星達のオーケストラ   作: 龍也/星河琉

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2nd season第2章 Secondary〜風が呼ぶもの〜
#15 来たる招待、約束は今も。


「あぁぁぁ……溶けるぅぅぅぅ……」

 

 初夏。風が暖気を纏い、新緑が芽吹き始める頃。結ヶ丘高校スクールアイドル部、『Liella!』の期待の新人……桜小路(さくらこうじ)きな子は今日も先輩達と町内をランニングしており、隣に居る音羽(おとは)と共に息も絶え絶えになりながら火照る身体に鞭を打って走り続けていた。

 

「頑張れ~!」

 

 先頭を走るかのんが明るくきな子を励まし、きな子はそれに応えるように前を向いて走り続け、数分の後に目標地点まで到達する。肩で息をしながら流れる汗を拭いつつ、彼女は自分達を明るく照らす快晴の空を見上げた。

 

「さすが東京……暑いっす~!」

 

「はぁ……はぁっ……これだけ走ると、すごい暑いねっ……けほっ……」

 

「そう……っすねぇ……」

 

「暑いと脱水症状も起きやすくなるから注意して。これ、飲みなさいったら飲みなさい?」

 

 きな子に心細い思いや自分だけが周りと劣っているというような気持ちを感じてほしくない為、少し前からきな子の隣でランニングに参加するようになった音羽も彼女と同様に息を切らして疲労している様子で、並んでアスファルトに座り込む2人にすみれはミネラルウォーターが入ったペットボトルを渡すと、きな子と音羽は礼を言った後にボトルを開栓して喉を潤し始めた。

 

 きな子もかのん達と共に『ラブライブ!』優勝を目指して努力すると決めて以来、ネガティブな発言や弱音を口にする頻度が以前よりかなり減っていて、音羽も共にランニングするようになってからは表情もどこか明るく、前向きに練習に励むようになった。練習する上で分からない、躓いた点をサポーターである音羽に逐一相談して改善に努める等、スクールアイドル活動に熱を持って取り組むきな子の姿勢に1期生達も日々学ばせてもらっている。千砂都は今日もきな子の成長を感じながら、元気良く声を掛ける。

 

「さぁ、ひと休みしたら次のセットに入るよ!」

 

「お願いしますっ!」

 

 水分補給を終えてすっくと立ち上がり、頬の汗を拭い取った弾みで目線を横にしたきな子の瞳にとあるものが映る。

 

「ん? あれは……ステージっすか?」

 

「うん。きな子ちゃんは、見るの初めて?」

 

「はい! 初めて見たっす……」

 

 かのんの問いにきな子はこくりと頷く。かのんや可可(クゥクゥ)千砂都(ちさと)は少し遠くにあるそのステージをよく知っている。あの場所こそ、昨年開催された『代々木スクールアイドルフェスティバル』でかのんが可可と共に組んだユニット……『クーカー』名義で初めて歌を披露した場所だからだ。

 

 せっかくだからと、一同はステージの近くまで足を運んだ。初めて目にするそれに感嘆の声を漏らすきな子に暖かな眼差しを向けて、かのんもステージへと目線を移す。

 

 ステージから見えたペンライトの海、会場の温度、スポットライトの眩しさ。かのんはそれらを鮮明に思い出せる。きっと可可も昨年のあの日を昨日のことのように覚えているんだろうな、とかのんは感慨と共に暫しステージを見つめていた。

 

「去年はこのステージで歌ったのよ!」

 

「歌ッタのはククとかのんデス」

 

「ここでお2人が……!」

 

 当時このステージで歌った訳ではないのに誇らしげに語るすみれに可可は口を尖らせるが、両者から話を聞いたきな子はかのんと可可が歌っている姿を想像し、胸を躍らせる。

 

「可可ちゃんとステージに立ってもう1年かぁ……」

 

「あっという間だねぇ……」

 

「デスねぇ……イマでも昨日のコトのヨウニ思い出せマス!」

 

