全速力で結ヶ丘高校普通科の校舎に移動した
「アノー……ソコの道行く新入生タチ! スクールアイドルに興味ハッ!?」
可可は普通科の女子生徒2人組にスクールアイドル部に入部してもらえないか聞くと、2人の女子生徒はみるみる顔を引き攣らせていき、可可に申し訳なさそうに目線を向けた後に背中を向ける。
「「しっ……失礼します〜〜!!」」
「あァッ……! 待ってクダサイ〜〜ッ!!」
可可の引き留めも虚しく、女子生徒達は一目散に走り去って行った。ただ入部を断られるだけならまだしも、逃げられてしまうのは何か自分達に問題があるのではないかと可可は考える。自分達は勧誘を行ったに過ぎない筈なのに、新入生から距離を取られているような態度が見受けられ、その原因であると感じたことをボソッと呟く。
「ヤハリ……すみれが問題デスね……」
「どうしてそうなる……」
何故か自分に原因があるかのように責任転嫁されたすみれは冷静に突っ込みを入れる。すみれだけが問題ではないのは目に見えて分かることで、可可も冗談で口にしたものである為それ以上は言葉にせず、即座に気持ちを切り替えた。
「トニカク! 行動あるノミッ! ゼンは急げデス!!」
「だから待ちなさいったら待ちなさいってばぁ〜!」
またもや凄まじい速度で駆け出した可可をすみれが全速力で追いかけ、2人はスクールアイドル部の部室へ到着した。可可は部室の物置きから入学式の飾り付けの用途で念の為購入しておいた材料を引っ張り出し、すみれが若干引いてしまう程に手際良く新入生勧誘の為の品を作成し、瞬く間にそれが完成。可可は出来上がった物を右腕に抱えて屋上のドアを勢いよく開いた。
「あんた……何するつもり……?」
「こうスルのデス! タァッ!!」
可可は屋上の柵から『Liella! Welcome』とカラフルな文字が記載された巨大な横断幕を下げると風に煽られてそれがふわりと揺れる。一目で新入生の注目を集められる策として、大々的に『Liella!』の広告を行う事を思い付いた可可は横断幕を用いて新入生の興味を引くことを決め、普段から行っている物作りの才能を十二分に発揮し、短時間でスクールアイドル部の勧誘を加速させられる状況を作ったのだった。
「コレでヨーシッ!」
「どうしてこんなもん次から次へと作り出せるのよ!?」
「可可ちゃん!? どうしたのこれ!?」
風に靡く横断幕を見ながらすみれが可可に疑問を呈する。いくら彼女が物作りが得意とはいえ、入学式の飾り付けや今回の横断幕にしても、物を製作する手際が半ば異常とも言える速度で、今日の朝からすみれは可可の行動に度肝を抜かされるばかりであった。巨大な横断幕を目にしたかのんも小走りで屋上に入って来ており、何事かと思い状況を問う。
「かのん! 見てクダサイ! コレさえアレバ……新入生に注目サレルこと間違いナシデス! 明日にナレバ、きっとタクサンの人が集まりマスよ!」
可可は自信満々にかのんにそう伝えると、隣に居るすみれは眉を顰めながら肩を竦める。それで新入生が集まるのなら苦労はしないと彼女は思わず口に出しそうになったが、可可が折角自分達『Liella!』の為に行動を起こしてくれた事に対してつべこべ言うつもりにはなれなかった。
「だと良いけど……」
かのんは可可の言葉に同意しつつ、そうなれば良いなという面持ちで返答する。横断幕を降ろした事でどうなるかは明日になってみなければまだ分からない事柄であり、今から心配していてもどうしようもない。とりあえず今は事態が良い方向へと進むことを祈りながら、かのんは風に揺れる横断幕を見つめるのだった。
「……えっ? 募集してない?」
「はい……申し訳ないんですが、スクールアイドルの皆に聞いたら、募集する予定はないって……なので、サポーターの話はお断りさせていただきます! ごめんなさいっ!」
その頃。
「いやいや……募集のポスターに誰でも歓迎って書いてあるじゃないっすか!」
「それは……スクールアイドルとしてだったみたいで……」
