星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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読んでいただきましてありがとうございます。感想、評価等よろしくお願いいたします。

NiwaNiwaさんが描くもうひとつの星達のオーケストラのお話も併せてよろしくお願いいたします!
作品リンク: https://syosetu.org/novel/349867/



#8 ようこそ、『Liella!』へ!

 程良い熱を持った夜風が吹き、そっと髪を揺らす今宵。桜小路(さくらこうじ)きな子は自宅のベランダから東京の街を眺めながら物思いに耽っていた。

 

 本日、クラスメイトである米女(よねめ)メイから伝えられた『Liella!』の話。きな子は帰宅してからそのことについてずっと考え続けており、どうするべきか思案する度に溜息が零れた。スクールアイドルの活動に興味があるのは確かで、自分にも出来たらと思いはするのだが、『Liella!』が今年の『ラブライブ!』の優勝候補だと言われていること、それ故に練習がきつく着いていけないのではないかと周囲が噂していると知り、きな子は自分が今後どうすべきなのか余計に分からなくなってしまっていた。

 

 気分転換の為、きな子は家を出て夜の街を歩き始めた。相変わらず人の流れが激しく、行き交う人々は夜の時間帯でも一向に絶えない。故郷ではまったく考えられない程の建物の高さと華やかさにいつも驚かされてばかりだ。都会の喧騒にも少しずつではあるが徐々に慣れ始めた中、学校ではどのように過ごして行けば良いのか見通しが立たないまま時が過ぎて行くこの感覚は、きな子の心にチクリとした痛みを残していた。

 

 ふと通りがかった建物に付けられた電光掲示板に視線をやると、『ラブライブ!』東京大会で披露された『Liella!』のパフォーマンスが大きく映し出されており、きな子は足を止めて映像を見る。既にスマホで幾度となく視聴したものであるが、いつ見てもこの5人の歌やダンスの全てに心が躍る。ステージの上でライブをする先輩達は皆キラキラと輝いており、その一挙手一投足が眩しい。しかし、この中に自分が居るというイメージが一切湧いてこないし、日々の練習やトレーニングに適応出来る自信もない。それでも、かのんと音羽が自分に声を掛けてくれたことを無下にしたくない気持ちがあり、相反する2つの感情と折り合いが付けられていない状況であった。

 

 きな子は暫し立ち止まって電光掲示板の映像を見続けていると、そんな彼女を発見した人物が居り、その人物はそっときな子に近付き、背後から声を掛けた。

 

「きーなー子ーちゃんっ!」

 

「えっ? かのん先輩!」

 

 きな子が振り向いた先には練習着姿のかのんが立っており、彼女はゆっくりときな子の方へ近付く。

 

「驚かせてごめんね。お散歩?」

 

「は、はいっ……先輩、夜も練習してるんすね。やっぱりすごいっす……」

 

 きな子は目線を落としながらかのんにそのように言った。学校が終わった後も自主練に励んでいるかのんを尊敬すると同時に、優勝候補のグループは夜にもランニング等のトレーニングが必要なのだと分かり、尚更自分は着いて行けないのではないかと思い、気持ちが沈む。憧れは憧れのまま、自分は『Liella!』と関わらない方が良いのだと見切りを付けようとし、きな子はかのんにそのことを伝えようと口を動かす。

 

「あ、あの……」

 

「ねぇ、きな子ちゃん」

 

 かのんは優しい口調できな子に言葉を掛ける。自分を見る彼女の柔らかな表情を目にしたきな子は口を噤む。一拍の間があった後、かのんから再度言葉が紡がれる。

 

「先輩しか居なくて気後れしちゃうかもしれないけど……私、きな子ちゃんと一緒にスクールアイドルがしたいんだ!」

 

「えっ……」

 

 予想外の言葉にきな子は驚いた様子で目を見開く。また自分にそのようなことを言ってくれるとは思っておらず、彼女は不安げな表情でかのんを見つめる。

 

「私だって、最初は何もできなかった。でも……皆が居てくれたから、なんとかここまで成長することができたの。だから……これから先の景色は、きな子ちゃんと見られたらすごい幸せ!」