「あの時のかのんちゃんとくぅちゃん、動画で何回も見てたなぁ……」

 

「えへへ、ちょっと照れる……」

 

 代々木スクールアイドルフェスティバルの開催当時、音羽はかのんや可可と出会ってはいたがまだ顔見知りの段階で、スクールアイドルにも興味を示していなかった為に現地へ行っておらず、昨年の夏に同好会として活動を開始したかのん、可可、すみれ、千砂都のサポーターとして正式に同好会へ入部した経緯がある故にフェスに関しては動画で視聴した以上のことは分からない状態であった。

 

 音羽から何度も『クーカー』としてのライブ映像を見ていたと伝えられた嬉しさと照れ臭さで頬を赤く染めてにやけるかのんの隣で、可可がふと疑問に思ったことを口にする。

 

「ソウイエバ、コトシはフェス……あるんデショウか?」

 

「たしかに。私達、今年は招待されるのかな?」

 

 可可の問いかけに我に返ったかのんがそういえば、と顎に手を当てる。昨年の今頃は既に可可とステージに上がる為の基礎練習に打ち込んでいた時期で、今年度のスクールアイドルフェスの参加可否について何かしらの告知があってもおかしくない筈なのだが、未だ音沙汰がない状況である。

 

 この時期になっても連絡が来ないということは、自分達は招待されていないのではないかと一抹の不安が過ったのもつかの間、ポケットに入れていた(れん)のスマホが振動した。恋はスマホを点灯して画面を確認すると、彼女は目を大きくして今届いたメッセージの内容を皆に知らせる。

 

「皆さん! ちょうど来ました! (わたくし)達『Liella!』が、フェスに招待されました……!」

 

 弾む恋の声を耳にしながら画面を見てみると、そこには『代々木スクールアイドルフェスティバル開催のお知らせ』、『主催者特別招待のご案内』という文字が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

「「「最後?」」」

 

「はい。『Liella!』には1番最後をお願いしたいと……!」

 

 ランニングを終えたかのん達一同はスクールアイドル部の部室に戻り、皆制服に着替えて部内ミーティングを行っていた。そこで恋は先程受け取った代々木スクールアイドルフェスティバルへの招待について、そして自分達の出番を1番最後にしたいと打診された旨を告げる。

 

「それって、つまり……!」

 

 すみれは身体を震わせ、音を立てて席から立ち上がると、その場でくるくると回転してポーズを決める。

 

「トリ! ズバリ私達……主役ったら主役よっ!!」

 

「うるさいデス」

 

 自分達が目立てるとなると誰よりもテンションが高くなるすみれに可可が冷ややかな目線を向けて一言そう言い放ち、それでガクリとバランスを崩したすみれは彼女を軽く睨む。

 

「んぐっ……水差さないでよ! トリってことは、フェスの最後を飾る大事なポジションなのよ? そこに私達が選ばれたってことは……期待してもらってる何よりの証拠じゃない!」

 

「でも……本当に良いの? 私達で……」

 

 すみれの言う通り、イベントでトリを担うということはそれだけ観客の注目を集めやすく、『最後にどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう』と期待される美味しいポジションであるのは間違いない。そこに『Liella!』を選出したのは、昨年の『ラブライブ!』に出場経験があるというのが大きいのだろうか。

 

 理由はどうあれ、すごく光栄な事だと理解できるのだが、かのんは些か不安げに呟く。それだけ大事な役を自分達が引き受けて良いのか、と。すると可可は机に両手を突きながら立ち、『Liella!』がトリに選ばれたもう1つの可能性を補足する為に口を開いた。

 

「コトシ、『Sunny Passion(サニーパッション)』様がシュツエンしマセンノデ!」

 

「え、そうなんだ!」

 

「ハイッ! お2人はサイゴの学園祭ライブに向ケテ、ゼンリョクで準備スルそうデス! ウゥ……楽しみデスぅ……!」

 

