捕まって拘束させられて採血やら腕輪やらを検査される。ベッドに縛り付けられて、猿轡までされてイザナイの気分は芋虫である。うねうねしかないんですわ! とか心内で嘆きながら暴れている。特に採血のための注射を向けられたときの抵抗が凄かった。
暴れるイザナイをその場にいた全員、フィムまで押さえつける事態に発展したのだ。
「大人しくしろイザナイ!」
「むーむー!!」
「足をオリーネにへし折られるぞ!」
「はんへ!?!?」
「おらないよ」
「クレア! 今だ!」
「ハイッ!」
「ッむー!!!!!」
終わった後は傷心したようシクシク泣きながら、おとなしくなってしまった。つらいですわ……と悲しそうな表情である。
採血後、色々な機械を使ってイザナイの体を調べていく。数値が出ていくうちに診断していたクレアの顔色が変わっていった。
「あの、この人本当に人間ですよね……?」
「どういうことだクレア?」
「い、いえ。数値が……! ちょっと詳しく説明をしますね!!」
興奮しているのか、クレアは手に汗を握りながら説明を開始する。
「まず皆さんは神機の事をどの程度理解していますか?」
「ゴッドイーターしか使えないアラガミに唯一対抗できる、ぶっ殺して食う兵器!」
ジークが手を上げて解を返す。
その言葉にキースなどの技術者や知識人は首を横に振った。
「間違ってはないですね。ゴッドイーターしか使えない理由は分かりますね?」
「んあー。あれじゃね? 重いとか? あー、後捕食機能も使えないか、腕輪で操作しないといけないし、後重いとかデカくて使いづらいとか!」
「ジーク兄ちゃん、ちょっと黙ってて」
「ヘイ……」
ジークが弟のキースに強めに静かにしてくれと言われガチ凹みした。ちなみにユウゴとオリーネも少し目線を逸らして冷や汗をかいていた。ペニーウォートじゃ戦闘用のAGEにそんなこと教えてくれないから仕方ないね。ルルは横目でその様子に気が付いていたが、特に触れないことにした。
クレアは近くにあったホワイトボードを持ってきて、解説をする。
「そもそも神機は人為的に調整されたコアを持つアラガミそのものなんです。だから、ゴッドイーターは自分の偏食因子を媒介にして、腕輪を通じて操ることが出来るんですね。一般人が持ったらそれこそ捕食されちゃうんですよ」
きゅっきゅっきゅと、人+腕輪+神機のゴッドイーターをデフォルメした絵をてきぱきホワイトボードに描いていく。少し退屈そうにしていたフィムがぱぁと顔をほころばせる。
「理論上だとゴッドイーターの全てはアラガミ化してると言っていいんです。制御されたアラガミ化を起こした人間を神機使い『ゴッドイーター』と言っているにすぎません。そして各神機と各ゴッドイーターには適合率の相性があります。適合率が高いほど神機の力を引き出せるんです!」
めらめらーと、ゴッドイーターの絵を囲むように炎のような描写。へー、とジークが感嘆。
「逆に適合していない神機を持ったり、何らかの理由でオラクル細胞の制御を失ったゴッドイーターは完全なアラガミに変異します。コレが、アラガミ化ですね」
先ほどの絵から長めに矢印が引かれその先に、デフォルメされたヴァジュラくんが描かれた。フィムがにっこにこ!
「それでですね……!」
「……私達AGEはアラガミに近いって言われてる」
「ああ、それは俺たちに投与されている偏食因子のせい……だよな?」
そういえば、とオリーネが疑問に思ったのか質問をする。
ユウゴ、自信なさげである。ジークがニヤニヤ。うるせぇ、お前もわかってないだろと軽く小突かれた。
クレアは一度口を止めて、ホワイトボードのゴッドイーターとアラガミをつなぐ矢印の真ん中にAGEと書き加える。
「ああ、それはP73-c偏食因子。コレを投与すると従来のゴッドイーターより極めて高い感応能力および身体能力を手に入れることが出来ます」
「なぁー、その俺たちの偏食因子の普通のと違う所は、灰域に入りやすくなったり、バーストアーツとエンゲージできるだけじゃないのか?」
「……はい。P73-c偏食因子は従来のP53偏食因子よりも体細胞をオラクル細胞に変化させる力が強いんです。そして、それは灰域に耐えるための対抗適応因子を含むオラクル細胞になります」
AGEの文字の下に丸文字で適応おらくる! と書かれた。オリーネはクレアの女子力の高さに戦慄した。オリーネが字を書くと無駄に達筆になるからだ。
「そしてその対抗適応因子、神機にも適用出来て……。通常は適合率が高い神機をあてがうことが推奨されているんですが……」
「なに!? まさか……!」
「ええ、ある程度どの神機とも適応することが可能なんです。だからミナトによっては被験者の適合率を顧みない適合試験が行われてたりするんですよね……。本当に、最低です」
「そんな、イザナイ……?」
そもそも、灰域が世界に広がった灰災後のゴッドイーターはフェンリル崩壊後に現存していて回収した神機を使っている形だ。適正率を計り、適性の合った神機を与えるという事などほとんどできない時代。途中試作の神機や、適合者が見つかっていない神機をあてがわれてもおかしくないのだ。特にペニーウォートは適合率を顧みない適合試験が行われていたと言われている。
イザナイから測られた数値に目を向けるクレア。
「いろいろと脱線しましたが話を戻して、多分イザナイさんは──」
全員が芋虫状態でシクシク泣くイザナイを見て、クレアに視線を戻す。全員青ざめた表情だ。内一人は青どころか真っ白になっている。
少し溜めて力強く頷いたクレアは、ついに告げた!
