第11話 巻き起こる、変革の予兆。
放課後。授業を受け終わり、部活動も何もしていない
下駄箱に入っている靴を取ろうとすると、誰かが後ろから音羽の肩を叩く。何事かと思い振り返ると、先日会った喫茶店の少女がそこに居た。
「君……
「見つけた。私についてきて!」
「えっ……ちょっと、澁谷さん!?」
逃がさないと言わんばかりに音羽の手を掴み、引っ張る。訳も分からずにかのんが向かう方角へ音羽は引っ張られる。只管に階段を登り、直進。そしてまた階段を登る。気が付けば、音羽にとってはまだ未知の結ヶ丘の敷地に辿り着いていた。
「はぁっ……はぁっ……急にどうしたの澁谷さん……あとここどこ……?」
息を切らしながら音羽はかのんに些か不満げな声音で質問した。いきなり自分の元に姿を見せたと思ったら何も言う間もなくこの場所に連れられた。不審に思うのは当然である。
「ここはね、スクールアイドル同好会の部室! 私達の活動場所なんだ! 今日は音羽君をここに連れてきたくて!」
「な、何で……」
音羽の疑問も虚しく、かのんは学校アイドル部のプレートが立て掛けられたドアを開け、音羽を部室の中へ招き入れた。
「あっ! かのん! と、もしやアナタは……!」
「何か、見たことないのがいるわね」
「かのんちゃん!
部室には既に3人程部員がおり、彼女達は椅子に座ったままかのんと音羽2人に視線を向け、各々反応を示した。この場で音羽が会話を交わしたことがあるのは千砂都のみ。残り2人は初対面に等しい状態だった。
「遅れてごめん、皆!
「オトハ? あぁ、かのんと
「キレイなコエの人デスよね? また会えて嬉しいデスぅ!」
「すみれちゃんは会うの初めてだし、紹介するね。この人が東音羽君。昨日、改めて友達になったんだ!」
「よろしく……お願いします」
かのんが音羽のことを紹介し、音羽は小声で挨拶した後、彼女らにぺこりと一礼する。
「音羽サンですね! クク、
「ちょっと! 初対面の人の前ではさすがに言わせないわよ! ……コホン。
前にデモ活動をしていた灰色の髪の女子生徒は唐可可。上海出身で、スクールアイドルを始める為に日本にやってきた少女で、音羽とは初対面である。長い金髪に赤いカチューシャを付けている女子生徒は平安名すみれとそれぞれ名乗った。音羽が予想外の来客であった為か、歓迎するという雰囲気ではないが、可可やすみれ、千砂都が彼を不審に思ったりはしておらず、音羽は束の間の安心を得ることができた。
「グソク……?」
「あー! 気にしないであげて! あははは……」
「かのんちゃん、東君を連れてきたってことは……もしかして東君、スクールアイドルになりたくなったの!?」
「そうなんデスか!? デハこの紙に名前を書けば音羽サンもスクールアイドルの仲間入りデス! さぁ、遠慮なくココにサインを!」
「ち、違います! 僕は澁谷さんに連れてこられただけで……」
僅か数秒で話がとてつもない速度で進行し、音羽は急いで
「落ち着いて2人とも! 音羽君は元からそういう気持ちはなくて……まずは私達スクールアイドルがどんな活動をしてるのか見てほしくて連れてきたの!」
「ナルホド。そういうコトでしたか」
「というか、男のスクールアイドルって今までいるの?」
「規模は小さいデスが、ちゃんといマス。今はマダ目立った結果を出している訳ではありまセンが、イツカ脚光を浴びる日が来るはずデス!」
「へぇ。アマチュアなのに色々と種類があるのね、スクールアイドルって」
「デスから! スクールアイドルはアマチュアじゃありマセン! 何度言ったら分かるデスか!」
音羽が質問しようとしていたことをすみれが代わりに聞いてくれたお陰で音羽は男性でもスクールアイドルをする人がいるのだと納得した。男性スクールアイドルの概念が存在しようと、音羽自身がスクールアイドルになる気が無いのは変わらないのだが。音羽は再度かのんに疑念の目を向ける。
「澁谷さん、何で僕にこんなことを?」
「私達の音楽活動を見てほしい。音羽君の中の何かが、変わるかもしれないから!」
「……わかった。君がそう言うなら」
かのんは笑顔で音羽に一言そう告げた。以前の音羽なら『それで変わるのなら苦労はしない』とその場から立ち去っていたのだろうが、かのんと出会い、交流を経た音羽はそう思うことはなく、ただかのんの言う通りにスクールアイドルとはどういうものなのか、勉強も兼ねて見学してみることに決めた。
「それじゃ、音羽サンもスクールアイドル同好会の部員になるデスか? かのん」
「うーん……それはどうしようか……」
「部員見習いってことであれば良いかな……」
「じゃあそれでいこう! 決まりっ!」
「よろしくね! 東君!」
「
「コノ人の言うコトはアマリ信じナイ方が良いデスよー、音羽サン」
「どういう意味よ!?」
「は、はい……」
「あんたも頷いてんじゃないわよ!」
こうして音羽本人の提案により、ひとまず音羽はかのん達スクールアイドル同好会の『部員見習い』として籍を置き、彼女達が普段どのような活動をしているか知る為の見学が今日からスタートしたのであった。
見学を始めて早1週間。かのん達の影響で、音羽はスクールアイドルについて色々と知ることができた。スクールアイドルの概要や練習の内容、ダンスの振り付け、曲作りはどうしているのか等、様々なことを知識として覚えた。可可から『サニーパッション』というスクールアイドルグループのCDを半ば押し付けられるように借りることとなり、その曲達を家に帰って聞くようにしている。彼女からの厚意であるのは分かる為、音羽は律儀にそれを受け取り、スクールアイドルに関しての学びを増やしていった。
「今日の練習はここまでにしようか!」
千砂都の一声で練習が終了し、かのんは邪魔にならない場所でちょこんと安座しながら見学していた音羽に駆け寄る。
「どう、音羽君? スクールアイドルに興味、持てたかな?」
「多少は。意外と奥が深いんだなって、思った」
音羽は率直な感想を口にする。可可が『アマチュアではない』と言っていたように、スクールアイドルは今や国民的な存在。多種多様なグループが存在し、皆それぞれ違ったアプローチで観客を魅了できるように工夫が為されている。今まで歌とピアノを習っていた音羽でも、まったく未知の領域であった。
「それなら良かった! でも私達、夏休み始まってすぐに島に行かなくちゃいけないから、しばらく部室に居られないんだ。ごめんね」
「それなら仕方ないよ。君が謝ることじゃない」
今週末で結ヶ丘高等学校は夏休みに入り、かのん達はとある島で『
「帰ってきたらまたここで練習するから、その時は……」
「どいて」
かのんが何か言い終わる前にすみれがかのんを押して隣にずらし、音羽はすみれと向き合う形になった。すみれのぱっちりとした眼が音羽の顔を捉え、音羽は思わず一歩後退る。
「すみれちゃん?」
「……平安名さん、どうしたの?」
「
「一応……あるけど」
すみれが藪から棒に音羽にそう聞いた。彼は正直に予定が無いことを伝えると、すみれは安心したように少し笑い、一瞬で毅然とした表情に変わる。
「あんたに、連れて行きたい場所があるわ」