 言いながら可可は懐から2枚のチケットを取り出し、それらを愛おしそうに頬擦りする。どうやら既に『Sunny Passion』の学園祭ライブへ行く気満々なようだ。

 

「もう神津島行きのチケット取ってあるんだ……」

 

「もちろんデス! コトシで最後デスので、コノ目でシッカリ焼き付けてきマス!」

 

「楽しんできてね! くぅちゃん!」

 

「ありがとうデスっ! お土産もタクサン買ってきマスね!」

 

 苦笑混じりにそう言った千砂都と柔和な笑顔で声を掛けた音羽に対して可可は元気良く言葉を返す中、きな子が控えめに手を上げながら話に参加しようと口を動かす。

 

「その……サニーサイド、とかいうのは……?」

 

「『Sunny Passion』デスっ! 去年の『ラブライブ!』の優勝者! イマ最もスバラシイスクールアイドルデスよっ!!」

 

「ヒィィッ!? そんなお方とはつゆ知らず~!」

 

 グループ名を呼び間違えたきな子に可可はサニパの大ファンとして看過できず、凄まじい剣幕できな子に詰め寄って解説を始めた。彼女の圧に押されたきな子は怯えて縮こまりながらも可可の熱の籠った布教活動のような説明を真剣に聞いている。そんな折、かのんはどこか物憂げな表情で先程見せてもらった招待メッセージのことを思い出していた。

 

「トリかぁ……」

 

「つまり、()()()()ってことだよね」

 

 かのんの隣に座っている千砂都がその呟きに応じる。『優勝候補』。唐突に出てきた単語に彼女は目を丸くする。

 

「えっ? でもフェスって、『ラブライブ!』の大会とは……」

 

「直接関係はないけど、去年そこで『1位を取れ』って言われて大変だったでしょ?」

 

「あー……今思えば、フェスで1位を取ることが『ラブライブ!』に出る為の良い指標だったのかも」

 

「そうなんっすか? 結果は……?」

 

 昨年、結ヶ丘高校の普通科と音楽科が対立し、軋轢が生じていた頃。当時スクールアイドル活動を反対していた恋から部の設立を阻まれ、その際に『やりたいことを自由にできないのはおかしい』というかのんと可可の主張と、恋の『結ヶ丘にスクールアイドルは相応しくない』という意見がぶつかり合っていた。

 

 その際に理事長が双方の主張の落とし所として、『代々木スクールアイドルフェスティバルで1位になることができたら、部活動としてスクールアイドルの存在を認める』と提案した。音楽に力を入れている校風である以上、どんな形であれ音楽活動をしたいという生徒達の気持ちを蔑ろにしないのが結ヶ丘の方針だが、活動するのであれば相応の成果を出さなければならないのも現実であった。理事長から出されたその課題をクリアする為にかのんと可可は必死で努力してフェスに臨み、ステージで初めて歌声を響かせたのだ。

 

 今にして思えば、理事長はあの時何故スクールアイドルを始めたばかりの2人に、初めてのステージで1位を取れという無理難題を課したのか。恐らくあの段階から結ヶ丘の名を背負える者達であるのかを見定め、尚且つ『ラブライブ!』へ出場できる資質があるか否か試していたのだと仮定するのなら、理事長があのような課題を出したことにも納得がいく。そうした経緯のある昨年の代々木スクールアイドルフェスティバルだが、結果はどうだったのかときな子が問うた。かのんは数秒の間の後に正直に打ち明ける。

 

「新人特別賞だった。1位は、『Sunny Passion』さん。1位にはなれなかったけど、そのお陰で同好会としてスクールアイドルを続けさせてもらえたんだ!」

 

「ほえー……そうだったんっすね……!」

 

 昨年の話をかのん達から聞けたきな子は、嬉しそうに頷いていた。フェスで1位にはなれなかったが、代わりに新人特別賞を受賞したことで部としてではないものの同好会として活動を許可され、紆余曲折のもとサポーターである音羽も含み1期生6名が集まり、『ラブライブ!』へ出場することができた。あの時『クーカー』としてフェスでステージに立ったことは、自分達にとって決して無駄ではなかったと言えよう。

