あたくし、牡馬ですわ!   作:深澤清淡

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 感想と評価ありがとうございます! 感想はその内、ばーっと返したいと思いますので、良ければもっとください(直球)
 本作の馬生編において、人の言葉を完全に理解している馬は主人公ただ一頭のみです。主人公と話せる馬が居ても、その馬が人間の言葉を理解している訳ではありませんので悪しからず!


第三走 あたくし、夢追い馬ですわ!

 あたくし、個人的には馬よりもライオンとか猫の方が良かったのですわ……。

 

 暇過ぎて、そんなことを思いながら今日も今日とて放牧場を拾い歩く。

 

 実際、猫科の動物は好きですわね。馬よりも猫科の動物になった方がマシでしたわ。

 まあ、猫と違ってそれその物になりたくは無いですけど、一番好きなのは犬。

 彼らが持つ忠誠心は素晴らしいですわ。あたくしの家でも十匹は飼っていましたもの。

 ……ああ、思い出したら、また会いたくなってしまいましたわね。

 

 お父様とお母様、今頃どうしていらっしゃるのかしら?

 ……そう言えば今はあたくしが生きた時代よりも過去ですので、まだ二人とも出会ってすらいませんわね。

 

 

「おーい、クロスー! 林檎やるから来ーい!」

 

『あたくしを林檎で釣るつもりですの!? 美味しくなかったら承知しませんわよ!』

 

 

 柵の外に居た松前が林檎を片手にあたくしを呼ぶ。

 釣られているようで大変に癪に触りますが、甘味が無ければ人生(この場合は馬生と読んだ方が良いかしら)の活力も損なわれてしまいますので、仕方なく、本当に仕方なく行って差し上げることに。

 

 

「よーしよし、あでっ!?」

 

『気安く触らないでくださる?』

 

「ほんとに、お前は人間が嫌いだなあ」

 

 

 違いますわ。貴方が気安くあたくしの首元を撫ぜるからでしてよ、松前。

 もう少し、レディの扱いというものを知るべきですわね。

 

 ……あら? そちらのお馬さんは?

 

 

「クロス、この子はカオルコだ。仲良くやってくれよ?」

 

『ああ、そういうことですのね。……まあ、貴方よりは目をかけて差上げてもよろしくてよ』

 

 

 松前が連れてきていたのは、一頭の鹿毛の幼駒。性別は……牝かしら?

 恐らく、下崎が庭先取引か何かで買ってきたのだろう。

 まあ、こんな零細牧場に買われるくらいの馬。大した馬では無いでしょうから、それなりに気にして差し上げてもあたくしの馬生に支障は無いでしょう。

 

 カオルコ、ということは薫子ですわね。

 

 

『よろしくお願いしますわ、薫子』

 

 

 何処か気弱そうな感じがするので、できる限り優しくを心掛けて挨拶。

 

 返事が来るとは思っていない。

 馬語でも、これまであたくしと話せた相手は一人もいないから。

 

 

『……よ、よろしくお願いします、クロスさん』

 

『!?』

 

 

 しかし、どうやらこれは運命的な巡り合わせであったらしい。

 

 聞き知らぬ女の声。ビクビクとしていて自信無さげな返答。

 この場に牝はあたくしを除けば一頭のみ。

 

 あら、あらあらまあまあ! 貴女、話せるのね!?

 

 

『貴女、あたくしの言葉が分かるのかしら!?』

 

『ひゃ、ひゃい!? えと、一応、ですけど……』

 

 

 素晴らしいですわ! まさかまさか、こんなタイミングで求めていたお話し相手が生えてくるなんて!

 

 気が変わりました。

 

 

『貴女はあたくしの話し相手になりなさい! これは決定事項ですわ!』

 

『え、えと、分かりました……クロスさん』

 

 

 あたくしの馬生における初めてのお話し相手。これで暫くはあたくしの暇も無くなるというもの。

 

 ふふ、この子と一緒にトレーニングしても良いですわね。

 やっぱり他者との関わりは生きる上での重要なファクターですわ!

 

 おーほっほっほ!! さあ、薫子! あの丘の上まで競走ですわ!

 

 

「あ、こら! そっちは放牧場じゃないって!!」

 

 

 あたくしの征く道こそが王道なのですわー!!