「だったら最初から『サポーターは募集してません』って書いときゃ良いじゃないすか! 変に期待持たせるような書き方すんのやめてもらって良いすか?」
「ご、ごめんなさい……僕の確認不足で……」
音羽は強めの語気で怒る男子生徒にもう1度頭を下げて謝罪する。その男子生徒に当てられたのか、残りの2人も音羽に詰め寄る。
「ってか、サポーター募集してないって言いますけど、何か理由とかあるんですか? 先輩1人じゃなくて俺らも皆さんのサポートした方が良いと思うんですけど」
「えっと……僕も理由は詳しく聞けてなくて……」
「は? 何ですかそれ。募集してないって言うならせめて俺らが納得できる理由を教えてくださいよ。ただ『募集してない』の一点張りされんの気分悪いんですけど」
「そうですよ! 俺達のサポーターになりたいって気持ちをちょっとくらい汲んでくれたって良いじゃないですか! なんとか言ってくださいよぉ先輩?」
「ごめんなさい……その、言葉を返すようで申し訳ないんですけど……本当にサポーターは募集してなくて……でもきっと、スクールアイドルの皆はちゃんと考えて……」
「いや、だからさ……サポーターを募集してないのは何でですかって聞いてんのこっちは! 『ごめんなさい』じゃなくてさぁ、理由教えてくんないと話にならないでしょって! 俺達の言いたいことほんとにわかってます?」
「ひぃっ……!」
サポーターを募集しないという判断に至った理由を詳しく皆から聞けていない為、曖昧な言葉しか返すことが出来ない音羽に対し男子生徒は怒気が込められた口調で食ってかかり、彼を廊下の壁に追い詰める。すみれの指示通り、音羽はどれだけ言われてもサポーターは募集してないと伝えるようにしていたのだが、男子生徒は一向に納得せず、自分達より1つ上の先輩である音羽に対して強気な態度で責める。
「俺らで『Liella!』の皆さんをサポートしたいって言ってるのに……その気持ちも全部無視なんすね。あんたらってそういうこと平気でするんすか?」
「ち、違っ……僕達は……」
「違わねぇだろうがよ!!」
「ひっ……」
音羽の返答に苛立った男子生徒はついに周囲の人目も憚らずに怒鳴り、音羽は3人の生徒に追い詰められている恐怖で萎縮する。徐々に声も小さくなって行き、こちらがどのように言っても理解を示してもらえずに相手の怒りが増大する一方の状況に、音羽はなす術なく肩を震わせるが、なんとかこの状況を打破する方法を思い付き、それを恐る恐る言葉にする。
「じゃ、じゃあ……僕から何でサポーターを募集しないことにしたのか皆に確認してみるので……少し待ってもらえま……」
「いや、良いです。ちょっと先輩じゃ話にならないんで、俺らで直接『Liella!』の人達に理由聞いてみますわ。直談判しに行く方が手っ取り早いので。なぁ、お前ら?」
音羽の言葉を男子生徒は容赦なく遮り、彼とでは話にならないと判断した3人はステージに立つ『Liella!』の5名に直接サポーターを募集しない理由を聞きに行く事を決めたようで、生徒の1人は2人にも同意を求める。
「そうだよな。最初からそうしとけば良かったな。時間の無駄だったわ」
「だなー。さっさと行こうぜ」
残り2人も即座に『Liella!』へ直談判を行う事を承諾し、音羽を一瞥することもなく足早にその場から立ち去ろうとした3人に音羽は急いでその行為を止めようと手を伸ばした。
「あっ……ちょっ、待ってっ……」
「お待ちなさい。そこの新入生達」
「あ?」
背後から音羽ではない何者かに呼ばれ、男子生徒達が怠そうに振り返ると、髪を後ろで1つ結びにしており、自分達が着ている紺色のものとは違いもう1種類存在する結ヶ丘の純白の制服に身を包んだ男子生徒が音羽の側に立っていた。その生徒の名は
「あなた、誰です?」
「別に名乗るほどの者じゃないわ。通りすがりの……音羽ちゃんのオ・ト・モ・ダ・チ。かしら?」
「美麗さんっ……!」
「音羽ちゃん、大丈夫? 暴力とか振るわれてない?」
「う、うん……僕は大丈夫……」
「そう。それなら良かったわ」
