世界が平和だったころ(真・女神転生Ⅴ)   作:アズマケイ

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夢の話

前の黒板には今日の日直が書いてある。僕と磯野上だ。

 

「おはよう、今日も先越されちゃったね。まだしてないことある?」

 

「もう大体終わったから日誌よろしく」

 

「はっやーい。何時に来てるの?」

 

「7時半」

 

「し、7時半!?はやすぎない!?ご飯食べる時間あるの!?」

 

「あるよ、5時半に起きれば余裕」

 

「はやすぎない......?」

 

「朝の方が頭に入るんだ」

 

「あ、じゃあ早くに寝てるんだ」

 

「そのとおり。こうでもしないと本読む時間が取れないんだよ」

 

「あはは、太宰くんたちと勉強してるもんね」

 

「おかげでなかなか進まないんだ」

 

「今は何読んでるの?」

 

「これか?聖書」

 

「聖書?え、聖書ってあの聖書?」

 

「あの聖書」

 

「なんで?最近はオカルトの本ばっかり読んでたよね、きみ」

 

「あれからちょっと責任感じてネタ探しに付き合ってたせいか、変な夢みるようになったんだ。どこで見たんだか思い出せなくて探してたらこれだった」

 

「どれ?」

 

「これ」

 

「なになに、生命の樹?」

 

僕はうなずいた。

 

ああ、またこの夢か、という感想を抱くくらいには僕は繰り返し同じ夢を見ていた。

 

見渡す限りに広がる砂漠は、まさに陸の孤島。

日中の気温は40度近くになったかと思えば、夜は氷点下まで冷え込むこともある、とても厳しい環境。生き物にとって絶望的な場所とも言える砂漠を夢に見る僕は、一体どのような意味をもつのだろうか。

 

受験勉強疲れだろうか、と放浪しながら他人事のように思う。

夢の世界の砂漠は、大きく次の3つを象徴しているという。見通しがつかない状況、孤立、潤いのない状態。

 

目の前に荒涼とした砂漠が広がる夢は、見通しがつかない状況を象徴している。未来に対する不安や恐怖を抱いている、あるいは絶望的なピンチに陥っている可能性を暗示している。

 

また、砂漠は孤立無援の状況を象徴することもあるという。誰も理解してくれる人が見つからず、自分の殻に閉じこもりがちになっている。

ただし、その原因はドライで合理的すぎる考え方にあるのかもしれない。

 

さらに、砂漠は生命の源である水が枯渇した状態、いわば、潤いのない暮らしを送っていることを意味する場合もある。早急に何かを改める必要があるらしい。

 

以上が、砂漠の夢の基本的な意味となる。

 

......やっぱり受験勉強のしすぎだろうか。

 

いつも夢の終わりは自分の体が粒子となって溶けていき、空に吸い込まれる。

 

「......?」

 

空の果てがみえた。巨大な大樹がそこにあった。どこかでみたような気がするが思い出せない。そして僕は目を覚ます。

 

「今度は樹か」

 

ここのところ、僕は夢をみては覚えている映像にほど近い光景を探して、ひたすら図書館や図書室に入り浸る日々を続けていた。

 

そして。

 

僕の傍には樹に関する本が山積みになっているのだが、図鑑にお目当てのものはなかったため本棚の所定の位置に戻した。実在する樹じゃないとなると架空の樹ということになる。脳裏に焼きついた強烈なイメージをもとめて、僕はなるべくたくさんの図解やイラストがかかれた本を選んでめくっていった。

 

どこだ。どこで見たんだ、僕は。あの煌めく大樹を。空の果てにあるあの大樹を。一心不乱にめくっていた僕は、あれでもない、これでもない、と本を右から左においていく。

 

そして、僕は探し求めていた大樹を見つけるのだ。

 

「───────あった、これだ」

 

表紙をみる。

 

「聖書?」

 

意外にも程があった。じゃあ、あれだろうか。聖書が元ネタのファンタジーかなにかを読んだときに覚えていたんだろうか。僕はキリスト教徒でもないし、聖書を読んだことはなかった。

 

「生命の樹......セフィロトか。なら、オカルト系の本かな」

 

記憶を探るが最近読んだ本でこれだというやつを特定できそうにはなかった。わかりさえすればスマホで調べた方が早い。

 

世界樹とは、世界中の宗教や神話に登場する、世界が一本の大樹で成り立っているという概念、モチーフ。世界樹は天を支え、天界と地上、さらに根や幹を通して地下世界もしくは冥界に通じているというものだ。

 

北欧神話では、世界樹ユグドラシルがある。巨大なトネリコの樹であり、世界の中心に生える神聖なものであるとされている。ユグドラシルの枝は遥か天高く伸び、それを支える3つの根ははるか遠い世界へと繋がって、それぞれウルズの泉、フヴェルゲルミル、ミーミルの泉に至る。

 

シベリアの神話では、世界樹はこの世界と地下世界、より上方の世界を接続する役割を果たしている。シャーマンたちに太鼓を与え、彼らが異世界を旅する手助けをしている母なる自然のシンボルでもある。

 

マヤ遺跡の中でも世界樹は四方位で具現化され、さらに中心に四重世界の中央世界樹が存在しており、これが地下世界の平原と地上世界、天界を結ぶ世界軸となっている。その枝に鳥をのせ、根が地面もしくは水中へ延びる形で描かれていることが多い。また地下世界のシンボルである水の怪物の上に描かれることもある。また中央の世界樹は天の川を描いたものであるという解釈もされている。

 

ペルシャ神話では、ガオケレナとも呼ばれるハオマの木が宇宙の生命の存続を保証する樹木であるとされている。また治癒の特性を持つバス・トフマクという別の世界樹はすべてのハーブの種を記憶し、悲しみをうち破るという。イランの芸術では、世界樹は一般出来なモチーフとなっている。

 

一部の学者は、進化生物学の観点から、世界樹という概念が人類の思考の中に元から備わっている可能性を指摘している。というのも、人類の祖先は約6000万年にわたり樹上で生活しており、その時代の彼らにとっては木々こそが世界のすべてであったと考えられるからである。そのため、この世界は巨大な木で出来ているのだという集合的無意識が、現在の我々に至るまで残っているのだというものである。

 

やっぱり聖書にかかれている絵が一番イメージに近いのかもしれない。

 

「岩波文庫か」

 

これも何かの縁だろう。僕はAmazonのアプリを起動したのだった。

 

「というわけなんだ」

 

「砂漠の夢かあ......」

 

「受験勉強の疲れが溜まってるんだろうな」

 

「ねえ、その砂漠ってさ、なんにもないの?サハラ砂漠みたいな」

 

「どうだろう、そこまで意識したことないな」

 

「そっか、荒廃した東京とかだったら、未来の東京みたいで面白そうなのに」

 

「漂流教室みたいな?」

 

「そう、それ。もし、変な声が聞こえたりしたら私がみる夢と同じなんだけどな」

 

「え、磯野上もみてるのか、砂漠の夢」

 

「うん、みてるよ。ずっと前から」

 

「ずっと前か、僕は最近だな」

 

「そっか。また同じ夢みたらちょっと調べてみてよ。なにかあるかもしれないよ」

 

そういって笑う磯野上は、なんだかちょっとだけ嬉しそうだった。

 

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