食べ歩きがしたいだけ   作:二三一〇

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 ユーニスとユーノがごちゃごちゃと代わります。フォント変えたほうがいいかな?


焼きたてのパンは食べられなかった

 結果を言えば、焼きたてのパンは食べられなかった。帰宅してしまったからだ。

 

 戻ってきた父ちゃんは冒険者達をふん縛ってから『強制昏倒(パワーワードスタン)』で自由を奪い、馬車の後部座席に放り込んだ。全員グルなのかと思ったら、まだ尋問は済んでないらしい。

 

「高ランクの自白剤を使うことにしよう」

「閣下。あたまクルクル、元にはモドリマセーンな薬はやめておきましょうね」

「………………仕方ないか」

 

 間が長いよ。貴族らしくないとは言っても人の命が軽い中世ファンタジーな世界の住人だからか。とりあえず愛娘の姿で嫌だと言えば、無碍な事をしないあたりは有り難い。

 

 後ろの座席は彼らでいっぱいなので、俺とイリーナは前の席に移っている。そんな訳で父ちゃんとも話してるのだけど……正直居心地が悪い。まあ、ローブの下はなんも着けてないのだから当たり前だけど、それよりも。

 

「男爵さま、出来るだけこちらは見ないで下さいませ」

「わ、私は(よこしま)な目で見てはおらんっ!」

「邪でなくても、肌を見られるのは辛いのですよ?」

「む、むう……」

 

 少女に正論で負けるの草。

 

「そもそも、なんでユーノなんて名前を使って男装なんてさせていたんですか」

 

 イリーナが少しキツい口調で詰問する。本来身分違いで罰せられるところなんだけど、父ちゃんはそういう気質は殆ど無い。

 なので口を尖らせて黙るしか出来なかったりする。存外、メンタル弱い人なのだ(笑)

 

「イリーナ。そこは俺から説明するよ」

「ユーニスさま……」

「ちなみにそこから間違っているよ。俺はユーノ。ユーニスは別にいるんだ」

 

 と言って、身体をユーニスに明け渡す。喋りたいとウズウズしてたので勢い込んで話し出す。

 

「はーい、どもども、ユーニスでーす♪ こんなカッコでごめんね、イリーナ」

「……え?」

 

 イリーナがすごく胡乱な目で見ているのが分かる。今の俺は中継を見ている視聴者のような立場だ。差し詰め、ユーニスは実況か。コメントが流れたら配信画面と云われても納得出来る。

 

「ユーノって偽っていたのは今回みたいな事が起こるかもしれないって思ってたからなの」

 

 え?

 なんかユーニスが変なこと言うてるぞ? 俺のこと、架空の人格扱いしてやがる。父ちゃんがうん、と頷いたところを見るにアイツ、イリーナに嘘を付くつもりか。

 

「……すごい演技力なのは分かったわ。容姿もそうだけど、人格も本当に別人みたいだったもの」

「ありがと♪」

 

 ……まあ。確かにそっちの方が理解しやすいか。

 もうひとり別の人格がいるなんて聞いても、正しく理解できるとは思えない。変人か狂人扱いされてもおかしくないかも。そういう意味では父ちゃんや屋敷の連中は変なのかも、しれない。

 

『ゴメンね。たぶんイリーナにうまく伝わらないと思ったから』

『別にいいよ。間違っているわけでもない』

 

 表面上ではユーニスがユーノを演じているという事実は変わらない。俺はあくまでオマケの存在なのだ。

 

『それはちがうよ』

 

 イリーナとの会話をいきなり止めるユーニス。

 

『オマケなんかじゃないよ。あなたは大切な人。わたしがわたしでいられたのはあなたがいたからだもの』

 

 いつになく、真剣な口調のユーニス。だけどイリーナとの会話に戻ってくれない? すっごいきょとんとして見てるんだけど。

 

『もう、分かったわよぅ(プンスコ)』

 

「父さまとお師匠様が作って下さった護符には私の髪と瞳の色を誤魔化す魔術がかけられてたの」

「そんな魔術もあるんだ」

 

