校舎内の体育館にて、第2回私立結ヶ丘高等学校の入学式が執り行われ、正式に結ヶ丘高校の2期生が迎え入れられることとなった。現生徒会長である恋が新入生に向けての祝辞を贈り、館内は盛大な拍手に包まれた。学科が普通科と音楽科に分けられているが、双方が手を取り合ってこの学校をより良いものにしたい。皆で作り上げていく学校にしていきたいと生徒会長から今後の学校運営についての意志が表明され、そのスピーチに胸を打たれる新入生が続出していた。
入学式が終了し、その後1年生は学校のことやカリキュラムについての説明を担任から受け、次は各々自己紹介の時間を設けられ、今日から同じ教室で授業を受けるクラスメイト達を知る良い機会であった。通常授業は明日から行われる予定で、午後12時を迎えた段階で放課となった。2年生はいつも通り授業が行われたが、1年生と同様に午前中で放課となっており、そのまま家へ帰宅するか否かは生徒の自己判断に委ねられている。特に部活動に所属していない生徒は学校を出ていたのだが、今日から1年生の部活動勧誘が許可される為、部活動を行っている者達は皆学校に残り、1人でも多くの新入部員を確保しようと気合いを入れて勧誘活動に臨むようだった。
結ヶ丘高校スクールアイドル部、『Liella!』も昨日皆で通話で話した通り、新入生の中からグループに加入してくれる生徒を探す為に勧誘を行う予定で、かのんは部室へ向かおうと廊下を歩いている途中、掲示板に貼られているポスターにふと目が行った。立ち止まってそれを見てみると、定期的に結ヶ丘で起きた出来事を報じる結ヶ丘ニュースという記事で、昨年の冬に行われた『ラブライブ!』東京大会にて披露した『Liella!』のパフォーマンスの一幕が大きく写っており、『Liella! 東京大会進出!!』という文言も付記されていた。暫くそのポスターを見つめていると、同じくスクールアイドル部の部室へ向かおうとしていた人物から声を掛けられる。
「あ、かのんちゃん!」
「おとちゃん! やっほー!」
かのんを呼んだ声の主は
「おつかれ! 何見てたの?」
「あぁ、これが掲示板に貼られてて……」
かのんにそう言われ、昨日までは貼られていなかったそのポスターを音羽も彼女の隣で見てみる。『東京大会進出』と記載されてはいるが、その先である『全国大会進出』や『優勝』の文言は存在しない。自分達はまだ東京大会に出場したところで止まっている。その事実を一目で実感させるこの記事に、音羽の顔から笑みが消え、真剣な表情でそれを見つめ続けていた。音羽にとって、皆を勝たせられなかった悔しさや無力感は消えない。己と向き合った末に前に進む決心は出来ており、次に開催される『ラブライブ!』の為に日々励んでいるのだが、サポーターとしての重圧は容赦なく彼を襲う。
鋭い視線をポスターに向けている音羽の隣で、かのんもまたそれに視線を移す。彼女も『ラブライブ!』という大会に思うところは幾つかあり、暫し唇を引き締めながら記事を見つめているところに、何者かに背後から肩に手を置かれた。
「おーふたーりさんっ!」
「わっ! ……ちぃちゃん!?」
「
「もう、2人揃って怖い顔しちゃってー! 後輩が逃げちゃうよ?」
千砂都は後ろからかのんと音羽の肩に手を置き、驚いた2人はすぐさま彼女の方へ振り向いた。どうやら自分達は怖いと思われる程に顔を強張らせていたのだと自覚し、かのんと音羽は両手で頬を抑える。
「うそぉ……私そんな怖い顔してた……!?」
「うぅ……気を付けないとね……」
「あんまり根詰めない方が良いよー?