 

「っ……!」

 

 真っ直ぐな目で自分を見るかのんにきな子の心が揺れる。自分も最初は何も出来なかったが、仲間が居たから成長できたと告げられ、自分と一緒なら幸せだとかのんははっきりそう口にした。あまりにストレートな彼女の思いにきな子の頬が熱を帯びる。自分にそのようなことを言ってくれたのは、かのんが初めてだった。運動が苦手で、友人と遊ぶ時に仲間外れにされることも度々あった自分に、必要としてくれるような言葉を掛けられるなんて、きな子にとっては夢のような話だった。どう答えれば良いか分からず無言を貫くきな子に、かのんはそのまま続ける。

 

「週末、屋上で今度のライブのリハーサルをやるんだ。待ってるから! それじゃあ、また学校で!」

 

「あ……」

 

 今週末に屋上でライブのリハーサルがあると告げられた後、かのんは手を軽く振って走り去って行った。『待ってるから』。そう言われたきな子の心はまた揺れる。すぐにどうするか答えを出せたら楽なのに、それが出来ない自分に苛立ちを覚えてしまう。だが、自身の性格も能力もそう簡単に変えられるものではない。故に苦しくなる。変わりたいのに変われない自分。先輩からの誘いにすぐに応じられない自分。どうするのが最善なのか、答えはまだ出そうになかった。見上げた先にある電光掲示板に映るかのんがこちらに招くように手を前方に伸ばしているのを目にするが、今はそれが厭に眩しい。きな子は悲しげな表情で映像の中に居るかのんから目を背け、先程かのんが走って行った道とは逆の方向へ歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。きな子は未だ答えが出せていないまま週末を迎え、放課となってからスクールアイドル部の部室へと続く階段付近でうろうろと歩いたり、掲示板に貼られているスクールアイドル部の勧誘ポスターを眺めたりしながら自分はこれからどうしていくかを只管に考えていた。

 

 納得の行く答えが出ないまま『Liella!』のライブリハーサルの日が来てしまい、今もきな子は『Liella!』に加入するべきか否かを悩み続けていた。そんな彼女の側で、快活な声が聞こえてきた。その声がした方に視線を向けると、階段に上がって自撮り棒を構えている普通科のクラスメイト、鬼塚(おにつか)夏美(なつみ)が居た。きな子が初めて会った時と同じように、彼女は今日も動画撮影に勤しんでいる様子であった。

 

「オーニナッツー! あなたの心のオニサプリ、鬼塚夏美ですの~! にゃはっ! ……って、ちょっと!」

 

「ひっ!」

 

 夏美はカメラを止めてきな子の方へ振り向き、眉間に皺を寄せる。

 

「気が散ってしまったですの! 撮り直しですのよ! リテ~イクっ!」

 

「すまねぇっす!」

 

 どうやら内カメラで撮影を行っていたところにきな子の姿が映り込んでしまったようで、気が散ったことで撮影を中断し、夏美はきな子に噛み付く。彼女に怒られたきな子は肩を跳ねさせながらすぐに謝罪し、手を合わせる。きな子の怯える表情を目にした夏美は溜息を吐きながらも、反省の色が伺えた為に憤りを鎮める。

 

「別に、そこまで気にしてませんの」

 

「ありがとうっす……」

 

「ん? なんだか、浮かない顔してますの」

 

 夏美はまじまじときな子の顔を見つめ、彼女が暗い表情をしていることに気が付いた。夏美から指摘されたきな子は、話を聞いてもらおうと、彼女に自身が抱えている悩みを打ち明けることに決めた。

 

「CEO……」

 

「夏美で良いですわ」

 

 入学式の日に渡された名刺に書かれていた『CEO』という肩書きで夏美を呼ぶと、彼女はさらりと名前呼びで構わないと伝えた。きな子は視線を落としたまま言葉を続ける。

 

「興味はあるけど、自分には向いてなさそうな時……CEOなら、どうするっすか?」

 

「だから夏美で良いって……あなた、何かを始めようとしてるんですの?」

 