「──奇跡的なまで、完璧な適合率を誇った神機があてがわれてますね!」
「???」
「え……?」
全員の頭にハテナが浮かんだ。特にキースがなにかを疑問に思ったのか、深く考え込んだ。
大多数が、神機と適合してないからイザナイ、アラガミなっちゃう! 的なことを考えていたのだ。オリーネにいたってベルばら的な画風になって白目を剥いていた。
「すっごいです。初めて見ましたよ、こんな限界までオラクル細胞がつまりにつまってる体! 神機の操作も上手いはずです。バーストレベルに対する身体能力の上り幅の話もコレを見れば理解できます! 流石は『ペニーウォートの怪物』ですね!」
「え? え? あれ? え? なんで、神機、あれ? なんで対抗適応因子の話をした? なんか話の流れ的に要らなくなかったか?」
ジークが極めて混乱した風に説明を求めた。
「え? オリーネさんが、AGEについて質問したからですけど……」
「「「オリーネ!!」」」
「……ごめん」
オリーネは気まずそうに目をそらした。一番びっくりしてたのもオリーネだったからみんなすぐに許した。
「推測なんですが、P73-c偏食因子とイザナイさん、そしてお使いの神機の相性が極めて良かった場合に起こりえる事例なんじゃないかと! うわぁーすっごいなぁ!」
「おとうさん、すごい?」
「すごいなんてものじゃないよフィム! 神機の事を全て理解してるようなものだもん!」
「すごくない……?」
「とってもすごいって事!」
「! おとうさん、すごい!」
クレアがテンション上がって若干口調がおかしい。フィムは両手を上げてクレアの周りをくるくる回った。
まるで人生1回限りで絞りに絞られた単発ガチャで最高レアリティ望んだ物を引いちゃった人を実際に目の当たりにしちゃった位テンションが上がっている。
「まるで、神機がイザナイさんに合わせてくれてるみたいですね!」
テンションに取り残されたユウゴ達は顔を見合わせる。
「え、じゃあイザナイがあんなに健康診断を嫌がってたのは何だったんだ?」
「不調を、隠してたわけではない?」
「しかもまだ泣いてるぞ」
恐る恐る、ユウゴはイザナイの猿轡を外した。
「ちゅうしゃ、きらい……。ヒヒ……、モウヤダ……」
「おとうさん、がまん! いいこいいこ!」
「……ペニーウォートでは看守に舐められないように、頑張ってロールプレイしながら我慢してたんだよォ。ここで位逃げてもいいかなって……」
ええ……、マジでそんな理由でこいつは逃げ回っていたのか。とイザナイの体を心配して勘違いをしていた人たちが、空を仰ぐ。看守にあれだけ暴力を受けてもガマンできていた人間の言葉とはとても思えなかったのだ。
「何故かエンゲージ発動中みたいな感応波が常に出てますけど、それくらいですね。なんででしょうねこれ? 心当たりあります?」
「んー? おとうさん、わっかぐるぐるないよ?」
「それに、エンゲージは他のゴッドイーターとやるんだぞ。知らねーのかクレア」
「そのくらい知ってますよっ! 何かジークに言われるとちょっと思うところがありますね……!」
「なんだと!」
謎のエンゲージの感応波を指摘されるが、イザナイの体周りには特にエンゲージ発動時に見られる金の円環が浮かんでいない。クレアの発言に皆が首をかしげる。
「あー、さーなァ。ペニーウォートでも指摘されてたなそれ、ヒヒ知らないねェ」
「うーん、エンゲージについては解明されてないことが多いからまだ分からないなぁ……。でもきっと問題なくグレイプニルのAGEとして活躍できますよ」
「そォーかい、良かった良かった」
「残りの検査は時間がかかるものも多いので、判明次第報告しますね」
全員ほっとして胸をなでおろした。
これでペニーウォートが虚偽の資料を上げていた事の指摘による灰域航行法違反の報告で、灰嵐後ぎりぎりの財政立て直しを図ろうとしているペニーウォートの解体をグレイプニルに陳情出来て、その後のペニーウォートの財源である『ペニーウォートの怪物』をグレイプニルに徴収させることが出来るからである。
なお、この健康診断が必要だった理由はペニーウォート以外の信用のあるミナトでのイザナイの身体データが必須であるからだった。
──そして、あと一つ必須なことがあった。
タイミング良く、エイミーの船内放送がかかる。
『み、みなさん! 大変です、航路の先に灰域種アラガミ! この反応、大型種!!』
「ハー……、拘束、解いてくれよ」
「……本当に一人で行くのか? 今回は大型種だ。危険すぎる、俺達ハウンドもついて「あのさァ」──」