千砂都はスクールアイドル部の部室へ続く階段を数段上がりながら、2人にあまり無理をし過ぎない方が良いと伝える。無論、彼女は昨年の『ラブライブ!』東京大会で敗退した事に対して悔しさもあったり悲しくもあった。しかし敗北したという事実をいつまでも引き摺っていても何もならないというのを分かっており、とにかく前を向いて次の大会に向けて頑張りたいと、早い段階で気持ちの切り替えが出来ていた。故にグループに不可欠な2人に無理をしてほしくはなく、それで体調を崩すのは本末転倒であると考えている為に2人を気遣い、励ます言葉を伝えたのだ。千砂都の言葉を聞いた音羽とかのんは頷き、階段を駆け上がって行く彼女の背中を見送った。
「僕達も部室行こっか!」
「うん! 行こっ!」
千砂都の言葉を飲み込んだ2人は顔を合わせて笑い合い、彼女の後を追うように階段を登るのだった。
「普通科が3クラスに増えた分、今年は音楽科の設備を普通科に開放することにしました!」
スクールアイドル部の部室に
「新しい部活も増えるんでしょ?」
「ええ。今までよりも多様な活動を行ってもらえたら、と。とはいえ、他の高校に比べたらまだまだこれから。部員集めは、どの部活も苦労しそうだとお聞きしています」
「そうなんだ! うちには入ってくれるかなぁ、新入生」
生徒数が増えたことに合わせて部活動の個数も増やし、より多様な活動が可能となる方針となり、その恩恵として結ヶ丘に既に存在していた一部の同好会が部活動として承認された事例も相次いだ。部員が増えればそれだけ活動の規模も大きくなり、大会や地域貢献で結果を残す可能性が高まる為、学校側としてもメリットが大きい。けれど結ヶ丘高校は新設校であるが故に部活動の個数や規模で言えば他校と比較しても未だ劣っている現状は否定出来ず、必ずしも新入生が部活動に所属してくれるとは限らないことから、生徒会が各部活動の部長に話を聞いてみると、皆『部員集めに苦労しそうだ』と口を揃えて言っていた。野球、サッカー等の球技系の運動部や、演劇、吹奏楽等の文化部でも同じとのことだった。生徒から人気を博しそうなそれらの活動でも部員が増えるか分からないという声が上がっているのであれば、スクールアイドル部も同じように新たに部員が入部してくれるか些か不安になってくる。かのんの呟きを受け、音羽は静かに椅子から立ち上がる。
「くぅちゃんとすみれちゃんが探しに行ってくれたし、僕もそろそろ勧誘に行くね!」
「おっ、良いね! おとくんに勧誘されたら、私なら『入部します!』って言っちゃうかも!」
「あははっ。そういう人が居てくれたら良いね……」
音羽は軽く笑いながら千砂都と言葉を交わす。既に新入部員探しの為に可可とすみれが動いており、先に音楽科の生徒に声掛けを行ってから普通科の生徒にアプローチをしていくという流れにするというすみれの提案に則り、今は音楽科の様子を見に行っている様子である。音羽もそれに倣い、これから新入生にスクールアイドル部勧誘の為に声掛けを行うことにした。
「おとちゃん、お願いね!」
「うんっ! 任せて! かのんちゃん達はどうする?」
「声掛けはおとくん達がしてくれるから……私達は校庭に受付窓口でも作ろうかな! それなら、興味持ってくれた新入生が来るかもしれないし!」
「たしかに……! 千砂都ちゃんナイスアイデア!」
「名案ですね!