 

 しかし、スクールアイドルとして皆で活動を開始してからまったくという訳では決してないが、かと言って目立った実績がないのも事実であった。

 

「そう考えてみると、実は私達って……まだ勝ったことないんだよね……」

 

 かのんは静かに現状をそう口にする。悔しいが、その現実を受け止めて前に進むしかないのは分かっている。分かってはいても、かのんの心に引っかかる後悔は今でも完全に消し切れてはいない。浮かない表情を見せるかのんを元気付ける為、可可が人差し指を天高く掲げて声を発する。

 

「ダカラコソ! ココでまずビシッとケッカを出すのデスよ!」

 

「その通り! ギャラクシーな優勝候補であることを見せつけるのよ!」

 

「リベンジっす! きな子も、頑張ります!」

 

 すみれときな子も可可に便乗し、代々木スクールアイドルフェスティバルで今年こそ1位になれるよう頑張るとかのんに伝える。3人の励ましを受け、かのんは笑顔を見せて首肯する。

 

「うん! 今は7人になったし、まずはフェスで結果を出せるように頑張ろうっ!」

 

「そうですね。()()()()()()()()()()を信じて、頑張りましょう!」

 

 恋もかのんに同意し、可可とすみれの2人を見つめながらそう言った。ふと両者の目が合い、暫し顔を見合わせた後に互いに顰めっ面を作る。

 

「「……フンッ!」」

 

 まるで喧嘩した時のように目を逸らしてそっぽを向く可可とすみれに『あはは……』と軽く笑ったきな子はなんとなく自身の隣に居る音羽に目を向けると、普段の柔らかな雰囲気とは異なり、どこか曇った表情をしていた。

 

「まずはそのフェスで優勝して、結果を残そう。学校の皆の期待を、裏切らない結果を……」

 

 今まで耳にしたことのない、重みが乗せられた音羽の声音にきな子は驚きで唇を何度か震わせた後、喉から小さく声を発した。

 

「音羽、先輩……?」

 

「あっ……ううん! なんでもない! ごめんね!」

 

 きな子に名を呼ばれた音羽はハッとしたように瞬きをして、笑顔を作って彼女になんでもないと告げる。そこから誤魔化して他の話題をきな子に振り、それに素直に応じるきな子と音羽の会話を眺めていた恋だったが、一瞬彼が見せた翳りを、幼馴染である彼女が見逃す筈はなかった。

 

 

 

 

 今日のミーティングが終了し、スクールアイドル部のメンバーは各々荷物を纏めて部室を後にしていく。音羽も家に帰る為に先程まで肩に羽織っていたジャケットの右袖に腕を通していた。他のメンバーが続々と部室から出たのを見計らい、恋がそっと彼の横へ移動する。

 

「音羽くん、今よろしいですか?」

 

「恋ちゃん! どうしたの?」

 

「少し、音羽くんとお話がしたくて。念の為ここではなく、屋上でお話しましょうか」

 

「……? うん。わかった」

 

 恋から少し話さないかと言われ、音羽は二つ返事で誘いに応じてジャケットの左袖にも腕を通す。恋と音羽は共に屋上へ赴き、一定の場所で足を止める。無数の雲が陽光を遮り、絶え間なくそよ風が吹く空の下、音羽は少し離れた位置で自分を見つめる恋に話し掛ける。

 

「それで、恋ちゃん。話って?」

 

「はい。私の考え過ぎかもしれませんし、もしそうなら『そう』だと答えていただいて構いません。……音羽くん」

 

 屋上に、恋のよく通る声が響く。怒っている様子は見受けられず、静かな口調で言葉を紡ぐ彼女から改まって名を呼ばれた音羽は思わず唾液で喉を湿らせる。幾許かの間の後に、恋は単刀直入に音羽に問う。

 

「無理、していませんか?」

 