 またもやCEOと呼んだきな子に対して夏美は独特な訛り口調で再度名前呼びで良いと返した後に普段通りの口調に戻し、念の為彼女に新しい何かを始めようとしているのか問うと、きな子は無言で頷く。

 

「そうっすね……でもきな子は運動が苦手で……これと言った特技もなくて。そんなきな子が、本当に始めても良いのかなって……思うんす」

 

「ふーん。そういうことですの」

 

 夏美はきな子が何に悩んでいるのかを理解し、数秒間顎に手を当てる。そうして夏美は自分が感じたことを率直に述べる。

 

「良いですの? 向いてないことをいくら頑張ったって、ダメなものはダメですの!」

 

「……やっぱり、そうっすよね……」

 

「でも、()()()()()()()()()()()()()()どうかなんて分からないでしょ?」

 

「……!」

 

 核心を突いた夏美の発言に、きな子はハッと気付かされる。まだ挑戦すらしていないのに、自分に向いているか向いていないかは分からない、と。夏美は明るくきな子を励まし、その言葉にはどこか説得力があった。確かに夏美の言う通り、始めてさえいない事柄に向き不向き等の適性を判ずるのは不可能で、何事も実際にやってみなければ理解には至らない。きな子は少し難しく考えすぎていたのだと悟り、吹っ切れたように真剣な表情を見せる。

 

「CEO……きな子は……」

 

「自分に正直に……」

 

「ん……? えっ!?」

 

 夏美にこれからどうしたいかを伝えようとしたきな子の隣に突如、彼女のクラスメイトである若菜(わかな)四季(しき)が現れた。四季は白衣を羽織っており、彼女はきな子の右足と自身の左足を合わせる。何事かと思いきな子が足元を見ると、謎の機械が足首に装着されていて、機械的な音と共に2人の足ががっちりと固定された。

 

「足関節神経ブロック。一部シンクロ完了」

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

「あぁっ! もう5分もロスしたですの! 時はマニーなりっ……ひゃっ!?」

 

「ひょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 夏美が文句を言い終える前に、きな子は四季と共に二人三脚の要領で目にも止まらぬ速さで階段を駆け上って行き、きな子の悲鳴が周囲に響き渡る。

 

「わ……若菜さんっ……!? のぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 半ば強引に屋上まで向かわされている状況にきな子は叫び声を上げ続けているが、四季は彼女とは対照的に涼しげな表情を見せており、きな子と一緒に無言で階段を登り続けている。機械で無理矢理足を動かされており、固定されている為自らの意思で外すことも出来ず2人はただ駆ける。

 

「ひょぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ロック解除」

 

 一言呟いた四季は足首を固定していた機械を外し、きな子を自由にする。しかし、速度が付きすぎていた為にきな子は止まれずにそのまま屋上の入り口へと走り続けていた。本来ならきな子も止める筈であったが、結果的に目的地へ直行する形となり良しと判断した四季は、きな子にひらひらと片手を振る。

 

「ファイトー」

 

「若菜さぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! 止まれないっすぅぅぅぅぅぅぅっ……」

 

 悲鳴と共に四季からきな子が遠ざかっていく。彼女は無言で足首から自身の発明品の機械を外して手に取り、カチッと金具をロックしたところに背後から足音が聞こえてくる。四季がちらりと視線を向けると、メイが階段を上がって近付いて来ていた。

 

「なんの騒ぎだ? あいつの叫び声が聞こえた気がしたけど……」

 

「自分に正直になるお手伝いをした。それだけ」

 

「その機械の実験台にしたかっただけじゃねぇのか……?」

 

「メイ、始まるよ。『Liella!』のライブリハーサル」

 

「話逸らすなよ! って、り……『Liella!』のリハーサル!? わっ、私も……見れるのかっ……!?」

 

 四季からリハーサルが始まることを伝えられたメイは途端に態度が急変し、彼女の目が輝く。四季は屋上の入り口を指差してメイを誘なう。

 

「見たいなら、見れば良い」

 

