、うちの神機ちゃんが人を好きになれますように素敵なお話をたくさん聞かせてるんだ。この本だけじゃなく色々な」
「フィムも! フィムも素敵なお話、聞きたい!」
「ヒヒヒ……。興味出ちゃったかァ……」
頭の感触をくすぐったく思いながら、フィムの様子にもうひとお話ししないといけなさそうだとげんなりするイザナイ。
「クレアがね、言ってたの! フィムのおとうさんは色々なお話をしってるんだよって! ……あれ?」
なにかに思い至ったようにフィムが首をかしげる。
「ほかの皆も神機にお話ししてあげてるの?」
「俺の神機ちゃんは特別でねェ。神機ちゃんと約束してるんだ、多分俺だけだぞ。……皆には内緒だ」
「にひひ、わかった!」
「……うーん。まァいいか」
多分どっかでぽろっと漏らしそうだなと思いつつも、イザナイは息を吐く。おいで、とフィムを胡坐をかいてた自分の足の上に座らせる。そして本を持ち出した。
「文字、いっぱい」
「まぁまだ読めねェよな。……まずは挿絵を見せてやろう」
ふふん、と得意げにイザナイは色々なページの挿絵を見せる。
「わぁ、きれい!」
「だろォ? ヒヒヒ、こいつは俺の友達がくれたんだぜェ。俺の最高の宝物さ!」
フィムが見たことがないくらい上機嫌なイザナイ。豪奢な挿絵、たくさんの人たちそしてアラガミ。イザナイはそれをフィムに見せながら一つ一つゆっくりと解説していく。フィムも時折知っているもの、主にアラガミを見つけては知ってる! と手を上げてイザナイを見上げて笑う。
「どんな話かはそうだなァ。ヒヒッ!」
「うんうん!」
「文字が読めるようになったら……──ァ」
「おとうさん?」
本に夢中だったフィムが、楽しげだったのに急に反応がなくなったイザナイを不思議そうに見上げる。
──イザナイの目が何かを思い出すように閉じられていた。
◇
既視感、既視感。
イザナイの脳裏で古い思い出が蘇る。
フィムが言ったことイザナイが言ったこと、記憶のソイツらがまったく同じように言っていた。
『げ、英語いっぱいだな……』
『なんだ文字が読めないのか?』
『ぎりぎり読めるか読めないかくらいの難易度ぉ……ですかねぇ』
『へへへ、じゃあ挿絵を見せてやるよ!』
『俺たちもこの本で勉強したんだぜ』
自慢げに、得意げに。
幸せな記憶だ。
『わぁ、すげぇ!』
『だろ! これ、クレイドルの隊長がくれたんだぜ!』
『俺たちの最高の宝物なんだ!』
その思い出の最後。
それは確か。
『どんな話かは……』
『そうだなぁ……』
この世界に来たばかりの少年に、にやりと話をしていたチームを組んでいた二人、子供のAGEが顔を見合わせて笑った。
『『文字がちゃんと読めるようになってからのお楽しみだな!』』
もういない二人との形見の本にまつわる思い出の記憶。
◇
目を閉じたままイザナイは本を持っていない方の手で、不思議そうな表情のフィムを無言で胸に抱き寄せる。
「……おとうさん、寂しい?」
「バカ言え俺は『ペニーウォートの怪物』だぞ。ヒヒヒ、んな訳無いンだよ」
とくとくとく、心臓の音がフィムの耳に届く。そして、イザナイの胸の中からいっぱいの痛いがあふれていることに気が付く。フィムは悲しくなった。
「おとうさんが痛いとね。なんだかフィムの胸の奥もぎゅってなるの……」
「ハァ……。フィムには嘘がつけないなァ」
イザナイは本を置いて、フィムを両手で抱きしめる。思い出したのはこの世界での仲間との思い出。この本をくれたもう死んでしまった仲間の記憶。
その後に揺りかごのように、フィムを抱えながらゆっくりと左右に揺れる。フィムを落ち着かせるように、誰かさんの心のように、ゆっくりと揺れる。
フィム、聞いてくれるか。とイザナイは落ち着くために大きく呼吸を繰り返して声をかける。
「ヒヒ、フィムは不思議だなァ。……するりと胸の中に油断が入ってくる」
ぐずぐずと瞳に涙を滲ませるフィムはイザナイの胸に顔を押し付ける。それを嫌がりもせずにぬくもりを抱きしめる。
「仲良くなった人と二度と会えねェてのはなかなかきついもんだぜ」
「そうなの?」
「そォーなの」
「じゃあ、フィムは仲良くなった皆と、お別れしたくない……」
「そォかァ。それじゃァ、フィムは離れ離れにならないように大事なものはしっかり手を握っておけよ」
「うん……」
でもな、とイザナイはフィムを胸からはがして、フィムの顔を見ながら真剣に告げる。ぞっとするほど深く黒い渦巻きがフィムの赤い紅玉の瞳を捉える。
