エンゲージの話をしよう。
『エンゲージ』
それは繋がる力。
本編で語られていたことといえば、AGEに与えられた他者と繋がる奇跡の力とユウゴが語るくらい。ゲーム的にいうと条件を満たすと発動する単純なバフ効果。
物語的には最終的にみんなと分け隔てなく心を交わす奇跡を生み出す現象だった。
まどろっこしいことを抜きにして、ここで必要な情報をあげる。
『エンゲージ』には『必ず自分以外の存在』が必要、と言うことだ。
ある時、イザナイは気がついた。
気がついたのはとあるアラガミとの戦闘後だ。
『感応種アラガミ』である。
ふと気がついたのだ。
──あれ、なんで神機ちゃん動いてるんだ? と。
本来、感応種アラガミとの戦闘は、ゴッドイーターや神機までその名の通り感応波を飛ばして干渉をしてくるので思う様に戦えないのだ。原作のGE2ではエミールというキャラクターが何故動かない! と取り乱しながら慌てて吹き飛ばされていた程。灰域種というもっとやばい奴が生まれ危険度が相対的に下がって見えるが、ヤバい敵なのである。
時間の経過、技術の進歩と考えてもいいが、原作的に考えるとなかなかおかしい。
であれば、感応種と戦える何か原因があるはず。
GE2ではブラッド隊の血の力という特殊な感応波を発生させ、相手からの干渉を打ち消さなくてはいけなかったはずだと思い出す。
仮にエンゲージが原因で感応種と戦えるということにしよう。だが、エンゲージは他人がいなくては発動しない。
であれば、感応種の感応波を打ち消すほどの、AGEの感応波は誰とエンゲージしている……?
感応種との戦闘時、イザナイ以外に人影はなかった。
だが、イザナイはこの場に二つの意志があることを知っている。
自分と神機だ。
神機に意思があるという事は、GEBの時代から証明されている。
つまり、AGEは無意識下に神機とエンゲージしている。
その感応波が感応種の干渉を防いでいると仮定した。
バースト状態という自分と神機の体内オラクルが励起しているタイミングだけだが、神機の意志の力を引き出すバーストアーツも一種のエンゲージであることが見えてくる。
エンゲージの推測を続ける。
次にGE2のとある力との類似性に気がつく。
それは、他者の力を引き出す『喚起』の力。
AGEでない普通のGEとも数分程度で一緒に戦っているだけで、エンゲージが可能な理由があるはず。
他の個体であるアラガミ(GE)に未接触で干渉している事実。
人型アラガミのフィムとさえ、エンゲージが可能な現実。
ブラッド隊の隊長の力『喚起』でさえ、普通のGEと何度もミッションをこなさなくては『ブラッドアーツ』に目覚めさせることは不可能だったのだ。
あの、自身の神機の意志を『喚起』させてブラッドレイジを発動させるブラッド隊長でも、である。
これら全ての推測から考察すると見えてくる。
──AGEはブラッド隊よりも他者への影響力が高いゴッドイーターの感応種である。
イザナイはこれを理解した後、自分の意志を伝える事に特化した感応現象をうまく使いこなせるようになった。
そして、最終的に。
自分が死にかけ、偏食因子が枯渇し。
表層に神機の意思が、最も近づいた時。
相棒である神機と『繋がった』。
◇
オリーネとイザナイだけ、執務室に残った。
他のみんなには外に出てもらった。
「ヒヒ、話って? ……とは流石に野暮か。お前には俺なんかよりいい人が見つかるさ」
頭を掻いてイザナイはオリーネと向き合った。
断りの言葉。
少し離れた距離から、オリーネはイザナイをまっすぐに見つめる。
いつもと違う服装。
イザナイに見てもらうためにみんなで考えた服装。
清楚な格好でオリーネは口を開いた。
「貴方が好きだ」
「悪いけど、断らせてもらう」
不器用に、まっすぐに。
一言伝えて、オリーネは一歩前に出る。
イザナイは困ったように一歩後ずさって断る。
「貴方が大好きだ」
「俺はやめておけ。お前は良い奴だし美人だし、嬉しく思うが俺じゃダメだろ」
「なんで?」
「そりゃァ、先がないからだ」
言葉をぶつける。
言葉を交わす。
一歩すすむ。
一歩さがる。
「先は作る」
「アラガミ化だ。覚悟をしてる」
「それは聞いた。でも私が諦める理由にはならない」
「……ヒヒ、普通諦めるぜ?」
一歩進む、下がる。
繰り返す。
大きいと言っても部屋だ。
イザナイが先に壁に背中をぶつける。
オリーネが進んでくる。
「じゃあ、私は普通じゃなくていい」
「……」
もう下がれないイザナイに、オリーネが向かってくる。
「……小さい頃、助けてくれた背中が好きだ」
「つまんなそうなガキが見過ごせなかっただけだ」
距離が縮まる。
「いつも不敵に笑ってた横顔が好き」
「……引き攣ってただけだ、いつも怖がってた」
歩みが止まる。
「私の知らない貴方が見つかるたびに、胸がぽかぽかするんだ。……幸せなんだ」
「……重症だぜ」
後一歩。