「えっ?」

 

 小さく声を漏らした音羽に構わず、恋は続ける。

 

「生徒会での仕事量も増えていて、最近は個別できな子さんの練習を見たり、一緒にランニングまで行っていますし……」

 

「そう、だね……」

 

 否定などするつもりはないし、実際にそうしているのだからそもそも音羽に否定のしようがない。生徒数が多くなったことで生徒会の仕事量は日に日に増え続けているし、きな子が技術を身に付ける為に個別練習に付き合ったり彼女のメンタルケアも欠かさずに行っている。どう考えても音羽の負担が増大しているのは目に見えて分かる。それらを彼は毎日笑顔でこなしているが、長年音羽の側に居た恋は、彼が見せた僅かな所作の違和感にいち早く気が付いていた。

 

「それに……今度のスクールアイドルフェスティバルのことも、1人で抱え込もうとしているように感じましたので……勘違いでしたら、すみません」

 

 生徒会の仕事量やきな子のサポートに加え、代々木スクールアイドルフェスティバルに関するミーティングの際に見せた音羽の表情から恋は確信に至った。その表情は昨年の冬……『ラブライブ!』東京大会の最中にも、目にしたことがあったからだ。

 

 恋から言われた言葉の数々に、音羽は頬をかいて微かに笑む。

 

「……やっぱり恋ちゃんはすごいね。僕のこと、よくわかってる」

 

「音羽くん……」

 

 音羽の返答に、恋は心配そうに1歩距離を詰める。やはり自分の予感が当たっていたことを知り、胸が締めつけられる思いだった。ここには自分達以外居ないと分かっている音羽は、彼女に自身が今思っていることを伝える為に喉を震わせる。

 

「僕は大丈夫。問題ないよ。でも……」

 

 一瞬、言葉が詰まる。けれど躊躇いを振り切り、音羽は恋の目を真っ直ぐ見て気持ちを言語化した。

 

「結果を出したい気持ちは、本当だよ。次は……次こそは皆で良い結果を残したいんだ。もちろん、きなちゃんのサポートも手を抜くつもりはない。その上で、フェスの為にできることをする。足手まといには……ならないから」

 

 その瞳には、揺らがない意志が見受けられた。彼がこの場で嘘や偽りを口にする人物ではないと分かっているし、発言を疑う訳でもない。だからこそ苦しかった。音羽が様々なものを1度に抱え、無理をしようとしている。また、同じことの繰り返しだ。そんなことはもうさせたくないと決めていたのに、結局音羽に頼ってばかりいる。恋は自身の不甲斐なさに歯噛みし、俯く。

 

 それでも……恋には音羽が必要で、きな子やかのん達も音羽を必要としている。ならば彼と共に物事を背負い、全うするのが自身の役目であると認識し、今度は恋が音羽に伝えたいことを纏め上げ、俯いた視線を静かに上げた。

 

「音羽くんの気持ちはわかります。ですが……少々気負いすぎです。音羽くんがそんな顔をしていては、きな子さんが萎縮してしまいますよ?」

 

「あ……ごめん。恋ちゃん」

 

 微笑を湛えた彼女にそう言われた音羽は、申し訳なさそうに詫びる。あの時のきな子の顔を見れば、よく考えなくても分かることだった。後輩を怖がらせてしまうのは良いこととは言えないし、不要な重圧(プレッシャー)を生むことにも繋がる。音羽はすぐに自省できる人間だと理解した上で、恋は軽く首を横に振る。

 

「いいえ。音羽くんなら、そう言うだろうと思っていましたから。ただ、結果だけを追い求めるのは……違う気がするのです。たしかに結果は大事ですが、そればかりに固執していては……見えるものも見えなくなると思うんです」

 

「恋ちゃん……」

 

 恋は昨年口にしていた自分の言葉を反芻した。『結果』を重んじ、それが見込めない、相応しくないと断じたものを拒絶する。それが嘗ての自分だった。その身勝手さが結ヶ丘の学科間で溝を生む一因にもなっていたことを知り、そこから彼女は深く反省し、考えを改めた。そしてスクールアイドル部に加入し、活動していく上で結果だけが全てではないと思えたのだ。

