『
ダンスの練習を一時中断し、暫し休憩となったタイミングで、かのんが大きな溜息をついた。他の3人が見ても、今日の彼女はどこか上の空という印象だった。
「どうしたのかのんちゃん? 溜息なんてついて」
「あはは……合同ライブの疲れがとれてないのかなぁ?」
「違うでしょ」
「……助けたい人がいるの」
かのんは数秒考えた後、3人に正直に自分のしたいことを告げる。助けたい人。名前は出さなくとも、誰のことを言っているのか皆すぐに分かった。
「
「
「助けたいって言うけど、別にかのんがそれやる必要ないんじゃないの? どうするかは
「それでも……助けたい」
「あんた、何でそんなに音羽にこだわる訳? まだ出会ってそんなに経ってないわよね?」
すみれは試すようにかのんにそう質問した。この前までは名前すら知らない赤の他人だった筈の音羽に、何故そこまで肩入れするのか。音羽をあまり知らないすみれ達がそう思うのは当然のことである。
「何で……かな。自分でも分からない。でも、音羽君の辛そうな顔を見てると……私も辛いんだ。胸がキュッって締め付けられるみたいに、痛い。だから放っておけない」
「……まぁ、気持ちは分からなくもないわよ。しかもあいつのアレ、素じゃないっぽいし。素を出して文句言う人は少なくともここにはいないのにね」
すみれは空を見上げながら静かにそう呟いた。あの時に垣間見せた音羽の喋り方や態度。あれが本来の音羽だとしたら、いつもの無感情で物憂げなものでは決してない、自分の感情を人並みにはっきりと表せる人間だということになる。
「本当はすごく優しい子なんだよ。自分のことよりも他人の為を思っちゃうくらいに。そんな人が、自分を出せずに苦しんでる姿はもう……見たくない」
「私も、かのんちゃんと同じかな。東君を放っておけないのはかのんちゃんだけじゃないよ?」
「ちぃちゃん……!」
音羽を助けたいというかのんの意見に千砂都も賛同する。2人共音羽の優しさを知っている人物であり、且つ今のままの音羽を見るのを嫌だとかのんより先に思ったのは千砂都の方である。初めて会った時から感じていた、音羽の歪で違和感のある容姿と喋り方。これらがどうにも千砂都の心にも引っ掛かっていた。理由を直接聞いた訳ではないが、彼が相当なものを抱えているのは千砂都から見ても明らかであった。
「とは言っても、どうしたら東君を助けられるかな? 仮に友達になれたとしても、他にも何かしないとダメな気がするんだよね」
「そこなんだよねぇ……」
「……良いコトを思い付きマシタ!」
音羽と仲良くなる事以外に何をすべきか考え、唸るかのん達の横で可可がポンと手を叩いた。
「千砂都が正式にスクールアイドルになったというコトは、以前千砂都がやってくれていた練習メニュー作りや振り付けをするヒトがいなくなりマスよね?」
「あー、それは私が引き続きやろうと思ってたんだけど……」
「それじゃ千砂都1人の負担が大きくなりすぎるじゃない。だから音羽にそれをやってもらえば良いって話よね?」
「そうデス! アナタにしては物分かりが良いデスね!」
「当然よ。ショウビジネスの世界で生きてきたんだから!」
可可が言おうとしていたことをすみれはすぐに理解し、自信満々にハンドサインをとった。要は千砂都が以前就いていたかのん達のお手伝いという役職に、音羽に就いてもらおうという考えだ。そうすればかのんの願い通りに音羽は継続的にスクールアイドルという名の音楽に触れられ、且つ音楽に対する想いも芽生える可能性も出てくる。まさに一石二鳥なその案に、かのんは希望を見出したような目で可可の手を握る。
「それだよ! ずっと考えてたけど、やっぱりそうすれば良いんだよ! ありがとう可可ちゃん! そのこと、音羽君に伝えてみる!」
「デスが音羽サン、部室に来まセンよ……?」
「連絡先だって知らないじゃない。伝えるったってどうするの?」
可可達3人は不安げにかのんを見るが、彼女は『全然問題ない』と言わんばかりに何も焦っておらず、落ち着いた様子であった。
「大丈夫! もう、手は打ってあるから!」
かのんは私物の小さな鞄から、ある1枚の紙と封筒を取り出した。その封筒に書かれた宛名には、音羽がよく知る人物の名が記されていた。