「なら……ちょ、ちょっとだけ……」

 

 あっさりと四季の言葉に乗せられたメイは、『Liella!』のライブリハーサルを少し見物させてもらうことにし、彼女もきな子と同様に屋上へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 止まれな〜〜い〜〜っ!! はにゃぁっ!」

 

 きな子は四季の発明品が生んだ加速力の勢いのまま屋上の入り口へ到着し、なんとか体勢を整えて着地する。

 

「はぁ……はぁっ……し、しぬ……んっ?」

 

 息を切らしながらも前方へ目を向けると、そこにはライブ衣装を見に纏ったかのん達5人……結ヶ丘高校スクールアイドル部、『Liella!』が立っていた。彼女達の後ろには簡易的なステージも設営されており、色とりどりの風船や星形の飾りが散りばめられていた。

 

「きな子ちゃんに、私達のライブを見てほしい。今の『Liella!』の……とっても楽しいライブを!」

 

「かのん先輩……」

 

「来てくれてありがとう。待ってたよ! きなちゃん!」

 

「あ……音羽(おとは)先輩!」

 

 かのんの言葉に続いて、音羽がきな子の元へと近付く。彼は初めて会った時と同様に、肩に制服のジャケットをマントのように羽織っていた。緊張した表情をしているきな子を見た音羽は優しく微笑み、彼女の隣に立つ。

 

「一緒に見よう? きなちゃんに、『Liella!』をもっと知ってほしいんだ。不安があるなら、僕達が取り除く。だから……安心して?」

 

 音羽はにこりと笑い、きな子は音羽の笑顔に安堵したように肩の力を抜く。そうしてかのん達が居るステージの方へ向き直り、リハーサルを見る意志を固めた。音羽がかのんと頷き合い、数秒経った後に『Liella!』のパフォーマンスが始まった。曲とダンスが始まった瞬間に、きな子は煌びやかで、ポップな世界を幻視した。

 

 視界に広がるのは、東京の街をデフォルメしたような世界。そこでスクールアイドルが歌い、舞う。ここでは皆、このリハーサルを見ているきな子の案内人であり、彼女に自分達スクールアイドルがどのようなものなのかを伝えられるような構成、振り付けにしている。彼女達の動きを目で追う度に、きな子の心がときめく。彼女が招かれたその世界はとても暖かく、尚且つ優しかった。不安な気持ち、自信がない気持ち、それらをも肯定してくれるかのような想い。何も出来ない自分、勇気を出せない自分のままでも良い。踏み出せば景色が変わるのだと、教えてくれているような気がした。自身の胸の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。ときめいて、気持ちが昂る。初めて生まれ落ちる感情にきな子は戸惑うも、その戸惑いさえも心地良いと思えた。未知の世界、未知の感情。遍く全てに、きな子は魅入られていた。

 

 歌声と動きが止まり、彼女達のパフォーマンスが終わりを迎える。暫くライブリハーサルの余韻で動けなかったきな子が今現実へと立ち戻り、彼女は強く両頬を押さえた。

 

「な……なっ……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ〜っ!!」

 

『Liella!』のパフォーマンスを生で目にした彼女の第一声は、驚嘆の一言であった。映像ではなく目の前で見る彼女達のライブはあまりにも衝撃的で、まるで世界が塗り替えられていくかのような、きな子にとってはそれに等しい程の体験だった。驚きの余り片足で立ってその場でブリキの人形のようにくるくると回転していたきな子を、可可が捉える。

 

「ツカマえたデスぅ!」

 

「ひょわぁっ!?」

 

「アァッ……! スミマセン! クク、つい興奮シテしマッテ……」

 

 可可が勢いよくきな子に抱き付いたことで彼女がバランスを崩し、屋上の地面に尻餅を付く。可可は驚かせてしまったことをすぐに謝り、きな子から身体を離す。

 

「いえっ……大丈夫っす……」

 

 きな子がえへへ、と笑みを溢しているその後ろで、屋上の入り口付近から顔を覗かせている人物が居た。

 

「あぁぁ……見ちゃったぁ……こんな近くでぇぇぇぇっ……!」

 