 

『ラブライブ!』で優勝することは叶わなかったが、それに出場したことで多くの1年生が結ヶ丘に入学し、『Liella!』の知名度も上がった。父から学校の資金援助も継続して受けられており、結果を残すことができなくても数え切れない人達との縁や想いが結ばれた。故にこそ、音羽に以前の自分のようになってほしくない、結果だけを追い求めて心を殺してほしくないと思っている。何より、音羽が暗い顔をしていると胸が痛む。彼がいつでも笑って過ごせるように、恋は優しい声音で音羽を諭す。

 

「音羽くんも、皆さんも。昨年のあの頃とは違います。ですので……()()()いきましょう?」

 

「……! 楽、しく……?」

 

「私や、もちろん皆さんだって……音羽くんを追い詰めたり、苦しめる為にサポーターを任せている訳ではないのです。苦しみだけが……スクールアイドル活動の全てじゃない筈です。音羽くんだって、それはわかっているでしょう?」

 

「うん。僕も……そう思ってる。楽しくやれたら、それが1番だって」

 

 音羽は頷いて恋の意見に同意する。皆と楽しみながら活動できることが1番の理想であり、彼自身そうしたいと願っているのは確かだ。けれど、楽しむ心を優先して結果を残せなかった悔恨は音羽の中で強く尾を引いている。楽しくやれたら良いと思ってると口ではそう言っていたものの、迷いがあるように目線を下に向けた音羽に対し、恋は改めて伝えることに決めた。身近過ぎて時折忘れそうになるが、これまでもこれからも絶対に変わらない、1つの事実を。

 

「ええ。その通りです。音羽くんは、独りではありません。私達が居ます。自分で自分を追い詰めないで?」

 

「っ……!」

 

 恋の言葉を受け、音羽は顔を上げる。目線の先に居た恋の表情は、とても優しかった。『独りではない』。それは音羽がきな子にいつも伝えていて、且つ恋と向き合った際にも伝えた言葉だった。

 

 どんな時でも変わらずに自分を励ましてくれる恋に対し、本当に敵わないな、と音羽は改めて思いながら笑みを溢す。自分が考えることなど全てお見通しで、すぐに声を掛けてくれる。無意識のうちに自分を追い詰めそうになっていたのを知り、音羽はそれに気付かせてくれた恋を見つめ、静かに口を開いた。

 

「ありがとう、恋ちゃん。やっぱり僕……恋ちゃんや皆に助けられてばっかりだね」

 

「ふふっ。それはお互い様です。もう、音羽くん1人に背負わせはしません。何があっても、私は音羽くんの側に居ますから」

 

 あの日、夕暮れの教室で交わした約束。互いにずっと側に居ると誓った、2人だけの契り。音羽が恋を独りにしないと言ったように、恋も音羽を孤独にさせない。どんな時でも側に居ると決めている。恋の視線の先に居る彼は少し照れ臭そうに微笑を浮かべていて、その琥珀色の双眸は、恋の眼を真っ直ぐに捉えていた。

 

「それは、僕も同じだよ。一緒に前に進もう、恋ちゃん。仲間として……きなちゃんの先輩として!」

 

「ええ……! 喜んで!」

 

 2年に進級し、先輩の立場になっても学べることはいくらでもある。昨年よりも、1週間前よりも、昨日よりも。成長した自分になれるように共に前に進むことを誓い合う2人の絆は固く、強く結ばれる。代々木スクールアイドルフェスティバルへの参加が決まり、勝つ為に皆と一緒に何ができるかを考えようと音羽はそう決心した。

 

 そよ風に吹かれながら見つめ合い、目を細める2人を、薄暮の空がいつまでも見守り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




寄り添い合えば、喜びは倍になる。
辛いことは半分になる。



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