【完結】ペニーウォートの怪物   作:唯のかえる

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この話を書いて思ったのは、GE世界では下着が存在するのかどうか……。
あったとしても局部だけ隠すタイプばかりだろうな……。


第17話

 イザナイが帰還し、確保ォ! される前のクリサンセマム。しゅるしゅると布切れ音が女性船員室内で響く。

 

 全身鏡の前で、じっとりとした目付きになっているオリーネが簡素な下着姿のまま直立していた。

 

 日頃から戦闘に出て前線を張っているはずなのに傷の無い白磁の肌は、彼女の戦闘能力の高さを物語っている。出るところはしっかりと出て、しまるところはしまっている見事なSライン、かといって筋肉質でもなく女性らしい柔らかさを魅せる肢体。

 

 そんなプロポーションおばけのオリーネの横には大量の衣服の山。

 

 それらはすでに全て袖を通したものだった。

 目の前にはきゃっきゃっとたくさんの衣服をクローゼットから選出する女性陣。

 ヒクヒクとオリーネの目元が引き攣る。

 

「このシャツとかどうですか? あとはこれとこれとー」

「……多い」

 

 嬉々として服を渡してくるクレアに、面倒くさそうな雰囲気を隠さずに答え服を受けとるオリーネ。

 ハッキリと美人と言える、普段は戦闘服を着回すだけのお洒落意欲皆無のオリーネを色々な着せかえできる機会が来たのだ。女性陣の熱は止まらない。

 

「折角オリーネさんは素材が良いんだからもっと着飾っていいと思ってたんですよね!」

「聞いて欲しい」

「ほら、早く着てください! こっちはこう!」

「もうこれでいい」

「ほら、妥協しない!」

「イザナイさんにもっーと似合う服見せますよ!」

「……ぐぅ」

 

 金髪を楽しげに揺らしながらクレアが楽しげに虚ろな表情で突っ立っているオリーネに新たな服を渡していく。イザナイの名を出されしぶしぶ、ぐうの音を出しながら服に袖を通すオリーネだった。

 どうしてこんなに服があるのだろうか? 服とは嗜好品のはずなのに……。戦闘服が一張羅のオリーネの脳内にはいろんな疑問が溢れる。このご時世オラクル由来のガムテープでパッチワークのように手直しすることが大流行してる、というかしないと衣服が入手しづらいというのにだ。

 

 オリーネは知るよしもないが、裏でオーナーであるイルダがオリーネのために手を回していたり、行商人がイザナイを見ながら、だらだらにゃりーんとほくそ笑んだりしたようだ。

 ちなみにそのための素材集めはユウゴジークルルクレアが奔走したようです。

 

「それに、おしゃれの楽しさも知って貰いたいですからね! このスカートとかどうですか?」

「スカートは戦いにくい。足回りは重要」

「うーん、戦闘脳……」

 

 スカートを渡そうとするエイミーは、オリーネが着たタイトスカートを引き裂いて動きやすくする未来が見えた。少し迷って、差し出した手を引っ込めた。一枚一枚が高いからね。仕方ないね。

 

「うーん、じゃあショートパンツにしちゃいましょうか。……って足長いなぁ。ううーん、何を食べてたらこんな抜群のスタイルに……」

「クラッカーとか栄養補助スナック。ん、レーション」

「ええ……」

「そ、そんな……」

 

 話を聞いていたエイミーとクレアは白目をむいた。なんだそのレーションは出るとこを出していらんところを引っ込めるデトックス効果でもあるのか? グレイプニル所属+貴族出身であるクレアは少し考え、やっぱりおかしいと首を振った。単純にオリーネの体質だろう。

 

「しかし、元が良いと何を着ても似合うわね。どんな服が彼の好みかしら」

「それなら今までの服でいい。イザナイもよく視線を服に向けそうになって目が泳いでいる」

「それは目のやり場がなくて困っているだけでは……?」

「まぁ……、体に張り付いてボディライン丸見えの戦闘服だものね」

「? ユウゴもジークも気にしてない。イザナイだけ特別」

「……たぶんそれ、その二人の感覚が麻痺してるだけですよー」

 

