NiwaNiwaさんが描く新たな星達のオーケストラの物語もぜひよろしくお願いいたします!
作品リンク: https://syosetu.org/novel/349867/
「ゼ……ゼロッ……」
翌日の昼休み。スクールアイドル部の一同は昼食を食べた後に部室に集合し、部室の入口前に設置していた入部届を集める為の箱にどのくらい届出が入っているかを確認していた。緊張しながら
「ヤハリ……原因はすみれデスか」
「だからなんで!?」
部員が集まらない原因を何故かまた自分に転嫁されたすみれは可可に勢いよく突っ込んだ。
「んー……すみれちゃんのせいではないと思うんだけど……どうしてだろ……?」
すみれの向かい側に座っている音羽がすかさず彼女をフォローし、どうしてここまで部員が集まらないのかを思考する。サポーター志望の生徒は何名か居たものの、スクールアイドルとして入部を志望する者は誰1人居ないというのはあまりに不可解であり、他の部活動では新入部員が何人も集まっているという報告が上がっているのも相まって、益々スクールアイドル部に生徒が来ない謎が深まって行く。
「いくらなんでもおかしいですよね……?」
「そうだねぇ……1年生の間で、変な噂が流れてるとか?」
「皆! わかったよ……!」
「あっ……ナナミちゃん!」
部室にやって来たのはかのんと同じクラスの普通科の友人、ナナミ、ヤエ、ココノだった。かのんはスクールアイドル部に部員が集まらないことを軽く3人に話しており、彼女達も何故1年生が『Liella!』に入ろうとしないのか気になったが故に、新入生が居る教室に出向いて聞き取りを行っていたようだった。そうして3人は1年生達の発言から、とある結論に辿り着くことに成功した。
「どうして『Liella!』に1年生が来ないのか……さっき1年生に聞いたら、やっと話してくれたんだ!」
ナナミ達は、スクールアイドル部の皆に理由を話そうと口を動かす。新入生にどんな事情があってスクールアイドル部に部員が集まらないのか。かのん達は真剣な表情で、彼女達の話にじっと耳を傾けるのだった。
「優勝候補っ!?」
「はぁ……? お前……この学校に来て、そんなことも知らなかったのか……?」
昼休み。普通科の教室にて、メイは自席に着いて物憂げな表情で窓の景色を眺めているきな子を見かけ、空いていた彼女の前の席に座って話しかけていた。昨日きな子が言っていた、『スクールアイドル部に誘われた』という発言を思い出し、メイは何故そんな顔をしているのかときな子に聞いた。『Liella!』という次回の『ラブライブ!』の優勝候補と謳われているグループに入らないかと誘われたというのはどう考えても凄い事なのに、どうして元気がないのかと問うと、きな子はひどく驚いた様子でメイの言葉に反応した。どうやらきな子は『Liella!』についてあまり知らなかった様子で、そんなきな子にメイは少々呆れながらも、『Liella!』について自身が分かっている範囲でどのようなグループなのかを彼女に説明していた。
「今年の『ラブライブ!』では決勝進出間違いなしって言われてんだぞ。『Liella!』は結ヶ丘の期待の象徴……
「は、はぁ……」
「『Liella!』のメンバーは皆、それぞれの分野ですげぇ成績を残してたり、技術がずば抜けて高いんだよ。私も、『ラブライブ!』の優勝候補になるって思えるくらいにな」
「たとえば、どんな……?」
そう聞いたきな子は、『Liella!』のメンバーはどんな成績を残しているのかを問う。自分がこの前会ったメンバー達がどのような人なのかをまだ知らない為、彼女はそれを詳しく聞いてみたくなった。メイはきな子の質問に対し、『Liella!』の6人の姿を思い浮かべながら順に言語化する。
「そうだな……
「ふむふむ……」
かのんの歌唱力は結ヶ丘高校内でも非常に評判で、度々音楽科に転科しないかと他の生徒から勧誘される程の実力を有している。恋はこの学校の初代生徒会長であり、幼い頃から様々な習い事をしていたことから生徒達から一目置かれている存在で、フィギュアスケートやバレエで培った体幹はスクールアイドルとして活動する中で惜しみなく活かされており、ピアノを演奏出来ることにより音楽面でも才を発揮する『Liella!』のエースと呼べるメンバーである。
「
「おぉっ……」