「ありがとう恋ちゃん! じゃあとりあえず、今日はその流れで動いてみよっか! かのんちゃんも準備と、受付やってもらえる?」
「もちろん! 私達も勧誘頑張ろう!」
「お互い頑張ろうね! それじゃ、いってきます!」
新入生への声掛けは音羽達に任せることにして、かのん達は外でスクールアイドル部の受付窓口を作る運びとなった。受付を設けることでスクールアイドル部に興味を持った生徒が来てくれるかもしれないとなると、作ってみる価値は充分にある。音羽は明るい声音で皆に一声掛けてから部室を出て、新入生に入部してもらう為に気を引き締めて勧誘を行おうと張り切りながら歩くのだった。
「……どう? 逸材はいそう?」
一方その頃。
「全員、すみれよりは上デス。ソモソモ音楽科なのデスよ」
「音楽科だからって上とは限らないでしょ。私はショウビジネスの世界で……」
「グソクムシ」
耳に胼胝ができる程に聞いたすみれの口癖を遮るように可可は真顔で一言そう呟き、彼女は普段からあまり言われたくない単語をここでも出されたことに腹が立ち、可可の肩を激しく揺らして怒りを露わにした。
「言うなぁっ~!!」
「うわっ! 危ないデスぅ~!」
「あんたが怒らせたんでしょうがっ!!」
すみれが大声で可可に怒鳴り、且つ可可が前のめりになったことで音楽科の生徒に2人の姿が目に付き、何事かと思い視線を向ける人がどんどん増えて行く。その中で、生徒の1人が彼女達に見覚えがあったようで、指を差しながら近くに居た女子生徒に問い掛ける。
「あの人たち……『Liella!』?」
「ん? あ……多分そうだよね?」
「勧誘かな?」
「あー……目付けられても困るし、近くに居ないようにしよ……」
「そうだね……申し訳ないけど」
「ねー。行こ行こ」
可可とすみれが来ているのを目にしたことで続々と音楽科の生徒達が集まって会話が始まるも、すぐに生徒達は散らばって歩き始め、2人がじゃれ合いをしている頃には既に人の気配が跡形もなく消えていた。
「あっ……! ちょっと! 誰もいないじゃない!?」
「えッ……こうナッタラ……すみれ! イマからグソクムシダンスで音楽科の生徒を集メルデス! あのキバツなダンスを使って、ミンナの目を引きマショウ!」
「あんた……後で覚えときなさいよ……」
周囲に生徒が居なくなってしまったこの状況でもまだグソクムシという単語を擦る可可にすみれは眉間に皺を寄せながら静かな怒りを心に宿した。
結ヶ丘校舎内の廊下にて。放課となり自由行動となった
「スクール……」
「アイドル?」
「うわぁっ!?」
メイの隣には偶然通りかかった普通科の女子生徒である
「おまっ……急に現れるなよ! びっくりするだろ!?」
「ご、ごめんなさいっす! つい……」
きな子はしゅんとした様子でメイに謝り、軽く頭を下げた。きな子が急に現れたことでたしかに驚きはしたが、彼女に悪気があった訳ではないのは言動と態度から分かった為にメイはすぐにきな子を許し、1歩近付いて少し距離を詰めた。
「まぁ、良いけどさ……」
「これって、かのん先輩がやっている部活っすよね? 興味あるっすか?」
「いや、私は別にっ! ……ん? お前まさか、
きな子が『Liella!』に所属している澁谷かのんのことを『かのん先輩』と呼んだことが引っかかり、メイはかのんと知り合いなのかと彼女に確認する。するときな子は頷いて、声を弾ませて返答する。
「はいっ! 家まで送ってくれて、スクールアイドル部にも誘ってくれたっす! あ、音羽先輩にも『待ってる』って言われたんすよ!」
きな子がそう言った瞬間、メイの持つ青い眼が大きく開かれた。
「は……? スクールアイドルに……誘われた……!? しかも、
メイは信じられないと言わんばかりにきな子が今言った言葉を声を震わせながら復唱した。それを耳にした周囲の生徒達が一斉に立ち止まってきな子の方を向き、『あり得ない』といった様子で皆驚いていた。
