AIとの戦争で、放浪することになりました。   作:むきあう

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生き続けろ

入浴と食事を済ませ心をリフレッシュさせた後、カレンが間もなくワープを出ると告げてきたのでミズホはCICへとやって来た。

よいしょとセンターの席に腰を下ろす。

とは言え、特段やることは無い。

オートパイロットにより設定座標まで自動で飛行してくれることもあるが、仮にイレギュラーが発生してもカレンが対処してくれるからだ。

そんな彼女も当たり前のようにミズホの横に腰かけた。

 

(2年振りに地球とご対面ね)

「探索任務で1番楽しい瞬間が、この戻って来て青い地球を見られるとこだよね」

自身のAIへの厚い信頼のもと、ミズホは少しだけワクワクした面持ちで光の世界を眺めた。

(地球は青かったってキメ顔で言うのかしら?)

「それはもう二番煎じどころの話じゃないよね」

(別に誰に聞かれることもないのだから、言っても構わないと思うけれど)

あなたがいるでしょ? だから絶対に言わない。

カレンの冗談にミズホは半眼を返す。

口に出さずとも主人の言いたいことはカレンに伝わり、それがまた可笑しくてカレンは一層口角を上げた。

あぁ、可愛い。なんて可愛いのかしら。

そんな呆れた眼差しさえも絵になるわ。

 

「そろそろかな」

まさかそんな想いを抱かれてるとはつゆ知らず、ミズホはふいと顔を反らすと、もうワープを抜ける頃合いだろうと目線をレーダーへと移した。

(そうね、もう出るわよ。衝撃に備えてちょうだい。3,2,1…今!)

「おぉー…お?」

 

カレンのカウントダウンと共に、船は大きな衝撃波を伴ってワープを抜けた。

光の世界が終わりを迎え、辺りは闇に包まれる。

その中で、青い地球は輝いていた。

しかし、その輝きを放つ地球の周囲を見て、ミズホは眼を擦る。

夢でも見ているのかと。

「…あれ、こんなだったっけ?」

(いえ、普通じゃないわ)

「やっぱりそうだよね」

一目で見て分かるほど、なにやら雲行きが怪しい。

地球とそれを覆うように群がる衛星は普段通り周回しているようだ。

けれど、それとは別に宇宙船と思わしき残骸が、まるで木星の輪の様に地球の周りに散乱していた。

 

自分が遠征している間にまた戦争が始まった?

だから呼び戻されたのか?

ミズホは自身に下された命令の理由を推察した。

いやでも、とミズホは首を傾げる。

例えそうだったとしても、あまりにもその残骸の数が多い。

しかも自分の船以外活動している物が一隻も存在しない。

明らかに戦闘用とは無縁の船の残骸まであるし、これはやばいかもれない。

 

ミズホはこれは前途多難だと思わず身構える。

そして状況を確認するために、直ぐにカレンに基地へ連絡を取るよう要求した。

(…駄目ね。日本もそれ以外の国の軍事施設も民間施設にさえ繋がらないわ。

もう少し地球に近付けば改善できるかもしれないけれど、現状できることは何も無いわね)

カレンは首を横に振ってげんなりとした。

芳しい返答ではなかった。

「うーん、嫌な予感というか罠の可能性がプンプンするけど、上官の帰還命令に逆らうこともできないし、ここに留まったところで状況は改善しないよね」

うーんと首をかしげて最適解を探しだすが見つからず。

「乗り気はしないけど、とりあえず母港に戻る方向で進みましょ。カレン、慎重にお願いね」

はぁと盛大に溜息を漏らすと、ミズホは苦虫を嚙み潰したように件の輪を見据える。

(ええ、任せてちょうだい)

カレンは命令通り、船の速度を落として様子を窺うように慎重に歩みを進めていく。

船内では二人共険しい表情で青々とした母星を眺めた。

 

 

 

状況が悪化したのはそれから間もなくのことであった。

母港へ帰港するために、念のためカレンの手動操縦に切り替えた上で慎重に進行していると、それまで息を潜めていた対艦攻撃能力を備えた衛星がミズホの船を標的に四方八方から攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「カレン!シールド全快! 不要な装置に使用しているエネルギーを停止してエンジンとシールドに振り分けて! 攻撃回避のためなら無茶をしても大丈夫だから!」