踏み出せば、お互いが触れ合う距離。
「貴方を愛しています」
「……」
ぽたり。
雫が一粒落ちる。
「もう一人で頑張らなくて大丈夫。私にも貴方を守らせて? いいえ、守る」
イザナイは上を向いていた。
顔を抑えるように、天井を見ていた。
「私も一緒にペニーウォートに帰る」
「──ッ! バカが!! 何言ってるのかわかってんのかテメェ!!!」
少し瞳を潤ませたイザナイが近づいてきてたオリーネの胸ぐらを掴む。イザナイのお膳立てした事を無に返す行為。イザナイとしては絶対に阻止したい事。この天国のような環境からあんなところに自分を慕ってくれる子を戻すような事は決してしたくない。
巣立ちの時だと、誰かが言った。
放たれた猟犬は自分で狩りができるほど大きくなった。
であれば。
──帰る場所だって自分で選べるようになった。
そういうことだ。
「分かっ、てる!!!」
「ぐ、おっ!?」
オリーネが捕まれた胸ぐらのイザナイの腕を握り返し、後ろに強く引く!
体勢を崩し、前につんのめるイザナイの下に潜り込み、イザナイの腹を蹴り上げながら、そのまま宙を一回転させながら執務室の床に投げ飛ばす!!
巴投げだ!!
二人で、仲良く執務室の地面に転がりながら。
言葉を綴る。
「……貴方が想像したことは全部貴方に降り注ぐ」
「イッテェ……」
「だから、貴方を守るためについていく。それに、まだ色々隠してるよねイザナイは」
「……なんでそう思う?」
オリーネが先に立ち上がりながら、ひっくり返ったイザナイの顔を覗く。
「わかるよ。大好きだから」
「……ハァ」
イザナイはオリーネの顔を見つめながら呟いた。
「……重いぞ」
「大事な人を思うんだ。重いよ」
「遠くにいっちまうぞ?」
「帰ってくればいい」
「……戻って来れない」
「迎えにいく」
「……………………俺の負けだ」
よっこらせ、と。
イザナイは立ち上がる。
「アー、そのォ。なんだ、ペニーウォートには来なくていい」
「……まだ投げられたりない?」
「馬鹿言え、結構効いたぞ。……ヒヒヒ。強くなったな、オリーネ」
「分かってくれるまで貴方はその強さを体感することになる」
手をワキワキさせながらジリジリとにじり寄るオリーネに、イザナイはその場から飛び退いた。
「やめろ。いや、マジでやめろ。掴むな!? 話すからァ!」
「こんな必死なイザナイは見たことがない、胸がぽかぽかする」
「MA☆TTE!! 俺もこんなに喋るオリーネは初めて見たぜェ……」
「ん、頑張った。腹を割ってよかった」
「それ俺の腹も物理的に割ろうとしてない!? ソーシャルディスタンス!! 近づいてくるなァ!」
ドタドタとゴッドイーターの身体能力を使って執務室を逃げ回る。
ちょうど執務室の扉が開く。ずっどんばっごんとすごい音がしたら流石に二人っきりで大丈夫か確認するからね、仕方ないね。
「……何があったの?」
「ん、話した」
「ゼェゼェ……、肉体言語もな……。アー、オーナー。ペニーウォートのメンツとアンタ……とフィムだけをこの部屋に集めてくれ」
戦々恐々するイルダが扉から恐る恐る顔を覗かせた。
イザナイの腕を捕まえて、オリーネは満足げに言葉少なに話す。
その後に、イザナイが疲れた顔で人を集めてくれと頼んだ。
今後のイザナイがこの数年かけて飛ばした蝶の羽ばたき。
その話をしよう。
脳内お嬢様はニコニコ楽しげにその様子を感じていた。
イルダが、四肢折れてない生きてる平気大丈夫、と指差し確認してからもう一度外に出た。
そして、再び二人だけの空間ができる。
イザナイは頭を少し掻いた後、自分の懐に手を伸ばした。
「オリーネ」
「ん」
「アー……その、左手出せ」
オリーネは首を傾げながら、素直に左手をイザナイの前に差し出す。
それをイザナイは確認し、逡巡しながら……ええい! と勢いよくソレを取り出した。
オリーネの左の薬指に、戦闘帰りに拾った指輪が通る。
そして、ストン……と指の付け根の方まで落ちていった。
「げっ!?」
「……」
リングのサイズがあっていなかった。
オリーネがパチパチと瞬き。
しばらく、イザナイと指輪に視線を行き来させ……。
左手を右手で包むようにして、自身の胸に運んで──はんなりと微笑んだ。
そのオリーネの肩を両手で掴み、イザナイは向き合う。
ずっと、目を逸らしていたことと向き合う。
「……その、サイズ合ってなくて悪い。えっと、その石はムーンストーンで、確か石言葉は健康とかそんなだったか? あーでも、そのオリーネの髪とマッチしてていいと思うってその服装もすごい似合ってるしその!」
「ん」
すごい早口をやめる。
「今日は、ありがとう。ヒヒ、俺も好きになっちまったみたいだ」
「……ん」
言葉を選んで、溜め。
目を見て、言葉を伝えた。
「俺のお嫁さんになってくれるか、オリーネ」
「──はい、喜んで」
瞬間、執務室の扉からたくさんの指笛と拍手が届く!