「ええっ!?」
「うそ!」
「すごい……」
「あの人が……スクールアイドルに……」
「信じられない……!」
「マジかよ……」
「よく見たら、あの子かわいいじゃねぇか……! けっこうアリじゃね……!?」
「えっ? え……?」
きな子は目を丸くして集まってきた生徒達に目線を移す。皆等しく驚いた表情をしており、口をぽっかり開けている者や、手を震わせている者。驚き過ぎて声が出ていない者。様々な反応を見せている生徒達を見て、きな子は顔を引き攣らせる。
「え……きな子、何かまずいこと言っちゃったっすか……?」
この状況をよく飲み込めていないまま、彼女は冷や汗をかきながら小さく首を傾げるのだった。
「あは……あはは……あはははぁ……誰も……来ない……?」
かのん達がスクールアイドル部の受付窓口を制作し、受付として座って新入生が来るまで待機すること数時間。外は引っ切りなしに生徒が歩き回り、その中に新入生も沢山居る筈だというのに、スクールアイドル部の窓口に声を掛ける生徒は誰1人として居なかった。こんなに待ち続けているにも関わらず興味を持った生徒が誰も来ない現状に、放心状態になっていたかのんが我に返り、両隣に座っている可可とすみれにひどく焦った様子で捲し立てる。
「えっ……ええっ!? どうして!? どうしてッ!?」
「すみれが音楽科の校舎でサワグからデス」
「はぁ? あんたもでしょ!」
「ひぇぇぇ……」
新入生の勧誘から帰って来ていた可可とすみれがかのんを真ん中に挟んで言い合いを始め、彼女は誰も受付に来ない驚きと2人の喧嘩の恐怖が混ざったような奇声を発した。『Liella!』の知名度は前と比べてかなり上がっている筈なのに入部希望だと申し出る人が誰も居ないというのは流石に予想外であり、かのんはがっくりと項垂れ、額を机の上に落とした。受付窓口の付近で通りかかった生徒にチラシを配布していた千砂都と恋が一旦かのん達が居る方へ戻り、3人を励ます。
「まぁまぁ。落ち込むのは早いよ」
「でも、他の部はそれなりに新入生が集まっているようです。不思議ですね……」
恋は付近を通りかかった生徒から話を聞くことが度々あり、順調に新入部員が増えている旨の報告を受けていた。他の部活動では部員か集まり始めているのにスクールアイドル部には誰も来ないというのは恋の言葉通り、不思議としか言いようがない。5人が何故新入生が来ないのかを考えて唸っていたその時、前方から小さく声が聞こえてきた。
「あ……皆ぁ〜! ただいまぁ……わっ……ととっ!」
何者かが受付窓口によろよろと歩きながら近付いて来ているのだが、大量の物を両腕で抱えていて顔が隠れており、誰なのかが分からない。受付に来たところで足を止め、その人は肩で息をし始めた。
「はぁ……はぁっ……」
「えっと……誰……?」
「あぁ……あはは……僕だよ……」
「えッ……!? おとちゃん!?」
顔が見えないが故に誰かとかのんに問われ、音羽は苦笑を溢しながら横から顔を出し、来たのが音羽だと分かった瞬間にかのんは勢い良く椅子から立ち上がった。何故か音羽の髪には女性物のヘアピンや髪飾りが付いていたり、腕に大量の物を抱えていたり、『Liella!』メンバーの中で最も様子を変えて戻って来た。
「お、お疲れ様です……音羽くん……」
「ありがとう……恋ちゃん……」
「どこからツッコんで良いのかわかんないんだけど……まずそのお菓子はなんなのよ!? とんでもない量じゃない!?」
「えっと……声を掛けた新入生の人達がくれて……中には僕のファンだって言う人も居て……その人達が特にたくさん……」
音羽は静かに長机に貰った菓子を置くと、ばらけた菓子が机全体に広がり、あまりの量に一同は息を呑んだ。
「こ、こんなに……!? じゃ、じゃあ! 入部するって言ってくれた人いたんじゃない!?」