「……必然」

 

 メイもきな子の後ろで『Liella!』のライブリハーサルを見ており、こんなに間近で5人のパフォーマンスを見られたことに興奮を露わにしながら声を高くして感激していた。メイと共に四季も密かにライブリハーサルを目にしていて、自分達の前に居るきな子を見守りながら一言呟いた。そんな時、屋上の騒がしさに気付いた人物がドタドタと階段を登ってやって来る。

 

「んもぉ〜っ! うるさいと撮り直しになるですの! リテ〜イクですのよ!! まったく、これじゃマトモに動画も撮れないですの! フンッ!」

 

 スマホが取り付けられた自撮り棒を片手に、動画撮影中であった夏美が軽く苦情を入れる。動画とは関係ない雑音が入ると撮り直しになるのだと文句を言いながら、今日はこの付近では碌に動画が撮れないと判断した夏美は拗ねた様子で屋上を後にする。四季は自分達の近くに来た夏美に視線を向けていたが、メイは『Liella!』に夢中の為眼中になく、彼女の苦情もお構いなしに頬を緩めていた。こうなると彼女はテコでも動かないと分かっている四季は、暫くの間メイに付き合うことにして、その場で体育座りをしてメイの興奮が鎮まるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

「かのん先輩……! すごかったっす……!」

 

 その頃。きな子はかのんにリハーサルの感想を伝え、彼女はステージから離れてきな子に近付く。

 

「これが、スクールアイドルの魅力! 皆と結ばれて作る……新しい未来! 私達全員で、きな子ちゃんを歓迎するよ!」

 

 かのんも、他の皆もきな子に入部してほしいと思っており、そのことを彼女に真っ直ぐ伝える。きな子の隣に居た音羽も彼女の目の前に移動し、中腰になって目線を合わせる。

 

「スクールアイドルに資格は要らない。やりたいと思ったその時が始まりなんだ! たとえ転んでも大丈夫! 僕や、皆がきなちゃんを支える。僕は、きなちゃんとも一緒に夢を見たいから!」

 

「音羽先輩っ……!」

 

 音羽はそう伝え、笑顔できな子に手を差し伸べる。嘗てかのんが自分にそうしてくれたように、今度は自分が誰かに手を差し伸べ、支えられる存在になりたいと願っていた。迷う人が居るなら力になる。不安があるなら不安じゃなくなるように寄り添う。それが音羽のモットーであり、彼が『Liella!』のサポーターたらしめる所以だ。かのんと音羽、『Liella!』一同の想いを知ったきな子は一瞬泣きそうな表情を見せた後、それがすぐに笑顔に変わる。夏美にアドバイスを受け、四季の手助けにより『Liella!』のライブリハーサルを見ることが出来た。そこでスクールアイドルの魅力を存分に伝えられたことできな子の意志が固まる。

 

「……よろしく、お願いしますっす!」

 

 きな子は笑って音羽に差し伸べられた手を強く、強く強く握り返す。固く握られた手からきな子の決意を感じ取り、音羽は優しく笑みを浮かべてきな子の腕を引っ張り、彼女を立ち上がらせる。立ち上がってもなお音羽の手を握り続けるきな子の方へ他のメンバーも近付き、皆で声を合わせる。

 

「「「ようこそ! 『Liella!』へ!」」」 

 

 ただ、1歩を踏み出したに過ぎない。スクールアイドルをする上での不安が消えた訳ではないし、寧ろ不安は数え切れない程に山積みである。だが、それでも。向き不向きで考えるのではなく、自分の気持ちに正直になり、自分の意志で入部を決意した自身を、ほんの少し誇れて好きになれた。何が出来るのか、何をやれるのか。それはまだ分からない。けれど、この6人の先輩達と一緒なら、こんな自分でも何か出来るようになるかもしれない。そんな予感が彼女の中に生まれていた。踏み出した1歩は、確かにこの地に刻まれることとなった。

 

 きな子がふと見上げた空は、どこまでも青く、蒼く澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




歩幅よりも、確かな1歩を。




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