美麗は音羽が無事かどうか確認し、彼から特にあの3人の新入生から暴力は振るわれていない旨を聞いて安堵したように笑う。その後すぐに男子生徒達の方へ向き直り、腕を組みながら彼等に怒りを滲ませた表情で睨んだ。
「見てたわよ。アナタ達が音羽ちゃんをめーちゃくちゃに詰めてたの。『Liella!』のサポーターを募集してないのがそんなに不満?」
「当たり前でしょ。何の説明もなしに募集してないって言われたらイラついて当然じゃないですか?」
「理由はどうあれ、募集してないって言うんだったら了承するのが筋じゃない? サポーターを募集しないってことは何かしらの事情があるんだって普通に考えたら分かりそうなものだけれど。なのに複数人で先輩に詰め寄って……みっともないわよアナタ達」
「は? いきなり現れてなんなんすかあんた。あんたは『Liella!』の何を知ってんすか?」
「アタシはスクールアイドル部に入ってないから内情までは詳しく知らないけど、音羽ちゃんから色々話聞いたりしてるから、それなりにはわかってるつもりよ。というか、サポーターになりたいって簡単に言うけど……サポーターが普段どんなことしてるか、ちゃんと知った上でそう言ってる?」
「あん? 知ってるに決まってんだろ。ナメんな」
「じゃあ今ここで言ってごらんなさい?」
互いに一歩も引かずに美麗と男子生徒は口論を繰り広げる。その様子を、音羽は驚いたように静かに見つめていた。
「そりゃ……スクールアイドルの練習を見守ったり、飲み物渡したり、大会の時に荷物持ったりとか。そういうことをするんだろ?」
「……くふっ。ウフフフッ……」
「な、何がおかしいんだよ!?」
「あぁ、ごめんなさい。威勢良く『知ってる』って言ってた割に出てきたのがその程度のあっさい認識でびっくりしちゃって。そんなレベルの子が『Liella!』のサポーターになりたいだなんてホント、可笑しくって! ウフフッ……」
「何だと……?」
笑ったことにより目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った後、美麗は真剣な表情を作り、男子生徒達に言葉を返す。
「『Liella!』のサポーターの音羽ちゃんは、今アナタが言ったことよりもずっと色んな仕事をしてる。皆に最適な練習メニューを作って、ダンスの振り付けもして、メンバーのメンタルケアを欠かさずにして。より高みへ行く為に適宜アドバイスもして、時には作詞や作曲だってしてるのよ? 『ラブライブ!』の優勝を目指してるグループのサポーターは、これ程のことを毎日欠かさず続けるの。アナタ達は……それらのことを過不足なくできるって言える?」
「そこまでするのかよ……」
「作詞や作曲までするなんて聞いてねぇぞ……?」
「しかも毎日って……俺、そこまではちょっと……」
美麗は音羽から色々と話を聞いていたが故にサポーターが普段どんな事をしているのかある程度知っており、自身が聞いた範囲で音羽がサポーターとして行っている仕事を彼等に伝えた。今美麗が口にしたこと以外にも音羽がもっと沢山の仕事をしているのは容易に想像がつくし、運動部のマネージャーがしていることのごく一部しか知らない程度の認識で『Liella!』のサポーターを志望していたという事実が露呈し、美麗は己の予想が的中した事ににんまりと口角を上げる。
「ほら見なさい。言えないわよね。その程度の生半可な覚悟で『Liella!』をサポートしたいだなんて……片腹痛いわ。この際だから言うけど、アナタ達ホントは
「えっ……?」
音羽は小さく声を出し、男子生徒達3人を見やる。美麗はちらりと音羽に視線を移してから、その3人の本当の目的を暴く為に踏み込んだ内容の問い掛けを行うことを決める。
「アナタ達はサポーターになりたいって言う割に、そのサポーターって役目に対する認識も意識も低すぎる。だから『Liella!』をサポートしたいってのは体の良い建前で、スクールアイドルとお近付きになりたいとか……そういう醜い下心があるんじゃないかと思って。……どうなの?」