「それが……『入部はちょっと……』とか、『考えさせてください』って言う人が大半で……でも、応援はしてるから受け取ってほしいって、お菓子とか色々くれたんだよね……」
これだけの菓子を貰えたという事は、もしかしたら入部希望の人が居たのではないかとかのんが期待を込めて音羽にそう聞いたところ、実はそういうことではなかったようで、大半の生徒達は『Liella!』のことを応援はしているのだが、入部をする気はないと断られるのが大半であったと音羽は申し訳なさそうにそう口にした。
「そうなのですね……それと、音羽くんの髪に付いているその飾りは……?」
「あぁ、これもファンだって言う人が『絶対似合います!』って渡してくれて……せっかくくれたのに付けないのは申し訳ないから……あと、一緒に写真撮りたいって言ってくれる人も多くて……1人1人撮ってたらすごい時間経っちゃってて……目標の半分くらいしか声掛けれてないんだぁ……ごめんね……」
「うーん……それだと勧誘というより、ファンサービス……?」
「あんたねぇ……ホント断るってこと知らないんだから……こっち来なさい、外してあげるから」
「すみれちゃん、ありがとう……」
どうやら音羽が付けていた髪飾りも新入生から受け取った物らしく、彼が持つ優しさや配慮から貰った髪飾りを全て付けていて、尚且つ普段髪飾りを付けることがないからか付け方も不恰好であるが故に彼の髪は滅茶苦茶な状態となっていて、それを見かねたすみれが新入生の勧誘で疲労した音羽を気遣い、彼の代わりに付けられていた髪飾りをテキパキと外していった。入部希望の生徒が1人も居ない現状だが、音羽が懸命に新入生に声を掛けていたのは疑う余地は微塵もないものの、彼の性格上頼まれたら断れない気質により声掛けした生徒に写真撮りを求められたら無下にせずしっかり対応していたことから、千砂都の言葉通り勧誘というよりはファンサービスのようになってしまっていたようだった。
暫く動かずにじっとしていたことで息を整えた音羽は先程新入生から何度か質問された内容を皆に聞いてみることにした。
「そうだ。一応聞いておきたいんだけど、サポーターも募集する予定だっけ?」
「うん? サポーターならおとくんが居るし、増やすつもりはなかったけど……どうかしたの?」
千砂都が音羽の問いにそう返し、サポーターは音羽1人で事足りている為新たに募集するつもりはないことを伝えた。すると音羽は顎に手を当てながら言葉を紡ぐ。
「あ、そうなんだね。新入生に声掛けてる時に、何人かの男子生徒から『サポーターは募集してますか?』って聞かれてさ」
「……ふーん。それで?」
千砂都は眉をピクリと動かした後、音羽に続きを話すように促す。
「僕はステージに立つ人を募集するって認識だったから、一旦皆に確認してから答えるって伝えて保留にしてるんだよね。サポーターの募集はどうするかちゃんと聞けてなかったから、確認しておきたくて!」
「あー……おとくん、その男子生徒達……入部したいって言ってた?」
「なんか、スクールアイドルをやるのは荷が重いけど、サポーターとしてなら入部したいって言ってたかな。スクールアイドルになってもらえないか誘ったんだけど、どうしてもステージには立ちたくないって。どっちが楽とかはないのに、何でサポーターの方が良いんだろうね?」
音羽は男子生徒達に言われたことを全て皆に共有した。その男子生徒達はあくまでサポーターとしてであれば入部したいと言ってはいるが、スクールアイドルになる事は拒否しているようだった。ステージに立つ者も、スクールアイドルをサポートする者も、同じとは言えないがどちらも決して楽ではないし、どちらの方が楽ということもない。それなのにスクールアイドルではなくサポーターを希望する理由がよく分からず、音羽は首を傾げていた。だが、音羽以外の5人はその男子生徒達が何故サポーターを志望するのか薄々察しがついていて、特にすみれは明らかに不愉快そうな顔を見せていた。千砂都は皆の意思を確認する為、数分だけ話し合いをすることに決めた。