(承知よ。シールド展開100%。エンジン・シールド以外の操縦に関わる各種機能以外停止を確認。エンジンとシールドに振り分け完了。

ミズホが死亡しない程度の無茶な操縦に対する本人の了承を確認。これから全力で艦を動かすわ。

可能な限り回避行動はするけれど、最悪生存率を少しでも上げるために脱出も選択に入れるから脱出ポッドへ行ってちょうだい」

「分かった!」

無論船を脱出する事態に陥らないよう全力で臨むつもりではあったが、流石のカレンも対軍との戦闘となると100%の保証は出来かねた。

最悪を想定してミズホに促したが、とは言えカレンとしてはプライドに賭けて撃墜される気は毛頭ない。

任せて、と不敵な笑みを浮かべると、ミズホは一度頷き急いでポッドまで駆けて行った。

 

その間にも既に数発レーザーが当たってはいたが、シールドが展開されているので現状問題はない。

しかし、シールドを維持するにはエネルギーが必要であり、レーザーが強力であればエネルギーもまた多く消費される。

遠方の惑星と地球を往復したので余裕はあまり無い。

ミズホが脱出ポッドへ入り身体を固定したことを確認すると、即座に全力で回避行動を開始した。

 

各国のレーザーが光を放つ。

地上から見上げれば流れ星が巨万も横断しているように見えただろう。

しかし、現実はそんなロマンチックな光景ではなく戦争だ。

カレンは攻撃で破壊されたのであろう船の骸を盾にし、その光の隙間を掻い潜る。

レーダーの情報を頼りに、持ち前の計算力で絶えず最適なルートを弾き出していた。

それでも各国が競うように打ち上げた衛星が巣を守る蜂のごとく群がり、面制圧を仕掛けてくるので全ては避け切れない。

カレンは不愉快そうな顔を浮かべながら脅威判定によって取捨選択を行い、比較的威力が弱いレーザーは無視を決め、威力の高いレーザーだけを避ける方針へ切り替えた。

 

それからすぐのこと。

ミズホ達を何としてでも破壊しようと、5基の大型衛星が綺麗な隊列を組んで船の進行方向からこちらに迫り、眩い巨大な光を放つ。

それぞれタイミングを合わせて照射し、船は右へ左へ、上へ下へ旋回しながらそれを卓越した技量で避けるが、回避した先には別の大型衛星が待ち構えていて、待っていましたとレーザーが正面から放たれた。

誘導されたか、とカレンは自分が負かされたことに更に面白くない顔を浮かべたが、冷静にデコイをばら蒔き急降下することでなんとか回避する。

衛星は船とは反対方向へ飛翔した一時的に猛烈な熱を帯びたデコイに反応し、関心はそちらへ逸れた。

(今のは結構危なかったわね。とはいえ攻撃を避けられたから良しとしましょう)

 

それからカレンは、今の無茶な動作でミズホの身体に支障をきたしていないかどうかを確認する。

ミズホは真っ青な顔で口を紡ぎ、込み上げてくるものを出さないように頑張っていた。

カレンは申し訳なさ半分、面白さ半分で映像を記録し、あとで本人に見せようと心に決めた。

続けて、艦のカメラ越しに写った景色を眺めた。

先ほど衛星が放った光線の先は、宇宙ゴミや艦屑、全てを焼き払い何も残っていなかった。

 

その後も粗方宣言通り致命的な攻撃を回避し続けると、カレンの下がっていた口角は徐々に上がっていった。

余裕が生まれた証である。

(進むべき道は問題だらけね)

とはいえハエのようにたかる敵衛星は、ぶんぶんと煩く餌に飛びつかんとする。

さて、この状況をどうやって打破するか。

カレンは腕を組み回路をせわしなく働かせる。

なるほど、自身が遠くへ遊び(ちょうさ)に行っている間に大幅な技術革新が無かったことは、今までの戦闘で確認済み。

故に自身の戦術プログラムで対処可能だ。

だが、何故かこの船の識別コードが意味を成していないらしい。

赤旗が攻撃してくることはまだ理解の範疇に収まるが、星条旗が誇らしげに書かれた衛星まで攻撃を仕掛けてくるではないか。

しかも国に関係なく見事に連携が取れた動きを見せている。

つまり、何かしらの組織がシステムを掌握して、接近する全ての船に無差別で攻撃させている可能性が高い。

少なくとも人為的なものであり、故障ではないことは証明できた。

宇宙でこれだから果たして地上は無事なのか。

(テロ…もしくは私達(AI)の反乱?