 見方によっては全裸まがいなのは間違いない。

 クレア冷静なツッコミ。一番まともにふわふわと着飾ったファッションのエイミーは遠くを見る目をする。

 ユウゴとジークは小さい頃から同じ牢屋で暮らしてきているから、円滑な生活に困るしそういう目でオリーネを見ることはないと言うかそもそも見れなくなってしまっているのだった。お嫁さん志願の超強いマスコット動物扱いが一番近いまである。

 

 そんな中我関せずの様子で黙々と服を集めていたルルがいた。そして、オリーネの下へと持ってくる。

 

「似合うであろう服の組み合わせを、こちらである程度チョイスしておいた」

「! こういうのを待っていた」

 

 下着姿のままオリーネは縦にブンブン首を振った。表情こそ疲れ気味だが喜色の雰囲気が漂う。

 目の前にはオリーネに似合うようにセットされた頭から足までの複数のコーデがあった。

 

「ふっ、私も着せ替えてみたいところではあったが、他の人たちがやっていたからな。眼福だったぞ」

「?」

 

 こう言ったふうに着せ替えなどが好きなルル的には、他の人がやるオリーネ着せ替えタイムは自分がやらずとも満足のいく時間だったようだ。

 だが、それに黙っていないのは他で着せ替えしていたメンバー達である。

 その手があったか! と姦しく騒ぎ立てる。

 

「あーっ! ずるいですよ、私もそういう風にやります!」

「見たところボーイッシュ系ばかりね。ふふふ、セクシー路線でも見繕ってみましょうか」

「格式あるタイプの格好も似合うと思うんですよね。私に任せてください」

「……もうそろそろイザナイが帰ってくるから」

 

 その後ルルの協力によりごねる面々をなんとか諌め、ようやっとオリーネの戦闘服以外の私服。

 要はデート着が決められた。

 

 そんな楽しげな会話の最中、水がさされてしまう。

 キースによって見つかったイザナイの異常。

 

 そうして、とりあえずイザナイが帰ってきたら確保しなくてはならない、となったのであった。

 

 

 ◇

 

 

 時は進み、イザナイ確保後のクリサンセマム。

 執務室にイルダとルル、ペニーウォートのメンバーが集結していた。イザナイの緩やかなアラガミ化についてジークから皆は助けを求められ、当然のように頷いたのだ。クレアは一応グレイプニル所属という立場なので、万が一があってはいけないと外でリカルドと待機している。

 イルダはクリサンセマムを預かる身として悩まないと行けない立場であったが、そんな状態なのに灰域種の討伐に向かわせてしまった負い目、エイミーのメンタルケアまで頼んでしまったことを大きな借りと感じている。

 

 最終的に、イルダは救える手段があるなら救うという方向で舵を切った。

 

 以前ユウゴが叩き割った円卓は運び出され広々としている。*1その真ん中にユウゴとジークに挟まれたイザナイが居心地悪そうに立っている。

 そのイザナイの前の執務机でゲンドウポーズをして椅子に座るイルダ。そして、その横には心配そうに眉をひそめるオリーネ。さらにその横に、よく状況が分かっていなさそうなフィムの姿。不思議そうに皆を見上げている。

 

「さて、疑問は色々あるでしょうけど……。まずは灰域種『ヌァザ』の単独討伐見事だったわ。流石はハウンドの師ね」

「……ヒヒヒ、別に師って訳じゃァ無いがこんなモンだ。アンタの言ってた確かな実績ッてェのは残せたはずだぜ」

 

 その様にイルダに言葉を返すイザナイは、周囲のただならぬ様子のメンバーを見回す。

 

「でェ、だ。なんで俺をここに連れてきた?」

「あなたの体の診断結果が出たわ。……キース」

 

 緊張した面持ちで、キースが前に出てくる。

 イザナイは、キースが出てきた瞬間これやばくね? と冷や汗全開。

 ちらりと扉の方を見る。

 ルルが扉の前で仁王立ちしていた。対人最強の者が門番である。

 話しづらそうなキースを前に、イザナイは……開き直ることにした。

 

「イザナイさん、その……」

「俺の体、ってことは遂に分っちまったかァ? ヒヒヒ、俺の『ペニーウォートの怪物』の正体をよォ!」

 

 両手を広げて、キースにニヤリと笑う。

 そんな中、おもむろにオリーネが口を開いた。

 