千砂都が持つダンスの技術は普通科と音楽科問わずに広く校内に知れ渡っており、ステージ上で披露されるキレの良いダンスは見る者を引き付ける。すみれは芸能界で活動していた故に人前に出る事に慣れており、自身の美貌とスタイルを遺憾なくステージ上で見せ付け、他者を魅了する。彼女がセンターポジションを務めた前回の『ラブライブ!』地区予選以降、すみれのファンが急増し、学校ではサインを求める生徒が殺到する程であった。可可はスクールアイドルを始める為に日本へやって来た筋金入りのスクールアイドルファンであり、その熱量と知識量はグループを支える一因となっていて、手先の器用さを活かしてステージ衣装や小物製作も可能且つその完成度は非常に高く、服飾の仕事を生業としている人達から高評価を得ている程だ。
「何より、音楽一家の出身で『Liella!』を手厚く支えるスーパーサポーターの
「そっ……そんなすごいんすか……!? あの人達……」
『Liella!』の魅力はステージに立つ5人だけでなく、音羽が居ることでも成り立つものだとメイは認識しており、どんな時でも『Liella!』のことを第一に考える姿勢、ピアノの演奏技術、作曲の才。音楽面においてどれも優れた実力を持つ音羽を彼女はとても尊敬していて、音羽も自分にとって憧れの人物である。メイから一通りの説明を受けたきな子はそれ程凄い実績と才能を持つ人達で『Liella!』というグループが構成されていたのかと驚愕を露わにする。
「だから、1年生の間では入部しても練習についていけないんじゃないかって皆言ってる。……まぁ、私はよく知らねーけど!」
『これだけ饒舌に話してるのに』。と少し離れた席に座して頬杖をつきながら、四季はメイに対しそのような感想を抱いた。『Liella!』をよく知っているのに、自分は詳しくない、知らないという態度を崩さない。今目の前に居るきな子くらいには素直にファンなのだと明かせば良いのに、と四季はそう思っていた。メイの言葉を聞いたきな子は真剣な面持ちで唇を引き締める。やはり、そんな凄い人達が集まるグループに自分のような素人が踏み入るべきではないのだと、彼女は再度自身にそう言い聞かせる。優勝候補だと言われている彼女達の足を引っ張る訳にはいかないときな子は改めて感じながら、メイの方を向いた。
「教えてくれて、ありがとうっす! 『Liella!』のこと、よくわかったっす!」
「いやいや。お礼言われるほどのことじゃねぇよ。あの澁谷さんから誘われてんだ。お前がやりたいなら……やってみれば良いんじゃねぇか? スクールアイドル」
「……そ、そうっすね! 考えてみるっす! あはは……」
「……? おう。私はそろそろ席戻るよ。じゃあな」
メイの言葉に、きな子は一旦考えてみると答え、笑みを見せる。きな子にそう返された時の歯切れの悪さに彼女は一瞬引っかかりを覚えたが、口にはせずに席から立ち上がり、自分の席がある四季の隣へ戻って行ったのだった。
その日の放課後。『Liella!』一同は練習を終えた後に屋上の地面に仰向けで寝そべっており、グループの今後について語り合っていた。昨日の一件を受け、勧誘用のポスターにサポーターは募集していないことを記載して取り急ぎ可可が校内で新ポスターの掲示作業を行ったことにより、新たにサポーター志望の生徒から声を掛けられなくなったのだが、問題はステージに立つスクールアイドルとしての部員の募集である。
昼休みにナナミ達が教えてくれた、スクールアイドル部に1年生が入部しない原因。それは自分達が次回の『ラブライブ!』の優勝候補だと噂され、優勝候補のグループなら普段の練習やトレーニングが過酷なのではないかと1年生同士で話していたらしく、それにより『レベルが高そう』や『練習に着いていけず置いてかれそう』等といった先入観を抱かれているのが現状で、中には『周りに先輩しか居ないから少し怖い』といったイメージを持つ1年生も存在したと聞いた。無論、皆は後輩が入部するなら手取り足取り歌やダンスを教えるつもりであり、虐めやいびりを行うつもりは毛頭ないのだが、かと言って普段の練習は楽で、誰にでもこなせるとは決して言えない。自分達でさえハードだと感じる練習メニューは、1年生であれば尚更大変だと感じるのが目に見えて分かる。入部前と後でそのギャップを感じてほしくないからこそ、今後どのように新入生を勧誘すべきかを皆で思案していた。橙色に染まり行く空を眺めながら、かのんはぽつりと呟く。
「『レベルが高そう』、か……」
「とはいえ、『練習きつくないです』と勧誘するのも……」
恋の言う通り、練習は辛くないという内容で勧誘を行って部員が増えたとしても、実際の練習はかなり大変だと感じられれば、『聞いた話と違う』と反感を買い、せっかく入部してくれた部員が退部となったり、最悪『Liella!』は嘘の喧伝を行っていると悪い噂を流されかねない為、そのように勧誘すると自分達にとってリスクの方が大きい。
「優勝、目指してるんだもんね」