仮に反乱だとして、私が異常をきたしていない理由が思い当たらない。

テロである可能性が濃厚かしら。

そのさなかにミズホを行かせるのも考え物だけれど…っ!どうして!)

 

攻撃を曲芸によって回避しながらあれよ、これよと考察を続けるカレンであったが、その余裕は唐突に失われた。

(そこに居ろってことかしたら!)

カレンはゴミ屑しか存在しないはずのルートを確かに選択したはずであった。

ところが、不意に大型の衛星が船を囲むように出現したのだ。

彼女達にとって最悪なことに、既に砲塔はこちらに向けられて発射準備は終わっている。

なぜ発見が遅れてしまったのか、と普段は何事にも動じないカレンが珍しく凍り付く。

けれど、彼女が気付けなかったのも無理は無い。

その大型衛星群は、巨大なゴミの塊を遮蔽物にして姿をくらませていたのだ。

さらに、ギリギリまで機能を停止させていたこともあり、船のレーダー上では他のゴミと同じ扱いをしていた。

仲間の情報から、大型衛星は始動すると即座に砲塔をミズホの船に合わせてレーザーを射出する。

 

(ミズホごめんなさい!船は捨てるわ!)

瞬時に現状のエネルギー量では防ぎきれないと判断すると、脱出ポッドとデコイの発射、艦のエネルギーをシールドへ全て注ぐ作業を同時に行った。

ギリギリでポッドが船から発射され、ミズホは旅を共にした船から命からがら脱出した。

直後、船に攻撃が当たるが直ぐにはシールドの効果で破壊されない。

その他の衛星も出現して続々と攻撃を仕掛けてきたが、デコイにも反応を示したのでポッドは無事であった。

 

「出力最大!囮の効果が効いている隙に距離を稼いで!」

(承知。ポッドの出力最大)

ミズホは引き続き青い顔のままであったが、事態を冷静に受け止め的確に判断を下した。

カレンは申し訳なさそうな顔を浮かべながら、ミズホの要求通りポッドは保持する力を最大限出力し、混沌としている空間から脱出を試みる。

シールドとエンジンへ適切なエネルギーの配分を瞬時にカレンが演算で弾き出した。

 

その間にも、衛星から発射された光の束が艦やデコイを襲撃していた。

破壊され爆発するデコイ。レーザーを照射され続け徐々に赤く熱を帯び始める船。

ミズホはそれを眺め、平和な世界は無くなってしまったと、やるせない気持ちになった。

囮が破壊され尽くされてこのポッドが標的にされるのも時間の問題か、と自身の死についても考え始めた矢先

ついに先ほどまで乗っていた艦が囮の役目を果たし大爆発を起こした。

 

「(まずい!)」

 

咄嗟の判断でエンジンを停止させた後、全てのエネルギーをシールドへ回す。

カレンの予測よりも早く船が破壊されてしまったためポッドは船から十分距離をとれておらず、爆発の余波がミズホ達へ襲い掛かった。

灼熱と波光に晒され脱出ポッドはやがてエネルギーを使い果たし、大きく体勢を崩して地球へ吹き飛ばされる。

ポッドはエネルギー切れを感知すると、自動で乗組員の安全を確保するために別系統の予備バッテリーを使用して室内を冬眠モードへと切り替えた。

 

ミズホは薄れ行く意識の中、家族や友人、そしてカレンの身を案じた。

おかしい、絶対におかしい。毎日堅実に生きてきたはずなのに…

2時間ほど前に永い眠りから目覚めたばかりだというのに、ミズホは再び永い眠りに就いた。

 

(ごめんなさい、私のミスでこんなことに…)

カレンは身体機能が長期休眠モードへと強制的に切り替わった主人を眺めながら、手の施しようのない現状を愁える。

動かなくなったミズホの手に自身の手を重ねて、深々と溜息を吐いた。

しかし、それも直ぐに別の感情へと切り替わる。

 

くそ、くそ、くそ。

ミズホの幸せを邪魔して良い存在などこの世にあってはならない。

もがいて、這い上がって、必ずミズホを幸せにする。

喧嘩を売ったことを後悔させてやる。

待っていろ、クズ共が!

決意を新たにカレンは全身で憎悪を滲ませる。

 

次こそは絶対に…

 

生き続ける。

 




次回も1週間以内に更新できればと存じます。
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