 『偏光(ポラライズド)』の魔術は光の波長を変えて色を変えて見せる。幻術に属する『変装(ディスガイズ)』は姿形から変えることが可能だけど、魔術が使われている事がバレる可能性がある。(魔術感知という術もあるのだ)

 その点、この術は対象の色合いを変える特性から魔術として感知されづらい。魔術でなければ解除される事はないので不測の事態にも正体を晒すことにはならないだろう。

 

「と、思っていたんだが……まさか護符が壊されるとは思わなかった」

 

 父ちゃんが俺(ユーニス)の頭を撫でながらそう呟く。

 

「あいつらは苦しみぬいて死んでもらうか」

 

「「ブッ!」」

 

 イリーナとユーニスが驚くのも無理はない。ごく自然に言うのだ、この男。普段から表情が変わらないけど、坦々と言われると怖すぎるわ。

 

「父さまっ、いきなり殺すのはダメですよ?」

「ああ、尋問を済ませてからだよ」

 

 こちらを向いてわずかに微笑む父ちゃん。一児の父とは思えんほどに格好良いのだけど……

 

「テレーゼの忘れ形見にこんな仕打ちをした罪人には、考えられ得る全ての痛みを味わってもらわなければ」

 

 昏い瞳でクックック……と笑えば、イリーナだってドン引きよ。ユーニスがていっとチョップをかまして正気に戻している。

 

「父さま。護符が壊れたのはあの者たちの所業ではありませんわ」

「では、なぜそうなったのだい?」

「それは……」

 

『ユーノ、説明出来る?』

 

 おっと、ユーニスが振ってきやがった。まあ、身体強化とか護法とかってユーニスはまだやったこと無いしな。んじゃ、代わろう。

 

『さんきゅ♪』

 

 再び意識が浮かび上がり、身体の操作権が渡される。俺たちはこうして一つの体を共有しているのだ。

 

「あの魔術師を捕まえるために身体強化を出来得る最大まで魔力を突っ込みました。身体が壊れるかもしれないから護法にも同じ分注ぎ込んで。追いつく寸前で身体強化は切れたんですけど、そのまま体当たりして魔術師を転ばしました。んで、気が付いたら服とか全部、煤になって崩れてしまったんです」

 

 出来るだけ簡潔に伝える。イリーナがよく分からなそうな顔をしているのは当然だろうけど、父ちゃんも似た感じだ。彼は目を瞑って少し頭を振ると質問してきた。

 

「……その時。周りはゆっくりに視えなかったか?」

「? そう言えば、魔術師はなんでか止まってましたね。走りながら器用な事するなぁと思いましたが」

 

 ……ガタゴト。

 馬車が僅かに揺れる音がする。

 それくらいの静寂が訪れた。え? 俺なんか余計なこと、言った?

 何だか口を挟める雰囲気でないのは分かる。イリーナもこの緊迫した空気を感じ取ったか、黙ったままだ。

 

「……ぐうぅぅ……」

「ぷっ」

『ちょっぉ! 私の姿で下品な真似しないでよぉ』

 

 そんな静寂を切り裂いたのは、俺の腹の虫だった。イリーナは吹き出すし、ユーニスは何だかお冠である。しゃあないやん、魔力使いすぎたせいか、お腹空き過ぎなのである。

 

「……そう言えば、村でパンを食べる予定だったな」

 

 心做しか少し笑っているように見える父ちゃんが、アイテムボックスを開く。

 

「いちおう用意しておいて良かった」

 

 アイテムボックスから取り出したのはサンドイッチである。パンは灰色に近いので二割ほどライ麦の混じった物だが、間には新鮮な葉っぱや肉、チーズなんかも挟まっている。ミューリお手製のサンドイッチに違いない!