「デスが、ソレでは新入部員ハ……」
千砂都は改めて、『Liella!』は『ラブライブ!』の優勝を目指しているグループなのだと皆に再認識させる。優勝を目指すからには、生半可な練習やトレーニングでは間違いなく他のグループに負けてしまう。だからこそ千砂都は音羽と共に新たに練習メニューを作り直し、毎日懸命にそれに励んでいる。だからこそ『Liella!』の練習を『楽だよ』とは伝えられない。恋の意見は正しく、皆そのことを理解しているが、可可は不安気な声音で返答する。『優勝を目指しているから、練習は大変』だと言えば、新入生の入部は望めないのではないかと彼女はそう考えた。千砂都は可可の呟きを聞き、皆に問い掛ける。
「いっそのこと……6人で頑張る?」
「えっ?」
かのんが千砂都の方を向き、どういうことなのかとすぐに彼女に聞き返した。
「それは……新入部員を諦める、ということですか?」
「寂しいけど、『ラブライブ!』優勝を目指すならそういう考え方も……」
このまま勧誘を続けても1年生のスクールアイドル部への入部が見込めないのであれば、今後は勧誘を行わずに音羽も含む計6人で活動を続けるという選択肢があることを千砂都は提示する。そうすれば本来勧誘に使う筈だった時間を練習に当てられ、お互いに理解し合える者同士で協力し、技術を高められる。方針としてはそれが最善で、『ラブライブ!』優勝に近付くことができるかもしれない。けれど、その選択をとることによる問題点にいち早く気が付いたすみれが口を開く。
「でもそれって、自己満足になっちゃうんじゃないの? 私、スクールアイドルってそういうのじゃないって聞いてたけど?」
新入生を勧誘せずに今居るメンバーで『ラブライブ!』優勝を目指すということは、言い換えれば自分達にとって都合の良い環境を作り、他の人に入部させない閉鎖的なグループにすることとも考えることができる。サポーターは音羽1人が居てくれればそれで良いとすみれは考えていて、それは他のメンバー達も同様だが、スクールアイドルの募集を止めるとなれば話は別だ。スクールアイドルはなろうという気概があれば誰でも始められるものだと可可から再三聞かされていて、すみれ自身も彼女の意見に理解を示せるようになった今だからこそ、新入部員を募集しない方針には賛同しかねるというのがすみれの意見であった。皆が話しているのを仰向けの状態で聞いていた音羽が、静かな声音で一言言葉にする。
「きなちゃんは、どう思ってるんだろう」
音羽は、先日部室に来たきな子のことを話題に出す。彼の声を聞いた恋は横に居る音羽に顔を向ける。
「
「うん。あの日、きなちゃんにスクールアイドルの話をした時、色が見えたんだ。『すごい』とか、『興味がある』とか……そういうポジティブな明るい色だった」
音羽は『共感覚』という特殊技能を有しており、自身が聴いた音を『色』として知覚することができる。メロディーとして形になっているものよりも精度は落ちるものの、他者の声を聞いてそれを色として見ることも可能である。音羽はきな子と会話した中で感じ取った色を率直に伝える。初めは自分達に興味を持っているかのような、明るい色だったと。しかし、その色が突如形を変えていた。
「でも……それがすぐもやもやした色に変わった。グレーとか、青とか……もしかしたら、自分にはできないって思ってるのかもしれない。だから昨日、窓口に来なかったのかも」
「おとちゃん……」
かのんは音羽の言葉に耳を傾け、一言彼の名を呼んだ。きな子から見えた色は、すぐに灰色等の暗い色へと変わったのだ。そこから考えられるのは、自分の中でネガティブな気持ちが渦巻いたのではないかと音羽は推察していた。昨日皆で一丸となって勧誘活動を行っていたにも関わらず、自分達に姿を見せなかったのはそれが起因しているのではないかと。音羽は胸に置いている制服のジャケットを抱く力を強めながら、自分の本音を皆に伝える。
「きなちゃんの気持ち、わかるんだ。ナナミさん達が言ってたみたいに……レベルが高いからついていけないんじゃないかとか、先輩しかいないから怖い、とか。でも……僕はきなちゃんと一緒に活動してみたい。あと1歩、もうひと押し……きなちゃんの心を動かせる何かがあれば良いんだけど……」
音羽は、きな子と一緒に活動したいと、はっきりと言葉にした。上手く言語化できないが、彼はきな子がスクールアイドルとしてステージに立つビジョンがぼんやりと浮かんできた。漠然としているが、彼女ならきっとスクールアイドルになれるという期待と信用が音羽の中に有る。故にきな子ともう1度話がしたいと願うのだが、彼女の背中を押す為にはどうすべきかを考えていた。そんな音羽を見て、彼の右横に寝そべっていたすみれが言葉を掛ける。