「なるほどねぇ……おとくん、ごめん。ちょっとだけ待っててくれる? 一応皆と話し合って、すぐ答え出すから!」
「……? わかった! 待ってるね!」
「ありがと! よし、皆集合っ!!」
千砂都は音羽に笑顔でお礼を言い、かのん達4人を音羽から少し離れた場所に集まるように伝えると、すぐに5人が1箇所に集合し、話し合いを行えるようになった。円形に集まったスクールアイドル部のメンバー5人で、音羽が話してくれたサポーターの募集についての会議が始まった。
「おとくんが言ってた男子生徒達……どう思う?」
「100
「か、確実にそうだと決め付けるのはあまり良くないですよ……たしかに、少々怪しさを感じるのは否めませんが……」
「ククも引っかかる部分がありマシタが、本当にスクールアイドルをサポートシタイと思ッテいるカモしれマセンよ!」
「うーん……だとしても、おとちゃんと同じかそれ以上に私達のことを考えてサポートしてくれるかって考えると……」
「申し上げにくいですが……知識と技術の面だけで言えば、間違いなく音羽くんより劣るでしょうね……」
「だよねぇ。おとくん並にしっかりサポートしてくれる人ってなかなか居ないだろうし、申し訳ないけど……私もすみれちゃんと同じく下心があって入部したいって言ってるんじゃないかって思っちゃったなぁ……」
「えぇ……もしそうだとしたら、正直すっごい嫌だ……そんな軽い気持ちでサポーターやりたいって言わないでほしいし、下心があるんだとしたら尚更だよ……」
「音羽にサポーターでいてもらってるのは、あの子の人柄が良いのと……私達のことを誰よりも考えてくれてるからだし、技術面でも信用面でも……私はサポーターを新しく入れるのは反対。反対ったら反対よ」
「イチドその人タチに直接話を聞いてミルというのはドウデスか?」
「仮に話したとしても信用できるとは思えないし、時間の無駄よ。じゃあ聞くけど、あんたは私達の着替えを覗いたり、変な目で見てくる可能性がある奴を入部させても良いって訳?」
「ソレは……嫌デス! ダンコキョヒデス!!」
「断定はできませんが……もしそうなのだとしたら入部させる訳にはいきませんね……覗き行為はれっきとした校則違反ですし、場合によっては停学や退学処分もあり得ますから」
「怪しさは拭えないし、私達だけじゃなくてこれから入部してくれる人達の為にも……被害が出る可能性はない方が良いから、サポーターは募集しない方向でいきたいかな。私達にはおとくんっていうスーパーサポーターがいるんだから!」
「そうだね。私はちぃちゃんに賛成。男子でも女子でも……サポーターは新しく入れなくて良いと思う。それに……他の男子は何考えてるかわかんないし、ちょっと怖いから……」
「それもそうですね……では、サポーター志望の方に関しては全員お断りしてもらうように音羽くんに伝えましょうか」
「デスね。クク達には音羽がいマスし、ククもミンナの意見に合わせマス!」
「何かあってからじゃ遅いからねぇ……皆の意見も揃ったし、おとくんのところに戻ろっか!」
数分の話し合いの末、5人の意見が一致。かのん達は大急ぎで音羽が座っている場所まで戻り、彼は皆が帰ってくるスピードに少し驚きながらも笑顔で一同を迎えた。
「皆! おかえりー!」
「おとくんただいま! 待たせちゃってごめんね!」
「ううん! 大丈夫だよ!」
「それでね、さっきおとくんが話してくれたサポーター募集の話なんだけど……その男子生徒達に、『今は募集するつもりはない』って伝えてもらえるかな? それと、もし他にもサポーターやりたいって人が居たら……全員お断りでお願いして良い?」
「う、うん……わかった! 募集、しないんだね」
音羽は千砂都にそう言われ、頷きながら同意する。やはり新たなサポーターを募集しないと皆が決めたのなら音羽はそれに合わせるつもりであったし、5人の判断に異論はないようだった。
