【完結】ペニーウォートの怪物   作:唯のかえる

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第7話

「イザナイ、話があるわ。フィム、お父さんを少し借りるわよ」

「……うん」

「ヒヒ、イルダか」

 

 元気のなさそうなフィムと、地べたに座り込んで手錠を付けたまま器用に神機の整備をしていたイザナイ。そんな二人にイルダが声をかけた。

 イルダは元気がなさそうなフィムの前にしゃがんで視線を合わせる。イザナイはイルダから目をそらした。胸元全開な服なのだ。しゃがんだら、それはもうすごかったのだ。北半球勢は格が違った。

 そんなそっぽを向いたイザナイの行動を先ほどの件で気まずいんだろうなと苦笑いしながら、イルダはフィムに話しかけた。

 

「フィム、みんなでお父さんを助ける作戦を考えたのよ」

「!」

「お母さんと一緒に待っててね」

「ユウゴとおとうさん、なかなおりできる……?」

「ええ! 心配だったら、後で皆で仲直りのお菓子パーティしましょう。エイミーにおいしいケーキ作ってもらってね?」

 

 ウインク。イルダは立ち上がった。ばるんばるんだった。イザナイは神機整備に集中した。

 

「わぁ……! うん! おとうさんもいっしょ! またあとでね!」

「フフ、後でいっぱい用意をするわ」

 

 フィムは、元気を取り戻した! そして神機保管庫から飛び出していく。

 見届けたイルダは、そっぽを向いたイザナイの背中に話しかける。

 

「さて、良いかしら」

「ヒヒ残念だけど、俺は今忙しくてねェ。神機の整備はゴッドイーターにとって一番大事な作業なんだよ」

「あら、そうなの? クリサンセマムに乗船してから毎日整備していて、拭く以外に必要はないとキースに聞いているけど」

「……」

「なぜか手錠までしなおして、出来ることも限られてるでしょう? それと、この船では手錠は外してもらうわ。それが私の決めたルールよ」

 

 ぴたりと、イザナイの手が止まった。

 そして、大きくため息。

 

「ヒヒヒ悪いけどさァ、俺をペニーウォートから奪うことにクリサンセマムには利益がないはずだぜ」

 

 手錠をしているのに神機を器用に保管しなおし、片付ける。

 イザナイは初めてイルダと対峙した時のような歯を見せつけるような笑みを浮かべて、ようやく振り返った。

 

「連中は意地汚いし、恨みを買ったら下劣な執念深さで面倒ごとが山ほど来るだろうぜ。ミナトのほうにもクソな嫌がらせがわんさか行われるはずだろうなァ」

「ええ、そうね」

「それに、もうアイツらが。ハウンドがいるだろ、『ペニーウォートの怪物』の力も必要ないだろォ?」

「……ええ、彼らは灰域種アラガミを実際に討伐した。人類最大の快挙よ。戦力としては過剰なくらいよ」

 

 大体身長が同じくらいの視線が交わる。猫背気味なイザナイのほうが少し低いくらいか。

 

「じゃあ、この話はもう終わりだろ。アンタはクリサンセマムでハウンドを使う。俺はペニーウォートで戦い続ける」

「死ぬまで?」

「俺は死なねぇよ! ヒヒヒ、俺にはやることがあるからなァ!」

「それは──」 

 

 イルダは少し溜めた。

 

「──初恋かしら」

「???」

 

 イザナイの顔が呆けた。思考が一切追いついていない様子。

 え、なに初恋? え、急になにそれ? 初恋ってどういうことですの!? と頭の中で疑問列車暴走特急中である。イザナイ的にまじめな話をしてたと思ったらちくわ大明神が踊りながら走り抜けていったくらいの意味わからない回答だった。

 

「その呆け具合、やはり図星かしら」

「??? ハッ! まさかエイミー!?」

 

 イルダは思った。よし、手ごたえありね! と。

 単純にイザナイは訳わからん過ぎて思考がオーバーフローしただけである。でもイルダからしたら、誰も知らないであろう図星を当てられて、なぜそれを知っているんだ的なニュアンスで呆けて、船で唯一話しただろうエイミーからのリークされたみたいな感じにしか見えないからね、仕方ないね。

 

「ちょ、ちょっとまって。真面目な話に戻っていいか? それに初恋ってそれは初恋ジュ──」

──私はいつだって大真面目よ!!

 

 押し切れ、私!! イルダは心の中で気合を入れた。集中線に囲まれてるようなイルダの剣幕に、イザナイはいつものロールプレイがついていかない!

 

「貴方の事を想ってる子だっているわ! オリーネにちゃんと返事をしたの!?」

「え、あ、あのその、きっぱり断って……」

「それは、貴方がペニーウォートに戻るとすべてを諦めていた時の回答でしょう!!」

「え、は、はぁ、でもぉ、俺なんかが」

「シャンとしなさい!」

「は、ハイ!!」

 

 今更だがこの男、常々いちゃいちゃしたいと思っていながら恋愛関係の話に対して初心である。悲しいかな、そういう経験は人生で一度もなかったのである。

 

「……子供のころからずっと戦い続けて、仲間を守り続けてきた。今度は、貴方が守られる番なの」

「い、いや、俺だって色々と考えて、選んできてるんだ! 謎の勢いで押し切ろうとしてるところ、そうはいかないからな!」

 

 くっ、気が付いてしまったか!? イルダは臍を噛む。だが、カッ! とイルダは目を見開いた。私はミナトのオーナー! 子供のころからのAGEくらい守って見せる! とさらなる勢いで攻め立てる!! 