表情を固くし、美麗は男子生徒達と少しずつ距離を詰めていく。
「ちっ……近寄るな! じゃねぇと動画を証拠にして……ぐぁっ……!」
美麗に1歩ずつ近付かれた男子生徒は焦った様子でズボンのポケットからスマホを取り出し、一連の出来事を動画に収めて恫喝の証拠にしようとした瞬間に美麗はやや強めに男子生徒の手首を掴み、キッと彼を睨み付けると、美麗のあまりの気迫と手首の痛みに耐えられずにスマホを床に落としてしまう。美麗は床に男子生徒のスマホが落ちたのを確認すると、すぐさま手首から手を離し、落ちているスマホに手を伸ばして掴んだ後、ロックが解除された画面を軽快な指捌きで操作し、写真フォルダを開いた。
「ちょっ、やめっ……!!」
「ちょーっと懸念があったから、念の為ね。それじゃァしつれ〜い。……あら? あらあら? ウフッ。これ、何かしらねぇ……?」
「あ……!」
またも悪い方向で美麗の予想が当たったようで、彼はスマホのフォルダに収められていた大量の写真をちらつかせる。
「これ、どう見ても
「や、やめっ……返せっ!」
美麗は男子生徒をひらりと躱しながら画面をスクロールしていく。フォルダに入っていたのはどれも『Liella!』のメンバーであるすみれの写真であったが、そこに写っているすみれは水着等の肌の露出が多い格好ばかり。美麗は彼女と面識があり、時に言葉を交わすこともある為すみれのことも多少分かっている。すみれは確かにSNSを頻繁に使用し、投稿もほぼ毎日行っているが、注目を集めたり支持を得たいからという理由があっても、SNSに自分の過激な姿は決して発信しない。美麗の知る平安名すみれは、そのような人物であった。注目を集めたいという願望はあるようだが、元々すみれは芸能界で活動していたこともありネットリテラシーはしっかりと備わっていると認識していた。故に、男子生徒が大量に保存していたすみれの破廉恥な写真は全て偽物であり、精巧に作られたコラージュ画像だと美麗は確信した。
「見た感じ、そこの2人も同じことやってそうね。これ、悪趣味にも程があるし量も多いから……趣味を通り越して悪いコトに使ってるようにも見えるわねぇ。仮にこういう画像を他の人に売ってお金儲けとかしてるんだったら、しーっかり法に触れることになるんだけど。下手したら退学モノよ? アナタ達って……普段からそういうコト平気でしてる訳?」
「うぐっ……」
「バカが……絶対バレねぇって言ってたのに……!」
「クソっ……しくじりやがって……」
美麗の推測通り、男子生徒達は『Liella!』メンバーを基に作成したコラージュ画像を悪用しているようであった。本人の許諾を得ずに画像を加工し、それをインターネットに発信したり第三者に販売する行為は肖像権の侵害や名誉毀損罪にあたり、擁護のしようがないれっきとした犯罪である。先程音羽に向かって男子生徒がしていた聞き方の意趣返しとして美麗は普段からこのような下劣極まりない行為を平気で行っているのかを問う。3人それぞれの反応からして、美麗の思った通りであった。
「どうやら、図星みたいね。知った以上はそのまま見過ごす訳には行かないから、このことは平安名ちゃんと理事長先生に報告させてもらうわね」
「はっ……? それはやめっ……」
「やめなーい。アナタ達のせいで平安名ちゃんがSNSの発信をやめる可能性もあるし、そうなれば……純粋に応援してるファンが悲しんで、不幸になる。アナタ達がしたことはそれくらい重くて、最低な行為なのよ? サポーターの件もそうだけど……軽い気持ちで『Liella!』に関わろうとしないでちょうだい。アナタ達のせいでどれだけの人に迷惑がかかるか……少しは考えなさい」
「ぐっ……」
「クソっ……こうなったら……」
「あっ、逃げたら大きな声でアナタ達がしたことバラすわよ。こんな下衆な行為があるって、音羽ちゃんには知ってほしくないから……おとなしくしててちょうだい? アタシとのヤ・ク・ソ・クねっ♡」
「く……クソが……」
