100日後に死ぬ東京
「聞いてくれよ、こないだ俺YOUTUBERになるっていってただろ?」
「いってたな、チャンネル登録よろしくって」
「たしかにいってた」
「あれからさ、お前ら含めて10人くらいに声かけたんだよ。何人登録してくれたと思う?」
「え?12人くらい?」
「8人?」
「2人だよ、2人!ひどくないか!?」
「2人か......」
「2人......」
僕は敦田と目があった。どうやらその2人というのは僕らのことらしい。それに気づいたらしい太宰はにこにこしている。
「お前らほんと大好き!ありがとう!これで俺は気づいたんだよ、1再生の重みを。フォロワーのありがたさを。だから、一番評判よかったオカルトスポットにいくやつをまた投稿しようと思うんだ」
「オカルトって......まさか僕らに色々教えてくれとかいうんじゃないだろうな」
「僕もさすがに心霊スポットにはそんなに詳しくないんだけどな......」
「視聴者に情報提供求めてどうするんだ、賞金もないのに」
「もちろんタダとは言わないって」
「動画に出るのは嫌だからな」
「名前出すのもやめてくれよ、ネットって怖いんだから」
「じゃあ今度バイト代入ったらなんか奢るからさ、頼むよ!」
僕らは顔を見合わせる。持つべきものは友達だと太宰は笑っている。調子のいいやつめ。
「やっぱり江戸時代の結界とかいいんじゃないか、将門公と絡めて」
「マサカドコウ?」
「あのな、少しは調べろよ、太宰。お前が持ってるスマホはなんのためにあるんだ」
「そんな怒るなよ、敦田」
「まったく......」
将門公といえば三大怨霊としてあまりにも有名だ。オカルト方面にジャンルの舵を切るなら欠かせない要素だろう。
今から1079年余り昔の平安中期、板東八カ国を制覇した兵(つわもの)がいた。自らの比類なき武芸を誇った平将門その人である。
王朝国家による貴族政治のなかで、彼の武力による東国国家の存続期間は、2ヶ月足らず。
しかし、その、瞬きのようなわずかな時間は、暗闇のなかにおける閃光のような輝きとなって、東国における武士の発生と成功への道筋を、鮮やかに照らし出した。
「よかったな、太宰。改修工事、ちょうど4月に終わったばっかりみたいだ」
「改修工事?」
「令和12年でちょうど神田明神が建立1300年になるらしくて、それに合わせて改修工事とか色々計画が進んでるみたいだ」
「へー、そうなのか」
「外壁に使われてた瓦売られてるみたいだけど、記念に買ったら?」
「瓦!?え、ちなみにおいくら?」
「丸いのが1つ1万円、限定100枚。平方が1つ3万円、限定20枚」
「たっか!?まじでたっか!誰が買うんだよ、そんなの!?」
「信仰してる人や会社が買うんじゃないか?」
「ま、まじでか......いやあ、俺はどっちかってーと、心霊スポットに突撃する方が好きかなあって」
「心霊スポットか、事故物件でも回ってみたら?」
「未解決の殺人事件とかそういう方面もありかもな」
「事故物件ってネットであがってるやつ?」
「そうそう」
「未解決の殺人事件かー、オカルト的なやつがいいな」
「オカルトか......」
僕はちょっと調べてみた。
「オカルトというか、カルトがかかわってそうな事件ならあった。化け物をみたって話もあるらしい」
「え、どれどれ」
僕は太宰にオカルト事件についてまとめているサイトを見せてやった。
一番古いのは199X年10月に起きた井上公園のバラバラ殺人事件だ。こちらは時効を迎えて未解決のままとなっている。カルトによる報復か口封じが濃厚で、あまりにも陰惨なために化け物が殺したんじゃないかという噂がたえない。事実、このころは自衛隊や公安、警察が総出で動くほどやばいカルトが2つほどあり、治安が悪かった時代だった。化け物があちこちで目撃された時期でもある。
ちなみにこの化け物が実在したかどうかは定かじゃないが、市ヶ谷駐屯地司令を占拠してクーデターをおこした自衛隊の男が逮捕された。あいかわらず化け物が跋扈する東京を救うために立ち上がれと執行猶予をすぎてからもテレビで発言しているが、いまや夏のオカルト番組にしか呼ばれていない。
「あー、あのおっさんってそんなやばいことしたのか、知らなかった」
「信じるか信じないかはあなた次第ですってやつと同じかと思ってたな」
「僕も知らなかったよ」
化け物が目撃された事件はほかにもあって、それはちょうど18年前。僕らが生まれた年に新宿の上野公園で起こった。こちらは1人ではなく複数、しかも化け物による虐殺を思わせる殺人事件があった。そちらは新進気鋭の会社の社長が地元住民と対立の果てに殺人事件を共謀した容疑で逮捕され、執行猶予がくだされたばかりだ。同じ容疑で逮捕されたのはなんと高校の女性教師であり、199X年に世間を騒がせたカルトの幹部の残党だったことが判明してから、この会社は解体されてすでに見る影もない。
「最近はないんだ?」
「うーん、このサイトには載ってないな」
「化け物か、カルトがほんとに召喚してたりしたらやばいよな!やべえ、面白そう」
「そうか......?まだ残党がいるなら、変に嗅ぎ回るとやばそうだけど」
「息抜きもたまには大事だけど、お前はまず勉強すべきだろ、太宰。このままじゃほんとにやばいぞ、お前」
「わーかってるって!お前らには迷惑かけないからさ!情報提供ありがとう!」
僕はため息をついた。敦田は心配そうにしている。気持ちはわかる、とても。ホラー映画なら真っ先に死ぬポジションに太宰はいるからだ。
「事故物件で慣れた方がよくないか、太宰。撮影に慣れてからじゃないと取れ高見込めないだろ」
「あ、そっか、そーだよな!敦田、事故物件載ってるサイトってどこだっけ」
数日後、僕が太宰に教えたサイトがサーバの閉鎖に巻き込まれる形で消滅していた。やはり太宰にいくなという神のお告げなのかもしれない。