 

 

 

 ────第三走 あたくし、夢追い馬ですわ!────

 

 

 

『ク、クロスさん、今日は何をするんですか?』

 

『ふふふ、よくぞ聞いてくれましたわね』

 

 

 薫子と出会ってから早一月。

 一ヶ月を過ぎた辺りから、お母様とは離されることが増えたので、その分入れ替わりとなるように薫子と一緒に居ることが多くなった。

 

 本当に流れるように時間が過ぎていきましたわ。

 あたくしは生まれて二ヶ月齢となり、身体も大きく逞しく成長。まだまだ発展途上。

 前世は155cmでしたので、牡馬である今世くらいはビッグになりたいですわね。

 

 そう言えば、あたくしよりも薫子の方が一ヶ月ばかり生まれたのが早いんですの。こんな弱々しいのがあたくしよりも歳上だなんて……!

 少しムカついたので彼女に出された林檎を人参と差し替えて差し上げましたわ。彼女は林檎よりも人参の方が好きだったらしくて、大変喜ばれて遺憾でしたけど。

 

 

『今日は彼処までたくさんダッシュですわ!』

 

『あの、それ昨日も『今日も走るんですわよ!』ひゃ、ひゃいい!』

 

 

 薫子もあたくしのやりたいことに異を唱えずに付いて来てくれる。

 やはり、持つべきものは素晴らしい侍従ですわね。幼い頃からこうして共に育ち、絆を育んだ侍従ほど得難いものもありませんし。

 

 柵の端から端まで全力疾走。

 時々見える先達馬方の速さとは比べるのも烏滸がましいような走りですが、それでもあたくしや薫子以外の幼駒よりも速い。

 いつかは先達馬方も追い越して差し上げますわ。

 

 まあ、それでも競走馬にはならないのですけど。

 

 

『薫子! 貴女、だらしがないですわよ! ほら、もう一回!』

 

『ご、ごめんなしゃいい! 待ってください、クロスさぁん!』

 

 

 あたくしからして見れば、この程度余裕も余裕。

 薫子だって余裕だと思うのですけど、どうしてかすぐへばる。あたくしのお話し相手兼侍従なのですから、これくらいで弱音を吐いていては駄目ですわ!

 

 ほら、もう一周!

 

 

『遅いですわ!』

 

『私、そんなに速く走れませぇん!』

 

 

 全く、仕方ありませんわね。もう少し緩く走って差し上げましょう。

 まだまだアタクシも彼女も仔馬。根を詰めすぎてもいけませんから。

 

 そうして柵を行ったり来たりすること何周か。

 そろそろ今日の分は終わりにしようかと軽く駆けていた時、薫子が改まって口を開いた。

 

 

『あ、あの……』

 

『? 何ですの? もう一周走りたいので?』

 

『い、いえいえ違います!』

 

 

 あら、あたくし、まだまだ走れますのに。薫子もそれほど疲れてはいないようですから、明日はもっと走ることにしましょうか。

 

 それで、改まって何かしら?

 

 

『あの、どうしてクロスさんはそんなに走るんですか?』

 

『あら、おかしなことを聞く薫子ですわね。あたくし達は馬ですのよ?』

 

『?』

 

 

 ……まあ、まだ幼い薫子にはそんなことを言っても伝わらないですわね。

 そもそも、あたくしの言葉を理解出来ているだけでも奇跡的なのですから。

 

 なら、こう言い代えましょうか。

 

 

『あたくし、夢がありますの』

 

『夢?』

 

『そう。夢ですわ、それもとても大きな夢。あたくしの全てを賭した、夢』

 

 

 そう。

 あたくしには、乗馬用の馬となり、種付け牡馬の役目を逃れるという大願がありますの。

 これだけは、何がなんでも果たしますわ。絶対に。

 

 

『……クロスさん』

 

『?』

 

『い、いえなんでもありません……叶うと良いですね、その夢……!』

 

 

 ……ええ。そうですわね。

 絶対に叶えてみせますわ。

 

 

『私も、頑張ります……!』

 

『ええ、貴女も貴女の為に、いつか出来る夢の為に頑張りなさいな』

 

『はい!』

 

 

 とても、眩しい。

 馬面ですけど、人間だったならとても可憐な良い子でしたでしょうね。

 やはり、夢追い人は輝いていますわ。

 

 ……ふふ。それなら、あたくしも一肌脱ぎましょう。

 

 

『なら、あと十周行きますわよ!』

 

『え』

 

『問答無用ー!!』

 

 

 惚ける薫子を置いて、あたくしは駆け出す。

 

 あたくしの夢に、そしていつか生まれる彼女の夢に乾杯トレーニングですわ!!

 

 

 □

 

 

 ……この時のあたくしは、薫子のことを甘く見ていたのですわ。

 

 まさか、あの舞台で鎬を削ることになるとは欠片も思いもしていなかったのです。

 

 そもそもその舞台に立つこと自体、あたくしの馬生設計に無かったのですけど!! むきー、ですわ!

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