「サポーターなら音羽で間に合ってるしね。後輩からサポーターやりたいってグイグイ来られても、絶対断んなさいよ! どんなに言われても『募集してないです』って強気で言うこと! 良い!?」
「はっ……はいっ!」
音羽は人から何かを頼まれたり強く迫られると断れない性分であるのをよく知っているので、すみれは彼に新入生から『サポーターになりたい』等と強く言われたり押し切られそうになっても絶対に募集はしていないと伝えるように念押しする。すみれがそこまで新しいサポーターを加入させたくない理由はよく分からないが、そこまで言うのであればそのようにするべきだと感じた音羽はすみれの言葉を飲み込み、彼女の指示を了承した。音羽が想定よりすんなり納得してくれたことに皆は安堵しつつ、かのんが更にフォローを入れる。
「そうそう! サポーターはおとちゃんだけで充分……いや、充分すぎるから!」
「そうかな? かのんちゃんがそう思ってくれるなら……嬉しい!」
音羽はにこりと笑い、かのんも音羽に合わせて笑顔を見せる。人間関係でも、他者に何かを任せる上で最も大切なものは信用であり、音羽はとうにかのん達5人から信用を得ている。技術や知識も確かに物事を任せる上で重要な要素の1つだが、それ以上に肝要なのはその人をいかに信頼できるかどうかだ。一般的に他者から信用さえ得られていれば結果が伴わなくとも、たとえ技術の面で劣っているとしても、頼み事を任される場合が多いものである。
音羽とかのん達、謂わばスクールアイドルとそのサポーターの関係は約1年という月日で築き上げてきたものであり、新入生とかのん達にはそれがなく、新人であれば知識と技術の面でも素人同然と言える。ましてや生半可な気持ちでサポーターを志望したり、スクールアイドルと関われる、上手くいけば恋愛関係に発展させられる……等といった下心を持って部に近付かれるのは言語道断である。色々な可能性を考えた上で、サポーターを募集するのは危険だという判断に至った。自分達といずれ入部してくれるであろう後輩の為にも、万が一でも被害が及ぶ懸念は最初から無くしておくに越したことはない。仮に技術だけを考慮してサポーターを加入させるのであれば、最低でも音羽と同等かそれ以上の熱量と技術を持った者でなくてはならないのだが、それがどれだけ少ないかというのは皆深く思考するまでもなく分かることで、そういった面でもサポーターとして後輩を入部させるのは視野に入っておらず、進んで募集しようとしなかったのはそれが起因している。何はともあれ、サポーター周りの話が纏まったので、一同は再度何故スクールアイドル部に入部希望の生徒が居ないのかを暫く考えていた。しかし、どうも原因がはっきりと分からずに居た。
「うーん……応援してくれてる人はたしかに居るはずなのに、何で入部には繋がらないのかな……」
音羽が頭を悩ませている様子を見て、可可がガタッと音を立てながら椅子から立ち、皆に声を掛ける。
「ココで考えてイテモしょうがナイデス! 気を取り直シテ、勧誘を再開シマショウ!!」
「あっ、ちょっ……待ちなさいよ! もうっ……!」
考えるよりもまず行動に移そうと決心した可可は猛スピードでどこかへ走り去って行き、すみれが勧誘に使用するプラカードを持って可可を追いかけていった。その場に残された4人は、互いの顔を見合わせる。
「行っちゃった……たしかに、ここで考えてても何もならないか。それじゃあ、私達もできることをしよっか!」
「だね! おとちゃん、恋ちゃん! 私達も行こっか!」
「うんっ!」
「ええ。再び勧誘を始めましょう!」
一抹の不安はあるが、勧誘活動はまだ始まったばかり。嘆くのも諦めるのもまだ早い。音羽達は校舎内でまだ声を掛けていない生徒に対象を絞り、再度それぞれの場所へ分かれて勧誘活動を始めるのだった。