 

「限られた状況下の自由がない世界で考え続ける事に、選択肢はほとんどないッ! 貴方の選択は、常に極限状態だわ! それは選択と呼ばない、常に細い希望を掴もうとすることは選択ではない!!」

「急に正論を叩きつけてきた!? 大体ワンチャンな一択しかないけどォ!」

 

 よし、素が見えてきたわね! このままごり押しよ! イルダはこのままイザナイが苦手そうだった話題の初恋のほうに舵を切る事にする。

 

「仲間の大事な女の子が貴方を好きって言い続けてるの」

「え、あ、はい……」

「逆に、貴方が好きな子がそんなことをしたら、絶対に傷つくでしょう?」

「……まぁ」

「じゃあ、ちゃんと返事を返さなきゃね」

「…………ああ、分かったよ。ええと、でもなァ」

 

 どうしてこうなった、というか何の話をしてるんだ俺は、と頭を掻こうとするイザナイだったが手錠をしてた。かゆい所に手が届かないことで、思考に隙が生まれる。

 イルダはその隙を見逃さなかった。キラリとモノクルが光る。

 

「よし、じゃあ今後の流れを説明するわよ。簡単に言うと、ペニーウォートを解体に追い込むの」

「え?」

「ペニーウォートは灰域航行法を違反しているわ。前回の灰嵐時に一度犯し、それよりも以前に大きな過失があったならグレイプニルも動かずにはいられない。ミナトの解体は免れない。ペニーウォートの資産である貴方も、グレイプニルに徴収されるはずだわ」

 

 少なくとも、ペニーウォートよりもまともな扱いが受けられるでしょう。と一回置いておく。だが、イザナイもようやくペースが戻ってきたのか反論をする。

 

「ヒヒ待てよ。そんなの『怪物』がクリサンセマムに乗ってたんだ。そこから情報がリークされたとすぐバレて、クリサンセマムが奴らの目の敵にされるに決まってんだろうが!」

 

 それは、彼の知る原作になかった展開だ。今後、クリサンセマムはグレイプニルと対立することだってある。そんなときに、第三勢力として足を引っ張られたりしたら元も子もないのだ。

 

「やっぱり、貴方は『怪物』なんかじゃない」

「なんだと?」

 

 イルダは、イザナイの両肩に手を置いた。

『ペニーウォートの怪物』の真相を話す。

 

「その名がついた理由はAGE管理番号PW-01381、PW-01389の子たちが小型灰域種に捕食され、その後にバースト状態の小型灰域種を討伐したこと。そして、杜撰な考えの元で貴方の商品価値を高めるために、今うちにいるルルの様に情報が抹消され、そのまま回復処置が行われずに処理された。最後に貴方は、助けたはずの二人が死んでいてミナト内で暴動を起こした。……違うかしら?」

 

 確信をもって、クマの消えない真っ暗な瞳をジッと見つめる。

 

「……」

「……」

 

 無言の間。先に目をそらしたのは、イザナイだった。

 イザナイは諦めたように肩をすくめた。

 

「はー、勝手にそこまで調べるんだからなァ。……単独討伐じゃなくて、失望したかい?」

「まさか! バーストしてるアラガミを相手に二人守り切って、ちゃんと倒してミナトに帰還したのでしょう? 情報偽装してグレイプニルへ提出したため、発覚することを恐れて暴動時に処理されなかった。ネームバリューにしたAGEがミナト内で死ぬのはあまりにも不自然だものね」

 

 イザナイは、目を伏せよ……、やっぱり空を仰ぐ。少し、赤面していた。まるで、恥ずかしがっているみたいだ。

 

「そして、死んでしまえとどんな困難を押し付けられても、全て跳ね返してきた。貴方は『怪物』なんかじゃない」

「あ、そォ。とりあえず離れてくれ」

 

 イルダは両腕を振り払われる。イザナイは、そのままイルダの背のほうにある神機保管室の扉から出ていこうとした。イルダは声をかけ続けた。

 

「信じてほしい。私たちは悪意なんか跳ね除けられる。グレイプニルからだって、いつの日か貴方の身柄の権利を手に入れて見せる!」

「……皆、色々考えてるんだよなァ。まぁそうだよな、コレが蝶の羽ばたきなのかねぇ……」

「?」

 

 独り言を言いながら、扉の前まで歩く。

 出ていく前に、イザナイは立ち止まった。

 振り返らずに、一言。

 

「ま、その時が本当に来ればだが……。そんときゃよろしく、未来のオーナー」

 

 扉を開けて、イザナイは外に歩いて行く。

 イルダはクスリと笑ってそれを見送るのだった。

 

 

「あっ、そうだわ。健康診断、ちゃんと受けてもらうわよ!」

──脱兎!

 

 

 イザナイは逃げ出した。

 この後、灰域踏破船をめぐる盛大なかくれんぼが始まるのだが……。

 それは、また別なお話。

 

 




アンケ中途結果でまぁそうよねって笑いました。
アンケは今回で締め切りです。
ちなみに、小型灰域種はオウガテイル型を想定してます。
私の一番トラウマなアラガミだからです。

アラガミが現れた! なお、灰域踏破船の目の前

  • アラガミ化か! 異常個体スサノオ
  • 捕食しすぎた! 神速種ハンニバル
  • こんな場所で! 全力感応マルドゥーク
  • 悪夢だ……! 絶体絶命マガツキュウビ
  • 親方空から! 進行妨害ツクヨミさん
  • えっちやん! 素敵に美人ヴィーナスちゃん
  • ぼいんぼいん ばるんばるんアマテラス様!
  • マスター 灰域種を一つ
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