「───────少年、死にたくなければ私の手を取れ」
いつも夢の始まりはこの言葉から始まる。砂漠に埋もれた東京の真ん中で僕のように迷い込んだクラスメイトたちが拉致される中、化け物たちに追いかけ回されていた僕は死にたくないあまりに手を伸ばすのだ。
その瞬間に体のあらゆるところが螺旋状に紐解け、アオガミと名乗る越水首相によく似た男と融合、ナホビノというよくわからない存在になってしまう。
体の主導権は常に僕にあり、アオガミは声だけで僕に話しかけてくるため、聞き逃さないように耳に手を当てる癖がついてしまった。
化け物たちのように変なノイズがかった声だが、アオガミはどちらかというと推奨とか格式バッタ言葉遣いをするものだから、AIかナビゲーションシステムの音声を連想する。もしかしたら、化け物でも人間でもないのかもしれない。じゃあそんなアオガミと融合した状態の僕はなんだという話だが。
アオガミはわかる範囲でいろんなことを教えてくれた。かつて東京と呼ばれていたこの世界はダァトと呼ばれる18年前にできたばかりの魔界であること。18年前東京タワーで悪魔と天使の戦争がはじまり、そこにアオガミが居合わせたこと。僕を護ることが使命であること。それ以外はなにひとつ覚えていないという。言い回しが独特で、記憶のデータが破損しているというものだから、やはりアオガミはなにかのナビゲーションシステムなのかもしれない。
アオガミも僕を護る使命を果たしたいが具体的なことがわからないせいで困っていることはわかったので、正体や目的が判明するまではこのままでいこうと決めた。どのみち融合を解かれてしまうと僕はただの人間だ、死ぬしかなくなる。ナホビノというよくわからない存在になると手が剣になったり、化け物(悪魔というらしい)を仲魔にできたり、その力を取り込めたりするからどのみち僕はアオガミが拒めないのだ。
アオガミはダァトの歩き方を教えてくれた。ナホビノとしての力の使い方も教えてくれた。やはりナビゲーションシステムかなにかだと思うことにする。記憶喪失にしてはアオガミは自我があまりにもなさすぎる。
夢というものは、人間の全身が眠っている間に、その体内の或る一部分の細胞の霊能が、何かの刺戟で眼を覚まして活躍している。その眼覚めている細胞自身の意識状態が、脳髄に反映して、記憶に残っているものを吾々は「夢」と名付けていると聞いたことがあるが、これはどこの記憶を繋ぎ合わせて形成したものなのか、この夢を見始めてもうすぐ60日が経過するが、僕は未だに皆目検討がつかないでいる。
大いなる深淵の源は裂け、天の窓が開かれん。
汝らの神は死んだ。創世の時はきたる。
この光亡き魔道の時代、汝らは新しき神話を求めている。
ゆえに、汝は神となれ。
この言葉がアオガミの発言じゃないことだけははっきりした。僕に話しかけてくる正体不明の存在はまだまだたくさんいるが、アオガミに聞いてもそんなこといった覚えはないし、知らないと首をふられたからだ。もしかしたら、アオガミを派遣したやつなのかもしれない。
どのみち、ダァトからでないとアオガミの使命というやつも果たせないということで、僕は飛躍的に向上した身体能力を駆使して、ひたすらダァトを探索した。
わかったことは、死んだらアオガミも僕も死ぬということ、はるか上空にある生命の樹と思われる大樹に飲み込まれてしまうということである。
夢から覚めた僕はナホビノという存在について少し調べてみた。
恐らく日本書紀に登場する神「大直毘神(オオナオノカミ)」のことでは?と僕は解釈している。
神生みで黄泉から帰った伊邪那岐命(イザナミノミコト)が黄泉の穢れを洗い落とすために行った禊(みそぎ)の際に大禍津日神(オオマガツヒノカミ)と八十禍津日神(ヤソマガツヒノカミ)の二柱が生まれた。
ただヤソマガツヒノカミは災厄を司る神とされていて、その禍を直すために伊豆能売(イズノメ)、神直日神(カミナオヒノカミ)と共に生まれたのが大直毘神(オホナホビノカミ)。
マガツヒという神はでてきていないが、マガツヒというエネルギーがダァトには蔓延しているあたり、ナホビノは浄化する作用でもあるのかもしれない。
現実世界で調べたことは夢の中でも持ち込めるためアオガミにそれを伝えてみると、ナホビノは合一神でありダァトにおいては禁忌の存在だから関連付けが難しいといわれた。
「......だが情報感謝する。私は知識に欠落がありすぎるのだ。これからも教えてほしい」
僕はうなずく。そして夢から醒めるのだ。