「じゃあもう1回、あの子にスクールアイドルの魅力を伝えるとか?」
「それも考えたけど……決めるのはきなちゃんだからね……でも、スクールアイドルをやるのに資格はいらないってこと、伝えたい。ほんのちょっとでも、1歩踏み出せば……世界が変わるんだってこと、教えられたらなって……」
「音羽くん……」
音羽が口にした持論は、皆と約1年間一緒に活動してきた中で生まれたものだった。スクールアイドルを始めるのに資格は必要ないこと、ほんの少しの勇気で、小さな1歩で、簡単に自分の世界が変化していくというのを伝えたいと、音羽は今皆と話しているうちにその気持ちが芽生えた。不安があるなら取り除きたいし、きな子の力になりたい。それが音羽の本心だった。
「また、会えるかな。きなちゃん……」
紅に染まる空を見つめながら、音羽は希うように呟いた。音羽や千砂都達の意見を聞いたかのんは、自分にも何かきな子にできることはないか、暫しの間目を閉じて考えるのだった。
「……ってことがあって。私にできること、何かあるかなぁって……」
「ふーん。たしかに、音羽さんが言ってたみたいに心を動かせる何かっていうのは大事だと思うな。それがあれば、入部までこぎつけられるかもだし」
「それがわかんないから聞いてるんだよ。どうすれば、きな子ちゃんに興味を持ってもらえるのかな……」
その夜。自宅へ帰って来たかのんは引き続ききな子に何ができるかを考えたが上手く纏まらず、良いアイデアが浮かばなかった為、1階の喫茶店の席で勉強しているありあに何か良い案はないかとそれとなく聞いてみていた。するとありあは暫しシャープペンシルを顎に当てて考えた後、一言かのんに提案する。
「見てもらえば?」
「え?」
「お姉ちゃんがどうしてスクールアイドルに夢中になるのか、最初はちっともわからなかったんだよね。何が楽しいのか、どこに熱くなれるものがあるのか……話だけじゃ全然ピンと来なくってさ」
ノートにペンを走らせながらありあはそう言った。昨年、スクールアイドル活動を始めたばかりの頃のかのんは、帰宅するなり『疲れた』としょっちゅう口にして疲弊した様子を見せていたが、その表情は何故か明るく、楽しそうだった。今まで見たことがなかった姉の姿にありあは驚かされると同時に、疑問が生まれた。何故そんなにもスクールアイドル活動に打ち込むのか。それを直接かのんに聞いて、彼女から良さを話してもらったことは何度かあったものの、それでも分からなかった。だが、そんなありあの価値観が変わる出来事があった。
「けど、実際にライブを見て……すごく感動した! だから……言葉だけだと、上手く伝わらないのかもしれないね。スクールアイドルって」
「言葉だけじゃ……伝わらない……」
ありあはかのん達がステージに上がって披露したライブを見た際に、とても心を動かされた。歌とダンスを駆使して観客を沸き上がらせ、勇気と想いを与えられるスクールアイドルという存在に強い尊敬の念をありあは抱いた。自分には縁遠く、スクールアイドルをやろうとは思わないけれど、それでもライブを見て感動し、応援したいと思えた。その気持ちは紛れもなく本物であり、ライブを見たことによりかのんが何故スクールアイドルにこんなにも夢中になっているのかを知れた。そういう経緯があるからこそ、ありあは言葉でスクールアイドルの良さを説明するのではなく、自分達のライブを見てもらった方が魅力が伝わりやすく、入部を後押しできるのではないかとかのんに伝えた。ありあの提案を受け、彼女は数秒考えた後、自信あり気な笑みを見せる。
「ありあ、ありがとう! 私……わかった! ちょっと走ってくる!」
「おー、それなら良かった……って、もう上がってる……まぁ……いっか。なんか解決したっぽいし!」
ありあは一瞬でこの場を離れて練習着に着替える為に階段を登っていったかのんに肩を竦めながらも、彼女が解決の糸口を見つけられたことに安堵し、勉強を再開するのだった。
「……きな子ちゃん。私も、きな子ちゃんと一緒に……!」
自室に戻り、練習着に着替え終わったかのんは、ぎゅっと拳を握る。きな子を後押しする為により練習を頑張ることを決意し、皆の力も借りることも決めた。新しいことを始めるのに伴う怖さも、不安も、かのんは全て理解している。自分も、昨年まではそうだったから。でも今は、その不安を取り除く方法を知っている。きな子をもう1度スクールアイドル部に勧誘し、自分達のステージを見てもらう。それを目標に、かのんは気合いを入れる為、颯爽と家を出て、自主練のランニングをしに夜の街を駆け出して行った。