3人がこの場から逃げないように美麗は脅しをかけて男子生徒達を留める。遅かれ早かれ自分達が行った悪事は公にされるが、今ここで美麗に話されてしまえば周囲の生徒達に知れ渡り、より厄介な事になりかねないと感じた為、3人は先程まで音羽に対してとっていた強気な態度が鳴りを潜め、借りてきた猫のようにおとなしくなった。
「美麗さん……?」
音羽が今居る位置から少し離れた距離で男子生徒達とやり取りをしていた為、音羽は美麗が3人とどんな話をしているのか分からなかった。不安そうに美麗の名を呼ぶ彼の声に気付き、美麗は音羽の方を向きながら笑顔を見せる。
「音羽ちゃーん! この子達はアタシがなんとかするから、音羽ちゃんは勧誘再開してー!」
「美麗さん! 大丈夫、なの……?」
「ダイジョブダイジョブ! 全然ヘーキよ! 音羽ちゃん、誰がなんて言っても、『Liella!』のサポーターは音羽ちゃんしか居ないから! めげずに頑張ってねっ! アタシはずっと……音羽ちゃんの味方だからね!」
「っ……!」
美麗の激励を受け、音羽の胸が熱くなる。『Liella!』のサポーターは自分しか居ないと。ずっと自分の味方だと美麗から言われた音羽は顔を綻ばせ、彼に精一杯感謝を伝える為に口を動かす。
「美麗さん、ありがとうー! 僕、頑張るから! ずっとずっと、皆の為に頑張るからっ!!」
「ウフフッ。それでこそ『Liella!』のスーパーサポーター……音羽ちゃんね。さ、行くわよ。ホラ歩いた歩いた!」
「くっ……テメェ……覚えとけよ……」
「はいはい。入学早々ご愁傷様。それじゃ、理事長室向かうわよ」
何が起きたかは分からないが、美麗が男子生徒達3人を連れて去って行ったのを見て、音羽は恐怖から解放されて安堵した為か全身から力が抜け、廊下の床にぺたりと座り込んだ。心臓の鼓動が早く、身体が一気に震え出す。もしこの場に美麗が来てくれていなければどうなっていたのかと考えるだけで恐ろしい。両腕で自身の身体を抱いて暫く震えていたところに、本日入学した女子生徒が音羽に近付いた。
「あの……大丈夫、ですか?」
「あ……は、はい……すみません……」
「あっ……副会長!」
「副会長! 立てますかっ?」
「
「えっ……」
新入生の女子生徒が音羽に声を掛けたのをきっかけに、周りに居た生徒達が男女問わず音羽を心配して駆け寄り、皆が彼に話しかけ始める。
「ずっと……東先輩のファンでしたっ! いつも『Liella!』の為に努力されているところ……本当に尊敬してますし、たまにしてくれるSNSでの呟きも全部見てます!」
「俺もです! 俺もファンなんです! あんな奴らに負けないでください! きっと、俺みたいに音羽きゅんが好きな人……たっくさんいますから!」
「私も『Liella!』と東さんのファンですっ! もし、よかったら……あとでサインしていただけますか?」
「皆さん……! ありがとう、ございますっ……!」
駆け寄ってくれた女子生徒2人の介助により立ち上がることができた音羽は、自分や『Liella!』を好きだと言う人がこんなにも沢山存在していることを改めて認識する。明るく声を掛ける者、心配そうに自分を見つめる者、興奮で倒れそうになっている者。様々な人達に囲まれつつ、音羽は自分と『Liella!』を知ってくれて、好きになってくれた人達に対して誠心誠意お礼の言葉を伝えたのだった。
時刻は夕方。校内に居る生徒の数が少なくなり、校舎内や他の部活動を大方見学し終えた結ヶ丘高校の新入生、
「あ。
「ん、メイ」
メイの声掛けに気が付いた青髪の女子生徒の
「今帰りか?」
「うん」
「私も今帰るとこだ。一緒に帰るか」
「ん。帰ろう」
2人はタイミング良く合流できた為、共に帰ることで合意し、ゆっくりと歩幅を合わせて歩き始める。メイは四季が朝に結ヶ丘高校に科学部を作りたいと話していたのを思い出し、それが上手く行ったのか聞いてみることにした。
「科学部、作れたのか?」
「念の為確認したら、やっぱり科学部そのものがなかった。だから……新たに立ち上げることにした」
「そっか。先生はそれで良いって?」
「先生から許可は貰えた。科学室の鍵も貸してくれるって」