 

「おおっ、父さま愛してるー♪」

「不測の事態には備えるものだからね」

 

 ユーニスの姿の時は彼女の呼び方を踏襲している。いちおうこれが二人で決めたルールだ。手を洗浄された後に切り分けられたそれを口に含む段になってユーニスが不服を漏らした。

 

『変装解けてる間は私なんじゃないの?』

『一度渡したのに戻してきたのは君のほうだろ?』

『うーん、そうだけどぉー……』

 

 まあ、いいか。一口だけ味わってから、身体を彼女に明け渡す。ほら、俺コレでも年長者だからね。

 

『ありがと、ユーノ♡』

 

 正体晒してる時はユーニスに代わる決まりだし、まあ仕方ない。にしても、パンの質自体は現世(向こう)より良くないのに何故か旨いんだよなぁ。味覚も若返ってるからなのかもしれないけど。

 

「サクサクしてて美味しい!」

 

 ユーニスもご満悦なようだ。

 そもそも、この姿で表を出歩くのはたぶん初めてじゃないかな? 違う環境で食べる食事はまた一味違うものだ。いい経験で良かったとは思う……下が真っ裸なのは、まあ不可抗力だから目を瞑ろう。

 

「イリーナ君も食べたまえ」

「は、はいっ 頂きますっ!」

 

 敬礼でもしそうな勢いのイリーナ。勢いよく食べ始めているけど、少し噎せたようだ。父ちゃんがアイテムボックスから出した飲み物をイリーナに手渡してやっている。それを見たユーニスが色めき立った。

 

「ワインですの?」

「桃の果実水だ」

「ちぇー、頂きますわ」

 

 飲むなら文句言うなよ。父ちゃんはそんなこと一言も言わずに木のマグに注いで渡してやってる。この男、本当に子煩悩である。

 

「うぐうぐ……ぷはぁ」

「落ち着いて食べなさい」

「う……はい、父さま」

「……」

 

 さすがに地を出しすぎて窘められるユーニスに、イリーナもほっこりした様子。そこへ父ちゃんが話を切り出した。

 

「さて、イリーナ嬢。ユーニスとユーノの事を知っている人間は屋敷以外ではかなり少ない」

「……そうでしょう、ね」

「ナターシアに冒険者ギルドのユッテと、師匠であるウェイルン。他に何人かはいるがいずれも信頼の置ける者たちだ。君にも彼らと同じように信頼を寄せたいと思うが、どうだろうか?」

「むぐむぐ……」

 

 静かに語る父ちゃんに、イリーナも黙って聞いている。平常運転なのはユーニスだけだ。自重しろっ

 

「それは、配下になれとの仰せで御座いますか?」

 

 イリーナが決意を込めた視線で父ちゃんを見る。あ、これは断るような感じだな。一般的に封建社会であるこの世界で、領主の命令に背くのは命がけの行動だ。イリーナはなかなかに肝が座っている。

 そこに割り込む者がいた。

 

「わたくしの友だちに何を強要するおつもりですの?」

「ユーニス……」

()の言った言葉を思い出して下さいませ。わたくしに必要なものは何だと仰っていたか。忘れたとは言わせません」

 

 ……ユーニスがマジメだ。

 滅多に見られない光景に唖然としていた俺だが、父ちゃんはすぐに行動していた。イリーナに頭を下げて謝っていたのだ。

 

「すまない、イリーナ嬢。娘のことに我を忘れてしまった。側仕えを強要するつもりも無いし、断っても罪を問うつもりもない」

「お、畏れ多いです、男爵さまっ!」

 

 自分みたいな子供に頭を下げる貴族がいるなんて有り得ない事だろう。狼狽ぶりからすぐに分かる。イリーナがわたわたと頭を上げるように促す。

 

「私などで、宜しいのですか?」

「コレが気に入っている。理由としては十分だと思う」

 

 コレ呼ばわりされて、少しだけ頬をふくらませるユーニス。だけど、内心嬉しそうにも思える。

 

「……僭越ながら、友人を拝命致します」

「固いよ、イリーナ♪」

「そうだな。それでは友人とは呼べないか」

 

 親子で言われて、少し泣きそうな顔をするイリーナ。個人的にはイイね。覚悟を決めて砕けた言葉を口にする。

 

「友だちでいていい? ユーニス」

「もちろんだよっ イリーナ♪」

 

 

 

 ちなみに。

 今回の誘拐未遂事件は彼ら冒険者パーティの独断で行われたものと、後日判明した。他の街から来た彼らがどうやってうちらの内情を知り得たのかは分からなかったけど、バカなことをしたものだ。

 

 おかげで街をうろつく事も禁止されてしまった。

 ……これから、どうしよ?

 

 




 
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