「イザナイは……、アラガミ化していってるの?」

 

 か細い声で。

 迷子になった子供のように少し俯いた視線のまま。

 

「死んじゃうの……?」

 

 少しだけ震えている手を心配そうにフィムが握った。

 馬鹿笑いして、誤魔化してやるつもりだった。

 今まで大丈夫だったし、これからも大丈夫だぞと簡単に嘘をついてやるつもりだった。

 

 でもイザナイの喉から色々なごまかしの言葉が出そうになる。ただ、詰まったように言葉は外に出なかった。

 

「……」

 

 ガシガシと頭を強く掻いて逡巡、周囲を見回し……オリーネだけではなく全員が心配そうに見ていると分かると……。

 

「ハァ……、墓場まで持っていくつもりだったんだけどなァ」

 

 ため息をついて脱力。

 猫背が普段以上に項垂れる。

 

 ゆっくりと顔を上げた。

 いつも笑みを浮かべているイザナイの顔から笑みが消えた。

 

 底冷えした黒が渦巻く瞳が憂いを帯びた。

 その様子を、周囲の全員が見ているのだった。

 

 

 ◇

 

 

 お困りですわー。と、俺は脳内でもため息。

 そんな悲しいこととか少ない方が良いじゃん? 

 どうせなんともならないし、なんともするつもりがないんだからさ。

 みんなが心配そうに見てくるし、うーんどうしよう。

 ワクワクですわ! お披露目ですわ! 

 ちくしょう! 脳内お嬢様は役に立たないぜ! 

 

「いつからだ」

「ヒヒヒ、紅蓮灰域から帰ってきた頃には始まってたぜ」

「数年、前から……?」

 

 気がつかんかったやろ! と、顔の暗いユウゴの肩を叩いてやる。

 アカーン! もっと暗くなってしまった! 

 こう言う空気苦手なのによぉー!! 

 

「そもそもだ。灰域に俺は一度捨てられそうになったんだぞ?」

「……うん、腕輪の履歴データもみたよ。クリサンセマムに来る前、偏食因子の投与履歴が一部おかしかった」

「ヒヒ、捨てる奴に大事な資源を使うかァ?」

 

 みんな絶句してんよぉ。

 うおおおお、笑いの神でも降りてきてくれー! 

 そんなアラガミいないですわ。

 ちくしょう! 

 

「まァ、俺が『怪物』と呼ばれだしたの一つには間違いないはずだぜ。あの後から首輪に足枷に口輪だからなァ。ヒヒヒ、独房に鎖も使って縛り付けて、看守を絶対につける。何かあったらズドンバキューンてなァ」

「……なぜ処分されなかったの?」

 

 再び周りの子たちを見る。

 まぁ俺を殺すのがこいつらになるから暴れ散らしたのもあるし……。

 

「アンタに初めに契約を持ちかけた時に、あったろ」

 

 ニヤリと笑ってやる。

 

「全力を賭してミナトを襲ってやるッてなァ」

「俺たちと戦うつもりだったのかよ!」

 

 ジークが拳を握りながら、大声を出してくる。

 肩をすくめて答える。

 

「お前らに殺されるよりもはやく上層部から看守まで、全てをあの世にご招待してから、お行儀よくあいつらに殺されてやるってな。灰域踏破船もぜーんぶぶっ壊してやる、ミナトは穴あきチーズにしてやるぜ! ってな」

「……壮絶ね」

 

 前例のない特殊なアラガミ化のせいで、アラガミとなっても意識が残る可能性が捨てられない。そして、俺は戦闘力が他のAGEとは段違いだと言う戦闘履歴もあった。なんたって、当時不可能とされていた灰域種をぶっ殺して帰ってきていたわけだからな。そして、俺は確実にペニーウォートに対して怒りを持っているのが丸わかりだ。

 

「ンで、それでも強行で殺されないためにペニーウォートのために利益を上げ続けてやった。接触禁忌種だろうが感応種だろうが一人で殺しまくって、他のAGEの商品価値を保ってたんだから、金になる木を捨てきれねェ」

「以降、灰域種と戦闘が行われなかったの?」

 

 小型灰域種との戦いを思い出し、やるせなく首を振った。

 

「ま、アンタが気がついたように上層部は俺がチームで倒したと思ってる。俺を消したいならぶつけるのが得策に見える……が、だ」

 