「おお……案外すんなりいくんだな、そこら辺」
「助かる。カメの飼育もさせてくれるみたいだから」
「ああ、そーいえば前に言ってたっけ」
四季の希望通り新しく結ヶ丘高校に科学部を設立することを許可されたようでメイはほっと胸を撫で下ろしながら、四季とぽつぽつ会話を交わす。四季が中学時代に亀を育てたいと言っていたことや、それについての本を読んでいたことも思い出す。中学時代の四季はどこか窮屈で、退屈そうに日々を過ごしている印象があった為、高校からは四季が自分のやりたいことを実現させられることをメイは密かに願っており、この結ヶ丘は四季の望みを叶えてくれる場所だと分かった為、メイは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「メイはどうなの? スクールアイドルには……」
「前から言ってるだろ。私はスクールアイドルにはならねぇって」
「……素直じゃないね」
「……私が、スクールアイドルになんてなれるかよ」
四季の言葉に、メイは眉間に皺を寄せながらそう呟いた。メイにいつもスクールアイドルにならないのかと四季が聞いても、興味がないだとか、スクールアイドルにはならないの一点張りで返されるのがお決まりの流れであり、その度に四季は溜息を吐いている。好きなものは好きだと、なりたいものはなりたいとそう素直に言えば良いものを頑なに本心を言わないメイのことが分からないと同時に、それが逆に関心となって四季の探究心を刺激する。何故自分の本意ではない、不可逆的な行動をとってしまうのか。感情や心というのは未だ難解で、解明されていない部分が多い。故に四季はそれを解き明かしたいと考えている。感情が分かれば、自分とは違う誰かの心を理解できるかもしれないから。未だ隣でブツブツと何かを言っているメイを見て、四季は彼女に悟られないようにクスッと笑った。
2人が歩いている少し後ろで、足音が聞こえてきた。メイがふと後ろを振り返ったことに気付いた四季も同様に目線を後ろに向けると、両腕に沢山の物を抱えた男子生徒がふらふらと歩いていた。
「あっ……あれ……東音羽さんじゃねぇかッ!!」
「知ってるの?」
「知ってるに決まってんだろ! でもなんか……髪がすげぇことになってんな……? でも素敵すぎりゅぅぅぅぅ……!」
メイは鼻息を荒くしながら音羽に熱い視線を向けるが、今の彼の髪には大量の飾りが付いており、髪型が普段と違い滅茶苦茶な状態となっていた。そんな姿の音羽でもメイにとって『Liella!』のサポーターであることに変わりはないし、魅力的であることに違いはない為、狂乱じみた声を上げていた。四季も音羽を見つめ、思ったことを口にする。
「あの人も、『Liella!』のメンバー?」
「そうだよっ! 『Liella!』に絶対欠かせない、スーパーサポーターなんだぞ! あぁぁぁしゅごいぃぃぃぃぃ……」
言葉にしたら尚更感情が溢れ出し、メイは気絶寸前となりながらも喚叫を続ける。女性と見紛う程の整った顔立ちと、美しい琥珀色の瞳。『Liella!』のサポーターとしての知識や技術、ピアノの演奏。どれを取っても非の打ち所がない逸材……それが東音羽という人物なのだが、四季は彼のことを何も知らない。どんな性格で、メイが何故こんなにも心を躍らせるのか分からない。けれど、四季は初めて音羽の姿を見た感想を率直に言葉にする。
「……
「……えっ」
たった今まで音羽とすれ違った喜びを叫び続けていたメイが、ピタリと言葉を止めた。『綺麗』。四季は今確かに音羽に対してそのように言った。髪飾りが大量に付けられていて、お世辞にも綺麗とは言い難い筈なのに。ましてや、四季が赤の他人にそのようなことを言うなど考えられず、メイは驚きながら目を見開いた。
「四季、お前……ん? おーい、四季。四季……?」
予想外過ぎる四季の発言に、メイは彼女に声を掛けたものの、返答がない。メイの声掛けに耳を傾けずに、四季は目を奪われるかのようにゆっくりと歩く音羽を暫く見つめ続けていたのだった。