『ペニーウォートの怪物』の実力証明。
灰域種アラガミを実際に討伐できるのかという事。
あらゆる方面で信用のなくなる手筈のペニーウォートの情報ではダメだ。信用の多いクリサンセマムでの活躍によってイザナイの価値の保持を行う算段だったのだ。
ハウンドは連れていけない。
以前、イザナイがハウンドについていかなかった理由と同じだ。
今度は、ハウンドが実際に討伐したんじゃないかと思われてしまうからだ。
「ヒヒ俺は誰だ? ──俺はPW-01371『ペニーウォートの怪物』なんだぜ? 悪いな、大型種なんて極上の獲物貰っちまってよ!」
ま、死なねぇよ俺は。と、芋虫状態でキメ顔で言ったのだった。
後の話だが、ジークに注射の事と芋虫キメ顔を話のタネにされて人生で初めて仲間に噛みつくのだった。
◇
「キース、どうかしましたか?」
「え?」
「いえ、深く思案していたようなので。なにか気になる事でもありましたか?」
「あー、えーっと」
イザナイとその他みんなが医務室から出て行った後の事だ。
キースが先ほどからずっと思案気に顎に指を当てて、クレアが検査した今出ている身体データを真剣な表情で睨みつけていた。それが気になったクレアは首をかしげながら訊ねたのだった。
それに対して、キースは人差し指をピンと立てながらクレアに質問する。
「うーん、神機の適合率って上がることあったかな」
「ああ、その事ですか。ええ、体質によっては上がることもあるみたいですよ」
「長い間適合率がそこそこの神機が、急激に適合するって聞いたことは?」
「? さすがにソレは……どうでしょう。それは知らない事例ですね」
クレアは自分の記憶を探ってみたが、そんな事例は聞いたことがなかった。
「もしかして、イザナイさんが?」
「うん。かなり前にだけど検査に携わったことがあって……。最近は、めっきりだったけどね」
元々、潜行灰域濃度が低く体の弱かったキースはペニーウォートで技師の役割を持っていた。以前のイザナイのデータとの差異に何か気が付いたようだ。
キースが再び深く考え込む。そして、はたと何かに思い付いたかのように動きを止めた。
クレアは気が付かなかったが、大きく目が見開かれ瞳が揺れる。
しばらくして、口を開いた。
「ねぇクレア、身体検査のデータの確認作業は俺がやってもいいかな」
「え、かまいませんけど……」
「そっか、ありがとう! じゃここは俺に任せて! クレアもイザナイ先輩の実戦データの方見てくるといいよ! きっと、ためになるよ!」
「え、いいんですか! ……キース、ありがとうございます! やった、極東リザレクション式が見れる!」
キースはにこやかな笑顔で、イザナイの戦闘データも気になっていたクレアを医務室から送り出した。数秒、医務室から出て行ったクレアの背中を見送り、扉が閉まったことを確認すると──。
「……腕輪、神機、身体データこれだ。大丈夫、一見問題ないんだから、大丈夫……!」
焦燥を感じさせる姿で、ターミナルで身体データと腕輪の確認作業に入るのだった。
アラガミが現れた! なお、灰域踏破船の目の前
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アラガミ化か! 異常個体スサノオ
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捕食しすぎた! 神速種ハンニバル
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こんな場所で! 全力感応マルドゥーク
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悪夢だ……! 絶体絶命マガツキュウビ
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親方空から! 進行妨害ツクヨミさん
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えっちやん! 素敵に美人ヴィーナスちゃん
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ぼいんぼいん ばるんばるんアマテラス様!
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マスター 灰域種を一つ