 イルダを指差して、大真面目な顔で言ってやる。

 普段からまともなGEでは戦えないとされてる接触禁忌種とバリバリ戦って五体満足で帰ってくる奴に灰域種をぶつける。

 

「今度こそ本当に一人で俺が、灰域種を倒すとどうなる?」

 

 簡単な話ですわ。

 

「金になり、名声を産む。ヒヒヒ、外では怪しいと思われている『ペニーウォートの怪物』が虚像ではなく実像になる」

 

 怪物が世界の英雄に昇華される。グレイプニルが旧フェンリル本部を奪還したいという噂は昔から大いにあったのだ。どんな手を使っても手に入れたくなるだろ? 

 俺の解答にユウゴが顎に手を当てて言葉を出す。

 

「グレイプニルから監査がキツくなり、さらに金を産むはずのアラガミ化の進んだイザナイ自体が消されるのか……!」

「そういうことォー。ま、この辺は俺と上層部の利害の一致だな。どちらもよそに知れると消されちゃうってな」

「……それじゃ、イルダの作戦は」

「だから無駄だって言ってたわけだぜ」

 

 まぁそうなんですわ。無駄なんですよねぇ。

 ペニーウォートなしでは生きられない体になってしまいましたわ! 

 いや、おふざけ抜きにその水でしか生きれない魚みたいになって草なんだわ。

 

 ま、そもそも全部に決着をつけるつもりだったし、正直クリサンセマムを出た後はどうでも良いんだ。

 ……言うべきか? 

『朱の女王』につてがあるってことを言うか? 

 

 こいつらがアラガミ化を知ってしまったってことは、暴走する可能性もあるもんな。

 手綱を握ると言う意味で、伝えるのも良いかもしれない。

 

 どこまで伝えるか。

 協力を求めるか? 戦力は多い方がいいのだから。

 いや、その辺はヴェルナーパパであるエイブラハム・ガドリンが調整する予定だから俺が言う必要もない。

 フィム争奪戦編の手も既に打ってある。犬飼が動くのは規定ルートだ。

 旧フェンリル本部編も手を回してる。裏で『朱の女王』が暗躍するはずだ。

 こいつらの戦闘力も、俺と言う異物で原作よりも弱体化してなかったとか不安だったけど大丈夫そうだしな。

 

 ヴェルナーの言っていた巣立ちの時か。

 少し寂しいものはあるけどな。

 

 周りを見回す。

 みんな暗い顔をしている。

 そうだ。

 こんな俺みたいな奴の状況に暗い顔を出来る奴らなんだよ。

 

 完全に俺のエゴだけど危ないことに巻き込みたくないんだ。

 

 それに多分俺のそばにいたら。

 ……俺を完全に食べた時の神機ちゃんをコイツらが殺すだろうから。

 

 それは、とても悲しいから嫌だなぁ。

 

 もう蝶は、飛び立ったから。

 お前らはもう、普通に生活して生きていけるクリサンセマムで暮らせば良いんだ。

 

 終活完了ですわ! 

 脳内お嬢様も元気だしなー……。終活ってお前、いやそうだけどさ。

 

「振り出しに、戻ったのか」 

「それ以上ね。私が灰域種を倒させたせいで、悪化してるわ……なんてこと」

「……」

 

 うーん、会場の空気がお通夜モード。

 とりあえず、曖昧に微笑んどくぜ! 

 ジャパニーズスマイルですわ! 

 まぁ海外じゃよくわからない時に笑ってるから、不気味らしいけどね! 

 

 クリサンセマムに到着したら、お別れでええんやで。

 

「イザナイと二人だけで話がしたい」

 

 そんな風に思っていた時に。

 

 オリーネが、顔を上げて毅然と声をあげた。

 

*1
ちなみに弁償代はユウゴの討伐報酬から天引きされました。




 一応終わりまで書き上げました。
 まだ添削したいので、各日投稿で予定組んでます。
 あと残り3話ですね。

 構成が甘く辻褄が合わないところが見えても目をつぶって頂くか、暖かい目で見てもらえると幸いです。
 特にまだ最終話がすごく読みにくい……。

 追記。
 本日12:00に次話更新。
 各日は嘘になりました。
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