「いつか来る。その時は来る、かもしれない」
「やだなぁ……」
「ああ、嫌だ。だから……」
「だから?」
にっかりと、いつものギザギザの歯をむき出しにしてイザナイは笑う。フィムが感じていたイザナイの胸の痛みはどこかに隠れてしまってフィムには感じなくなってしまった。
「ヒヒヒ! 前を向け、今できることをやろう」
「今できること?」
「ああ、簡単さ!」
イザナイはむにゅっとフィムの柔らかいほっぺたを指で弄り、笑顔の形に変えてやる。フィムの悲しそうな顔は少しだけ笑顔の形をとる。
「とりあえず笑っとけ! 笑顔ってのはパワーだからなァ。二人で笑えば二倍パワーだぜ! ヒャハハハってな」
「に、にひひ! ……えへへ、じゃあみんなと笑う! フィムとおかあさんと、ユウゴとジークとえっとみんな! すごい?」
「すげェパワーだな。百万倍フルパワーだ」
「すごい!」
イザナイはすごいすごい、と同調しながら一人で笑顔になったフィムの顔から手を放して頭をなでる。アホ毛がゆらゆらとイザナイの目の前で揺れた。
「おとうさん、もう痛くない?」
「ァン? だから最初から痛くねェって。俺は『ペニーウォートの怪物』だからな!」
「むむむ? ……おとうさんは、どこにも行かないよね」
「さてなァ。フィムがいい子にしてたら考えてやろうかねェ!」
「フィム、良い子にする! あとね、あとね!」
にっかりと笑顔を取り戻したフィムが目を細めてイザナイに告げる。
「おかあさんがね、皆がおとうさんのこと好きだから遠くに行っても助けに行くって!」
「……」
「おとうさん?」
「ヒヒ、なんでもねェよ! あと、イザナイさんな」
「うん! イザナイおとうさん!」
「……まァ良いか」
グリグリとフィムの頭を強くなでて、ヒヒヒと嬉しそうに笑う。
「ヒヒヒ、今はフィムがぎゅってならないように楽しいことでもするか!」
「うん! フィム、楽しいこと好き!」
フィムとイザナイで、おー! と片腕を上にあげる。
そこで思い出したようにフィムは提案をする。
「おとうさん、お話聞きたい!」
「……ヒヒ、じゃあそうだなァ」
イザナイは思案気にちらりと神機を見て、話す内容を決めた。
「東の国の昔話でいいかァ? 日本って国のむかぁしむかしの話だ」
「うん!」
わぁと口を開いて目をキラキラさせてフィムはイザナイの話に耳を傾ける。
すでに夜は深く、静寂の中に包まれる中朗々とイザナイは語ったのは。
昔々、日出づる国の話だ。
そこには正直者や清貧の者を助ける狐が居た。
──名を、天日と言ったそうな。
東の狐の話だった。
その話の終わりは。
人を助けた狐はどこか遠くへ。
仲良くなった人たちの場所から新たに旅立ってしまう。
そんな終わりだった。
「寂しくなかったのかな?」
「さァ。新しく友達を作りに行ったんじゃァないか?」
「むむむー。でも、それなら寂しくないね!」
「ああ、そうだな」
別れる側はきっと寂しんだだろうな、とは決して言うことはなかった。
◇
神機はずっと聞いていた。
人が紡ぐ言の葉を、アラガミの少女が紡ぐ言の葉を。
『ああ、とっても美味しそう……』
素敵な話を何度も聞いた。
勇気あり慈愛を持つ人間が紡ぐ物語の数々。
中には人間じゃない怪物の話だっていくつもあった。
初めは何を聞かせるのだろうと思った。
この食欲に勝るものなどないのにと思った。
だけど、食べ終わる前に気が付いた。
わたくしが今まさに美しい話の渦中にいるのだと。
わたくしの相棒はそう言っているのだ。
『もっと
私たちのいない灰域の広がった世界の話も聞いた。
人と人を繋ぐ奇跡の話も聞いた。
その話も素敵だと思った。
でも。
これだけ美しい話なのだ。
参加権を失ってしまうなんてもったいない。
美味しい役を請け負いたいと思ってしまうのは、きっと──。
『……ああ、おなかがすきましたわ。がまんがまん』
──わたくしもゴッドイーターと呼ばれたいからでしょうか。
『彼を食べたら、最後まで見れませんからね』
うっそりと狐が笑った。
ふぃむねこいざないの話は、思い出せたらそのうち書こうと思います。
真面目に5か月前に組んだ話の内容とか思い出せなくて新しくせざる得なかった……。
次の話の『初恋大作戦 オリーネおしゃれの巻き』は本編に組み込ませて話を進めようと思ってます。よろしくお願いします。
3/7追記
暗い話になったので書き直しとリアルで引っ越しとかその他もろもろで忙しいので遅れてます。申し訳ない。