ジークとキースが指笛を吹き、ユウゴとイルダが歓声を上げながら拍手。先ほどイザナイが呼んだ人たちだけだったが、確かに祝福の喝采をあげていた。
全員に聞かれていたことに気がつき、絶句したイザナイと頬を染めたオリーネにフィムがゆっくりと近づいてくる。
「イザナイおとうさん、嬉しい? みんなで、応援してたんだよ?」
「……たくッ、しょうがない我が子だ。ヒヒヒ、ありがとな」
「! うん! フィムもね、うれしい! ひひひっ!」
とてもいい笑顔を浮かべたフィムを抱き上げてイザナイは、やれやれと呟くのだった。
◇
話をした。
これから、イザナイがどう行動するのか。
どういう風に行動をしてきたのかを。
賛否両論だった。
それでも。
イザナイの行動を、誰も止められなかった。
なぜなら。
「手伝ってくれるか、お前たち」
一人で勝手に前に行ってしまう背中をずっと追いかけた人。
そんな人に、初めて本音で『夢』を語られた。
手伝ってくれ。ずっと待っていた言葉を言われた。
「──灰域を無くすのさ」
かつて、オリーネだけに聞かせた事がある他愛ない話。
原作でも起きなかった、イザナイがずっと目的にして行動していた事。
そして、イザナイのアラガミ化すら組み込んでいるその作戦。
『灰域なら全部食べてやるよ』
『全部知っている俺だけが唯一可能な方法とタイミングがあるんだ』
オリーネが意識を失った時に少しだけ思い出した約束。
『俺は偉大になれる可能性があるゴッドイーターだからな』
その続きの言葉は。
『全部終わったら、お前らを普通に暮らせるようにしてやるからな!』
笑いながら、そう『約束』したのだ。
◇
皆を乗せた灰域踏破船はクリサンセマムのミナトに到着した。
その後、イザナイとの約束通りとんとん拍子でペニーウォートのメンバーはクリサンセマムへと所属が移行する事ができた。
ペニーウォートの灰域踏破船が去っていく。
それを見送るハウンド達。
イザナイの姿はそこにない。
数日後、クリサンセマムに報が届く。
ペニーウォートの灰域踏破船が『朱の女王』によって襲撃された。
『ペニーウォートの怪物』が逃走。
その際、首輪にて処理が行われた、と。
『ペニーウォートの怪物』は死んだとされた。
クリサンセマムの面々はその報を聞き。
全てが始まったと、行動を開始する。
少女の胸元で、チェーンで吊られた指輪がキラリと輝いた。
イザナイの訃報後、彼の語った通り『人型アラガミ争奪』が起こり、順当にハウンド達は活躍した。
その後、クレアも精神的に覚醒。イザナイの作戦を知る。
限界灰域にある『旧フェンリル本部』を取り戻す戦いが起こる。
灰域種『アヌビス』を討伐。
『旧フェンリル本部』を人類の手に取り戻す。
『クリサンセマムの鬼神』と、そう呼ばれる少女が生まれた。
流れるように、『朱の女王』勢力が各地で活発化。
欧州全体で、争いが始まる。
グレイプニル派閥と朱の女王派閥が生まれ、クリサンセマムも渦中に巻き込まれていく。
ミナト『バラン』が朱の女王側に付き、一度戦線が大きく揺れ……。
ミナト『バラン』が朱の女王を裏切り、グレイプニルについた。
戦火がより広がる。
そう思われた。
──その時、朱の女王とグレイプニルが手を組み、ミナト『バラン』を強襲するのだった。
全てが終わった後、この抗争でのAGE共にGEの死人はほとんどいなかったことが判明したそうだ。
次話4月4日 0時更新